民主法律時報

裁判・府労委委員会 「裁判所から見た労働事件」(講師:森野俊彦先生)報告

弁護士 原野 早知子

 裁判府労委委員会では、2017年5月16日(エルおおさか)、元裁判官の森野俊彦先生を講師として企画を開催した。「裁判所の中」の話を伺う貴重な機会であり、35名が参加した。

森野先生は昭和46年任官、平成23年定年退官(修習23期)で、刑事事件や家事事件にお詳しい一方、数々の労働事件を担当してこられた。その経験に基づく講演であった。
裁判所で長く勤務されたからこそのエピソードが満載で、民法協会員(弁護士・労働組合とも)が当事者の事件に関与されたことも紹介され、一同親近感を持って拝聴した。

左陪席時代に右陪席と裁判所を説得して判決を書いた事件、高裁裁判長時に女性の陪席裁判官と議論し、一審棄却だった広義のセクハラ訴訟で請求認容した事件、地方公務員労災の損害賠償事件の一審勝訴を維持した事件、酒気帯び運転の教員(公務員)の懲戒解雇を無効とした一審判決を高裁で維持した事件など、いずれも興味深い話だった。

森野先生の判断に共通するのは、「労働者の受けた苦痛や被害を救済する」という意思であった。

酒気帯び運転による懲戒解雇の事件では、裁判長だった森野先生は「市民の意見はどうか」と当初考えた部分もあったが(現に被告である自治体側からは免職を求める「市民のハガキ」が大量に証拠提出されたという)、まだ若い当事者の将来がなくなることを考え、「市民の声ではなく、少数者の権利を守る立場で」と懲戒解雇無効の判断を維持する判決をした。判決は最高裁でも維持され、酒気帯び運転を一発で懲戒免職にする条例は少なくなっていったという。

では、労働者が勝利していくにはどうすればいいのか。森野先生のコメントは次のようなものである。
・裁判官は労働者としての権利意識を持っているわけではなく、「裁判官は分かってくれている」と考えるのは甘い。
・必死で訴え裁判官の「魂を揺さぶる」ことが必要である。
・労働者には厳しいかもしれないが「組合運動を頑張るなら、会社に悪い印象を与えるな」と言いたい。仕事をきちんとしてこそ物を言うことができる。

民法協の会員が教訓とすべき意見ではないかと思われる。森野先生は、「長いこと勤務した裁判所が悪くなってほしくない」との思いで、退官後も様々な活動を続けておられる。そうした思いに答える努力が、民法協に必要ではなかろうか。

講演後には活発な質疑が相次ぎ、懇親会も 名の参加で盛り上がった。成果は今後の裁判府労委委員会の活動に生かしていく所存である。

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