民主法律時報

2017年6月号

連続勤務による過労死を通じて、 労基法「改正」を考える

弁護士 松丸 正

1 連続勤務のなかでの過労死

故斎藤友己さん(当時50才)は、平成27年11月24日午前5時頃、自宅で心臓疾患の疑いで死亡しました(以下、「本件発症」といいます)。

本件発症前において、友己さんは弁当製造販売業を営む防府市内の会社で、営業車による弁当の配送等の業務に従事していました。友己さんの配送等の業務は午前と午後に分かれ、その間には10分程度の休憩時間のみしかありませんでした。かつ、休日は月に1回さえ取得できず、本件発症前6か月間においては、平成27年6月22日(月)、7月15日(水)、8月13日(木)、11月13日(金)の僅か4日しか取得できておらず、平成27年8月14日(金)から11月12日(木)までの間は91日間の連続勤務となっています。

友己さんの本件事業場における労働時間はタイムカードによって把握されており、本件発症前6か月間の労働時間は、

発症前1か月
労働時間 230時間16分
時間外労働時間 70時間16分
月当り時間外労働時間 ―

発症前2か月
労働時間 245時間25分
時間外労働時間 85時間25分
月当り時間外労働時間 77時間50分

発症前3か月
労働時間 234時間57分
時間外労働時間 74時間57分
月当り時間外労働時間 76時間52分

発症前4か月
労働時間 230時間47分
時間外労働時間 70時間47分
月当り時間外労働時間 75時間21分

発症前5か月
労働時間 226時間13分
時間外労働時間 58時間13分
月当り時間外労働時間 71時間55分

発症前6か月
労働時間 240時間14分
時間外労働時間 80時間14分
月当り時間外労働時間 73時間18分

となっており、平成19年3月に入社して以来、同様の過重な勤務が続いていました。

2 山口労基署長の業務上の決定

友己さんの遺族は、山口労基署長に対し、友己さんの死亡は業務上であるとして、遺族補償給付等の支給請求をしました。

厚生労働省の認定基準は長期間の過重業務につき、時間外労働が発症前2か月間ないし6か月間において月あたりおおむね80時間を超えるときは、業務と発症との関連が強いとして業務上と判断するとしています。

山口労基署長は本年2月2日付けで、本件発症前2か月間における月当たりの時間外労働は77時間50分と、おおむね80時間となっており、かつ連続勤務の負荷が加わっていたとして業務上と判断し支給決定を下しました。

3 法定休日を含め全ての休日に働かせることができるとした三六協定による過労死

この会社の三六協定は、時間外・休日労働の限度時間について、時間外労働は月45時間、年間360時間と厚生労働省の定める告示どおりとなっており、特別条項の定めはありませんでした。一方、休日労働は、土曜・日曜・国民の祝日のすべてにおいて、午前7時から午後4時までの間休日労働させることができる(即ち、労基法の定める週1回の法定休日も含め、全ての休日に勤務させることができる)内容となっていました。

友己さんの過労死が生じたのは、現在、労基法「改正」の議論で問題となっている時間外労働について、特別条項によってではなく、法定休日も含めて年間365日連続勤務ができると定めた休日労働についての条項にあったのです。

過労死と三六協定を考えるとき、つい時間外労働についての特別条項の問題のみに目が向いてしまいますが、時間外労働と共に定められている法定休日についても限度を定めないと過労死は生じてしまうのです。

時間外労働(ここには週1回の法定休日の労働時間は含まれません)が月45時間前後、それと別枠に定められた法定休日に1日8時間働くと、週40時間を超える労働時間は月あたり【45時間+8時間×4(日)=77時間】となります。
友己さんの働き方はこのような働き方だったのです。

4 労基法「改正」における法定休日についての議論の欠落

政府の「働き方改革実行計画」には三六協定の限度時間を労基法で、
①一般条項としての月45時間、年間360時間
②臨時的な特別な事情のあるときは月平均60時間、年720時間
そして、
③繁忙期は単月で100時間未満、2か月間ないし6か月間の平均で80 時間以内
と定めるとしています。

③については法定休日も含めてとしていますが、①、②については法定休日分は別枠になっており、法定休日に勤務させる日の限度は定められていません。

①でも法定休日の限度がなければ友己さんのような過労死が生じます。②では法定休日を含めれば過労死認定基準を大きく上まわることになります。①、②とも「法定休日を含めて」との基準にしなければ、過労死防止にはなりません。

5 労基法「改正」は反対です

最後に、③の基準は法定休日を含んでいますが、現行の過労死の認定基準そのものです。認定基準は、異常な出来事から発症前1週間主義、更に現行の6か月主義と救済の道を広げてきました。

行政の認定基準の不合理さを、遺族とそれを支援する人々が訴訟を通じて、判例を積み重ねるなかで、あるかなきかの救済の道を広げ固めてきたのです。

現行の認定基準が労基法に定められてしまえば救済の道を広げることはできず、認定基準に達しないため行政で業務外とされ、訴訟で争っている遺族にとって労基法が高い壁とたちはだかることになります。

企業に対する損害賠償訴訟においても、労働の現場においても、過労死ラインでの働き方は労基法で公認された働き方と、開き直った主張がされかねません。更には、かつては過労死ラインを超えた三六協定があたりまえとなっていた外食系の事業場でも、現在では過労死ラインを下まわるものとなっていますが、再び労基法の過労死ラインまで上限をひきあげることも考えられます。

今回の内容の法改正は「労働者が人たるに値する生活を充たすべきものでなくてはならない」(1条1項)とする労基法に反するものであり、過労死ラインでの労働を法認し、過労死の労災認定の救済の道を広げる遺族の営みを阻むものと考えます。

新聞記者の取材に応じると懲戒処分か? ―― 帝産湖南交通事件

弁護士 藤木 邦顕

 滋賀県の路線バス会社帝産湖南交通のバス運転手の八木橋喜代友氏は、帝産湖南交通労働組合の委員長であったが、私鉄連帯する会に参加するなかで、2014年7月ころにしんぶん赤旗記者から取材を受けて、組合の活動や増えているパート労働者の労働条件問題について述べたところ、同年8月22日に記事となって掲載された。これを知った会社は、赤旗記事に誤りがあるとして、労働組合の抵抗にもかかわらず、翌年2月に出勤停止10日の処分を発令した。八木橋氏は、これを不服として大津地方裁判所に懲戒処分無効確認の訴えを提起した。大津地裁は、2017年3月17日に原告の請求を棄却すると判決した。八木橋氏は、これを不服として大阪高裁に控訴している。

会社が懲戒理由としたのは、記事中の「労組はパート運転手の不満をとりあげて会社と交渉しました。しかし、会社は、非組合員の問題であると言って組合との交渉に応じませんでした。」との部分(原判決上記事①とされている。)と、「運転手が『君しか走るものがおらんのや』といわれ、一日に2人分の勤務をかけもちするように迫られ、断りきれずに3日連続の長時間労働をした翌日に心筋梗塞で入院しました。」という部分(原判決では記事②とされている)であった。原判決は、記事①は真実であるが、記事②は事実に反するものであって、記事②だけでも出勤停止10日の処分は相当であるとした。

内部告発と懲戒については、内部告発の真実性または真実と信ずべき正当な理由があること、基本的目的が法違反や不正の是正にあること、告発行為の態様が相当なものであることを要件に、懲戒権行使は許されないものと解されている。(菅野和夫『労働法』第十版485~486頁)。

公益通報者保護法第6条は、同法3から5条の規定は、通報をした労働者に対し、解雇その他不利益な取り扱いをすることを禁止する他の法令の適用を妨げるものではないと規定し、解雇・懲戒処分に関する労働契約法14、15、16条をあげている。

ところが原判決は、従業員が会社の内部情報を外部の報道機関に提供する行為は、「一般に平時においては企業秩序に違反するものとして厳につつしまれるべきものと解され」、公益通報者保護法に定められた対象事実・通報先・内部通報で是正されないことなどの要件を充足しなければ労働者は保護されないという解釈をした。

この判決は、内部告発について、あたかも公益通報者保護法の定めた要件に該当する通報しか保護されないかのように解しており、放置できない。

原判決は、記事②について入院した運転手の勤務は、「自動車運転者の労働時間の改善のための基準」に違反せず、そもそも長時間労働ではないし、心筋梗塞との因果関係は不明であるのに関係があるかのような記事になっていると認定した。しかし、当該運転手は、前月度に47時間10分の残業をしているところ、5月21日から入院する前日の5月28日までに、本来の乗務に加えて掛け持ちと呼ばれるさらに1系統の乗務をした日が2日、公休出勤が1日あり、7日連続の勤務であったうえ、7日間のみで前月の約半分にあたる23時間16分の時間外・休日勤務をしていた。かかる労働実態は長時間労働以外の何物でもない。

原判決は、処分の相当性について、長距離バスの重大事故などのため、バス運転手の長時間労働への社会的関心が高まっていたなかで、被告が長時間労働を強いた結果、運転手が倒れたという記事によって、被告の社会的信用の毀損のおそれは非常に大きいとする。これでは、長時間労働をさせていた会社が免罪され、労働者は沈黙を強いられることとなる。判決でかような逆転した論理がまかり通ることは許されないので、控訴審を闘う決意である。

(弁護団:藤木邦顕、鎌田幸夫、安原邦博)

「国有地低額譲渡の真相解明を 求める弁護士・研究者の会」が結成されました

弁護士 岩佐 賢次

 学校法人森友学園へ国有地が著しく低額に譲渡された問題について、4月に「国有地低額譲渡の真相解明を求める弁護士・研究者の会」が結成され、私はその事務局として活動しています。「弁護士・研究者の会」は、280名の賛同を得て、4月28日に、近畿財務局に対し、真相解明のための第三者委員会の設置や交渉記録のデータ保存を求めました。その後の記者会見では国有地の適正な価額について独自の調査結果に基づく試算を公表し、新聞、テレビのニュースで取り上げられました。近畿財務局からは、会計検査院の検査があることなどの理由で第三者委員会の設置は行わないとの回答があり、交渉記録のデータ保存については何ら回答がありませんでした。

国会では、野党議員からの追及に対し、財務省の官僚は苦し紛れの答弁に終始し、「交渉記録はすべて廃棄した」、「価額は適正だった」の一点張りです。深さ3メートルより下に廃棄物が存在していないとする小学校建設の設計業者が当時の森友学園顧問弁護士に宛てた電子メールが発見されるなど、官僚らによるこれまでの国会答弁との矛盾も明らかになっています。

続く第2の森友事件と言われる加計学園による岡山理科大学獣医学部設置に関する問題でも、官邸サイドは明らかになった議事録を「怪文書」扱いし、情報隠しどころか、読売新聞と結託して情報発信をした前文科省事務次官の前川氏つぶしに躍起になるなど、異様な事態となっています。
官邸サイドは、森友学園問題や加計学園問題をうやむやにしたまま幕引きを狙っているようですが、そうはさせません。

先の近畿財務局からの回答を受けて、6月6日には、「近畿財務局と森友学園及び森友学園以外の者との面談・交渉記録の文書、電磁的記録の開示請求」の本訴を大阪地方裁判所に提起しました。同時に、国有地低額譲渡の真相解明のために「面談・交渉記録」の廃棄・改ざんの禁止及び「デジタルフォレンジック調査をして文書を保存せよ」との仮処分の申立も大阪地裁に行いました。

「弁護士・研究者の会」は、公益通報の呼びかけ、情報公開制度を駆使した資料収集等、他分野の専門家の協力も得ながら独自の調査活動を続け、記者会見、ホームページ、ツイッターやファイスブック等での情報発信を今後も続けます。数々の虚偽答弁、情報隠しという官邸・与党による国会軽視という事態に、私たちはこれを民主主義への挑戦と受け止め、法律の専門家としてやれる活動は何でもするという気迫でこれからも挑みつづけます。どうぞご支援ください。

裁判・府労委委員会 「裁判所から見た労働事件」(講師:森野俊彦先生)報告

弁護士 原野 早知子

 裁判府労委委員会では、2017年5月16日(エルおおさか)、元裁判官の森野俊彦先生を講師として企画を開催した。「裁判所の中」の話を伺う貴重な機会であり、35名が参加した。

森野先生は昭和46年任官、平成23年定年退官(修習23期)で、刑事事件や家事事件にお詳しい一方、数々の労働事件を担当してこられた。その経験に基づく講演であった。
裁判所で長く勤務されたからこそのエピソードが満載で、民法協会員(弁護士・労働組合とも)が当事者の事件に関与されたことも紹介され、一同親近感を持って拝聴した。

左陪席時代に右陪席と裁判所を説得して判決を書いた事件、高裁裁判長時に女性の陪席裁判官と議論し、一審棄却だった広義のセクハラ訴訟で請求認容した事件、地方公務員労災の損害賠償事件の一審勝訴を維持した事件、酒気帯び運転の教員(公務員)の懲戒解雇を無効とした一審判決を高裁で維持した事件など、いずれも興味深い話だった。

森野先生の判断に共通するのは、「労働者の受けた苦痛や被害を救済する」という意思であった。

酒気帯び運転による懲戒解雇の事件では、裁判長だった森野先生は「市民の意見はどうか」と当初考えた部分もあったが(現に被告である自治体側からは免職を求める「市民のハガキ」が大量に証拠提出されたという)、まだ若い当事者の将来がなくなることを考え、「市民の声ではなく、少数者の権利を守る立場で」と懲戒解雇無効の判断を維持する判決をした。判決は最高裁でも維持され、酒気帯び運転を一発で懲戒免職にする条例は少なくなっていったという。

では、労働者が勝利していくにはどうすればいいのか。森野先生のコメントは次のようなものである。
・裁判官は労働者としての権利意識を持っているわけではなく、「裁判官は分かってくれている」と考えるのは甘い。
・必死で訴え裁判官の「魂を揺さぶる」ことが必要である。
・労働者には厳しいかもしれないが「組合運動を頑張るなら、会社に悪い印象を与えるな」と言いたい。仕事をきちんとしてこそ物を言うことができる。

民法協の会員が教訓とすべき意見ではないかと思われる。森野先生は、「長いこと勤務した裁判所が悪くなってほしくない」との思いで、退官後も様々な活動を続けておられる。そうした思いに答える努力が、民法協に必要ではなかろうか。

講演後には活発な質疑が相次ぎ、懇親会も 名の参加で盛り上がった。成果は今後の裁判府労委委員会の活動に生かしていく所存である。

派遣労働問題研究会新人歓迎企画―― KBS京都訪問の報告

弁護士 坂東 大士

2017年5月24日、派遣研新人歓迎企画として、KBS京都を訪問させて頂きました。
KBS京都の訪問では、まず、ラジオ・テレビ番組を制作、放送している館内を見学させて頂きました。その後、京都放送労働組合の取り組みについて報告を聞かせて頂きました。

1 KBS京都館内見学

館内見学では、はじめに、ラジオ放送のスタジオなどを見学させて頂きました。
KBS京都は、京都、彦根、福知山から発信する3つのラジオ放送の周波数を保有しておられるので、地域ごとに別々の番組を放送することも可能なようです。
ラジオ放送に関しては、放送される番組の80%以上が自社制作の番組です。
ラジオ放送の番組は、ディレクター、アシスタントの2人とタレントで制作されることが多いようですが、ディレクターは正社員か外注先の従業員のどちらかで、アシスタントはアルバイトのようです。番組制作に関わる正社員が少ないことは意外でした。

 テレビ放送のスタジオでは、「newsフェイス」のスタジオを見学させていただきました。
番組制作には、美術、カメラマンなどの技術スタッフ10名が関わっておられるようですが、その内5名が正社員で、他の5名は外注先の従業員かアルバイトのようです。
テレビ放送の番組は、自社制作の番組は25%~30%で、その他は、野球中継、ドラマなどの番組を購入し、放送しています。
スタジオのサブ(調整室)も見学させて頂きました。スタジオのサブ(調整室)では、番組制作用機器を操作し、音声、映像等を調整しますが、ディレクター1名が社員で、あとは非正社員のようです。

KBS京都は、開かれた放送局を目指し、館内には誰でも入ることができます。また、KBS京都は、主要放送局のネットワークに入っていないので、自社制作の番組の割合が他の地方局よりも高いとのことです。

2 京都放送労働組合の活動報告

KBS京都館内見学の後、館内の会議室で、京都放送労働組合の取り組み、特に、非正規労働者の組織化、直用化協定の経緯、労働組合の方針などについて、報告を聞かせていただきました。
労働組合に加入し、KBS京都と団体交渉の結果、直接雇用となった労働者の方から話しを聞かせて頂きました。

(1) 松野さん
松野さんは、1994年からKBS京都で働いていました。労働組合に加入した当時は、スタジオのサブ(調整室)で、テロップ制作を担当していました。KBS京都の社員から業務指示を受けていましたが、業務請負契約になっていました。労働組合に加入後、会社との団体交渉の結果、KBS京都とは雇用契約に変更されることになりました。
40代になって体力も落ち、業務請負では将来に不安があったので、正社員になれたことは嬉しかったとのことです。

(2) 蔵内さん
蔵内さんはKBS京都の滋賀放送局で働いていました。放送局内、イベントでの音響機器の操作を担当していました。KBS京都とは業務請負契約で、契約期間は1年でしたが、長年、継続されていました。滋賀放送局で働いていたこともあって、京都放送労働組合との接点が長い間なかったようです。滋賀放送局の閉鎖が問題になったときに、労働組合との接点ができ、加入されたようです。労働組合が交渉し、現在は、正社員となっています。
契約期間1年と不安定でしたので、正社員になって、家族も喜んでいるとのことです。

(3) 労働組合の取り組みについて
京都放送労働組合は、正社員だけではなく、非正規社員、派遣社員、外注先会社で雇用されている社員、業務請負契約など、KBS京都で働く人なら加入することができます。
労働組合の組織率は70%を超えています。KBS京都との団体交渉で、直接雇用、正社員化を要求し、実績も残しています。
直用化の方針としては、派遣社員であれば契約期間がきれた段階で、アルバイトに切り替えることを要求し、その後、毎年賃上げの交渉を続け、最終的には正社員とすることを要求していく方針をとっておられます。