民主法律時報

2017年5月号

日本放送協会不当労働行為救済申立事件 勝利判決のご報告

弁護士 野矢 伴岳

1 事案の概要及び争点

本件は、原告である日本放送協会(NHK。以下、「協会」という)が、協会の契約取次等を行う地域スタッフで組織する全日本放送受信料労働組合堺支部(以下、「全受労」という)からの団体交渉の申し入れに対し、協会が外部の者であるとする坂元氏(組合の特別執行委員で堺労連事務局長)の出席を理由として団体交渉を拒否したことが不当労働行為にあたるとして、全受労から不当労働行為救済命令申立てを行った事件で、府労委及び中労委において、協会の団交拒否があったとして文書手交が命じられたことにつき、協会から同命令の取消訴訟が提起された事件です。

本件の争点は、1.全受労の組合員である地域スタッフは協会との関係で労働組合法上の労働者と言えるか、2.平成23年11月2日団交申し入れに対する協会の対応は、正当な理由のない団交拒否にあたるか、の各点でした。

2 裁判所の判断

東京地裁平成29年4月13日判決では、結論として、いずれの争点についても全受労の主張が容れられ、原告の請求が棄却されました。

争点1について判断するに当たり、裁判所は前提として労組法の趣旨に触れ、「労組法上の労働者は労働基準法上の労働者よりも広く解し、労働契約によって労務を提供する者のみならず、これに準じて使用者との交渉上の対等性を確保するための労組法の保護を及ぼすことが必要かつ適切と認められる者をも含むと解するのが相当である」と述べました。

その上で、判断基準については、INAX、ビクターの最判事例と同様の規範に従って検討しています。この点については地労委及び中労委の枠組と同様であり、目新しい点は無いため割愛しますが、その中で協会が目標数(ノルマ)を通じて地域スタッフを管理している点については、「管理の態様は相当強度なものである」、「一般的な委任契約や請負契約の形態とは一線を画す相当強度なものというべき」と認定しています。

結論としては、「地域スタッフは、事業継続に不可欠な労働力として原告の事業組織に組み込まれ、契約内容の重要部分は原告により一方的に決定され、その報酬には労務対価性が認められる。一方で、個別的な業務の依頼に応じるべき関係や、個別的な労務の提供について具体的な拘束を与え、あるいは、指揮監督を行うという関係は見出し難いものの、他方で、目標達成に向けて業務に関する事細かな指導を受け、目標達成に至らなかったときは委託業務の削減や本件委託契約の解約等の段階的な措置を講じられることが予定されている等、その業務遂行が原告の相当程度強い管理下におかれていることに鑑みれば、本件委託契約で委託された業務全体について、原告の業務依頼に応ずべき関係が存在し、その労務の提供について一定の拘束や指揮監督を受けている関係が認められる反面、顕著な事業者性を認めることはできない」として、地域スタッフは労組法上の労働者に該当するとしました。

争点2については、前提として協会の対応について、義務的団交事項に関する団交申し入れに対し、地域スタッフではない部外者を除いたメンバーとの交渉を望み、その対応を変えなかったことは団交拒否にあたる、としています。

さらに、原告はそのような交渉申し入れへの対応を行ったことに正当理由が認められるとも主張しましたが、これについて裁判所は、団体交渉に部外者が出席するにあたり労使双方の了解が必要とするルール(交渉ルール)の合意があったと推認させるだけの事情は無いと判断し、また同様の慣行が成立しているということもできず、その他、坂元氏が出席することで紛争の蒸し返しや混乱が生ずるとする根拠も無い、として、原告が主張する理由はいずれも団体交渉拒否の正当な理由であるとは認められない、と結論付けました。

3 本件命令の持つ法的・実践的意義

本件は、NHKの地域スタッフからなる諸組合にとって、使用者側が、不当にも長年に渡り争ってきた労組法上の労働者性に関し、最高裁判例の枠組みに従って正当な判断を示したものであり、今後の当該組合の活動にとって重要な意義があるといえます。

法的には、労基法上の労働者性よりも労組法上の労働者性の方がより広い概念であることを明言したうえで、労組法上の保護を及ぼすべきかどうか、という観点から労働者性を検討すべしとした点については、目新しいと言えるかもしれません。

判決内容としては、労組法上の労働者性を認めた点に関しては、本件事案のもとでは「極めて当然」の結論であり、私見として敢えてこれを画期的な判決と評価することは致しません。ただ、協会の地域スタッフの管理の仕方に関する文脈として、管理の態様が「相当強度」であるとしている点は、地域スタッフに労組法上の労働者としての保護を及ぼすべきと言う価値判断が強く感じられるところであり、組合側の主張に沿ったものと評価できるところです。

また、団交拒否の点についても、組合の交渉担当者は組合が決定すべき事項であることを明言し、これを制限する正当な理由を認めなかったことは、当然のことではありますが、これからの交渉を行う上での実践的な意味を持つと思われます。

4 最後に

本件は協会側から控訴されました。弁護団としても、手綱を緩めず、さらなる労働者の地位向上に向け、奮闘を続けます。
なお、関連事件として、地域スタッフの不当解雇につき、地位確認を求めた事件(労働契約法上の労働者性等が争点)については、最高裁で上告棄却・不受理となり、敗訴が確定しました。これについては、非常に遺憾な結論であり、労働者の実態を省みない不当な判決です。本件を踏まえ、団体交渉を通じ、今後はこのような不当な扱いが改められるよう望みます。

(本件の弁護団は、河村学、井上耕史、西澤真介、野矢)

奈良学園大学事件・提訴報告

弁護士 西田 陽子

平成29年4月25日、被告学校法人奈良学園(以下、「被告法人」という。)によって同年3月31日をもって解雇・雇止めされた(以下、「本件解雇雇止め」という。)奈良学園大学教員8名が原告となり、奈良地方裁判所に提訴した。また、提訴の約2週間前である同年4月13日に、原告らは、奈良県労働委員会に対して、被告法人による不当労働行為に対する救済申立て(支配介入、不利益取扱い)を行った。

本件は、被告法人が過去に起こした不祥事等により、奈良学園大学ビジネス学部・情報学部の後継学部として設置する予定であった現代社会学部の設置申請を取り下げざるを得なくなり、現代社会学部の設置が不能の場合にはビジネス学部・情報学部の募集を継続するとしていた付帯決議を削除し、両学部教員を整理解雇する方針に急遽転換したという事案である。

原告らは、奈良学園大学教職員組合を結成し同法人と団交を続けていたが、議論は平行線であった。その後、奈良学園大学教職員組合の組合員は、奈労連・一般労働組合に個人加入し、労働委員会におけるあっせん及び団体交渉を続けた。しかし、被告法人は、労使双方が受諾した「労使双方は、今後の団体交渉において、組合員の雇用継続・転退職等の具体的な処遇について、誠実に協議する」というあっせん合意に反し、「事務職員への配置転換の募集に対するお知らせ」と題する書面を配布したり、本件解雇雇止めの通知を一方的に送付したりした。

本件のもう一つの特徴は、被告法人が、現代社会学部設置の計画が頓挫した後も、社会科学系の学部である「第三の学部」の設置を模索しており、これを一方的に凍結して原告らに対して本件解雇雇止めの通知を行った後、再び「第三の学部」の設置を検討し始めたということにある。この事実は、原告ら組合員を排除する目的の表れであり、また、解雇回避努力を尽くしていないことの表れでもある。

原告らの専門性を活かす場としての教育・研究センター(仮称)の設置についてまともに検討しなかったこと、他学部への配置転換を認めなかったことなども、被告法人が解雇回避努力を尽くしていないことの裏付けとなる。

さらには、被告法人は、既に本件解雇雇止めを通告されていた原告らに対して、平成29年3月下旬になって、突如非常勤講師として出講することを打診したが、その後撤回した。当該打診は、被告法人にとって原告らを解雇雇止めする必要性がないどころか、被告法人の大学運営にとって不可欠の人材であることを示している。

以上のような事実関係を前提に、訴状においては、①原告らに対する解雇及び雇止めの本質は、組合嫌悪の不当労働行為に他ならないこと、②だからこそ、整理解雇の4要件(要素)も満たしていないことを、主張した。

訴状提出後、同年4月25日午後1時より、佐藤真理弁護士、山下悠太弁護士、原告らが記者会見を行い、被告法人による不当労働行為及び整理解雇の不当性を訴えた。原告である川本正知教授は、記者会見において、被告法人が欺瞞的大学再編を推し進め、その大学再編を口実として、大量の不当整理解雇をおこなったことに対する経営責任が厳しく追及されなければならない、また、特定の教員の解雇を目的とした学部・学科廃止は絶対に許されることではない、と述べた。また、川本教授は、労働運動に対する不当きわまりない攻撃であり、労働三権の否定であって、これはまさに、憲法の保障する基本的人権の侵害であることも主張した。

杜撰な経営を行ってきた被告法人によって、被告法人の発展に寄与し、正当な組合活動を行ってきた原告らの権利が脅かされるようなことがあってはならない。組合の粘り強い団交の結果、被告法人は、ついに、原告らを非常勤講師として雇用する意向を示した。

本件は、執筆者にとって初めての本格的な労働事件である。先輩弁護士の背中から大いに学び、原告らとともに熱意をもって戦うことで、早期に事案が全面解決されることを切に望む。

(弁護団:豊川義明、佐藤真理、鎌田幸夫、中西基、西田陽子、山下悠太)

長時間労働・嫌がらせ・非正規差別を許さない―― 四国名鉄運輸の「働かせ方」を問う訴訟を提起

弁護士 井上 耕史

1 事案の概要

被告会社である四国名鉄運輸は貨物運送事業者である。原告は同社の「臨時社員」として2004年2月に入社し、以後「パート社員」「契約社員」と呼称は変わったが、毎年3月に1年契約の更新を繰り返し、トラックを運転して集配業務に従事していた。集配業務を行っていた22名の従業員のうち原告だけが契約社員で、残り全員が正社員であったが、業務内容には差異がなかった。正社員には賞与支給や時効消滅した年休の買取制度があったが、原告には適用されなかった。

原告は恒常的な長時間労働を強いられており、1か月100時間超の時間外労働も何度もあった。2013年6月、原告は業務中に目まいを起こして転倒して頭部を打撲負傷した。被告会社から業務復帰を求められて同年7月18日に復帰したものの82時間もの時間外労働により症状が悪化したため、8月12日から年休を行使して自宅療養するとともに、労基署に未払残業代申告や負傷について労災申請(後に業務外認定)を行った。

すると、被告会社の上司らは、原告の申請を妨害する等様々な嫌がらせをするようになり、同年10月28日には原告に対し懲戒解雇をちらつかせて退職を強要するに至った。こうした長時間労働や嫌がらせ等により、原告は鬱病を発病し(本件業務災害)、療養のため休職を余儀なくされた。2014年1月、被告会社は休職期間満了を理由として原告を退職したものと扱った(本件解雇)。その後、原告は本件業務災害について労災申請を行い、2015年8月に労災認定された。原告は現在まで療養中である。

そこで、原告は、 ①労災休業中の解雇・雇止めは無効であることを理由とする地位確認、②原告が賞与支給額及び年休買取りにおいて不利益を受けているのは労働契約法 条違反であることを理由とする差額分支払、③本件業務災害についての被告会社の安全配慮義務違反等を理由とする損害賠償、をそれぞれ求めて、本年4月25日に大阪地裁に提訴した。

2 本件の特徴

過労・パワハラによる精神疾患を発病した事例において、使用者に対し損害賠償を請求する裁判は少なくない。本件もその一つではあるが、併せて有期契約の効力を正面から問うという点に特徴がある。

第一に地位確認の点。労災により療養中の解雇(中途解約)であれば労基法19条により無効である。ところが本件の場合は有期契約であるから、中途解約無効だけでは足りず、その後も契約が更新されたといえなければならない。この場合にどのような法律構成で救済すべきかが問われる。

第二に労働契約法20条違反に基づく請求の点。賞与格差の不合理性が大きな争点である。さらに、本件では休業損害についても従前と同等の給与とは別に正社員と同等の賞与相当額を請求している。全く前例のない領域である。

3 企業と政府の「働かせ方」を問う訴訟に

安倍政権は、本年3月18日に「働き方改革実行計画」を策定した。しかし、「同一労働同一賃金」と言いながら非正規の賃金格差には殆ど手をつけていない。また、「長時間労働是正」と言いながら、いわゆる過労死ラインの残業を認める上に、運転業務は5年間野放しとするものである。これでは原告のような被害が増え続ける。この裁判を通じて、被告会社のみならず、企業と政府の「働かせ方」に対しても異議を申し立てるたたかいにしたい。

(弁護団は、上出恭子、河村学、井上耕史)

安倍「働き方改革実行計画」を どう読むか

弁護士 城塚 健之

1 「働き方改革実現会議」とは

2017年3月28日、「働き方改革実現会議」が「働き方改革実行計画」を決定しました。これはどのようなものなのか、まずは経過を振り返ってみましょう。

「実現会議」は、安倍政権が目玉として掲げた「ニッポン一億総活躍プラン」(2016年6月2日閣議決定)を受けて設置されたものでした。「一億火の玉」、「一億総懺悔」、「一億総白痴」など、「一億~」と名のつくものにろくなものがなかったのはみなさんご承知のとおりですが、今回の「プラン」は、以下の論理(?)を述べています。少子高齢化は経済成長の阻害要因→究極の成長戦略として「一億総活躍」が必要→そのために「戦後最大の名目GDP600兆円」、「希望出生率1.8」、「介護離職ゼロ」という目標(新たな三本の矢)を掲げる→そのための最大のチャレンジが「働き方改革」→具体的には「同一労働同一賃金など非正規雇用の待遇改善」、「長時間労働の是正」、「高齢者の就労促進」が必要。

それにしても、なぜ安倍政権はこんなものを持ち出したのか。それは、アベノミクスが行き詰まる中、格差と貧困の広がりをこのまま放置すれば、社会が保たなくなり、政権への批判が強まり、安倍首相が一番やりたい改憲にも支障を来すことを恐れたからでしょう。

この「プラン」を受けて、同年9月、「実現会議」がスタートしました。メンバーは、安倍首相(議長)以下政治家9名、「有識者」15 名。うち労働側は神津連合会長1名のみで、あとはおおむね使用者側という、例によって偏ったメンバーです。

第1回会議では、安倍首相がマスコミを前に、九項目のテーマを掲げました。すなわち、①同一労働同一賃金など非正規雇用の処遇改善、②賃金引き上げと労働生産性の向上、③時間外労働の上限規制のあり方など長時間労働の是正、④雇用吸収力の高い産業への転職・再就職支援、人材育成、教育、⑤テレワーク・副業など柔軟な働き方、⑥働き方に中立的な社会保障制度、女性や若者が活躍しやすい環境整備、⑦高齢者の就業促進、⑧病気の治療、子育て・介護と仕事の両立、⑨外国人材の受入れ。否が応にも期待が高まる演出でした。

しかし、その後の議事録をみると、毎回、「有識者」が順番に自分の意見を言いっぱなしにするだけで、議論にはなっていません。ただ、安倍首相の発言の場面になると、ここぞとばかりにマスコミを引き入れて大宣伝。たとえば、⑧について元おニャン子の生稲晃子氏がトライアングル型支援(病気療養中の労働者が復帰するためのに主治医、産業医・会社、両立支援コーディネーターの連携)を提案すると、これにとびついて絶賛するなどです。とにかく徹頭徹尾、パフォーマンス。

2 「働き方改革実行計画」とは

そして出てきたのが「実行計画」。①「同一労働同一賃金」では、「同一労働同一賃金ガイドライン案」(2016年12月20日)を基に法改正を進めるとしています。もっとも、「ガイドライン案」の中身は、現行の労契法20条、パート法8条の解釈論にすぎません(したがって、これを「同一労働同一賃金」というのは羊頭狗肉というものです)。しかも、これはもともと労働法学者等を集めた厚労省の研究会で検討していたものを、いわば横取りして「実現会議」で発表したものです。何とあざといやり方でしょうか。それでは、これを立法化することで何が前進するのかというと、何もないとは言いませんが、よくわかりません。しかも、今は正社員の待遇が低下し、「なんちゃって正社員」が問題となる時代。「同一労働同一賃金」だけでは労働者の生活は向上しません。このあたりは竹信三恵子『正社員消滅』(朝日新書)などもご参照下さい。

③長時間労働の是正については、時間外労働時間の上限(月45時間、年360時間)に罰則を設けるとしたことは確かに前進ですが、例外がひどすぎる。労使協定で定めれば、年720時間までOK(ただし、2~6か月平均のいずれも80時間以内、単月では100時間未満、年6回まで)というのですから、これは過労死水準にお墨付きを与えるようなものです。この例外は、安倍政権が日本経団連と連合に丸投げしてまとめさせたものでした。まとまらなければ労使のせいにできるという、小賢しいやり方でしたが、その攻防ラインも、100時間「未満」か「以内」かというお粗末なレベルでした。加えて、オリンピック優先で運送業・建設業は5年間先送り、医師も特殊だということで同じく先送り。まったく、とんでもない内容と言わざるをえません。しかも、それと引換に、高度プロフェッショナル制度(ホワイトカラーエグゼンプション)創設や企画業務型裁量労働制見直しについて「国会での早期成立を図る」というのです(これは第1回会議から榊原経団連会長らが要求していたことでした)。これで神津連合会長は言質を取られ、連合は労基法改悪に反対できなくなったということでしょうか。

あとは具体的な立法に言及している項目はないようですが、④では人材ビジネスの跋扈を告発された権利討論集会の森崎巌さんの講演が想起されます。⑤は非労働者化政策(=規制の消滅)や副業のススメといったところ。

最大の問題点は、安倍「働き方改革」が、経済成長・労働生産性の向上を目的として議論されていることです。「一億総活躍」はその手段にすぎません。だからこのようないびつなものができあがるのです。この間、「総資本の理性」によって、多少なりともましになるのではと期待する向きもありましたが、やはり、みずからたたかわずして何か獲得できるというのは幻想でした。

こうして「政治主導」で話ができあがってしまったのですから、その後の労働政策審議会(労政審)の検討も、形ばかりのものとなってしまうおそれがあります。

3 「ポスト真実」とどう向き合うか

そもそも、「世界で一番企業が活躍しやすい国にする」、「既得権益の岩盤を打ち破るドリルの刃になる」などと言っていた安倍首相が、今回の「働き方改革」をどこまでまじめに考えているのかは疑問です。だいたい、福島原発が「アンダーコントロール」だとか、南スーダンは「戦闘ではなく衝突だ」とか、安倍政権は、言葉を弄び、国民を騙す態度が顕著です。これらは「ポスト真実」(客観的事実より、感情的な訴えかけを重視する政治状況)の表れともいえますが、これは軽視できません。言葉は人の考え方を規定し、思想すら変えてしまうからです。「戦争は平和」などと言って国民を洗脳するジョージ・オーウェル『1984年』の世界、特定の文法が人々を虐殺に駆り立てるという伊藤計劃『虐殺器官』の世界は、絵空事ではありません。

民法協会員には、本質を正しくつかみ、その見地から批判を加えていくことが、これまでにも増して求められているといえるでしょう。

ここまで来たか 「 ポスト真実 」と共謀罪の関係

安保破棄大阪実行委員会 代表幹事 植田 保二

4月21日、憲法会議主催の春の憲法学習会が、18時30分から大阪グリーン会館で行われ、約100人が参加しました。
「ポスト真実 嘘とどう向き合うか」講演者は名古屋大学准教授の日比嘉高さんです。用意されたレジュメには、興味深い内容や考察もありました。時間の関係で端折られたのが残念ですが、余計に問題の深刻さを知らされました。「ポスト真実は、安倍政権だけでとどまらない。たとえ打倒されても、どう向き合うか継続する」と強調されたことにあります。米大統領選のトランプ氏の演説やイギリスのEU離脱国民投票など世界的なポスト真実の動きは、日本でも起こっていると指摘されました。

その第1にあげられたのが、ネット・ニュース環境の特殊性です。携帯、パソコンなどからの「Yahooニュースの圧倒的優位」と言われたときは、会場がどよめきました。おそらく何となく実感していた参加者の操作されている真実を指摘されたからでしょう。第2は、政治を抜きにした既得権益批判。公務員バッシングなど公共性の無理解です。第3は言い換え、婉曲話法で共謀罪をテロ対策と言い換える類(たぐい)です。第4は、嘘の質。ヘイトスピーチなど排外主義的な感情です。第5が公的文書管理の機能不全。陸自の日報「廃棄」答弁、森友学園での財務省の対応などです。

最後にポスト真実の時代に感情と結びついた事実の危うさを指摘され、事実を読み取るための「読解力」が必要とされました。民主書店の最新のベストセラーに沖縄タイムス社の「誤解だらけの沖縄基地」が上位にあります。そこで展開されている「辺野古座り込み者は金をもらって動員されている」などのウソの流布に対抗しなければならない時代に入っているのです。また座り込みの抗議意志に対して「共謀罪」の適用も考えていることに、政権の底深い怖さを感じます。

宮原たけし府会議員は、森友問題真相究明について「隠ぺい社会」をつくる維新府政となっていると指摘しました。森友学園の小学校認可以降進めてきた大阪府政の経過と都合のいい方向転換を逐次報告されました。その中で、名誉校長になった安倍昭恵さんが梶田私学審議会会長の勤務する奈良学園大学を訪問して会合を持っていた事実も明らかにされました。府議会では維新の会と公明党が隠ぺいと幕引きをはかるために必死になっているが、今後も徹底解明していきたいと決意されました。

「共謀罪」創設反対の大運動について自由法曹団の安原邦博弁護士は、まずこれまで3回法案が準備されたが、すべて廃案になってきた客観的な事実を押さえることが大事と説きました。また、法律制定にあたっては、そもそも必要性と許容性の二つがあり、必要性については、オリンピックでのテロ事件を想定して政府は宣伝しているが、国際条約批准のためという根拠はウソであること。東京オリンピック誘致で安倍首相は「日本は安全な国」と世界に豪語した矛盾も示しました。許容性の中で賛成論者が、「自分はしないし、関係ないから有ってもよい」という人をどう説得し、「反対」にしていくかが大事として、「治安維持法」の例を出して説得する観点を強調されました。朝日新聞(4/24 )に漫画家の小林よしのりさんが、「自由を奪われた羊は嫌だ」として、「(賛成する人は)『自分はやましいことはしない』と思い込んでいるんだろう。安全のためなら監視された方がいい感覚。わしはそんな国民にも腹が立つ」の指摘とダブリます。腹を立てるのは、自由を奪う安倍政権であることは間違いないのですが‥。

二人の報告で、それも10分程度の短時間で運動の進め方の要約をまとめられたことで理解を深めることができました。時代のトレンドを把握する絶妙の学習会でした。

過労死防止大阪センターシンポ 報告

過労死防止大阪センター 幹事 北出 茂

2017年4月14日(金)、エル・おおさかで、シンポジウム「過労死を生まない!真の働き方改革を目指して!」(大阪労働局:後援)と、過労死防止大阪センターの総会が開催されました。

シンポジウムでは、冒頭で、大阪労働局が「労働時間の適正把握の使用者が講ずべきガイドライン」と題する講演を行いました。
労働基準法において「使用者は、労働時間を適正に把握するなど労働時間を適切に管理する責務を有している」ことに触れながら、「タイムカード、ICカード、パソコンの使用時間の記録等の客観的な記録を基礎として確認し、適正に記録すること」が求められることや、 「労働時間等設定改善委員会等の活用」についてお話をされました。

松丸正さん(過労死防止大阪センター代表幹事)は、「過労死を生まないために徹底した労働時間把握を!」と題する講演を行いました。
「労働時間の適正な把握なしには労働時間の規制は死滅する」として、ビルの新築工事中(約1年)月100時間を超える時間外労働があった事例(大手電機工事会社の現場監督をしていた30歳の労働者の過労自殺の事案)では、自己申告では28時間の時間外労働であったが、実態(警備記録等)では176時間であったなどの具体例を挙げてお話されました。

また、「この世から過労死する人をなくしてほしい」と訴える高橋美幸さん(電通に入社後に過労死された高橋まつりさんのお母さん)からの思いが込められたビデオメッセージが届けられ、放映されました。

寺西笑子さん(過労死を考える家族の会代表)は、今国会「働き方改革」の大きな焦点となっている「長時間労働規制の国会情勢」について、残業時間の上限が過労死ライン(80時間~100時間)となっていて、過労死ライン合法化を危惧していると、怒りを示しました。

まとめとして、過労死をなくすためには、労働時間の上限規制、勤務間インターバル規制、有給休暇の取得推進が必要ですが、その前提となる使用者による労働時間の把握が必要です。

しかしながら、現状、労働時間の把握に係る自己申告制の不適切な運用等に伴い、同法に違反する過重な長時間労働や割増賃金の未払いといった問題が生じているなど、使用者が労働時間を適切に管理していない状況がみられるところです。労働時間の適正把握の懈怠は大きな問題です。

また、過労死ライン以下の労働時間の場合にこそ、過労死の認定をめぐる裁判が行われている現状からしても、過労死ライン(80時間~100時間)を残業時間の上限として合法化するような制度は大問題といえます。長時間労働を助長する「残業代ゼロ」法案をセットに押し通そうとする政府案は、過労死防止法に逆行しています。特別条項を撤廃し、 協定は大臣告示「月45時間、年360時間」以内におさめるべきであると考えます。
私事ですが、労働運動に携わるようになって以来、ここ数年の私の2大テーマは「ブラック企業問題」と「過労死問題」でした。
いまもなお、この日本で蔓延している長時間労働によって数多くの労働者の命と健康が奪われています。
究極の労働問題ともいえる「過労死問題」について、自分たちがなぜ過労死防止法の立法制定運動に立ち上がったか、52万筆の署名の重み、さらには、過労死防止大阪センターの設立の理念を今一度、確認する機会となりました。