民主法律時報

デルタ航空解雇(雇止め)事件 勝利判決―多国籍企業による身勝手なリストラ解雇との闘い

弁護士 鎌田 幸夫

1 はじめに

アメリカのアトランタに本社を置く世界有数の航空会社であるデルタ航空が空前の利益を上げながら、国際競争力の向上を図るとして原告ら客室乗務員(契約社員)を解雇したため、地位確認と賃金等の支払いを求めた事案で、本年3月6日、大阪地裁民事5部で勝訴しました。

2 事案の概要

原告の女性は、2005年4月に雇用期間を1年とする契約社員(IFSRと呼ばれていた。関西空港を拠点)として、ノースウエスト航空に採用され、その後、2008年にデルタ航空との合併に伴い同社に移行し、その後契約更新され客室乗務員として継続して就労してきました。

ところが、会社は、2014年7月、原告が当時乗務していたミクロネシア路線(ホノルル―成田、名古屋、大阪、福岡を結ぶ路線)の機内サービスを簡素化(調理を要するホットミールから調理を要しないコールドミールに変更)するため1便につき1名の客室乗務員を減員する、拠点を中部国際空港・関西空港を閉鎖して成田空港のみとする、そのため契約社員 名の希望退職を募集する、と通告してきました。最終的に15名が応募し、継続雇用を希望した者のうち入社日が若い5名(原告を含む)が契約期間途中に解雇されました。

原告は、2015(平成27)年1月23日、大阪地裁に提訴しました。なお、原告以外にも2名が東京地裁、福岡地裁で提訴し係属中です。

3 判決の意義

今回の判決の意義は、原告が、会社の身勝手なリストラ手法に憤り、大阪ではただ一人、解雇撤回と職場復帰を求めて、アメリカ有数の多国籍企業相手に訴訟を起こし、ほぼ完全勝利したことにあります。

会社は、訴訟において契約社員のことを「雇用の調整弁」と呼び、「調整弁が錆び付いて働かなくなるのは困る」という趣旨の露骨な主張も展開しましたが、多国籍企業であってもわが国では、日本の労働法や判例法理が適用され、身勝手な解雇は許されないことを明確にしたことは重要です。

4 本件の主たる争点と判決の内容と評価

(1) 主たる争点
本件の主たる争点は、①本件期間途中の解雇は有効か(労契法17条の「やむを得ない事由」があるか)、②2015(平成 )年3月末での雇止めは有効か(労契法 条1号ないし2号に該当するか、雇止めに客観的合理的・社会通念上相当な理由があるか)です。

(2) 判決の内容
判決は、争点①について、期間満了前に解雇しなければならない「やむを得ない事由」はなかったとして、解雇は無効であるとしました。
争点②についても、雇止めも無効と判断しました。

まず、9年間雇用契約が更新され継続してきたこと、契約書に更新があり得ると明記していること、IFSRがデルタ社で継続的な役割を果たしていたこと、これまで大半のIFSRが契約更新されてきたこと等から、原告には契約更新について合理的期待がある、としました。

そのうえで、人員削減の必要性について、会社は多額の収益を上げるなど業績は好調に推移し、平成26年には過去最大のプロフィットシェア(賞与の一部)を支払い、米国で過去最大数の新規採用をするなど、人件費を削減しなければ経営状況が悪化するという事情はなく、またサービスの簡素化に伴い人員を削減することに高度の必要性は見出しがたいと判断しました。また、解雇回避努力については、本件雇止めの時点で15名が希望退職に応じていたことから人件費を維持したまま雇止めを回避することや、他の路線に乗務させることも可能であったとして雇止め回避のための十分な努力をしていないと判断しました。

結局、人員削減の必要性は低く、十分な雇止め努力をしていないとして、雇止めを無効と判断したのです。

(3) 判決の評価
今回の判決は、期間途中解雇、および雇止めについて、オーソドックスな判断手法で、解雇を無効と導いています。デルタ航空が空前の利益を出していたこと、及びサービスの簡素化の必要性、緊急性に乏しかったことから解雇回避努力を尽くすことを厳格に求めた点は評価できます。もっとも、「人選基準が不合理とは認められない」とか、「手続きについて説明は不十分さはうかがわれるものの相応の手続きは実施していた」とわざわざ判示したのは疑問が残ります。今後も、整理解雇の法理の後退を許さない闘いが重要です。

5 最後に

会社は、本件解雇後、残った契約社員を正社員に登用しました。
原告は、控訴審において、解雇されなかった契約社員と同様の条件で正社員として職場復帰することを目指して闘いますので、ご声援をよろしくお願いします。

   (担当は、鎌田幸夫、谷真介)

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