民主法律時報

真に過労死を防止できる 労働時間規制を!~長時間労働の規制を求める院内集会に350人

弁護士 岩城 穣

 2月10日、衆議院第一議員会館の地下大会議室で開かれた「高プロ・裁量労働制の規制緩和に反対し、真に実効性のある長時間労働の規制を求める院内集会」(日本労働弁護団、過労死弁護団全国連絡会議、全国過労死を考える家族の会の3団体主催)に参加してきた。

 この日は各地で大雪が降る寒い日で、新幹線も少し遅れたが、何とか開始までにすべり込むことができた。会場に着くと、入りきれないほどの参加者で、後に350人と発表された。
主な進行次第は、次のようなものであった。
・開会挨拶 日本労働弁護団 (弁護士)棗一郎幹事長
・報告 過労死弁護団全国連絡会議 (弁護士)川人博幹事長
・電通事件ご遺族(高橋幸美さん)からのビデオメッセージ
・長時間労働による被害者など当事者の声 2人(過労自殺で 歳の長男を亡くした高知県在住の男性、三菱電機の研究所で過重労働により精神疾患を発症し労災認定を受けた 歳男性)
・報告 全国過労死を考える家族の会 寺西笑子代表
・報告 森岡孝二関西大学名誉教授
・報告 労働団体3団体(連合、全労協、全労連)
・集会アピール採択

 この合間合間に、13人の国会議員(民進党から蓮舫議員ら8人、共産党から田村智子議員ら3人、社民党から福島瑞穂議員、自民党の長尾敬議員)が次々と会場に来られ、挨拶をされた。

 過労死弁護団全国連絡会議の幹事長で電通の高橋まつりさん事件の代理人でもあった川人博弁護士は、電通で過労自殺した高橋まつりさんの労働実態を報告し、「上限100時間、80時間はあってはならない。これが、電通事件で明らかになった教訓だ」と批判するとともに、勤務と勤務の間に一定の「休息時間」を義務付ける「インターバル規制」の導入を訴えた。
また、政府が導入しようとしている、一部専門職を労働時間規制の対象から外す「高度プロフェッショナル制度」(高プロ制)の導入や、「裁量労働制」の拡大について、「裁量労働制が導入された職場でも過労死は発生している。ほとんどの場合、10時間以上働いても、8時間労働とみなされる。裁量労働制度の導入は長時間労働を促進する。」、「高プロは労働法そのものの破壊だ。長時間労働で高度のプロの仕事が果たせるのか。過労死寸前の長時間労働を繰り返すことで、日本の技術革新や企画開発が本当に促進されるのか。」と批判した。

 続いて、電通過労自死・高橋まつりさんのお母様からのビデオメッセージが流された。その一部を抜粋する。
「娘は、たくさんの夢を抱いて社会に出てから間もなく、望みを叶えることなく、亡くなってしまいました。母である私は、会社から娘を守ることができませんでした。悔しくてなりません。娘は、一日2時間しか、一週間に10時間しか眠れないような長時間労働の連続でした。この結果、疲れ切ってしまい、うつ病になり、いのちを絶ちました。
娘のように命を落としたり、不幸になる人をなくすためには、長時間労働を規制するための法律が、絶対必要だと思います。
36協定の上限は、100時間とか80 時間とかではなく、過労死することがないように、もっと少ない残業時間にしてください。
また、日本でも、一日も早く、インターバル規制の制度をつくり、労働者が、睡眠時間を確保できるようにして下さい。
残業隠しや36協定違反などの法令違反には厳しい罰則を定めるのが大事だと思います。
逆に、労働時間の規制をなくす法律は、大変危険だと思います。
高度プロフェッショナル制や裁量労働制など、時間規制の例外を拡大しないでください。
24時間365日、休息を取らずに病気にならないでいられる特別な人間など、どこにもいないからです。人間は、コンピューターでもロボットでもマシーンでもありません。」

 和光大学教授の竹信三恵子さんは、「WEBRONZA」の記事(2017年2月7日付け)の中で、次のような分かりやすい例えを述べている。
「今回の政府案をスピード違反に例えるなら、制限速度45キロを守らないと重大事故が起きかねない道路でのスピード違反を規制するとして、『80キロ、100キロを超えたら罰金』と立札だけは立て、監視装置も沿道の警察官も増やさないようなものだ。これでスピード違反を取り締まれるのだろうか。
規制だけでなく、全企業に罰則付きの客観的な労働時間の把握・記録義務を課し、監督官だけでなく労働行政の担当官全体も増やさなければ、実効性は担保できない。」
「労基法で規定された週40時間労働の基準が、『働き方改革』の名の下、知らぬ間に月80時間・100時間残業の基準へとすり替えられていくおそれはないのか。
『総活躍』とは、だれもがそうした残業を前提とする働き方で目いっぱい働かされることにならないか。
『働き方改革』が「過労死促進改革」にならないよう、今後の関係会議の動きを監視していく必要がある。」

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