民主法律時報

2017年3月号

2017年権利討論集会を開催しました

事務局長・弁護士 井上 耕史

2017年2月18日(土)、エル・おおさかにて、2017年権利討論集会を開催しました。全体会・分科会合わせて223名の皆様にご参加いただきました。
記念講演は、森﨑巌さん(全労働省労働組合中央執行委員長)に、「現下の労働政策をどう見るか―『働き方改革』への対抗軸」との演題で、ご講演いただきました。森﨑さんは、安倍政権の「働き方改革」は、アベノミクスの行き詰まりが背景にあること、中身はこれからであり、労働側が主導権をとって積極的な改革の提起が必要であることを指摘されました。長時間労働規制の課題では、労働時間把握・義務の法定化が決定的に重要であること(現在は把握していない事業者ほど証拠なしとして野放しになる)を強調されたのが印象的でした。

講演後の特別報告では、昼馬正積さん(泉佐野市職労委員長)から泉佐野市長による不当労働行為とのたたかいについて、はるばる沖縄から来阪された安次冨浩さん(ヘリ基地反対協共同代表)から辺野古新基地建設阻止のたたかいについて、それぞれ報告と支援の訴えがありました。私からは、最近の民法協の取組みとして、大阪市労組組合事務所事件の最高裁不当決定への抗議、テロ等準備罪(共謀罪)法案阻止のたたかい、安倍政権の「働き方改革」(同一労働同一賃金、長時間労働)に対する運動について報告しました。

午後からは、7つの分科会に分かれて、約3時間半にわたり充実した討論が行われました。
午後5時からの懇親会には88名が参加しました。研究者、労働組合、争議団、弁護士、ゲスト講師、修習生が一同に会して日ごろの活動や集会の感想などを交流しました。また、民法協事務局の岡千尋弁護士が結婚を機に大阪を離れることから、参加者一同で新たな門出を祝いました。
今年の集会は、昨年に引き続き、エル・おおさかでの日帰り開催とし、昨年より更に参加費を引き下げました。大阪市中心部での日帰り開催方式は概ね好評ですが、他方で、酒を飲みながらもっとじっくり討論・交流したい、1泊での開催を、という声も少なくありません。参加しやすさと充実した討論・交流との両立が課題です。皆様の知恵もお借りして、来年はさらに充実した権利討論集会を作り上げていければと考えています。

分科会報告

第1分科会 労働争議について振り返り、学び、議論しよう (報告:弁護士 西川 大史)

1 はじめに
第1分科会では「労働争議について振り返り、学び、議論しよう」をテーマに、裁判所の訴訟指揮について考え、事案の教訓をどのように労働運動に活かすかについて意見交換を行った。参加者は38名であった。
また、今年の分科会の新たな試みとして、各参加者の発言時間を十分に確保し、討論を活発にすべく、問題提起後に2つの分散会に分けて討論を行った。
2 議論活発化に向けての問題提起
須井康雄弁護士から裁判と労働委員会の手続について、原野早知子弁護士から裁判所の現状について、それぞれ報告がなされた。とりわけ、裁判所では、労働者の権利を前進させる判断が乏しい現状などが報告された。
大阪労連の遠近照雄さんや、大阪争議団共闘の新垣内均さんからも、主に組合活動の観点から問題提起がなされた。自身の仕事のすべて、争議を決意した思いなどを率直に伝えて、市民の共感を獲得することが原点であると力強く語られた。ご自身も長年労働争議を経験されたからこその重みのある言葉だった。
3 分散会での報告・討論
分散会①では、それぞれの争議団から報告があった。公務労働争議の報告に対して、元裁判官の森野俊彦弁護士から「裁判官も、住民として税金を払う立場から考える部分があり、それが泉佐野や組合事務所の判断を分けているかもしれない」との発言がなされ、多くの参加者の印象に残ったのではないか。公務員バッシングに対して、市民に支持を広げるとともに、裁判官の心を掴むことの難しさを感じさせる発言でもあった。
分散会②では、「裁判官会同」の情報公開請求や、最高裁裁判官の国民審査の際に労働事件の判断について情報提供をするなどの提言もなされた。
議論を活発化するため、分散会に分けたが、それでも時間不足であり、討論・意見交換が十分にできていない。次年度の課題とするとともに、十分に議論できなかった点は今後の裁判・地労委委員会で議論を深めていきたい。

第2分科会 闘えば変わる!~改悪派遣法に負けない労働組合の闘いに学ぶ~ (報告:弁護士 細田 直人) 

第2分科会では、派遣法改正後の取組みや、直用化をテーマに 名が参加し、報告、意見交換が行われました。
1 派遣法改正後の取り組み
平成28年3月に行われたホットラインの結果や、その後事件化した事案の報告がありました。また、派遣法40条の8に基づく労働局の対応が、脱法目的を自白する場合以外は、助言以外の指導・勧告を行わないという態度であることや、今後の直用化に向けた組合活動の必要性についての報告がなされました。
2 事件報告
①冨田弁護士から、パワハラや、不正な経理処理の内部告発などしたところ雇い止めをされ、労働局へ申告・訴訟継続中の事件の報告がなされました。②鶴見弁護士からは、違法な派遣契約に対し、労働者がみなし申し込みに対する承諾の意思表示をしたところ、派遣元が承諾書を取り下げれば無期での直用をする条件提示がなされ、いったんは派遣元の条件に合意し、現在、今後の派遣先との間で無期の直用を求めている事件の報告がなされました。
3 直用化の組合活動報告
①直用化を勝ち取ったKBS京都の古住公義氏から、KBS労組の偽装請負を摘発し、直用化・無期雇用を勝ち取った経緯や、非正規労働者の組織化に関する問題などを報告していただきました。②大経大労組の伊藤大一准教授からは、大経大の事務部門の派遣社員の直用化を勝ち取った経緯について、③科学一般D支部から、事前合意制度の確立、そもそも派遣・パートタイマーを採用させない労使関係について、それぞれ報告を頂きました。
4 討論
その報告内容を踏まえて、③D支部の事前合意制度についてや、非正規労働者の組合加入の状況、非正規労働者の組織化に伴う正規労働者に関する問題など、今後、派遣労働者の直用化を求めるムーブメントを起こすための活発な意見交換がなされました。
今後、非正規労働者の直用化に向けたムーブメントやその前提となる組織化を検討していく必要性や課題に関する解決法を考え合う良い分科会でした。

第3分科会 雇止めを阻止し、無期と均等 待遇を勝ち取ろう! (報告:弁護士 吉村 友香)

今年の第3分科会は、「雇止めを阻止し、無期と均等待遇を勝ち取ろう!」というテーマで、労働契約法18条の無期転換ルールと同一労働同一賃金について議論しました。
1 労働契約法18条について
はじめに、谷真介弁護士から労働契約法18条の無期転換について報告があり、これに続いて、参加者の方から、労働の現場で同法18条の脱法行為が横行しているとの報告が多数上がりました。
具体的には、神戸大学や立命館大学の「労働契約法の脱法行為」が紹介されました。神戸大学では、全ての非常勤講師に契約更新5年上限を適用することが画策され、立命館大学では、非常勤講師の雇用契約について、2016年4月以降は、5年を超える契約の更新は行わないという契約内容に変更されたとの報告がありました。
その他にも、同じような脱法行為が行われているとの報告が多数上がり、同法18条が新設された時に恐れていた使用者の脱法行為が早くも横行していることに参加者全員が憤るとともに、使用者の脱法行為を阻止する運動が重要であることを再確認し合いました。
2 同一労働同一賃金について
楠晋一弁護士から、同一労働同一賃金ガイドライン案の説明があり、それに続いて20条裁判の現状について報告がありました。昨年に続いて、大阪医科大学20条裁判の報告があり、さらには、昨年の権利討論集会(第3分科会)での議論を聞いて20条裁判を起こす決意をしたという参加者の方の報告もありました。新しく報告のあった20条裁判は、とある大学での専任講師と非常勤講師との間の夜間手当に関する不平等取扱いが争われているというものでした。
20条裁判がジワジワと広がりつつあるということを改めて実感できる報告でした。
3 官製ワーキングプア
本分科会では、公務の非正規雇用問題についても取り上げ、吹田市・守口市非常勤職員雇止め裁判不当判決の報告がありました。
参加者からは、民間が公務に入ってくることで公共サービスがおろそかにされるのではないか、民間が住民の個人情報を預かるという事態に恐ろしさを感じる等、様々な意見が出され、議論が尽きませんでした。
今年は、公務の非正規雇用(教育現場)の問題を寸劇でも学ぶことができ、盛りだくさんの内容の分科会でした。参加者数は34名でした。

第4分科会 取り戻そうまともな働き方 (報告:弁護士 稗田 隆史)

第4分科会では、「取り戻そうまともな働き方」というテーマのもと、46名の方に参加していただき、過労死防止に向けて、どのような取り組みを行うべきか、議論を重ねました。
第一部では、政府が働き方改革の一つとして推し進めようとしている「時間外労働の上限規制」の内容に触れ、厚労省が公開している「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン」や「過労死白書」などを参考にしながら、過労死の現状やその原因を学習しました。そして、参加者同士で、36協定の問題点や仕事に対する意識改革の必要性などについて議論を重ね、過労死防止を図る手段の一つとして、「労働時間の適正把握」が最も重要な課題であるということを確認しました。
第二部では、過労死防止に向けた労働組合の役割の重要性を学習するため、参加者の方から、労働組合における取り組みやユニオンでの運動内容、さらには過労死防止大阪センターの活動について報告をしていただきました。いずれの団体においても、労働時間の管理やインターバル規制を重視しており、「まともな働き方」を取り戻すための取り組みに向けて、試行錯誤をしているとの印象でした。とりわけ、エステユニオンでは、エステ業界全体における共通ルール(過重労働抑制に向けた労働協約)の策定を目指すなど、働き方改革への対抗策としての取り組みも行っており、大変感心させられました。
第三部では、昨年から実施されている過労死防止に向けた啓発授業の取り組みについて、実際に講師を担当した遺族や弁護士、さらには受け入れ先の学校側からの報告をしていただきました。ワークルール教育の現場の声を聞き、これから社会に出て行く若者達に向けて、十分な知識を与えることの大切さを改めて確認することができました。
最後に、実際にご家族を過労死で亡くされた遺族の方々から、遺族としての気持ちや過労死防止に対する思い等を報告していただきました。
過労死・過労自死をなくすためには、政府の改革案に強い反対姿勢を示すことが絶対的に必要です。私も、この分科会で得ることができた知識を活用し、より一層、過労死防止に向けた活動に取り組んで参りたいと思います。

第5分科会 貧困とたたかう  (報告:弁護士 安原 邦博)

「貧困と闘う 」がテーマの第5分科会は、労働組合、研究者、弁護士ら計20名が参加して、貧困と社会保障をめぐる様々な課題や運動の報告、及び、社会保障の活用と充実のための議論がなされた。
まずは大阪市立大学の木下秀雄教授から、「社会保障の課題と労働運動」と題した講演がされた。相次ぐ社会保障削減や保険料増は、低所得層や高齢者だけでなく、むしろ中所得層が主な標的であること、貧困(生活費、子どもの学費や教育、親の介護の問題等)が、必然的に、組合員の未結集など労働組合活動に影響を及ぼすこと、そして、社会保障が賃金など労働条件と相関関係にあることが明らかにされ、労働組合が、現にある社会保障制度を活用した活動を行い、その切下げに対して闘うべきことが提案された。
全国一般東京ゼネラルユニオン(東ゼン)のルイス・カーレット氏からは、「社会保障は、労働組合と同様に、社会の中での助け合いの制度で、権利でもあり義務でもあって、それは外国人も日本人も関係がない」という理念のもと、外国人労働者の社会保険加入につき従来労働組合がとってこなかった、健康保険法、厚生年金保険法に基づく「資格確認請求」を活用している等の取り組みが報告された。また、喜田崇之弁護士からは、年金削減に係る一連の法改正等の報告がされた。
そして、藤木邦顕弁護士から、大阪府・大阪市子どもの貧困調査、大阪府子どもの貧困対策等についての報告がされ、大阪教職員組合の園田浩美養護教諭からは、大阪市内における小学生の貧困実例(免除を受けていない家庭でも給食費が払えない、夏休み後に体重が減っている、おにぎりなど食べ物を万引きする、歯ブラシは家族で1本しかないので学校に持ってこられない等)が報告され、子どもや保護者の支援のために、養護教諭、スクールカウンセラー、スクールソーシャルワーカーを増員する等、学校や地域だけでなく公的な支援施策が必要であるとの提起がされた。

第6分科会 沖縄の現在を知る! (報告:弁護士 長瀬 信明)

第6分科会は、「沖縄の現在を知る!」をテーマに、辺野古・ヘリ基地反対協共同代表の安次富浩さんをお呼びし、主に辺野古や高江の現状についてご報告いただいた上で、参加者全員でざっくばらんに議論をしました。なお、安次富さんには全体会でも、日々問題が起こる沖縄の現状についてご報告いただき、支援を訴えていただきました。
安次富さんのご報告は、映像を交えつつ、政府による選挙へのあからさまな介入、オール沖縄で勝利するまでの道のり、辺野古と高江での工事強行、それに対する反対運動、伊江島の基地強化、辺野古、高江、伊江島のトライアングルの完成、オスプレイの「墜落」、MXテレビによる偏見放送等、多岐に亘るものでしたが、我々が知っているようで知らないことがたくさんありました。
例えば、もはや米軍基地で経済的に潤うことはないということも、明日をも知れぬ米兵がお金を使いまくるベトナム戦争の頃とは違うからで、観光の方がよっぽどお金になるということや米軍が撤退してもその後には自衛隊がそのまま居座る可能性があること、伊江島ではあまり反対運動が活発化していない理由等です。
また、オスプレイが「墜落」した際の海中からの生々しい写真は衝撃的でした。これのどこが「不時着」なのかと。報道機関は真実を報道すべきですが、やはり情報は選別されているのだということをまざまざと知らされました。
安次富さんによれば、沖縄の運動は「しなやかに」「したたかに」「非暴力を徹底」するとのことでした。そして、我々ができることは、必ずしも沖縄へ行くことではなく、沖縄へ思いを馳せつつ、日々直面している問題(例えば、原発反対運動など)に取り組み、連帯していくことであり、そうしないとこの国を変えていくことはできないとおっしゃられました。こうした運動の姿勢はとても共感できるものですし、我々もすぐに実践できると思いました。
安次富さんのご報告の後、安保破棄大阪実行委員会の植田保二さんからも、長年携わってこられた沖縄の諸問題への取り組みについて、語っていただきました。
その後、参加者全員で議論をしました。参加者の思いも様々ですが、議論も沖縄の独立論、沖縄と同じように国から棄民政策とでも言うべき仕打ちを受ける福島県との共通点と相違点、沖縄の問題を一個人としてどう捉えるべきか等多岐にわたり、いくら時間が合っても足らないくらいでした。

第7分科会 SNS・インターネットは、これからの労使紛争・社会運動に不可欠なツールである! (報告:北大阪総合法律事務所 事務局 三澤 裕香)

インターネットが普及し、誰もがパソコン、スマホ、タブレットのいずれかを持つ時代になりました。分からないことは辞書をひくよりインターネットで調べ、情報を探すのも、拡散するのも、紙媒体より、SNSが使われることの方が多くなりました。
私自身、FacebookとLINEをしていますが、多くの人に見せることを目的にしていないので、限られた範囲でしか公開していません。
法律事務所や組合が情報発信をするとき、より多くの人に見てもらうためにどのような工夫が必要なのか。SNSをどのように活用すればいいのか。「見せる」ホームページの作り方、投稿の仕方について知りたくて参加しました。
労働運動・弁護士業務においてSNSを活用する意義について、清水亮宏弁護士・POSSEの坂倉さん・渡辺輝人弁護士から話がなされました。
その後、実際の活用事例がPOSSEの坂倉さん(しゃぶしゃぶ温野菜ブラックバイトの事例)、プレカリアートユニオンの清水さん(アリさんマークの引越社の事例)から紹介されました。
個人的に「なるほど!」と思ったことを何点か。
写真付きで投稿する。投稿は、短く、分かりやすく、インパクトを持たせる(特にTwitterは140字という制限の中で伝えたいことをまとめなければならないので、短い文章で伝えたいことを書く訓練になる。Facebookは字数は自由だが、150字以上は「続きを読む」として省略されるので、150字までに読ませるための工夫を)。
Twitterは実名でなくても登録できるが、あえて実名で肩書き・写真付きの方がフォロワーが増える(信頼も増す)。
情報発信はこまめにする。タイミングよく投稿をする。「すぐに」投稿する方がいい(団体交渉の後にすぐ報告を載せるなど)。その時々の社会問題に専門家としてコメントをすると、意外と記者などが見ている。ニュースのTV画面を写真に撮って、コメントをする(何のニュースか分かるよう、TVは敢えて字幕表示にしておく)。
共感を得るために敢えて情報を制限するなど戦略的に考える(悪徳店長の個人名・顔写真を載せるより、ひどい会社であることを強調した方がいい場合など)。
基本的に自分の家族や友達に言えない話は書かない。運動に使うアカウントでプライベートなことは書かない。炎上は気にしなくていい。
会場からも質問や発言がなされましたが、意外とSNSに対して苦手意識を持っている人が多いようです。特に年齢が高い世代には、SNSを運動に活かすことについて理解が得られにくいようです(具体的なイメージができないからかも知れません)。いろいろなことを経験し、人が束になることの力を知っているのは上の世代なので、下の世代から諦めずに提案をしつつ、これまでの取り組みと上手に組みあわせながら進めていくことが大事です。
民法協主催で、初心者向けの「SNSの使い方」講座をしてみてもいいかも知れませんね。

テロ対策という美名に 騙されるな

弁護士 向井 啓介

 2016年の通常国会が始まる際、政府は、東京オリンピックに備えてテロ等組織犯罪準備罪を今国会で成立させると言い、予算委員会の段階から法案についての質疑がなされています。3月7日に法案を閣議決定し、10日には国会に提出されることになっています。原稿作成の段階では、法案の中身はわかりませんが、これまでに伝わっている情報を元に提出される法案の説明をしていきます。

テロ等組織犯罪準備罪と言われているものは、2003年から2005年にかけて国会に提出されたものの、市民や野党の反対にあい廃案となった「共謀罪」が焼き直しされたものです。単なる共謀(話し合い)だけでは足りず、新たに「準備行為」を行うことが必要であるとか、処罰の適用対象を「団体」としていたものを「組織的犯罪集団」とする等の変更点はありますが、基本の部分は過去3度も廃案となった共謀罪と同じです。
共謀罪については論点が多岐にわたりますが、字数の制限から、「組織的犯罪集団」について説明します。「組織的犯罪集団」とは、団体のうち「その結合関係の基礎としての共同の目的が死刑、無期、長期4年以上の懲役・禁固刑の犯罪を実行することにあるもの」とされており、これは、2006年5月に自民党から提案された修正案と同じ内容です。組織的犯罪集団の典型例は、暴力団やマフィア、ピンクパンサーと呼ばれる窃盗団や振り込め詐欺集団がこれにあたります。

政府は、今回の法案は、一般市民を処罰の対象とするものではないと言っていますが、本当にそうなのでしょうか。
テロ等組織犯罪準備罪(共謀罪)は、組織犯罪処罰法の改正案として提出されることになりますが、この法律の「組織」性については、元々は犯罪とは無縁の団体が一定の時点から犯罪行為を繰り返すようになった段階では、犯罪に加担していない人がいたとしても、「組織」的犯罪集団と認定される(変貌する)とする最高裁判例があります。政府も、適法な団体が組織的犯罪集団へと変貌したと認められることはありえると言っています。

組織的犯罪集団か否かは、最終的には裁判所の判断となりますが、捜査のきっかけとなる最初の判断は警察によってなされることになります。適法な市民運動、例えば、基地建設反対のための運動をしていた団体が、抗議活動の一環として継続的に工事の着工を阻止していた場合、組織的な威力妨害行為を行っているとして組織的犯罪集団と認定されてしまうおそれがあります。また、業績悪化が長引き資金繰りに窮していた会社が粉飾決算を繰り返して投資家や銀行を欺いていた場合、有価証券報告書虚偽記載罪や詐欺罪を行っているとして組織的犯罪集団と認定されてしまうおそれもあります。これらの捜査を行うか否かは、警察の判断によるということになります。

市民運動や労働運動をしている側からすると、いつ警察により組織的犯罪集団と認定されるかわからないという怖さがあります。適法な運動をしていたとしても、万が一、法に触れるのではないかとのおそれから、運動から萎縮してしまうこともありえます。やましいことは何一つ行っていなかったとしても、政府に反対する運動を行っていると、政府側(警察)にとっては邪魔な存在として、刑事法という暴力装置がいつ「牙」を向けられるかわかりません。

テロ対策やオリンピックに向けて新たな法律が必要であると言われていますが、個別の法律によって十分対処が可能です。政府のその真意は、市民を監視、制圧するための法律を制定することにあり、成立させてはいけません。

最高裁の不当な決定に抗議し、 引き続き「不当労働行為許さない!」とたたかう決意

大阪市役所労働組合 竹村 博子

 2月1日付で、最高裁は「市労組・市労組連の組合事務所使用不許可の取り消しを求める裁判」について「上告棄却」「上告不受理」の決定を行いました。あまりにも突然の「決定」に考えを整理する余裕もなく、3週間が過ぎてしまいました。しかし時間がたつにつれ、「最高裁は何も見ていない」「司法の正義はどうしたんだ」との怒りがわいてきます。

大阪高裁の異常な判決
2014年9月に出された大阪地裁の判決は、組合側の主張を認め、橋下前市長と大阪市の不当労働行為を断罪しました。しかし大阪高裁は2015年6月に地裁判決を覆し、橋下前市長と大阪市の主張を鵜呑みにし、擁護するような判決を出しました。「橋下市長は市民感覚に合うように是正しようとしただけ」「不当労働行為であっても直ちに違法とは言えない」ととんでもない理屈をつけて、「平成24年度のみ違法、平成25・26年度は適法」「組合事務所の退去と家賃の支払い」を命じました。

不当労働行為は「憲法違反」
2011年に市長に就任した橋下徹氏は労働組合を嫌悪し、排除することを目的に市職員と労働組合に対しての攻撃を強めてきました。その目的は「物言わぬ公務員」をつくり、職場の民主主義を奪い市長言いなりの職員体制を作ることでした。職場を破壊し、自治体労働者としての働きがいと誇りを奪うものです。
この問題は「全ての労働者の権利侵害」につながる憲法に関わる問題であり、このことがまかり通れば全国の労働組合、民間の労働組合にも波及する。そして職員への権利侵害は市民サービス切り捨ての露払い、自治体破壊につながる。そんなことは許してはいけないと、私たちはたたかってきました。私たちのたたかいは、維新の政治の横暴を許さず、自治体破壊を許さないたたかいの一翼を担ってきたと確信しています。

真正面から闘えたのは仲間のおかげ
そして私たちはこの5年間、先が見えず苦しい時もありましたが、たくさんの仲間に励まされ、支えられ乗り越えてきました。組合事務所を本庁舎から退去せず、たたかう事を選択してよかったと心の底から思っています。不十分な点や反省することもたくさんありますが、裁判闘争で得た教訓は次のたたかいに生かしていきたいと思います。厳しいたたかいでもその道を選択しなくてはいけない時があります。社会の不条理に抗い、あきらめずに声を上げ続けることが次のたたかいにつながり、社会を変えていく力になると信じています。引き続き、市民と労働者の権利を守るたたかいに奮闘する決意です。

ファミリーマート過労死事件 和解成立報告

弁護士 喜田 崇之

1 はじめに

ファミリーマート過労死事件の和解報告をする。和解内容及びその評価については、事情により弁護団から明らかにすることができないが、和解に至る経過、フランチャイズ本部に対する法的責任の追及等、今後に向けて参考になる点が多々あると思われる上、和解が成立したことそれ自体大きな意義があるので、可能な限りで報告する次第である(以下、ファミリーマートのことを、単に「FM」と表記する)。
なお、弁護団は、岩城穣、瓦井剛司、稗田隆史(敬称略)と当職の4名である。

2 事案の概要等

被害者は、フランチャイズ加盟店であるFM・A店及びFM・B店の2店舗でアルバイトとして勤務していた当時62歳の男性である。両店舗の加盟店オーナー(以下、「被告加盟店」と表記する)は、亡被害者を、休日もほぼないまま超長時間労働(単独での深夜勤務含む)に従事させていた。被告FMは、A店及びB店それぞれにSV(スーパーバイザー)を派遣しており、SVは亡被害者の超長時間労働の実態及び給与不払いの実態を把握し、亡被害者から長時間労働に関する相談を受けていたが、何ら改善策を講じることがないまま放置していた。亡被害者の死亡前6か月間の時間外労働時間は、一月当たり、過労死基準を大きく超える218時間~254時間に及んでいた(一部被告らと争いあり)。

これらの超長時間労働による疲労が蓄積した状態で、亡被害者は、平成24年12月21日午後9時ころ、A店内で脚立に乗って作業している際に意識を喪失し、転落して床面に頭部を強打した。亡被害者は、すぐに救急車で運ばれたが、脳死状態のまま、平成25年1月6日、死亡した。
その後、遺族らの労災申請が認められていたが(労災申請については、本件が業務中の転倒事故であったことから比較的容易に認められた)、遺族らは、平成27年4月10日、被告加盟店と被告FMに対して、損害賠償請求訴訟を提起した。

3 被告FMに対する法的主張について

被告FMに対する法的主張は、以下の3点である。
第一に、被告FMが、亡被害者に対して負う安全配慮義務に違反したこと(民法709条)、第二に、被告FMが、被告加盟店に対して、従業員が過労死基準を超えるような長時間労働があった場合にはこれを指導監督すべき義務を負っていたところ、当該義務に違反したこと(民法709条)、第三に、被告加盟店の被害者に対する不法行為についての使用者責任(民法715条)である。

これらの法的責任を巡る主張の争点は多岐に渡り、本稿でその中身を詳細に紹介することは紙面の都合上困難であるが、原告らとしては、フランチャイズ契約の各規定の内容、経営実態や会計システム(被告加盟店が経営者としての実態を備えていないことや、被告FMが被告加盟店の従業員の接客方法・態度等を教育・研修し、従業員の労務時間や給与等を報告させていたこと等)、等を明らかにして、法的主張を組み立てていった。以下、参考になった労働委員会命令と大阪高裁判決を紹介する。

まず、コンビニフランチャイズの本部と加盟店の関係については、岡山県労委命令(平成26年3月20日)、東京都労委命令(平成27年4月16日)が参考となる。
これらの労働委員会命令は、コンビニフランチャイズ加盟店の労組法上の労働者性を認めたものであるが、判断の中で、「本部の指示、指導、助言」「業務の依頼に応じざるを得ない状況」等の本部と加盟店との実態を細かく認定し、「加盟者は、広い意味で、会社の指揮監督の下に労務を提供していると解することができ」ることや、「加盟者には、自らの独立した経営判断に基づいてその業務内容を差配して収益管理を行う機会が実態として確保されているとは認めがたいこと」等を認定している。本件訴訟でも、これらの労働委員会命令が認定した実態から見れば、被告FMは、使用者責任における「使用者」性が認められることや、安全配慮義務を負う「特別な社会的接触関係」にあること等を主張した。

また、本件とは事案が異なるが、契約関係にない第三者のFMに対する損害賠償を認めた判例として大阪高裁平成13年7月31日判決(判例時報1764号64頁)が参考となる。当該事案は、コンビニ店舗の濡れた床で滑って転倒した客が怪我をしたというもので、判決は、結論として、①FMの原告に対する安全管理義務違反(民法709条)は否定したが、②FMの加盟店及び加盟店の従業員に対する安全指導監督義務違反を肯定し(民法709条)、また③使用者責任(民法715条)も肯定した。②の根拠として、被告FMが、加盟店に「ファミリーマート」の商号を与えて継続的に経営指導、技術援助をしていたことを挙げているが、③についてはほとんど理由が述べられていない。

4 過労と死亡との間の因果関係の立証について

被告らは、亡被害者が脚立から落ちて亡くなったのは、脳血管疾患または心臓疾患での意識喪失によるものではないと主張し、長時間労働と死亡との因果関係を争った。
これに対し、原告らは、耳原高石診療所松葉和巳医師に意見書を作成して頂き、意見書(及び複数の医学参考文献)を提出して因果関係の立証に努めた。意見書では、失神の種類や失神が発生する一般論、慢性疲労から自律神経障害を発生するメカニズム等を説明した上で、亡被害者の著しい過重労働の内容・質(昼夜逆転の業務にも従事していたことや、寒冷な環境での作業等)等から、睡眠の量と質が明らかに阻害されており、過重労働と睡眠不全等から自律神経の傷害をきたし、神経調節性失神を引き起こしたものであることを明らかにし、亡被害者の既往歴・基礎疾患等から見てもかかる結論を否定する要素がないことを明らかにした。

5 和解に至る経過

訴訟提起から1年以上が経過した頃、原告側から被告FMに対し、被告加盟店から亡被害者の労働時間について本部にどのような報告がなされていたか(本部にどの様な情報が送られていたか)、当該労働時間の報告に基づき被告加盟店に何等かの指導をしたことがあるか否かを釈明した。その段階で被告FM側から和解の申し出があり、被告側代理人はその理由の一つとして、過労死基準を大きく上回っていた被災者の労働時間の報告が継続的になされていたことが判明したことを明らかにした。その後、和解条件を詰め、平成28年12月22日、和解が成立した。

6 和解についての評価

冒頭で述べた通り、諸事情により、残念ながら弁護団から和解内容を明らかにすることはできないし、和解内容を評価することもできない。
しかしながら、フランチャイズ本部が、加盟店の従業員の労務管理等に関する義務を認めた裁判例が一例も見られない中、直接雇用関係のない被告FMが加盟店の従業員の過労死事件につき和解に応じたことは、コンビニチェーン店で働く従業員(経営者自身も含む)の生命と健康の安全を確保し、コンビニフランチャイズの社会的信頼を高めていく上で大変意義があると思われる。

また、本件和解は、同年12月30日以降全国で大きく報道され、被告FMも、NHKの取材に対し「今後も加盟店が労働法規を守るように指導していく。」とコメントした。個人的には、加盟店で勤務する従業員はもちろんであるが、過酷な労働環境に晒されている加盟店主も少なくなく、コンビニフランチャイズ本部は加盟店主の働き方そのものも見直すべきであると考えている。

昨今、電通過労自死事件が一つのきっかけとなり、長時間労働を見直すべきであるという風潮が確実に流れてきている(飲食業界では24時間営業を見直すことを決めたレストラン等も増えてきている)。遺族らは、本和解をきっかけとして、今後、コンビニフランチャイズ業界で同様の過労死事件(ないし長時間労働問題)が起きないように、社会全体で24時間営業のコンビニチェーン店で働く加盟店を含めた従業員の労働環境の在り方が問題提起されることを強く望んでいる。

「アメリカ労働運動の新潮流とサンダース現象」 伊藤大一准教授講演を聴く

弁護士 小林 保夫

アメリカの労働運動は、これからトランプ主義とどうたたかっていくのか。
バーニー・サンダースの「われらの革命」は、アメリカの国民と労働運動をどこへ導くか。
2017年1月25日、エル・おおさかで、伊藤大一大阪経済大学准教授の表題の講演を聴いた。同准教授は、大統領選挙までの1年間を家族とともにアメリカに滞在して、大統領選挙やアメリカの社会の動向をつぶさに体験し、講演はその体験と調査の結果を踏まえたものであった。

民主党の候補者争いをめぐるヒラリー・クリントンとバーニー・サンダースのつばぜり合い、引き続く大統領選挙におけるクリントンとトランプのむしろ下品な罵りあいに近い舌戦、私たちのおおかたの予想を裏切るドナルド・トランプ新大統領の誕生と、このような「大番狂わせ」をもたらした社会背景、そのなかでアメリカ労働運動はどんな現状にあり、「サンダース現象」や大統領選挙にどのように関わったのか、などに対する強い関心からか、民法協の会員にとどまらない多くの聴衆を集めた。
日頃出不精の私もそのひとりであった。
もともと、私は、アメリカの政治・社会、労働運動の動向などに対する知識や理解に乏しく、その意味で伊藤准教授の講演を紹介し、感想を述べるには適さないのであるが、自己流の理解であることを承知の上で、私自身の若干の渉猟も踏まえて、聴講記をお届けすることとした次第である。

1 講演の骨子
伊藤准教授の講演の骨子は、同准教授のレジメによれば以下のとおりであった。
Ⅰ 2016年アメリカ大統領選挙をどう見るか?
Ⅱ 没落する中間層―所得再配分の失敗
Ⅲ アメリカ労働運動の現状
Ⅳ アメリカ労働運動の新潮流
Ⅴ サンダース現象の背後にあるもの
Ⅵ FF をはじめとする運動
Ⅶ 労働組合活性化の条件
Ⅷ 日本の労働運動への視座

2 大統領選挙の勝敗を分けたもの
選挙戦の結果が明らかになった現在では、多くの論者がほとんど一致して指摘するところであるが、伊藤准教授も、レーガン、オバマ、さらにはその本流の候補者であるヒラリー・クリントンと続く民主党の新自由主義・グローバル化路線に対して、「没落した白人労働者」、「没落するのではないかと怯える白人労働者層」が離反した結果、ミシガン州、ペンシルバニア州、ウイスコンシン州という伝統的に民主党の地盤で、僅差ではあるが勝利し、トランプが大統領を射止めることとなったという。
そして、新自由主義路線に対抗する道は、バーニー・サンダースに代表される社会民主主義路線とトランプが推し進めるネオ・ナショナリズム?(伊藤准教授は?をつけている)、排外主義的路線という、いずれもエスタブリッシュメント、ニューヨークに背を向ける対立する左右のふたつの道であるという。

3 アメリカの労働運動は、現在どんな状況にあるか
(1) アメリカの労働運動の衰退状況
アメリカの労働組合の組織率は、全体で11%、民間部門は6%という現状にあり、長期衰退傾向は変わらない。その原因は、現在、在籍している組合員に対するサービス提供を重視するビジネス・ユニオニズム(正社員主義組合)と労働組合を組織することを非常に困難にしているアメリカ労働法の不備にあるという。

(2) アメリカ労働運動の新潮流
アメリカの労働運動は、1980年代に始まり、1995年のAFL―CIOにおける社会運動的労働運動(「社会運動ユニオニズム」とも―筆者)と訳される“Social Movement Unionism:SMU ”への転換によって、新しい潮流の出現を見ることとなった。
SMUは、従来の組合員の賃金の引上げと苦情処理に活動を限定するビジネス・ユニオニズムに対して、労働組合の目的を、組織維持でなく、「社会正義の実現」とそのための組織の拡大におく運動である。
この運動は、組織化の対象を従来顧みられなかった女性、マイノリティ、低賃金労働者などに拡大し、そのために企業だけでなく、NGO、地域コミュニティ、宗教コミュニティとの連帯を重視する。
その代表的な取り組みは、農業労働組合(UFW)の運動、「ジャニターに正義を」をかかげるビル清掃労働者の組織化、訪問介護ヘルパーの組織化、ホテル・レストラン従業員国際組合(HERE)、“FF15”(Fight for $15)をかかげるファストフード労働者の最低賃金獲得要求などの運動である。
そして、これらの運動が採用する戦術は、マスコミなどの耳目を集めることを目的とする直接行動主義(disrupt戦術―妨害・混乱戦術)である。なお「どぶ板活動」も忘れないという。
“FF15”を掲げる最低賃金要求のたたかいは、過大な生活負担に苦しむ労働者・国民の切実な要求として多くの支持を得、全米各都市においてニューヨークにおける「オキュパイ運動(「ウオール街を占拠せよ」)」などのスローガンとして活発な運動が繰り広げられ、実際、多くの州・都市において実現を見つつあり、例えば、カリフォルニア州では、2016年に州全体の最低賃金を数年かけて15ドルに引き上げることを決定している。

(3) その背景にあるもの
このような運動の背景は、アメリカの労働者、国民の窮乏である。
例えば、高額な家賃(サン・フランシスコでは、1LDKで月額3500ドル(約35万円)、過大な医療保険代・医療費(マイケル・ムーアの医療ドキュメンタリー映画「シッコ」を観られたい)、大学における過大な学費(ニューヨーク州立大学の州外の学生の年間学費約180万円、スタンフォード大学の年間学費約480万円)は、一般の労働者、国民にとって耐えられない負担である(125円/$)。

4 「サンダース現象」
自称「民主社会主義者」バーニー・サンダースは、社会正義の実現、1%の富裕層に対する99%の国民のための政治改革を訴え、大統領選挙における公約として、富裕層への増税、大企業の課税逃れの取り締まり強化、国民皆保険制度、公立大学の授業料無償化などを挙げた。
社会正義の実現と国民・労働者の生活要求をかかげるサンダースの訴えは、広く少額の選挙資金に頼る選挙戦術とあいまって、多くの労働者、国民、とりわけ若者の支持を得、「サンダース現象」と呼ばれる熱狂的な状況を生んだ(なおこのようなサンダースの政治思想や政策については『バーニー・サンダース自伝』、萩原伸次郎「2016年米国大統領選挙と経済社会―『サンダース旋風』の歴史的意義はなにか」(前衛2016年9月号)を参照されたい―筆者)。
このようなサンダースの改革の提起は、まさにSMUの路線と合致するものであった。

5 おわりに
伊藤准教授のレジメには、さらに、労働組合活性化の条件、日本の労働運動への視座という項目を挙げており、これらも興味深いものではあるが、講演自体はほぼ以上で終わった。
サンダースは、ヒラリー・クリントンと接戦を演じ、しかしこのたびは敗れた。そのヒラリー・クリントンは、トランプと接戦を演じ、敗れた。
しかし、さしあたり「没落した白人労働者」、「没落するのではないかと怯える白人労働者層」、「アメリカ第一」のスローガンに幻想を抱く大衆に支持されたトランプにも未来があるとは思われない。トランプもまた、結局客観的にはアメリカの1%の富裕層・エスタブリッシュメントに支えられ、その1%の利益を代弁する存在に過ぎないと思われるからである。
ともに、社会正義の実現を目指すアメリカ労働運動とサンダースの政治革命の今後にこそアメリカの未来があると期待したい。

労働相談入門講座 報告―― 新人弁護士が労働相談を受ける際に持つべき視点 ――

弁護士 西川 裕也

1 はじめに
2017年1月31日、大阪弁護士会館において、若手弁護士及び司法修習生を対象とした、労働相談についての入門講座が行われました。講師は、村田浩治弁護士でした。
本講座は、村田弁護士が、普段の業務において労働相談を受ける時に心がけていることを踏まえながら、労働法の基礎を分かり易く説明していただくという内容で、民法協に入会されている労働組合の組合員の方々もたくさん参加されていました。
村田弁護士の話は、一般的な労働法の知識、実務的な知識の両方の知識を身に着けることができ、弁護士登録をして日の浅い私にとって、とても勉強になるものでした。その中でも特に印象に残ったことを述べていきます。

2 労働問題特有の難しさ
労働者側からみた労働事件の難しさとして、労働契約の非対等性があげられます。労働契約が継続している間は、労働条件の改善などを使用者に求めることは困難であり、解雇されたことを争う場合には、生計が立てられず裁判どころではないことが殆どです。このようなことから、労働者は実質的に不利な条件を強いられていると村田弁護士は考えていました。
確かに、理論的には正当な権利を主張できる事案であっても、相談に来られた労働者の方の家庭環境、生活状況によっては、直ちに裁判をする、ということが常に正しいとは限らず、交渉による早期解決を目指す場合もあるということは、アドバイスをする弁護士としても理解しておく必要があります。このような考え方は、法律を学ぶのみでは得れるものでなく、様々な問題が混在する労働分野の実務にとって、とても大切なことだと感じました。

3 労働相談において大切なこと
労働相談を受けるに際しては、労働問題が様々な事案類型があることから、「相談に来られた方が求める解決は何か」を的確に把握して、適切な方針を決定することが重要であります。
例えば、不当解雇事案において、労働者が職場復帰を求めるのか、金銭的な解決を求めるのかで、今後採るべき方針は大きく変わります。また、2006年から導入された労働審判制度によって、そもそも労働者が選択すべき法的手続きも変わってくる可能性があります。
このように、労働相談においては、初めに、相談者から、現状をどのように解決したいかを的確に聞き出せるよう相談の仕方を工夫する努力をすることが大切です。
そのうえで、弁護士として正確な法律知識に基づくアドバイスをすることが必要であり、日々研鑽を怠らず、最新の議論にも目を通していくことが必要なのだと感じました。

4 本講座を受けて
最後に、本講座は若手弁護士等を対象とした労働相談の入門講座でありましたが、労働問題は現在の社会で一番身近な問題であり、弁護士としては避けては通れない問題に対して、実務経験の浅い新人弁護士や修習生にとって、とても勉強になるものでした。
まだまだ、第 期弁護士として駆け出しの身ではありますが、今後の弁護士活動に大いに役立たせていただき、相談に来られた方の力になれるよう、努力していきたいと思います。

真に過労死を防止できる 労働時間規制を!~長時間労働の規制を求める院内集会に350人

弁護士 岩城 穣

 2月10日、衆議院第一議員会館の地下大会議室で開かれた「高プロ・裁量労働制の規制緩和に反対し、真に実効性のある長時間労働の規制を求める院内集会」(日本労働弁護団、過労死弁護団全国連絡会議、全国過労死を考える家族の会の3団体主催)に参加してきた。

 この日は各地で大雪が降る寒い日で、新幹線も少し遅れたが、何とか開始までにすべり込むことができた。会場に着くと、入りきれないほどの参加者で、後に350人と発表された。
主な進行次第は、次のようなものであった。
・開会挨拶 日本労働弁護団 (弁護士)棗一郎幹事長
・報告 過労死弁護団全国連絡会議 (弁護士)川人博幹事長
・電通事件ご遺族(高橋幸美さん)からのビデオメッセージ
・長時間労働による被害者など当事者の声 2人(過労自殺で 歳の長男を亡くした高知県在住の男性、三菱電機の研究所で過重労働により精神疾患を発症し労災認定を受けた 歳男性)
・報告 全国過労死を考える家族の会 寺西笑子代表
・報告 森岡孝二関西大学名誉教授
・報告 労働団体3団体(連合、全労協、全労連)
・集会アピール採択

 この合間合間に、13人の国会議員(民進党から蓮舫議員ら8人、共産党から田村智子議員ら3人、社民党から福島瑞穂議員、自民党の長尾敬議員)が次々と会場に来られ、挨拶をされた。

 過労死弁護団全国連絡会議の幹事長で電通の高橋まつりさん事件の代理人でもあった川人博弁護士は、電通で過労自殺した高橋まつりさんの労働実態を報告し、「上限100時間、80時間はあってはならない。これが、電通事件で明らかになった教訓だ」と批判するとともに、勤務と勤務の間に一定の「休息時間」を義務付ける「インターバル規制」の導入を訴えた。
また、政府が導入しようとしている、一部専門職を労働時間規制の対象から外す「高度プロフェッショナル制度」(高プロ制)の導入や、「裁量労働制」の拡大について、「裁量労働制が導入された職場でも過労死は発生している。ほとんどの場合、10時間以上働いても、8時間労働とみなされる。裁量労働制度の導入は長時間労働を促進する。」、「高プロは労働法そのものの破壊だ。長時間労働で高度のプロの仕事が果たせるのか。過労死寸前の長時間労働を繰り返すことで、日本の技術革新や企画開発が本当に促進されるのか。」と批判した。

 続いて、電通過労自死・高橋まつりさんのお母様からのビデオメッセージが流された。その一部を抜粋する。
「娘は、たくさんの夢を抱いて社会に出てから間もなく、望みを叶えることなく、亡くなってしまいました。母である私は、会社から娘を守ることができませんでした。悔しくてなりません。娘は、一日2時間しか、一週間に10時間しか眠れないような長時間労働の連続でした。この結果、疲れ切ってしまい、うつ病になり、いのちを絶ちました。
娘のように命を落としたり、不幸になる人をなくすためには、長時間労働を規制するための法律が、絶対必要だと思います。
36協定の上限は、100時間とか80 時間とかではなく、過労死することがないように、もっと少ない残業時間にしてください。
また、日本でも、一日も早く、インターバル規制の制度をつくり、労働者が、睡眠時間を確保できるようにして下さい。
残業隠しや36協定違反などの法令違反には厳しい罰則を定めるのが大事だと思います。
逆に、労働時間の規制をなくす法律は、大変危険だと思います。
高度プロフェッショナル制や裁量労働制など、時間規制の例外を拡大しないでください。
24時間365日、休息を取らずに病気にならないでいられる特別な人間など、どこにもいないからです。人間は、コンピューターでもロボットでもマシーンでもありません。」

 和光大学教授の竹信三恵子さんは、「WEBRONZA」の記事(2017年2月7日付け)の中で、次のような分かりやすい例えを述べている。
「今回の政府案をスピード違反に例えるなら、制限速度45キロを守らないと重大事故が起きかねない道路でのスピード違反を規制するとして、『80キロ、100キロを超えたら罰金』と立札だけは立て、監視装置も沿道の警察官も増やさないようなものだ。これでスピード違反を取り締まれるのだろうか。
規制だけでなく、全企業に罰則付きの客観的な労働時間の把握・記録義務を課し、監督官だけでなく労働行政の担当官全体も増やさなければ、実効性は担保できない。」
「労基法で規定された週40時間労働の基準が、『働き方改革』の名の下、知らぬ間に月80時間・100時間残業の基準へとすり替えられていくおそれはないのか。
『総活躍』とは、だれもがそうした残業を前提とする働き方で目いっぱい働かされることにならないか。
『働き方改革』が「過労死促進改革」にならないよう、今後の関係会議の動きを監視していく必要がある。」