民主法律時報

2017年1月号

「軽い言葉」と「重い現実」 <新年のごあいさつ>

会長 萬井 隆令

このところ、「重い現実」であるにもかかわらず、「軽い言葉」で語られることが多いように感じる。一部の若者や芸能界のことなら放っておけばよいのだが、政治や社会の問題となると、必ず「裏」があるから、そういうわけにもいかない。

『駆け付け警護』のために、遂に、日本の軍隊(自衛隊)が南スーダンへ出発した。「警護」というが、武力行使になるに違いない。素人でも現場を想像してみれば、ある集団がA部隊から武力攻撃を受け、自力では防御ないし排除できない状況で、自衛隊は「駆け付け」てA部隊を排除することを要請される。話し合いで撤退するわけがないから、武力による排除が必至となる。攻撃されているのが国連のPKO、攻撃しているのが南スーダン政府軍だとすれば、それは日本と南スーダンの正規軍同士の戦闘、すなわち「戦争」そのものではないか。これほど「重い現実」はない。そうなる可能性がかなり大なのに、「駆け付け警護」といった軽い言葉を使っていて良いのか。「戦闘」を「衝突」、「墜落」を「不時着」なども同類である。

『カジノ』。安倍首相は、遊園地やホテルを含む民間によるIR(Integrated Resort)を認める法律だ、といって、何故、それにカジノを含むのかには答えない。カジノというと、ラスベガスやマカオをイメージすることが多いが、彼らは「小さく生んで大きく育てる」ことが得意だから、解禁されると、やがてはアメリカのように、各地に立つことになりかねない。アメリカを車で旅行中に、食事のために高速道を降りると、レストランや給油所の横にカジノがあり、長距離トラックの運転手が入っていくのを何度か見かけた。仕事中にそれだから依存症なのだろうが、賭博とはそういうものだと認識すべきで、IRといった綺麗事で誤魔化されてはなるまい。そもそも、博奕で稼いだ金で経済を…なんて、マフィアがやることではないか。

自民党や経団連には、労働者の権利は「既得権益」、労働法は「岩盤規制」に映るようだが、安倍首相は2年間で「岩盤規制」を「ドリル」で破る、と公言した。国際会議の場で一国の首相の発言としてなんとも品性に欠けるが、労働者の権利を尊重するようなことは考えない、という宣言で、内容は実に重い。既に国家戦略特区に相談センターを開設し、『雇用指針』を策定し、2015年9月には労働者派遣法を改悪し…と、実行されつつある。解雇の金銭的解決制度を解雇された人の「救済」と言い、ホワイトカラー・エグゼンプションを時間によっては成果を評価できない労働者にとっての「自由な働き方」と言い。労働法制の改悪のプログラムは続いている。安倍首相は、重いことという自覚がないから、そのように「軽々しく」言い、また自分の言葉に酔っている風もある。

今年も、「軽い言葉」が意味する「重い現実」の実体を掴み、それと正面から向き合い、おおらかに闘うことが求められている。

安倍政権の「働き方改革」に どう立ち向かうか――12月3日「これからの労働運動を 語り合う集い」の報告

弁護士 鎌田 幸夫

1 集いの趣旨

12 月3日、熊沢誠先生、西谷敏先生をお招きして、「安倍政権の労働政策にどう立ち向かうか―これからの労働運動を語り合う集い」が開催されました。熊沢先生が『私の労働研究』、西谷先生が『労働法の基礎構造』という研究生活の集大成である著書を相次いで出版されたことを契機に、労働者、労働組合、弁護士らが集い、これからの労働運動、とりわけ、今、大きな問題となっている安倍内閣の「働き方改革」にどう対応するかをテーマとして大いに語り合おうというものでした。参加者150人で大盛況でした。詳しい報告書が別途出されますので、ここでは当日の内容を簡単に報告した後、現在進行中の安倍内閣の働き方改革にどう対応するかを述べます。

2 集いの内容

熊沢先生は、安倍内閣と財界は経済成長のためという点では共通し、多様な働き方(副業・兼業の拡大、テレワーク促進、解雇の金銭解決等)は早急に進めることでは一致するが、長時間労働規制や同一労働同一賃金については、安倍内閣は労働時間の上限設定や同一労働同一賃金のガイドラインを検討しているものの、財界は消極的であると分析し、労働組合は、ノルマ、残業、休暇取得抑制等の許されぬ事例を告発することや正規・非正規の仕事を横断する職務評価制を適用することを提起されました。

西谷先生は、「働き方改革」の背景を、①少子高齢化による労働力不足、過労死過労自殺を生み出す働き方の限界(労働力政策)②購買力の引き上げ(経済政策)、③改憲への地ならし(政治的背景)と分析し、安倍内閣の「働き方改革」と主要産業100社の社長へのアンケート(日経2016年9月 日)にみる個別資本の要求(裁量労働の拡大、テレワーク・在宅勤務の促進等)との間には乖離があり、改革は容易には進まない、長時間労働の規制は、三六協定の上限規制が焦点であり、同一労働同一賃金は、ガイドラインを作成してから法改正というやり方は順序が逆であり、ガイドラインが低いものであればそれを法制化するだけとなるおそれがあるとしつつ、労働運動は、改革に「ケチをつける」だけではなく、これを好機とする積極的な立法闘争を行う必要があると強調されました。

パネルディスカッションでは、POSSEの今野晴貴さんは「同一労働同一賃金」とは、性別や年齢・雇用形態の違いにかかわらず、同じ仕事には同じ賃金を支払うという原則であるが、日本では賃金は職務ではなく、役割・責任・雇用管理区分で決定されており、この賃金制度改革を欠いたままでは「均衡処遇」にしかならないのに、安倍内閣は、ここでも「同一労働同一賃金」という用語を使用(誤用)していること、この「日本型」の「同一労働同一賃金」の作用としては、従来型の日本型企業では、形式的な職務分離が進み、限定社員などの中間形態の設置が予想され、非正規依存業界では、処遇格差の縮小は一定範囲に止まるが、ブラック企業の場合は、同一労働同一賃金を求めるのに適した最も労働市場であるとしたうえで、労働者層の要求に応えた長時間労働規制、同一労働同一賃金の実現を求めていかなければならないとされました。

また、きょうとユニオンの玉井均さんからは、307日間に及んだiWAi分会の職場占拠とストライキによる争議の画期的な勝利解決とその要因、仁和寺の調理師の長時間労働・残業代請求事件など労働組合の闘いの報告が、豊川義明弁護士からは、立法要求実現のためのネットワークの立ち上げの必要性が、在間秀和弁護士からは、今回の改革の検討会からは、労働者側はカヤの外に置かれており「なめられている」こと、電通事件などをあげながら、改めて労働組合の存在意義、役割についての提起がありました。会場からは、国労、郵政ユニオン、教育合同、武庫川ユニオンなどの各組合での取り組みの報告と、参加者からの質疑応答がありました(紙面の関係で省略します)。

3 安倍内閣の雇用改革をどう見て、どう対応するか

安部内閣の雇用改革をどう見るのか。集会の内容とその後(12月20日付け)の政府のガイドライン案も踏まえて簡単にまとめてみます。

①今回の改革は、安倍内閣(自民党政権)の労働政策やアベノミクスの行き詰まりの現れであり、その打開策として成長戦略の一環として位置づけられているということです。同時に、それは、4割に上る非正規労働者の増加と格差の拡大、電通事件をはじめ年間200件前後に及ぶ過労死・過労自殺の認定など、「労働力の再生産」を困難とするような深刻な状況であり、政府としても「放置」できないことを示しています。

②安倍内閣の進める改革と個別資本の要求とは乖離があることです。日本の社長のアンケートにあるように、個別資本が求めるのは「多様な働き方」であり、労働時間規制や同一労働同一賃金の導入ではないのです。また、総資本である経団連も「日本型の同一労働同一賃金」として「自社にとって同一労働と評価される場合に同じ賃金を払うこと」とし、日本型制度を温存しようとしています。このように財界の抵抗があるので、安倍内閣の雇用改革は、もともと不十分で実効性のないものに終わるおそれがあったのです(にもかかわらず、安倍内閣は、用語を誤用して「同一労働同一賃金」の実現、労働時間規制に取り組んでいるとアピールしているのです。)。

③このことは、今回策定されたガイドライン案にも反映されています。最も重要な基本給格差については、職業経験や能力、業績・成果、勤続年数を基準とし、これに違いがあれば格差は不合理でないとし、また、経団連の反対があって、賃金格差の合理性についての企業の説明責任は盛り込まれませんでした。賞与は、貢献度に応じた支給を求めており、福祉厚生(通勤費、食堂利用)や、出張手当、食事手当、精勤手当は均等待遇が求められますが、長期雇用を前提とする退職金、家族手当、住宅手当は盛り込まれず、派遣労働者については具体的な記述がありません。

④長時間労働の規制についても、自民党の働き方改革特命委員会の中間報告で時間外労働の上限規制やインターバル規制が盛り込まれましたが、経団連は、インターバル規制は、生産性を阻害するとして反対しており、その行方はわかりません。

では、これから安倍雇用改革にどう対応するかです。
安倍内閣は、 来年秋の臨時国会に指針を踏まえた関連法案の提出を目指すとしています。

このまま何もしなければ、財界の意向どおり「多様な働き方」と裁量労働制の拡大や解雇の金銭解決が導入され、格差是正はガイドライン案のような不十分で実効性のないものに終わり、長時間労働規制も骨抜きになるおそれがあります。

労働運動側は、格差や長時間労働が政権も取り組まざる得ない政治・社会問題となっている今を、「好機」ととらえ、労働者の深刻な実態を調査・告発し、安倍内閣の改革は不十分であると訴えて、一歩でも二歩でも実効性のある制度になるように立法要求運動を展開しなけばなりません。民法協でも今年の最重要課題として取り組みたいと思いますので、会員の皆様のご協力をお願いします。

泉佐野市事件――中労委と大阪高裁でも不当労働行為を認定! 高裁では救済範囲について大きな課題

弁護士 谷  真介

1 泉佐野市事件の概要――3つのコースで係争が続く

泉佐野市では、平成23年に職員の給与カットを公約に初当選した千代松市長誕生以降(平成27年に2選)、維新もどきの市政運営で、職員に対する数々の労働条件切り下げと労働組合軽視・無視の不当労働行為が繰り返されてきた。泉佐野市職労は、平成25年以降、6件もの救済申立に踏み切ったところ、府労委ではその全てで不当労働行為が認定された。しかし、泉佐野市はこれらを受け容れず、再審査申立や取消訴訟を提起。①職員基本条例や退職手当削減条例上程、夏期一時金交渉等の団交拒否や組合事務所の一方的な使用料徴収及び団交拒否(中労委)、②チェックオフの手数料徴収通告及び廃止(大阪高裁)、③給与削減条例に関する不誠実団交(大阪地裁)という3つのコースに分かれて係争が続いていた。

昨年12月、①について中労委命令が交付され、②について高裁判決が言い渡された。一連の泉佐野市事件で中労委や高裁レベルでも不当労働行為が認定されることになったが、②の高裁判決では救済の範囲に大きな課題を残すこととなった。

2 組合事務所使用料その他事件――中労委命令の概要と意義

平成27年1月、府労委は、職員基本条例や退職手当削減条例上程、夏期一時金交渉等の団交拒否や組合事務所の一方的な使用料徴収及び団交拒否については全面的に不当労働行為と認定する命令を交付した。特に組合事務所使用料について減免不承認をも不当労働行為とし、これに関する団交については団交応諾を命じた点では非常に意義のあるものであった。泉佐野市は不服として中労委に再審査申立をしたところ、中労委は泉佐野市に強く和解を打診したが、結局泉佐野市はこれに応じず、命令交付に至った。

昨年12月12日に交付された中労委命令(命令日付は11月16日付け)では、泉佐野市の再審査申立をすべて棄却し、すべての行為について不当労働行為であるとして断罪した。特に、組合事務所に関する団交応諾に関しては、大阪市において連合・自治労系組合の事件で中労委は団交応諾を命じた府労委命令の救済の内容を変更していたため、本件でも同様に後退が危惧されていたが、本件中労委命令では団交応諾を明確に維持した。組合事務所の使用料そのものについては管理運営事項であるとしたものの、それ以外の申入れ事項(減免不承認理由や不承認による組合の不利益回避、代替手段・措置の可能性等)については団体的労使関係の運営に関する義務的団交事項にあたると明確に判断したのである。地方自治体における組合事務所使用料に関する一方的変更問題について、支配介入や団交拒否の不当労働行為を認めたのは本事例が初めてであると思われる。大阪府下、全国でも同様の事例があることから、この点は非常に意義のある命令である。

しかしながら、泉佐野市はこれを不服として取消訴訟を提起する議案を市議会に上程、12月21日に市議会でこれが可決されてしまった。

3 チェックオフ事件――高裁判決の概要と大きな課題

チェックオフ事件は、平成26年2月に突然、泉佐野市が数十年間無償で行ってきた組合費のチェックオフ(チェックオフ自体の根拠は条例)に3%の事務手数料を徴収する、これに応じなければチェックオフを中止すると通告し、泉佐野市職労が申し入れた団体交渉は管理運営事項として拒否したまま、結局チェックオフを中止したという事案である。チェックオフを中止され、市職労は金融機関の口座引き落としに変更及び手集めで集金せざるを得ず、毎月の組合費徴収に多大な労力と費用がかかっている。

府労委は、平成27年7月、支配介入・団交拒否の不当労働行為に該当するとして、①手数料を徴収することなくチェック・オフを再開すること、②チェック・オフが廃止されたために組合が自動送金により組合費を徴収したことにより生じた送金手数料相当額の実損を回復すること、③同様の不当労働行為を繰り返さない旨の誓約文の手交を命じる救済命令を交付した。

これに対し泉佐野市が取消訴訟を提起した。昨年5月18日の大阪地裁判決では厳しく不当労働行為を断罪する一方で、申立人適格に関して、労組法適用職員と地公法適用職員の混合組合の申立人適格自体は認めながら、チェックオフは組合員ごとに可分であるとして、地公法適用職員の組合費のチェックオフ部分に関する部分について労働委員会が救済命令を行う権限がないとして、同部分についてのすべての命令を取り消した。

しかし、チェックオフ廃止は労働組合と使用者との合意によってなした便宜供与を一方的に取り消すことで、一つの団結体たる労働組合そのものの影響力を弱める一つの支配介入行為である。労働委員会がなすその使用者の影響力行使の排除についても地公法・労組法適用の別なく、一体的に排除する権限があると考えるべきである。この点についての判断を改めさせるべく、泉佐野市職労は大阪高裁に控訴した(府労委、泉佐野市も控訴)。控訴審では、西谷敏大阪市大名誉教授に支配介入とチェックオフに焦点を当てた鑑定意見書を作成いただき、高裁に迫った。

しかしながら、昨年12月22日の高裁判決は、支配介入、団交拒否の不当労働行為は認めたものの、地公法適用職員部分に関する組合(及び府労委)の主張をほとんど理由なく排斥した。しかも、地裁判決でも維持されていたチェックオフ廃止による実損回復命令を民事事件の損害賠償に相応するもので労働委員会の裁量を逸脱するとして、不当にも取り消した。このように地裁判決よりもさらに後退した判決であった。

組合は、この救済の峻別化の問題は泉佐野市だけの問題にとどまらず全国的に波及する問題であることを強く受け止め、議論の末に最高裁への上告受理申立を決定した。なお、泉佐野市も不当労働行為認定部分を不服として上告受理申立を行った。大きな課題を残し、舞台は最高裁に移ることとなった。

4 今後の闘い

一連の泉佐野市の事件は、最高裁、東京地裁、大阪地裁の3つで係争が続くことになった。本当に長い闘いになっているが、まず押さえなければならないのは、これまでの命令、判決の全てで、泉佐野市の不当労働行為が厳しく断罪されていることである。泉佐野市職労は、現場でのたたかいを軸に、裁判闘争でさらに勝利を積み重ね、一日も早く労使関係の正常化を図るべく奮闘を続ける決意を固めている。引き続きご支援をお願いしたい。

(当初の常任弁護団は大江洋一、増田尚、半田みどり、谷真介であったが、チェックオフ事件控訴審より豊川義明、城塚健之両弁護士に加わっていただいた)

東大阪市学童保育指導員・縄手南団交拒否事件で勝利和解

弁護士 原野 早知子

 被申立人(株)共立メンテナンス(以下「共立」)は、平成 年から、東大阪市の学童保育事業の委託を受け、 のクラブの運営を行うようになった事業者である。(東大阪市の学童保育事業は、市の直営だったものが、平成元年から「地域運営委員会」方式となり、平成27年から一部が民間事業者に委託されるようになった。)

本件は、共立運営の縄手南クラブで働く指導員が加入する組合が、団体交渉を申し入れたところ、拒否されたため救済申立を行った事案であり、平成28年11月1日に府労委で団交ルールを確立する勝利和解が成立した。

 組合(東大阪労連・東大阪市職労・東大阪市ちびっ子クラブ指導員労働組合(以下「ちびっ子労組」)の三者)は、平成27年7月15日、雇用契約書の記載内容や、個別組合員の労働条件の改善を求め、団交を申し入れた。

ところが、共立側は、組合側の出席者を「3名以内」とする等の不当な条件を提示した(縄手南の組合員は3名で、組合は上部団体含め10名程度の出席を予告していた)。団体交渉当日、共立の担当者(事業部長)は、いきなり立ち上がり、名前も名乗らず、「3人と言っているだろ!」と威圧的な発言をし、同行者(関西支店長)に「交渉しない。帰ろう!」と促し、団交を開かなかった。

平成27年9月に予備交渉を行い、組合側は人数につき「最低5名」まで譲歩したが、共立が「3名以内」に拘り、合意に至らなかった。
組合は、平成27年12月15日に、改めて団交を申し入れたが、共立は返答を遅らせた挙げ句、平成28年1月末になって「都合が合わない」と回答し、団交を拒否していた。一方で、共立は、個別に指導員と面談した際に、雇い止めを示唆する態度まで取り始めた。
このため、平成28年2月10日に、府労委に救済申立を行った。

 本件は、組合側出席者数を「3名以内」とすることが団交拒否の理由になるかが最大の争点だった。「5名以内」の制限を不当労働行為とした救済命令の例があるほどで、本来理由にもならない理由で団交が開かれていない。

組合は、救済申立後も、抗議や交渉申入れなど粘り強い活動を継続したところ、平成28年7月15日、組合側5名出席での団交を実現することができた。これを踏まえ、府労委で和解協議に入った。

共立は、その後も人数制限「3名」の回答を繰り返し、和解交渉でも頑なな態度をとり続けた。しかし、平成28年9月16日、再度組合側6名出席で団体交渉が実現し、府労委も粘り強く和解を働きかけ、最終的に平成28年11月1日、府労委での和解協定書締結に至った。

 和解協定書で、共立側は団交に誠実に応じることを約束した。
最大の争点だった出席人数については、「双方それぞれ5名以内を基本、交渉事項に応じて、労使それぞれが総数10名以内で増減できる。その際は事前に連絡する」との内容で、共立の「3名限り」の主張を破り、組合が5名から10名の範囲で自主的に人数を決定できることで合意した。また、団交申し入れに対し、共立が二週間以内に団交を開催すること、開催日時について原則一週間以内に開催日時の回答を行うことなどを盛り込み、不当な回答の引き延ばしを許さない内容となっている。

共立が事業者となって以降、出席人数等をめぐって団交自体が拒否され、団交開催に至った際にも、開始前に30分以上紛糾することが続いていた。そのような中で、団交ルールを確立したことは、大きな意味を持つ。

 一方、団交拒否は入口の問題であり、組合は、やっと労使交渉のスタートラインに立ったところでもある。
共立は、団体交渉申し入れに対する対応も、府労委での姿勢も、最後まで真摯なものとは言い難かった(府労委には代理人弁護士(東京)のみが出席し、会社担当者の出席も、最終段階で公益委員が働きかけ、ようやく実現した)。

共立は、自治体の委託事業に全国的に進出すると謳っている。それにしては対応がなべてお粗末というほかなく、労働法に則った運営がされているか疑問である。今後も、緊張した労使関係が継続すると予想され、今回の和解を梃子に、労働条件の改善・向上を図っていく要請は極めて高い。組合の活動が問われるのは、まさにこれからである。
本件は、大阪自治労連・大阪労連をはじめ、大きな支援をいただいた。ご支援に心から感謝する。

(弁護団は、城塚健之・谷真介・原野早知子)

派遣先の使用者性~全港湾阪神支部・団交拒否に対する不当労働行為救済申立~

弁護士 西川 大史

1 はじめに

全港湾阪神支部は、一般社団法人日本貨物検数協会(日検)による団体交渉拒否の不当労働行為について、2016年11月16日に、大阪府労働委員会に不当労働行為救済申立を行いました。
本件の主たる争点は、労働組合法第7条の「使用者」性です。

2 日検の検数業務

日検は、国際物流の検数、検量、検査などを営む一般社団法人です。日検の事業の一つである検数業務とは、港での荷物の積卸の員数を検数して、荷主側と船会社の相互間に介在し、貨物の正確な個数・重量等を受け渡すというものです。検数業務には専門的技術を要するため、日検など4つの協会の職員や、4協会を定年退職し協会OBとして指定事業体へ移籍した労働者でなければ行うことができません。指定事業体とは平成11年派遣法改正・平成12年港湾の規制緩和により、港湾に派遣労働者が入って来る可能性があったため、港湾労組と旧労働省の懇談により、協会を定年退職したOBの受け皿として発足したもので、仕事内容は4協会と同じで、作業服も4協会の社名が入った同じ物を着ており、見た目では指定事業体と区別は付きません。

日検の指定事業体の一つに名古屋市に本社を置く日興サービス株式会社があります。日興サービスの従業員の検数業務は、日検の名古屋支部の職員が直接指示をしています。日興サービスの従業員は、日検の名古屋支部の職員からの直接の指揮命令の下、日検名古屋支部受託の検数業務を日検名古屋支部から各現場に派遣されて検数業務をおこなっています。
日興サービスの従業員の就労実態はまさに派遣労働であり、日興サービスの従業員にとって日検は実質的に派遣先なのです。

3 日検による団体交渉の拒否

日興サービス及び日検では、日興サービスで働く全港湾阪神支部及び名古屋支部に所属する組合員に対して、就労差別などの不当労働行為が繰り返されてきたため、全港湾阪神支部及び名古屋支部は、2016年3月に、愛知県労働委員会に対して不当労働行為救済申立を行いました。すると、日検は、その直後に、全港湾阪神支部に対して和解を申し入れ、日検は全港湾阪神支部に対して不当労働行為を是正することを約束したのでした。また、日検は、全港湾阪神支部に対して、「指定事業体からの職員採用に関しては、平成28年度から平成30年度まで、毎年度約120名の採用を実施するよう努力する」ことについても文書で確認しました。

そこで、全港湾阪神支部は、指定事業体からの職員採用に関する確認に基づいて、日検に対して、日興サービスで働く全港湾の組合員を採用するよう申し入れました。しかし、日検では、指定事業体からの職員採用について、新たな条件を付するため、全港湾阪神支部は、日検に対して、指定事業体の職員の採用について、団体交渉を申し入れたのです。

ところが、日検は、「日興サービスの従業員と労使関係にない」など回答して、団体交渉の申し入れを拒んだのです。全港湾阪神支部では、指定事業体から職員採用をするには、日検との団体交渉が不可欠であるとして、再度、団体交渉を申し入れましたが、日検は、団体交渉を受ける立場にないとの回答に終始し、団体交渉の申入れを拒んだため、不当労働行為救済申立に及びました。

4 日検は「使用者」

全港湾阪神支部が日検に対して団体交渉を求めている事項は、日検と全港湾阪神支部が確認した、指定事業体で勤務する労働者を日検で採用することの実現であり、日検でなければ決定することができません。また、日検は、全港湾阪神支部及び名古屋支部からの不当労働行為救済申立に対して自ら和解の申入れを行い、不当労働行為を是正することも約束し、今般の団体交渉で求めている指定事業体からの職員採用に努力すると自ら確認しているのです。

日検は、指定事業体の労働者の転籍や採用に関する基本的な労働条件等に対して、現実的かつ具体的な支配力を有しているとともに、指定事業体の労働者との間に、近い将来において雇用関係の成立する可能性が現実的かつ具体的にあるのです。日検が「使用者」であることは明らかです。

5 さいごに

派遣先の使用者性については、近時、消極に解する裁判例や労働委員会命令が散見されます。しかし、本件では、日検が「使用者」であることが明らかなケースであり、使用者性が必ず認められなければなりません。
理論面・運動面ともにご支援をお願いします。

(弁護団は、坂田宗彦、増田尚、冨田真平各弁護士と西川大史)

緊急シンポジウム「なぜ電通過労自殺事件は繰り返されたのか」報告

弁護士 馬越 俊佑

 2016年11月15日、緊急シンポジウム「なぜ電通過労自殺事件は繰り返されたのか」がございましたので、ご報告いたします。参加者は 名でした。

過労死問題の背景――隠れブラック企業の実態――

はじめに、松丸正弁護士より、過労死問題の背景について以下のとおり報告がありました。
電通といえば大企業であり、過労死問題は特定のブラック企業の問題ではなく、このような大企業でも起こる問題だと考えるべきだ。
平成3年8月27日に引き続き、平成27 年12月25日、当時24歳であった高橋まつりさんが過労自殺し、過労死等防止対策白書元年の事件となってしまった。
過労自殺が繰り返された原因は、一言でいうなら、「隠れブラック企業」の存在である。
両者に共通するのは、申告されていた労働時間と実際の労働時間が大きく食い違うことである。
他の事件からもいえることだが、労働時間が適正に把握されていない。三六協定があっても、労働時間が適性に把握されていないのに、どうやって規制するのか。企業風土の問題という人がいるが、そうではない。労働時間の把握、これがなければ、コンプライアンスも無意味であり、労働者の健康、生命は守れない。これが一番の問題である。

過労死遺族からの発言

次に、住宅建材メーカー管理職過労死事件について、和田香弁護士より報告があり、その後、ご遺族から発言を頂きました。
この事件は、建材メーカーに勤めていた管理職の男性(40歳)が、心室細動により死亡した事件で労災認定がされています。会社は、管理職であったことから労働時間を把握・管理していませんでした。死亡前6ヶ月の各月の時間外労働時間は100時間を超えており、過労死ラインである 時間を優に超えていました。安全配慮義務の内容として、労働時間の把握・管理は必須であり、管理監督者(そもそも本件は管理職に該当しないが)であっても同様です。
ご遺族からの発言は、切実な体験談であり、中でもお子さんに対する以下の内容の発言が特に印象に残っています。
今回の電通過労自殺事件を見て、自分の子供だと思うと直ぐに感情的になってしまいます。なかなか難しいと思うけど、仕事は生きていくために必要で、自分の社会的意味を持つために必要だと思うけど、自分をもっともっと大切にして欲しい。自分が自分を大切にすることは間違っていることじゃない。何が何でも仕事に行かないといけないと思わないで欲しい。自分で自分自身を守れる。それが大事だと子供たちに伝えていきたい。

森岡孝二教授から報告

次に、森岡孝二教授から、「過労死から見た日本の労働時間と『働き方改革』」について、報告を頂きました。森岡教授からは、今回の安倍内閣の改革は、「企業に任せる」というもの、政府が法による規制をしなければならない。労働組合も声を上げ、政府に迫らないといけない。との報告があり、労働時間規制と残業代支払い義務の強化、その前提としての労働時間の把握の義務付けが重要であるとのことでした。
その後、質問の時間があり、様々な質問がありましたが、割愛させて頂きます。

閉会の挨拶

最後に岩城穣弁護士より以下の通り、閉会の挨拶がありました。
過労死防止法ができて、意識が変わってきている。グランフロントで行ったシンポジウムでは480人の参加があり、意識が高まってきている。国民の世論が重要である。みんなが他人事だと思っている間は、過労死はなくならない。私たち自身が立ち上がらないといけない。組合も声を上げなければならない。共有していかなければならない。
との呼びかけがありました。

感想

過労死ご遺族の話を聞けた大変貴重な機会であり、松丸弁護士、森岡教授からのご報告も大変勉強になりました。過労死がなくなるよう私たちも団結しなければなりません。

2016年北河内権利討論集会

弁護士 吉村 友香

 昨年12月11日に開催された北河内権利討論集会に参加しました。
北河内地区は、京橋共同法律事務所の地域ということもあり、毎年事務所から何名かの弁護士が参加しておりますが、私にとっては初めての参加でした。

まず、全体会で、民法協事務局長の井上耕史弁護士より「労働法制の改悪で働き方はどう変わる?」というタイトルで講演がありました。講演の内容は、「残業代ゼロ」法案、労働者派遣法の改悪、解雇自由化等、安倍政権の雇用破壊政策の問題点や危険性を正面から問うものでした。講演を聞いて安倍政権の「働き方改革」は、まさに財界目線の改革で、労働者の人権や生活を考えたものではないということを改めて認識することができました。講演の締めくくりには、「まともな働き方」の実現を要求する運動として、労働者はどのような取り組みをしていくべきかという話もあり、大変盛りだくさんの内容でした。

また、全体会では、緊急報告として、年金者組合の方から「年金引下げ違憲訴訟」の報告がありました。2013年10月に全ての年金給付で1%削減が強行されたことに対し、全国で4598名が原告として立ち上がっているとのことでした。報告の中で、30年後、国民保険はその3割が、厚生年金は約2割が削減されるとの試算がされているとの話があり、年金削減の問題は、現在の年金受給者の問題に止まらず、まさに現在年金を支払っている者の問題でもあると、改めて考えさせられました。

権利討論集会午後の部は、3つの分科会『①職場・地域から見える権利侵害は~教育現場から ②同一労働同一賃金を求めて~パルコープ労組から ③職場の健康・安全は守られているか~化学職場から』に分かれ、職場レポートに基づいて討論が行われました。私が参加した第3分科会では、ある化学職場の現場で進められている労働組合による労働安全の取り組みについて報告がありました。たとえば、労働組合の取り組みで、朝礼や終礼でのヒヤリハット報告で情報を共有する、職場パトロールが実現した等の取り組みが紹介されました。労働者の健康と安全が守られてこそ、労働者の生活と権利が守られる、そのためにも地道な取り組みが重要になってくるということを強く感じた分科会でした。

《書籍紹介》是非、ご活用下さい!『過労死・過労自殺の救済Q&A ―労災認定と企業賠償への取組み―(第2版)』

弁護士 上出 恭子

大阪過労死問題連絡会の弁護士で執筆をしました「過労死・過労自殺の救済Q&A―労災認定と企業賠償への取組み―(第2版)」が平成28年11月に民事法研究会から発行されました。

昨年は、過労死防止対策推進法に基づき過労死白書が初めて作成され、まさに過労死防止に向けての本格的な取組がさらに進む中で、電通新人社員過労自殺事件・労災認定の報道があり、改めて過労死問題への社会的関心が集まった年でした。

本書は、新人弁護士や一般の方にも分かりやすいよう、労災の認定基準を初めとする過労死問題の基礎知識の解説だけでなく、具体的な事例を取り上げての解説や最新の判例等にも言及し、過労死問題の実務を行う上で必要となる論点をほぼ網羅的に押さえています。幅広い立場の方にご活用いただけるものと思っております。

定価2200円(+税金)ですが、民法協にて割引の価格で販売を頂いておりますので、是非、お買い求め頂き、過労死問題の救済に向けてご活用下さい。