民主法律時報

2016年10月号

エンプラ事件 会社の安全配慮義務違反を認める

弁護士 西川 大史

1 事案の概要

原告の男性は、北河内合同労組・大東支部の組合員です。ナイロン樹脂製品の製造などをおこなうエンプラ株式会社(京都府久世郡久御山町)で、エクストルーザーという機械を用いて、廃品ナイロンからペレットを製造する業務を担当していました。

エクストルーザーは、廃品ナイロンを細かく砕くためにスクリューがあるなど危険な構造であるにもかかわらず、ふたや囲いもなく、安全装置もありませんでした。また、会社は、原告に対して、機械の使用方法やその他安全教育についての指導をすることもありませんでした。しかも、会社の工場の床面は油まみれで、製造品であるペレットも散乱しており、非常に滑りやすい状態でもありました。

原告は、2011年1月20日、いつものように作業をおこなっていたところ、工場の床面で足を滑らせて、エクストルーザーに左手を巻き込まれ、左手指5本を切断するという重傷を負いました。組合では、団体交渉などによる解決を目指してきました。しかし、会社は、責任を認めるどころか、原告の自己責任だなどと強く非難をするため、原告は、会社の安全配慮義務違反と代表取締役社長の責任を問うべく、2014年3月26日に、京都地方裁判所に提訴しました。

2 原告の請求を全面的に認めた判決

2016年8月31日、京都地方裁判所(石村智裁判官)は、原告の請求をほぼ全面的に認めて、エンプラ株式会社の安全配慮義務違反を認めるとともに、同社の代表取締役の責任をも認める勝利判決を言い渡しました。

判決は、「容易に重大な傷害結果が生じ得るような危険な構造を有する本件機械の作業に従事させていたのであるから、その作業の従事中に、原告が本件機械から生じ得べき危険に巻き込まれて負傷することのないようその生命身体の安全を確保すべく種々の措置を講ずるなど安全に配慮する義務を負っていた」にもかかわらず、会社では危険回避の措置が取られておらず、また、安全管理もなされることなく、原告に漫然と作業を強いてきたとして、会社の安全配慮義務違反と社長の責任を認めました。

さらに、会社側からは、事故の発生について、原告の過失が多大であるため、過失相殺がなされるべきとの主張もなされましたが、判決は、原告が本件機械による作業方法を誤ったり、危険な態様で作業をしていないとして、過失相殺を認めるべきではないとも判示しました。

3 原告の思いが裁判官の心を動かした

本件では、会社が安全教育や衛生状態の保持など、安全配慮義務を怠っていたことは明らかな事件でしたので、本判決は至極妥当なものであります。

それに加えて、本件では、裁判官が、原告の意見陳述、尋問での一つひとつの言葉に頷きながら聞くなど正面から向き合い、他方で、会社社長の不合理で曖昧な供述に対しては厳しく追及しており、それが判決に垣間見られます。判決は、会社側の不合理な弁解(たとえば、大怪我をするような機械ではない、機械にふたや囲いを設けると生産性を損なう、工場内に滑り等の危険はなかった、安全教育は十分に尽くされていたなど)について、会社の主張を排斥するとともに、会社の安全配慮義務違反を原告に責任転嫁するに等しいとまで述べました。会社の不当な安全軽視や責任転嫁から、重傷を負った原告を救済する正義に溢れた判決です。

原告の思いや、会社の不誠実さが、裁判官の心を動かしたに違いありません。

4 さいごに

残念ながら、会社側は控訴しましたので、闘いの舞台は大阪高裁に移ります。控訴審でも、理論的な主張立証のみならず、裁判官のハートを掴むことができるよう尽力していきたいと思っています。

(代理人は楠晋一弁護士と当職)

公務労働と労働裁判についてもっと考えよう!―― 西条市立周桑病院事件について

弁護士 河村 学

1 はじめに

例えば、「部門を第三者に譲渡するにあたって、その部門の労働者を他の部門に配転できるが、今回は全員を解雇して希望者は再雇用することにした。再雇用にあたっては賃金を減額することにした。全体の業績は悪くないが、部門は赤字だったのだからいいじゃないか」という会社があった場合、多くの人は、「何を勝手なことを!」「裁判所が許すはずがない!」と思う。

しかし、そう考えないのが裁判所。民間であればとても許されない解雇が、公務ではまかり通るというこの恐ろしい司法の現状に無批判であってはならない。

2 事案の概要

本件は、愛媛県にある西条市立周桑病院での事件。2010年4月1日から、病院が指定管理者で運営されることになり、病院に勤務する医療職員全員151名を同年3月31日付で分限免職処分にした。

ただ、西条市は、引き続き西条市で働くことを希望する者については、全員を市の正規職員として処遇する方針をとったが、給料は1~3割下げることとした。

希望した職員のうち20名が分限免職の取消等を求めて提訴、2014年2月27日松山地裁判決で職員側が敗訴、そして今般、2016年8月26日高松高裁でも職員側が敗訴した。なお、同じ病院で働いていた事務職員は市長部局に配置換えとなり現給保障されている。

3 判決の内容

(1) 松山地裁の判決(裁判官は西村欣也、瀬戸茂峰、寺戸憲司)は、病院職員に適用されていた給料表を間違い、その間違った事実を判断の有力な理由とするなど、事実認定・判断とも極めてずさんなものであった。また、本件は「分限免職」だが、実質は「降任」なんだから行政の裁量は広くていいなどと、法律があっても行政はこれを無視してもよいと言わんばかりの判断であった(このような判断のために、裁判所は判決期日を2回も延期した)。

(2) 高松高裁の判決(裁判官は生島弘康、村上泰彦、井川真志)は、松山地裁の上記誤りは是正し、最高裁昭和48年9月14日判決の基準に沿って検討することとした。整理解雇の法理に沿って検討すべきとの職員側の主張は、何の理由も付さずに退けながらも、市長の裁量権の逸脱・濫用があったか否かを検討する過程で、実質的には、職員側が主張する「分限処分回避努力等についても検討することになる」とした。

ところが、実際の判断は、松山地裁の域を出ないものであった。

(3) 控訴審において、職員側は、地裁判決のおかしさを3点指摘した(他にもあるが省略)。①配転できるのに、分限免職するのはそもそもおかしい。②分限免職でなく配置換えだったら給料は例規により現状ほど下がらなかったはず。③同じ病院職員なのに、事務職員は給料が減額されておらず、医療職員だけ減額するのは平等ではない。

これに対し、裁判所は、①について、確かに配置換えすることに法律上の支障はなかったとしつつ(西条市側は本件分限免職当時は法律上配置換えはできないと説明していた)、地裁判決と同様、「その実質は、降任に近い」として適法とした。裁判所は、国民・住民に対しては、いつも「法律に基づく行政だ」などとして問答無用の判断をしているのに、行政にはとても優しい。②については、配置換えでも、分限免職後の任用でも、給料は全く同じとした。いずれも例規上「新たに職員となる者」にあたり、初任給の規定が適用されるとするのである。配置換えだけれども初任給になるというのはおかしいと思うが、裁判所は西条市の、しかも裁判がかなり進行してから主張しだした解釈に追随した。なお、西条市の「異動」の規定では、給料が現状ほど下がらなかったことは西条市自身が認めているが、この規定について裁判所は「死文化している」としている。③については、事務職員は「特殊の知識を必要」とする職員だから、医療職員と違いがあっても当然とした。通常、「特殊の知識を必要」とする職とは、医師や看護師、教師などをいうと解されるが、裁判所は、一般事務職員もこれに当たる(一方、医療職員はこれに当たらない)として、両者の違いは合理的とした。

(4) 裁判所の行政追随、救済の姿勢は極まっており、①西条市は異動の際に現給保障をすると労組に説明していたが、これは労使の合意にはなっていないとか、②退職金に対して誤った説明(免職時に退職金を支払う)をしていたが、直前に訂正したからいいとか、③配置換え出来ない(分限免職しかない)と説明していたことに至っては、弁護士の(誤った)意見も踏まえての判断だから虚偽の説明ではないとか述べて、職員の判断を誤らせるような瑕疵はなかったとしている。

西条市はさまざまな法的誤りや事実と異なる説明を行って職員を黙らそうとしてきたが、裁判所はこれをことごとく救済するのである(民間会社の社長や、国民・住民がこのようなことをしたら裁判所からどのような仕打ちに遭うか考えたらいい)。

(5) 本件は現在上告・上告受理申立中である。

4 終わりに

近時、労働者の生活や権利に対し無頓着な判決が多くなっているが、とりわけ公務労働者の分野では、裁判官が思考停止に陥っており、実態との乖離があろうがなかろうが行政に追随し、判断の理由さえまとも示さないという判決が増えているように思われる。

裁判所が公正・公平な判断をしていないこと、司法が労働者の権利と生活を蔑ろにしていることを、もっと社会的に明らかにすることが必要なように思う。

(弁護団は、城塚健之、水口晃、河村学、井上耕史)

守口市非常勤職員雇止め事件 不当判決

弁護士 愛須 勝也

1 事案の概要

2016年8月29日、大阪地裁第5民事部(内藤裕之裁判長)は、頭書事件において、原告の請求を棄却・却下する不当判決を言い渡した。

守口市は、国民健康保険料収納推進員(10年12月までは徴収員)として7年10か月にわたって任用(任期は1年)されてきた非常勤職員について、13年3月末の戸別訪問徴収制度の廃止を理由に14年3月末をもって雇止めにした。原告が加入する守口市職労は、守口市との間で、非常勤職員の雇止めはしないという労使合意を締結し、毎年、確認文書を取り交わしてきた。ところが、平成23年、大阪維新の西端市政の誕生によって、労使合意が無視され、制度廃止、雇止めを強行してきたのである。

そこで、原告は、守口市を相手に、主位的に地位確認請求、賃金請求、予備的に非常勤職員への任用義務付け、損害賠償請求を求めて大阪地裁に提訴した。

非常勤公務員の地位確認・損害賠償という高いハードルは承知の上で、労使合意を無視した雇い止めは許されないとして提訴されたのが本件である。

2 不当判決の内容

(1) 地位確認について、判決は、地公法上、免職が行政処分と構成されていることに照らすと採用も行政処分であること、労契法22条1項が公務員について適用除外しているという理由のみで、「労働契約法19条を類推適用する余地はない」とした。判決の結論は予想できたが、裁判所が非常勤公務員に関しては、全く思考停止していることを改めて示した。義務付けについても、既に原告が稼働しているから「重大な損害を生じるおそれ」を否定、損害賠償が可能であるから、他に適当な方法がないとも認められないとして却下した。

(2) 国賠法上の違法性について
大阪大学事件の最高裁判決以降、いくつかの裁判所で認められてきた損害賠償については、本件では、非常勤職員の雇止めは行わないという労使合意があり、それが繰り返し確認されてきたという経過からも、少なくとも期待権侵害が認められるべき事案であった。判決は、任用要求の権利等は認められないとし、能力の実証に基づく任用という法令等の内容からすると、任用の継続を期待することは、「それ自体法的保護に値する利益であるとは認められない」とした上で、「任用が継続されると期待することが無理からぬものと認められる特別の事情」があるかどうかを大阪大学事件の最高裁判決に基づき検討。その中で、市職労との労使合意は、「非常勤職員の職種が廃止され、これに代わる非常勤職員の職種が設けられた場合」に「退職した扱いとすることは『雇止め』にあたる」から「『雇用を継続するための話し合い』を合意したもの」とし、それに代わる職種が設けられない場合に「『雇止め』しないことやその配属先について協議することまでを合意したと認めることはでき」ないと勝手に限定し、労使合意は地公法  条等の趣旨に反し適当ではないという点を措くとしても、本件では代替職種が設けられた場合に当たらないから期待は保護されないとして請求を退けた。これは、原審の審理の中で被告も主張していないような事実認定であるが、本判決の最大の弱点でもある。


 守口市では、非常勤職員の雇用確保のために、労使合意の下、努力を重ねてきた。本件労使合意にはその思いが込められている。収納推進員制度についても、収納率の低下の中で、2010年11月、労使協議に基づき業務を拡大してきた。ところが、維新市政の誕生により、それまでの経過を一切無視し、一方的に制度廃止し雇止めしたのであるが、裁判所は、思考停止し、市の主張を追認するだけで、原告の権利を救済する役割を完全に放棄した。

このように判決は、非常勤職員の置かれた状況について全く顧みない不当なもので到底納得できない。守口市では、国保収納推進員制度の廃止に続き、5歳児までの保育料の無償化の財源として公立保育所の民営化も打ち出されている。

このまま、維新市政の好きなようにさせる訳にはいかない。原告は直ちに控訴して、控訴審での巻き返しを誓っている。

(弁護団、城塚健之、河村学、中西基、中峯将文と当職)

堺市シャープ住民訴訟・判決のご報告

弁護士 藤井 恭子

1 大阪府、堺市の住民による、公金支出のあり方を問う住民訴訟

平成20年から続く世界的大不況によって庶民の生活が逼迫する中、大阪府と堺市が、堺市堺浜に大企業シャープを誘致するにあたって、多額の公金を支出する決定をした。
大阪府はシャープ及び関連企業全体に対し、合計244億円もの補助金を支出し、堺市は約50億円もの減税措置を10年間行うというものである。

この点に怒りと疑問を持った堺市と大阪府の住民合計約160名が「シャープ立地への公金の支出をただす会」を組織し、平成21年7月、大阪府及び堺市に対して住民訴訟を提起した。
それから約7年間の訴訟活動を経て、本訴は平成28年9月8日に判決を迎えた。
以下、本訴訟の意義と判決の内容をご報告させていただく。

2 本訴訟の経過

大阪府と堺市のシャープに対する公金支出は、自治体による大企業誘致合戦の最中に決定した。
大阪府が打ち出した、一企業に対する補助金上限150億円という額は、当時、全国でも破格の金額であった。
かかる大規模な公金支出には、それに伴う高い公益性が求められるべきである。
これについて大阪府・堺市は、「多額の公金支出をしてシャープを誘致することが、住民に『経済波及効果』を及ぼし、雇用創出や経済の活性化などの利益がもたらされる」と主張してきた。

しかし、7年間の訴訟のなかで、大阪府・堺市は誘致による『経済波及効果』の内容を具体的に説明することができず、『経済波及効果』は絵に描いた餅であることが明らかとなったのである。
結局、シャープに対する公金支出には、公益性が全くないことが明らかになった。
しかも、この数年の間に、シャープは見るも無惨に凋落し、多額の公金をつぎ込んで誘致したシャープ工場も、いまや台湾資本の企業・鴻海が実質的な所有者となっている。
そうであるにもかかわらず、堺市は漫然と税の減免措置を続けており、税の減免による利益は堺市住民に還元されることなく、海外へ流出する事態となってしまっている。

かかる現状は、決して結果論ではない。住民の声に耳を傾けることなく強行された企業誘致には、当初から何らの公益性もなかったことが、この間の経過で、明らかになっていったのである。

3 本訴訟の意義

原告・弁護団は、公金支出の公益性だけにとどまらず、まちづくりのあり方や税金の使い方そのものを行政に問いかけるという大きな意義をもって、本訴に取り組んできた。
その結果、公金支出だけでなく、大阪府および堺市の過度に大企業を重視する施策・姿勢が、次々と明らかになっていった。たとえば、堺市がシャープ工場建設土地の大規模なインフラ整備を行っていたことや、開発許可手続を省略する便宜を図っていたことなどが判明した。

このような施策を進める一方で、いかに住民の暮らしを軽視する行政が行われてきたのかという点を、原告・弁護団は問題視し、訴訟の中で強調して訴えてきた。
自治体は、大企業誘致頼みの街作りが、いかに住民にとって大きなリスクを伴う施策であるかを十分認識したうえで、住民にとってもっとも望ましい街作りとは何なのか、改めて考えるべきである。

4 判決の内容

本年9月8日、シャープ住民訴訟に対する第一審判決が出された。
結果は、原告の主張は全て認められず、全面敗訴であった。
裁判所は、大阪府・堺市が主張する「誘致による経済波及効果」を鵜呑みにして主張のまま認定し、補助金や減税が多額に過ぎることや、利益が住民に還元されず、海外資本に渡る結果となっていることを問題視する住民の主張は、無視された。

住民の訴えに耳を傾けない不当判決であり、原告住民は控訴する予定である。
弁護団は原告住民と一体となって、自治体によるまちづくりを問うたたかいを続けていく所存である。
今後も、引き続きご支援をよろしくお願い致します。

(弁護団は、辻公雄、平山正和、辰巳創史、牧亮太、藤井恭子、他7名)

橋下前市長メールの非公開決定を取り消す―― 一対一メール訴訟判決の報告

弁護士 服部 崇博

 橋下徹前大阪市長は、平成24年11月17日、政党「日本維新の会」の代表代行に就任し、同日以降、平成24年12月16日の第46回衆議院議員選挙投票日までの間、 全国を遊説し、庁舎に登庁しない時期がありました。にもかかわらず、橋下前市長は、その期間中も大阪市から給与を受け取っていたことから、その給与の返還を求める住民訴訟を平成25年に大阪地方裁判所に提起しました(市長給与返還住民訴訟であり、現在上告中です。)。その住民訴訟において、大阪市は、橋下徹前市長は登庁していないが、職員に対し、メールなどで指示を出し、市長としての業務は行っていたと主張したため、そのようなメールが本当に存在するのか否か、見張り番弁護団で調査することとなり、橋下徹前市長と職員との間で送受信されたメールについて情報公開請求を行いました。

その情報公開請求において、実施機関(大阪市長)は、大阪市長と複数の職員との間で送受信したメールは公文書であるから公開するとの決定を行いましたが、大阪市長と職員が一対一で送受信したメールは組織共用性を欠き公文書でないことを理由に、不存在による非公開決定としました。そのため、私が原告となって、その非公開決定の取消しと公文書の公開決定の義務付けを求めて本訴訟を提起しました。

 訴訟において、大阪市は、一対一でやり取りをされたメールは、電話や口頭と同レベルの一過性の意思伝達をメールという手段で行ったに過ぎず、原則として、組織として伝達すべき必要の無い連絡事項を個人的に伝達する際に行われるものであり、その内容は、電話や口頭で伝えるものと変わらないなどと主張していました。これに対し、見張り番弁護団は、一対一のメールであったとしても、組織内の意思伝達がなされていることはあり、一対一であるからといって組織共用性がないとは言えないし、もしもそのような基準で判断するとすれば、本来、公開すべきメールも容易に組織共用性がないことを偽装できるので不合理である等と反論していました。

この点について、裁判所は、①大阪市長は、その職責に鑑み、確定した職務命令を発したり、逆に職務命令に基づく報告を受けたりするなど、職員との間で、大阪市の業務と密接に関連し継続利用が予定される情報を頻繁にやりとりすることが見込まれること、②大阪市の業務の中には緊急性及び迅速性が要請されるものがあり、そのような場合には、書面の受渡しに代えて電子メールの送受信により情報伝達を行うことも多いと考えられること、③上記①の情報は、その性質に照らし、口頭のみでやり取りされることが考え難いこと等の事情を併せ考えれば、大阪市長が一対一メールを利用して職員に確定した職務命令を発したこと、及び職員から職務命令に基づく報告を受けたことがあったものと推認され、これらの電子メールは、その作成、利用及び保存の状況に照らし、業務上必要なものとして、利用又は保存されている状態にあるというべきであるから、『組織的に用いるもの』に該当すると解すべきと判断し、市に対し非公開決定の取消しを命じました。もっとも、一対一メールが公文書であったとしても、その公文書に非公開情報が含まれている可能性は否定できないとして、公文書の公開決定の義務付けについては、原告の請求に理由がないとして棄却しました。

 大阪市の主張を前提にすれば、一対一のメールであれば、どのようなメールであっても公文書に該当しないこととなり、行政にとって都合の悪いメールは全て隠蔽することができてしまいますので、一対一メールが公文書であると判断した裁判所の判断は妥当であり、また情報公開実務においても重要な意義があると思います。

なお一対一メール訴訟は、弁護団の先生のご協力により勝訴することができました。大阪市は控訴しましたので、控訴審でも今回の判断が維持されるように頑張りたいと思います。

育鵬社教科書学習会報告

弁護士 岡 千尋

 昨年、大阪府内では、大阪市、四条畷市、泉佐野市、河内長野市、東大阪市で、育鵬社の教科書が採択され、歴史で約27%、公民で約34%の中学生が育鵬社の教科書を使うようになった。
育鵬社教科書の問題点を共有し、今後の採択阻止に向けて何をすべきか議論するため、2016年9月13日学習会を企画した。
当日は、41名に参加いただき盛会となった。

まず、楠晋一弁護士に「育鵬社の教科書ってどんな教科書?」と題して、ご講演いただいた。育鵬社教科書のコピーを見ながらの説明で、同教科書が自民党(特に安倍政権)の歴史認識を生徒に教えようとするもので、日本国憲法を押し付け憲法とする一方で、大日本帝国憲法を賛美するなど、戦争をしてはいけないという価値観は見られないことがよく理解できた。

続いて、南部秀一郎弁護士から、フジ住宅での育鵬社採択に向けての動員の状況についてご報告いただいた。
そして、子どもと教科書大阪ネット21事務局長平井美津子さんから、育鵬社教科書の不採択に向けて、各自治体で開かれる展示会に出向き、アンケートに記入して教育委員会に意見を届けましょう、各地で勉強会を開催し育鵬社教科書が広がることの危機感を父母市民と共有しましょうと提起された。

質疑応答では、泉北での実際の取り組みについて紹介していただいたり、実際に育鵬社教科書で学んだ若者と話をした経験を報告いただいたり、充実した討議となった。
3年後、再び教科書の採択が行われる。そのときに、育鵬社の教科書が採択されないよう、民法協として取り組みを具体化していきたい。

労働法研究会の報告

弁護士 中西 基

1 はじめに

9月17日に労働法研究会を開催しました。前回(2014年10月)から2年も間が空いてしまいましたが、労働法研究会は、弁護士・労働組合・学者が、ひとつテーマについてそれぞれの立場から真剣に議論をたたかわせる民法協ならではの取組です。今後は年2回を目標にして企画していきたいと思います。

2 テーマ

今回の研究会は、本年4月1日から施行されている「改正障害者雇用促進法」でした。同改正法は、雇用の分野における障害者に対する差別の禁止及び障害者が職場で働くに当たっての支障を改善するための措置(合理的配慮の提供義務)を定めるとともに、精神障害者を法定雇用率の算定基礎に加えるものです。このうち、特に、合理的配慮の提供義務に関しては、労使関係の実務上も、裁判実務上も、大きな影響があり得るものと予測されることから、今回のテーマ設定となりました。

3 事例報告

研究会では、まず、立野嘉英弁護士から「阪神バス事件」についての事例報告がありました。この事件では、路線バスの運転手の勤務シフトについて、通常は早朝から深夜までの勤務シフトがランダムに割り当てられるところ、身体障害のある原告については特定の勤務シフトだけに限定するという「勤務配慮」がなされていたところ、会社がこれを一方的に打ち切ったことの是非が争われました。会社側は、「勤務配慮」は温情的な措置であってこれを続けるかどうかは会社の裁量だと主張しましたが、仮処分決定(神戸地裁尼崎支部平24・4・9決定)では、「勤務配慮」を一方的に打ち切ることは、障害のある労働者について法の下の平等の趣旨に反することとなり、公序良俗ないし信義則違反であると判断しました。事件は、抗告審(大阪高裁平25・5・23決定)、本訴1審(神戸地裁尼崎支部平26・4・22判決)でも勝訴し、本訴控訴審で和解解決しています。事案の詳細は、民主法律時報2011年9月号、2013年6月号、2015年4月号もご参照ください。

4 基調報告

続いて、立正大学社会福祉学部准教授の濱畑芳和さんを助言者に迎えて、「改正障害者雇用促進法と予想される影響」と題する基調報告をしていただきました。

報告では、本年4月1日から施行されている改正障害者雇用促進法では、障害者の定義について、「医学モデル」ではなく「社会モデル」を採用したことが強調されました。すなわち、障害者とは、医学的に見て心身の機能不全を有する者を意味するのではなく、心身の機能の障害のために職業生活に相当の制限を受け、又は、著しく困難となる者を意味します。各種障害者手帳の有無は関係ありませんし、難病患者も含まれます。

そして、事業主は、募集・採用、賃金、配置、昇進・降格、教育訓練の実施、福利厚生施設の利用などにおいて、障害を理由として不当な差別的取扱を行うことが禁止されました。さらに、事業主は、募集・採用にあたって本人から申し出があれば、採用後は本人から申し出がなくとも、障害者が職場で働くにあたっての支障を改善するための措置を講ずること(合理的配慮の提供)を義務づけられました。

この法改正により、差別事案において損害賠償請求は争いやすくなることが予想されますが、合理的配慮の提供義務については直律的効力がないと解されているため、ただちに合理的配慮の提供を求める訴訟は難しいと思われます。

5 議論・意見交換

事例報告と基調報告を踏まえて、参加者で活発な意見交換がなされました。合理的配慮の提供については、いかなる内容の配慮を提供させるのかについて、労使間での協議が不可欠です。改正法自身が「自主的解決」を求めていることからも、労使間での協議・交渉は積極的に求められており、労働組合に期待される役割も大きくなると思われます。