民主法律時報

2016年7月号

泉佐野市職労事件 4度目の府労委勝利命令

弁護士 半田 みどり

1 はじめに
泉佐野市職労・同現業支部が泉佐野市を被申立人として府労委に行っていた不当労働行為救済申立において、平成28年6月9日、団交拒否と支配介入が認められ勝利命令がなされた。
現市長は、一貫した労使交渉軽視・無視、組合敵視の姿勢で不当労働行為を繰り返している。救済命令申立は本件が6件目で、全て勝利命令を得た(その後の経過は後述)。

2 本件の概要

(1)もともと市では、前市長時代に、平成21年から39年までの超長期計画で財政健全化計画が策定されていた。しかし、平成23年4月に就任した現市長は、任期中に健全化団体を脱却するとの公約のもと、労使協議なきまま25年3月までの給与8%カットを強行し、さらに労使合意なく 年3月まで延長した。

(2)市は、平成25年度決算で、早期健全化団体を脱却した。これで8%カットは根拠を失ったが、平成26年予算においても見直されなかった。そして、平成26年11月11日、市は、市職労に対し、給与削減をさらに延長し、平成27年4月から5年間、4~9%を削減するとの条例案を12月議会に提出したいとして、団交を申し入れた(中期財政計画に基づく条例案)。これが本件の事案である。

(3)組合は、同月13日、予備交渉で議題・時間等を取り決めること、一方的な議会上程を行わないことを求める要求書を提出し、中期財政計画案策定に至った経緯や、給与削減の必要性及び相当性について回答するよう、市に団交を申し入れた。
しかし、同月17日、市は、中期財政計画案の策定は管理運営事項として組合申入の団交を拒否した。一方で、市は、中期財政計画案について説明会を開催した上で、説明会開催後に市申入団交の第1回交渉、同時期に行われている組合申入の確定交渉終了後に引き続いて第2回・第3回の団交を行うとした。
短期間で3回限定、深夜に及ぶ強行日程である。組合は再考を求めたが、市は応じなかった。

3 団体交渉の経過(命令が認めた事実)

(1)第1回団交においては、市は、健全化団体再転落回避のため10億円の基金残高確保が必要としつつ、その必要性の根拠も示さず、給与カットをしなければ再転落するという試算の具体的根拠も示さなかった。また、組合が求めた、給与削減の有無による人件費の状況の違いを示すデータも示さず、10億円繰上償還している年度に収支残高が10億円減少していない理由について、組合からの単純な質問にも回答できなかった。また、人件費削減が10億円の基金残高を確保するための最後の手立てと言いつつ、削減の理由についても抽象的な説明にとどまった。

(2)第2回団交においても、市は、組合が求める市の試算の根拠資料を示さず、給与カットによって基金残高を10億円確保する必要性及び健全化団体再転落の可能性についても、第1回と同様の主張を繰り返して抽象的な回答をするにとどまり、具体的根拠の説明を回避した。

(3)第3回団交には市長が出席したが、やはり組合が求める根拠資料を提示せず、人件費削減の必要性について抽象的かつ曖昧な説明をするにとどまった。にもかかわらず、組合側が理解しない、市の説明責任は果たした、として交渉を打ち切り、12月議会に条例案を上程した。

4 府労委の判断

(1)団交拒否
命令は、市は、短期間の内に設定された市申入団交において、組合らに対する十分な説明及び資料の呈示を行わず、組合らに市の提案内容について検討の機会を与えずに、一方的に協議を打ち切っており、市申入団交における市の対応は不誠実と言わざるを得ない、とした。市は、議会上程を前提としていなかったと強弁したが、この主張も排斥された。そして、組合申入団交が市申入団交によって実質的に代替されたと言えないとして、正当な理由のない団交拒否を認めた。

(2)支配介入
命令は、市の不誠実な対応は、組合らの存在を軽視したもので、組合らに対する支配介入と認めた。先行事件でも、団交拒否とともに支配介入がストレートに認められている。市長がかつて露骨な組合攻撃をブログ等で行ったことや、組合員から、「労使交渉になってない。組合で闘っても意味がない」と言う声が出て、退職する職員も出てきたことなど、事実をしっかり訴えたことが、単なる団交拒否だけでなく支配介入も認めさせたと思う。

5 その後の経過

市は、先行事件では3件は再審査申立、2件(チェック・オフ事件)は取消訴訟を提起していた。今年5月 日、大阪地裁は、地公法適用職員のチェック・オフに関する救済については労組法上の不当労働行為制度による救済を求めることができないとして命令を一部取り消した(双方控訴)。
本件も、市は取消訴訟を提起する議案を可決した。しかし、与党議員が議案に賛成しつつ、訴訟費用に多額の税金を投じるのは好ましくない、労使紛争が長引かないことを強く求める、と意見している。チェック・オフ事件は、不当労働行為の部分では市側の完敗である。本件の取消訴訟でも、不当労働行為を断罪し、混合組合の救済の論点でも戦っていかなければならない。

(常任弁護団は、大江洋一、増田尚、半田みどり、谷真介)

憲法ミュージカル2016「無音のレクイエム」の御礼とご報告

大阪憲法ミュージカル共同代表(事務局長)・弁護士 田中  俊

 2016年6月2日から6月5日までの4日間、大阪ビジネスパーク円形ホールにおいて、 大阪憲法ミュージカル2016「無音のレクイエム」が上演されました(全7公演)。 おかげさまで、400人の会場は全公演満員、のべ2800人を超える皆様にご来場いただき、大盛況のうちに幕を閉じました。チケット販売、チラシ、ポスターの普及、カンパなど、ご協力いただいた民法協所属の法律事務所、弁護士、労働組合、個人の皆様に改めて御礼を申し上げます。

 鑑賞いただいた皆様方からの感想も、「凄く分かりやすかった」「クオリティが高いのに驚いた」「舞台後半の大空襲シーンからは、涙が止まらなかった」「もっとイデオロギー色の強いミュージカルと思っていたが、当たり前のことを当たり前に表現しており、凄く納得できた」「憲法のメッセージをミュージカルというエンタティメントを使って見事に伝えることに成功している」「中学校、高校で上演すべき」「これで終わらせるのはもったいない。是非再演を!」等とお褒めの言葉を多数いただきました。公演終了後も、ご来場いただいた方から、ミュージカルの話を持ち出され、「凄くよかった」と声をかけていただきました。明らかに反応は今までと違っていました。

 今回のミュージカルが成功した要因は、幾つかあると思います。
一つは、内容が、大阪の千日前を舞台にした戦前、戦中を中心に描いた実話で、登場人物は全員大阪弁で会話をし、取っつきやすく身近に感じたことがあると思います。ことに戦争を体験した年配の方々には(私の父親もそうですが)、とりわけ強い思い入れがあり、涙無くしてはみれなかったと聞きました。
作品前半は、吉本風の舞台で、映画館常盤座を中心に、無声映画を見るものと作る側の明るくコミカルなシーンが続きます。ところが、後半はトーンが一転。日本が戦争へと進む中、映画など娯楽に対する規制が強まり、ものが言えない時代になっていきます。主人公達にも赤紙がきて戦地に出兵ということになるのです。そして、クライマックスは最後の大阪大空襲のシーン。この陰と陽のコントラストがはっきりしているため、陰の部分をより際だたせ、戦争の恐ろしさを伝えることができた。ここが、「分かりやすい」と感じた要因だったと思います。
そして、今回、制作を依頼した劇団往来のスタッフに、素晴らしい曲、演出、脚本を作っていただき、厳しい要求に出演者が見事に応えたことも大きな要因だったと思います。

 私たち事務局は、このミュージカルを作るために、構想約1年近く、長期にわたって、劇団往来と議論しました。話題は、憲法、安倍政権、橋下さん、演劇論、市民ミュージカル等について、お互いの意見を交わしました。その議論を経て、この劇団なら「憲法のメッセージを伝えてくれる」と確信しました。劇団往来には、「チンチン電車と女学生」という広島への原爆投下を通じて、平和を伝える素晴らしい作品があるのですが、その作品を見ていたことも大きかった。我々がやってきた憲法ミュージカルと相通じる作品でした。
前回、ドクターサーブで、ハンセン病に対する表現とかで問題を起こしたので、今回は、作品の内容についても、時間をかけて議論しました。共通したコンセプトは、①今の時代が、マスコミの報道自粛、秘密保護法など「表現の自由」が規制されるなど戦前と酷似していることを伝えたい、②改憲、護憲の議論はあるが、憲法のメッセージである平和の大切さを知ってもらいたい、③内容はシンプルに分かりやすく、でした。その中から、大まかなあらすじが浮かび上がってきました。
無音のレクイエムの無音は、事務局とスタッフの議論の中から、私が発案しました。無声映画とものが言えない時代をかけて「無音」が生まれ、そういった時代背景の中で、たくさんの人が戦争でなくなっていったことへの「鎮魂歌」と言う意味で「レクイエム」を付けました。
無音のレクイエムの後半の大阪大空襲のシーンの脚本は、生々しく、残酷で、恐ろしい状況を描く場面、セリフが続きます。このセリフは、創作ではなく、被災者の手記に基づいています。ピースおおさかで「大阪大空襲」をテーマに関連資料を展示しており、その中に、被災者の手記がありました。後半のシーンは、まさに実体験に基づく証言であるからこそ、見た人に戦争の悲惨さ、恐ろしさ、残虐さが説得力をもって伝わってきたのではないかと思います。

 「憲法に込められたメッセージを、ミュージカルに乗せて伝える」ここに憲法ミュージカルの真骨頂があります。今回は、平和であることの大切さを知ってもらいたかった。   年前の、「この時代」の惨禍、悲劇を通じて、日本国憲法が生まれてきました。そして、大阪が空襲で焼け野原になったのもわずか  年前のこと、憲法が生まれてきた経緯、大阪大空襲を知った上で、護憲か改憲かを議論して欲しい、日本国憲法が生まれてきた過程、これなくしては、改憲の議論をすべきでないと思いました。
これまでのミュージカルは、関東から山田洋次さんの系譜に繋がる亡田中監督を初めとしたスタッフに制作していただきました。今回は、初めて大阪で自前でミュージカルを作りました。これが成功した意義は大きいです。次に繋がります。大阪に憲法ミュージカルの土台を作ることができたのではないかと自負しています。
良いことばかり書いてきましたが、反省点もあります。今回は、実働のコア事務局メンバーが少なく、マンパワーが不足していました。これは今後の課題です。ただ、その  中で、あすわか、憲法カフェ、弁護士会の憲法委員会に所属する若手弁護士が、「無音のレクイエム」を見に来てくれました。この人達と繋がって、より素晴らしいミュージカルを作って行けたらと考えています。

 最後に、「無音のレクイエム」の中に出てくる曲「この時代に生まれて」の最後の一節の歌詞を紹介します。
「 この時代に生まれて
声を上げずにいるのなら
この時代に生まれた
子どもたちに何を誇るのか
国が時代を作るなら
国を作るのは人のはず
青い空にも暗い闇にも
人は時代を変えられる」
この曲こそ、戦争で亡くなった方々への「レクイエム」に他なりません。ここに本ミュージカルのメッセージが込められていると言っても過言ではありません。

「世界で一番新しい“ネパール憲法”を国民生活の中に」 誇り高く報告された COLAP(コラップ)Ⅵ

高槻年金者組合 大矢  勝

 第6回アジア太平洋法律家会議(コラップⅥ=COLAP6)は、2016年6月17~19日、ネパールの首都カトマンズで開催された。2015年6月に予定されていたのだがネパールの大地震で中止、ネパール法律家の強い要請で1年遅れのカトマンズ開催となった。
前回コラップⅤ=COLAP5は2010年フィリピンで開催され、“憲法9条を国際規範に”と5メートルの横断幕を掲げて参加した。フィリピンの貧困問題、弁護士の厳しい活動の報告があった。私は1993年以来、民法協・国際交流委員会で国鉄闘争への国際的支援要請発言をしてきたが、前回コラップⅤでは  年にわたる国鉄闘争がようやく解決する大きな動きの中で支援のお礼発言をし、大きな拍手を頂いた。私は、今回コラップⅥ(ネパール・カトマンズ)には“ソリダリテイーナイト”=各国との交流係として、スタデイツアー・ポカラのヒマラヤ展望を目的に参加した。
ネパール首相が歓迎挨拶され、2015年9月20日に発効した308条からなるネパール憲法を「この世界で一番新しい憲法を多民族・多言語ネパール国民の中で実現することである」と誇り高く報告された。
ネパール法律家の熱意が今回のコラップⅥを成功させた。22名の日本代表団(大阪から8人)は、安倍暴走政治止める野党・市民の共闘、核兵器廃絶、原発ゼロ、福島原発被害の現状、沖縄辺野古新基地作らせない、日本の貧困問題、などのたたかいを発言し成功に大きく貢献した。

 第1分科会は世界平和と地域平和の課題で、沖縄の喜多さん、名古屋の飯島さん、埼玉の大久保さんが発言、第2分科会は人権の課題で、大阪の中峯さん、東京の長谷川さん、東京のヒルさんが発言、第3分科会は経済発展の権利で、大阪の神戸さん、東京の磯部さん、横浜の相曽さん、埼玉の大久保さんが発言した。第4分科会は民主主義を脅かすもので、大阪の安原さん、東京の菅野さん、広島の中坂さん、東京の高部さんが発言した。閉会総会では第1分科会報告に続き、第2分科会報告を東京の長谷川さんが流暢な英語で報告し拍手喝采を受けた。

 カトマンズ宣言が提案され、各国の参加者が次々と手をあげて発言、取り上げられいっそう充実した宣言に練り上げられた。この盛り上がりは見習うべきものであった。

 アジア・太平洋法律家協会(Confederation of lawyers in Asia Pacific = COLAP)の設立、役員が提案され、笹本潤弁護士が事務局長(Secretary general)、長谷川弥生弁護士が会計(Treasurer)に選出された。恒常的な組織としての活動が期待される。日本の法律家は世界から期待されている。今回参加の若い皆さんと一緒に、笹本さん、長谷川さんを支えて大きな役割を果たさなければと決意したアジア・太平洋法律家協会の発足であった。
役員が一堂に紹介され、カメラフラッシュのなか閉会。参加者は役員と記念写真で楽しんだ。

 祝賀の席に移動、芝生に雨が降っている。開催が危ぶまれたが、日本代表団は準備してきた“日本紹介”を食堂で披露した。“ソリダリテイーナイト”。
核兵器廃絶のたたかいを英訳ナレーションで報告、希望ある子どもたちの未来へ核兵器廃絶国際署名を訴えた。(サミット参加のオバマが初めてヒロシマを訪問し、原爆資料館訪問と被爆者との交流。2008年プラハ発言を一歩進めた広島発言。核兵器廃絶国際署名大成功を。演奏)。わらべ歌を唄いながら2枚の横断幕を広げ、持参の幟・団扇・スーパーボール・スポーツボール・デイズニーボールを手渡して交流。私の最大の役割で緊張。大雨が降ってきて危ぶまれたが、日本代表団20人一致の熱意で演奏できたのが嬉しかった。

 ポカラへのスタデイ・ツアー(6月20~23日)は、“フェワ湖(Phewa Tal)=平和湖”湖畔レストランから水牛の水浴び、ボートからの景色を楽しみ、トレッキングと早朝展望のマチャプッチャレ(魚の尾)岳はガスに阻まれ、ようやく顔を出した“魚の尻尾岳(6,993メートル)”をホテルの遠望で満足することとなった。
30人乗りセスナ機は雲が低く欠航、ポカラから9時間の山越えでカトマンズへ。沿線には80もの民族・言語が生活していると言われるとおり、山から落ちる小さな川に沿って何処にも集落が点在、トウモロコシ畑が連なる。山の上から大きな河までの小さなちいさな棚田はちょうど田植時。バスやトラックの運転手は警笛を鳴らしながら狭い道路を追い越して行く(長閑な景色と民族性?)。

 “Right to Peace”国連平和人権宣言「採択」に向けての議論は、2009年から国連欧州本部・人権理事会で行われてきた。ようやく採択される局面を迎えている(人権理事会最終日の7月1日採択された。賛成  ヶ国、反対9、棄権4。個人の平和への権利が国連の機関で初めて採択された。嬉しいじゃありませんか)。そしてニューヨーク国連総会での“宣言”採択となる。“平和は人権だ”と大いに活用したいものである。

 日本語オンリーの大矢君の一知半解の報告となりました。「コラップⅥ報告会」「日本の法律家が国際的に果たすべき役割」「アジア・太平洋法律家協会のこれから」「“Right to Peace”平和は人権だ」などの勉強会開催を期待します。

労働審判支援センター「労働審判員との第4回懇談交流会」

大阪労連 遠近 照雄

2016年6月7日、おおさか労働審判支援センターとして、大阪労連推薦の労働審判員との4回目の懇談・交流会を開催し、9人が参加しました。安原邦博弁護士から「雇止めとカフェベローチェ事件」の報告を受け、意見交換をおこないました。この事件は、約8年半契約更新を繰り返したアルバイトに対する雇止めの有効性等が争われた事件です。東京地裁判決は学生アルバイト等のアルバイト従業員の雇用を法的に保護する必要性は乏しいとの価値観を大前提に、原告敗訴の極めて不当な判決がだされたものです。参加者の討論でも地裁判決のおかしさ、辞めさせる時の『鮮度が落ちる』発言等について、各々から判決の不当性を指摘する意見がだされました。控訴審では和解協議の場で高裁裁判官から「原審が労契法19条2号該当性を否定したことには問題があると考えている」旨の発言があり、勝利的和解解決を果たしています。
交流では、いま残業代等未払賃金請求事件が多くなっており、コマーシャルで有名な大手法律事務所の問題点について審判員からも指摘、報告がありました。
第5回目を12月6日(火)午後6時30分から開催し、11月に行われる裁判所の労働審判員研修等について報告いただきます。

全国一斉過労死110番とプレシンポの報告

弁護士 立野 嘉英

◆ 過労死110番プレシンポについて
過労死110番を実施するに当たって、2016年6月9日、大阪過労死問題連絡会主催でプレ企画シンポ「睡眠と過労死・過労自殺」を開きました(場所はエルおおさか)。約  名と多数の方にご参加いただけました。
シンポジウムは、第1部において、労働科学研究所・慢性疲労研究センター長で睡眠衛生の研究者である佐々木司先生をお招きし、「睡眠の構造と長時間労働・ストレスの影響」というテーマでご講演いただきました。
そもそも、脳・心臓疾患(いわゆる過労死)の労災認定基準では、睡眠時間の短縮による循環器系への影響という観点から、月平均  時間の時間外労働という基準が定められています。
また、精神障害・自殺の労災認定基準においても、月100時間を超える時間外労働に従事した労働者はそれ以下の労働者よりも、精神障害発症のリスクが高まるという調査結果から、月100時間という時間外労働時間が心理的負荷の強さを評価する一つの基準となっています。
ですが、これらの調査研究や労災認定基準でも、深夜・交代制勤務の影響などいまだ十分なものとはなっていません。
そこで、もう一度、睡眠の構造、ストレスや循環器系への影響を捉え直し、今後の労災基準改定に向けた運動も行う必要があるのではないかといった問題意識があり、佐々木先生をお招きしました。
佐々木先生のご講演では、睡眠の役割、睡眠段階、徐波睡眠・レム睡眠の役割といった睡眠の基礎的なメカニズムから、適切な睡眠の構築がないと、いかなる健康影響があるのか(特に循環器系や精神的ストレスとの関係)といった点まで詳しくかつ分かりやすくご説明いただけました。特に、レム睡眠が精神的ストレスの解消過程であることや、循環器負担に影響していることなど、「適切な睡眠の質」と労働条件を考えるうえで貴重な情報をいただけました。
第2部では、大阪過労死問題連絡会・事務局長である岩城穣弁護士より、睡眠問題に言及した過労死・過労自殺事案の判例を包括的に整理して解説されました。
最後に、第1部・第2部の内容を踏まえた質疑応答では、参加者より多くの質問がなされ、睡眠に対する関心の高さが窺えました。

◆ 過労死110番について
6月18 日、過労死弁護団全国連絡会議主催の毎年恒例の全国一斉「過労死・過労自殺・パワハラ110番」が実施されました。
大阪では、合計32件の相談がありましたが、そのうち、今にも倒れそうだという過重労働の相談が22 件に上りました。
特に、昨今深刻な人手不足が指摘をされている飲食業界の店長さんや、IT関連会社の労働者の方等から超長時間労働の相談や嫌がらせ・パワーハラスメントの相談が相次ぎました。過労死防止法が制定されて今年で2年が経過しますが、なお深刻な「働き過ぎ」の実態が浮き彫りとなりました。

大阪労働局との懇談会

弁護士 冨田 真平

2016年6月29 日に行った大阪労働局との懇談会についてご報告させていただきます。
労働局との懇談会は、以前も行っておりましたが、昨年の派遣法の改正を受け、改正派遣法の下で今後労働局からどのような指導がなされるのか等について、労働局からの聴き取りを行うために、派遣労働問題研究会のメンバーを中心に、4年ぶりに懇談会を行いました。参加者は、12 名でした。

今回の懇談会では、質問事項が多岐にわたることから、事前に派遣研で集約した質問事項を労働局に伝えた上で、それに対する回答を聞くという形で行いました。主な質問事項は、現在の指導の実情、改正派遣法の下での指導内容、派遣契約終了後の雇用保険の扱いなどでした。
今後の指導内容については、まず、改正派遣法の下においても、従前と同様に雇用の安定に留意しつつ是正するようにとの指導になるとの回答でした。
また、今回の改正で新設された40条の8第1項、第2項の「必要な助言」、「指導」、「勧告」についても説明がありました。助言の内容としては、一般的な法律の説明、みなし規定の適用の可能性の示唆であること、40条の8にかかるこれらの指導等は、派遣契約終了後も1年間は可能であるとの回答がありました。

他方で、みなし規定(改正派遣法40 条の6)の適用可能性の判断に関し、善意無過失については認定する場合があるが、偽装請負等(改正派遣法  条の6第1項5号)の脱法目的は判断が難しいため一切認定しないとの回答がありました。これに対し、村田浩治弁護士や河村学弁護士から、脱法目的について一切認定しないとなると、会社側が脱法目的について自白しない限り、労働局の指導・勧告がなされないということになってしまう、認定しないとの法律の根拠規定もなく、脱法目的が明らかな場合は認定した上で指導すべきではないか、などの指摘がありました。しかし、労働局の担当者の回答は変わらず、脱法目的については判断しないとの態度を変えることはありませんでした。

このほか雇用保険については、従前派遣会社からの離職票の交付について、派遣契約終了後一ヶ月待たされるような扱いが派遣会社で行われてきた点について、労働局から、1週間  時間以上の派遣先が見つかる見込みがあり、かつ労働者が派遣元の紹介を受ける意思がある場合は交付を待たないといけないが、それ以外の場合は、派遣契約終了後  日以内にハローワークに派遣元が離職票を提出しなければならないとの回答を得ました。
今回の懇談会では、改正派遣法の下で、どのような指導が行われるか、40 条の8の指導・勧告の内容などについて、労働局の考え方・方針を知ることができました。その中で脱法目的について認定しないなどの労働局の指導方針についての問題点が浮かび上がりました。この問題点については、今後派遣研で検討していきたいと思います。

ウソにウソを重ねるTPP交渉

弁護士 杉島 幸生

1 ウソをつかない TPP断固反対 ぶれない

これは自民党の選挙ポスターに掲げられたスローガンです。ただし2012年衆議院選挙のときのものですが…。当時はまだ民主党政権。野田首相のTPP交渉参加表明に対抗するために安倍自民党は、「TPP断固反対」を公約に掲げたのです。ところが選挙で多数派をとるや、手のひら返して遮二無二TPP推進に突っ走ってきました。このようにTPP交渉は、国民へのウソで始まったのです。

2 守られなかった聖域5分野

TPPで、日本の食糧自給率が大きく減少するだろうことは、政府試算からも明らかでした。そのため安倍内閣は、聖域五分野(コメ、麦、牛肉・豚肉、乳製品、サトウキビなどの甘味資源作物)だけは死守する、そうでなければ撤退すると繰り返し公言していました。安倍内閣は、関税が残ったから5分野は守られたなどと言っています。しかし、TPPは締結時の協議だけで内容が確定するものではありません。数年ごとに再協議が行われることとなっており、聖域5品目も例外ではありません。実際には、「当面は」関税が残ることになったというだけのことでしかありません。これではとても守ったなどと言えるようなものではありません。

3 国民の利益をそこなうISD条項

TPPには投資と金融の章に、TPP条約に違反する政府(これには裁判所の判決も含まれます)の行為で投資家に損害が生じたときには国際仲裁所という民間機関に損害賠償を求めて申立ができるという条項(ISD条項)があります。例えば、あらたな環境条例が厳しすぎて、新工場の操業が続けられなくなった、審査基準が厳しすぎて成長ホルモンを使って育てた牛肉が販売できず損失がでた、地域経済のため公共事業を受注する際には地元企業を優先したい、学校給食に地元食材を使いたい、などなど、政府や自治体が住民のためにつくった法律や条例が多国籍企業の利益と衝突すれば、損害賠償の脅しのもとで、そうした制度の改廃を求められることになります。国民主権・住民自治より多国籍企業の利益が優先されるISD条項は、そうした事態を引き起こします。安倍内閣は、すでに多くの経済協定にISD条項が含まれているが、そうした問題は起きていないから大丈夫などと言っています。しかし、これまでアメリカのような先進国との間でISD条項つきの経済協定を締結したことはありません。また現在、EUとアメリカは経済協定締結に向けた協議を続けていますが、EUはISD条項には絶対反対の立場を維持し続けています。なんの警戒心ももたず、国民の利益を多国籍企業に売り渡すISD条項付きのTPPを締結する安倍内閣は、本当に「売国奴」だと思います。

4 永遠につづく経済の自由化

先ほど述べたようにTPPは締結したら終わりというものではありません。多くの交渉分野で、数年ごとに再協議することが義務づけられています。そして、そのときの議題は、どこまで経済の自由化が進んだのか、これからどのように自由化を進めていくのかということでしかなく、市民生活の質の向上のために、多国籍企業の活動をいかに制約するのかということはそもそも議題にあがりません。しかも、その議論は、国民に隠された密室のなかで、各国の経済官僚によって進められます。私たちの生活に密接に関わることについて、私たちがおよそ関与できないところで協議・決定されていく、それが永遠に続けられていくのがTPPの仕組みなのです(例えば、労働組合共済制度の見直しなども早晩、議題になるだろうと言われています)。

5 批准を急ぐ理由はどこにもない

日本とアメリカで、TPP交渉参加国全GDPの80%を超えています。TPPの実質は、日米自由貿易協定にほかなりません、ところがアメリカ国内では、TPPがアメリカ国民の生活と経済を破壊するのではないかとの懸念が広がり、クリントン、トランプという両大統領候補もTPP再協議を公約としています。日本だけがあわててTPP条約を批准しなければならない理由はどこにもありません。

西谷敏著「労働法の基礎構造」を読んで

弁護士 河村  学

 「書評」を引き受けたものの、読んで見るとやはり難しく、クチンスキーが出てきて、ラートブルフが出てくると、正直「辛いなあ」という感じだった。ただ、そこを遮二無二乗り越えて行くと、平たく言えば、「労働法って市民法とそんなに違うものなの?」(2章)、「労働法って民法の特別法なの?」(3章)、「労働法の理念って生存権なの?」(4章)など、根本的な議論が展開されている。その後、「労働法における公法と私法」(5章)という毛色の違う論考を挟んで、西谷先生の自己決定論とそれを下敷きにした「労働契約と労働者意思」(6章)がある。労働者の(自由)意思の問題は、有期労働契約の不更新条項の解釈など労働法の多くの論点に関わり、「労働者」「労働法」観が問われる極めて実践的な問題である。

 ただ、読後感としては7章からが面白い。7章の「『労働者』の統一と分裂」では、有期労働・派遣労働・短時間労働・均等待遇の法政策の視点、管理職や多様な正社員をどう捉えるのか、労働者概念をどう考えるのかなど、表面に現れている基本的問題の考え方が述べられている。非正規労働のうち「実際に労働者自身が真に希望することがありうるのは短時間労働のみ」「日本の法制では、有期労働そのものが制約されないので、労働者の雇用生活の不安定性は解消されない」「労働者派遣という間接雇用の形態自体が労働者にとって有意味ということはない」など明快で、痛快でさえある。
労働者概念については、労組法と労働者保護法とで異なるだけでなく、労働者保護法内部でも異なり、例えば労基法上の各条項においても完全には一致しないとされる(西谷先生としては、指揮命令関係に関わる条項と、労働者の経済的地位に着目した条項に分け、その適用が異なる二種類の労働者として分類する立場を支持するようである)。さらには労働者概念に包摂されない労務提供者(非労働者)についても、「そうした存在を正面からとらえて保護・保障を与えることを考えるべき」とする。労働契約法との関係はあまり触れられていなかったが、賛否いろいろ考えさせる内容だった。

 8章は「労働組合と法」。労働組合の(もっと広く労働法における)個人と集団の問題は西谷先生の自己決定論からも関心の高いテーマであると推察されるが、その到達点が簡潔に示されている。その結論部分は、「個人と集団が『自律にもとづく連帯』の形で結合しなければならない」ということである。労働組合の歴史的成り立ちや法的位置づけ、日本の組合状況なども概観してのこの考察は今後の労働組合運動の方向性を考える上でも重要である。「ユニオン・ショップにもとづく企業別組合に発展の展望を見出すのは容易でない」、「地域ユニオンには、…『連帯』の精神が育ちにくい」など論争的な言及もあり、明示はされていないが一つの方向性を示しているようにも読める。

 9章から11章は労働法の解釈や裁判に関する問題である。学説の実務重視の風潮、利益衡量論の隆盛、労働判例の一貫した方法の欠如など、理論的・法的基礎を欠き、首尾一貫しない法解釈のあり方についての批判と考え方が述べられている。労働者保護規制の貧弱さ(労働法における立法の消極性)を補うという側面もあるが、最近の解釈のあり方として、一方では法律の形式的な解釈を貫き、他方では法律の文言を逸脱した目的論的解釈を行い、いずれも労働者保護を拒否する裁判例が続出している状況は「本当にひどいよな」と思ってしまう(p.283~292)。こうした判例・学説の現状、またこうした実務に振り回されている労働組合や労働弁護士の現状が、先生が本書を書かれた動機なのではないかとも思う。

 元にもどって1章から6章は、こうした労働法をめぐる現状を踏まえて、「労働法の基礎構造を解明し、かつ労働法がいかに変わろうとも守らなければならない基本的な価値と原則を明らかにする」(はしがき)ために設けられた諸章といえる(特に4章と6章)。そう読めば、ラートブルフもまた重要なのかも知れない。

法律文化社 2016年6月発行
A5版354頁 定価4000円+税