民主法律時報

2016年5月号

大阪地裁の不当判決―― 建交労・組合掲示板撤去事件

弁護士 西川 大史

1 はじめに

大阪市・大阪シティバスによる建交労の組合掲示板使用許可更新拒否及び大阪市の団体交渉拒否の不当労働行為事件での府労委命令取消請求事件の判決が2016年2月8日に大阪地裁(内藤裕之裁判長)であり、判決は、大阪市の使用者性を否定するとともに、大阪シティバスの不当労働行為を否定する判決を言い渡しました。

2 事案の概要

大阪シティバス(旧名称:大阪運輸振興)は、1988年に設立された大阪市の外郭団体で、大阪市交通局から市バスの一部の路線バスの運行業務などを委託されています。2011年6月に会社内に分会が結成された建交労では、シティバスに掲示板の設置を求めたところ、シティバスは大阪市交通局に組合掲示板に関する施設使用許可願いを提出し、大阪市交通局も施設使用許可をしたため、組合掲示板の使用が認められてきました。
ところが、シティバスは、2012年2月27日、「交通局より平成24年4月1日以降、組合掲示板の設置についての使用許可を更新しない旨の通知があったので、掲示板について3月31日までに撤去すること」との通知をしてきました。そこで、組合では、大阪市とシティバスに対し、団体交渉の申入れを行うとともに、掲示板撤去の通知の撤回を要求しました。しかし、大阪市は「組合との団体交渉に応じる意思はない」と団体交渉を拒否し、シティバスは「組合への便宜供与はしないと交通局が決めたことなので会社としてどうすることもできない」と主張して組合の要求を拒否したため、組合は大阪府労委に不当労働行為救済を申し立てました。しかし、府労委命令は、大阪市の使用者性を否定するとともに、大阪シティバスの不当労働行為を否定したため、組合が府労委命令の取消請求を求めていました。

3 判決の不当性①――使用者性についての形式的判断

判決は、使用者性について、朝日放送事件判決を用いて、大阪市がシティバスの労働者の労働条件や業務関係に関与していないとして「労働者の基本的な労働条件等を直接支配決定するのと同視し得る程度に、現実的かつ具体的に支配や決定できる地位にない」として使用者性を否定しました。
しかし、本件で問題となっているのは、組合掲示板撤去の通知の不当労働行為性です。派遣労働者の受入企業の使用者性が問題となった朝日放送事件判決の基準を転用し、労組法の趣旨を十分に検討することなく同判決の文言に追従し、形式的な判断をした本判決は大きな誤りです。

4 判決の不当性②――組合の救済の途を絶つ判断

また、組合掲示板の設置には大阪市の許可が不可欠であり、撤去を通知したのも大阪市でした。ところが、判決は、「大阪市は組合掲示板設置に一切関与していない」と判断しており、甚だしい事実誤認があります。
他方で、判決は、シティバスの不当労働行為を否定する理由として「交通局からの掲示板撤去の通知により、シティバスが組合に掲示板スペースを貸与することができなかった」からだと判断しており、判決自体が、大阪市が組合掲示板の設置及び撤去に関与したことを認めており、論理矛盾というほかありません。これでは、本件のような不当労働行為について、大阪市及びシティバスいずれも責任を負わないことになり、組合は救済の途が閉ざされてしまいます。

5 判決の不当性③――大阪市の不当 労働行為意思を否定

しかも、本判決は、大阪市が不当労働行為意思をもって組合掲示板撤去の通知をしたとの証拠も認められないとも判断しました。
大阪地裁第5民事部(中垣内裁判長)では、これまでの大阪市の一連の労働組合攻撃を不当労働行為と判断してきたにもかかわらず、合議体の構成が一変した第5民事部での本判決は、あっさりと大阪市の不当労働行為意思を否定したのであり、これも大きな問題であります。

6 さいごに

このような判決では労働基本権が十全に保障されません。組合では控訴し、上記の不当性を中心に主張しており、第5民事部の判決がいかに形式的かつ硬直的な不当判決であったかを明らかにしていきたいところです。引き続きのご支援をお願いします。

(弁護団は、梅田章二、河村学、楠晋一各弁護士と西川大史)

新人歓迎企画 「読売テレビ訪問ツアー」に参加して

弁護士 冨田 真平

 68期弁護士の冨田真平と申します。2016年4月4日に行われた民法協・派遣労働問題研究会新人歓迎企画「読売テレビ訪問ツアー」に参加させていただきました。
この企画では、読売テレビ労組を訪問し、読売テレビ労組の現状・取り組みなどについてお聞きするとともに、今後の取り組みについての意見交換を行いました。

読売テレビ労組の報告では、まず読売テレビの正規、非正規それぞれの職員数及び組織率についての報告がされました。派遣などの非正規職員の数が、正社員の約3倍の数に達していること、他方で正社員の高い組織率に比べ、非正規職員についてはなかなか組織化が進んでいないことが報告されました。また、読売テレビ労組の非正規問題への取り組みについても報告がされ、昨年子会社の有期社員について、組合の取り組みにより、無期への転換が行われたことや、現在の派遣・偽装請負問題についての取り組みなどが報告されました。
その後に行われた質疑応答、意見交換では、派遣労働者の待遇・それぞれの派遣労働者の意識などについて、報告・意見交換が行われ、また、読売テレビ労組に持ち込まれた、個人請負契約と派遣契約を併用されていたが、派遣契約への一本化を求められた、という相談についての検討も行われました。
報告・意見交換の後には職場見学も行い、放送局での現場の仕事が実際どのようなものかについてお教えいただきました。

今回の企画では、改めて放送業界での非正規の多さ、非正規問題に取り組む必要性の高さを感じると共に、非正規の問題に取り組む際の困難さを感じました。そのような中で、派遣など非正規の問題に困難を抱えながらも真剣に取り組んでいる組合の姿に感銘を受けました。
労働問題に取り組む上で、現場の実態を知ることが不可欠であり、特に派遣問題に取り組む上では、派遣労働者の待遇・それぞれの派遣労働者の意識、正社員の派遣労働者に対する意識など現場の派遣労働の実態を知ることが不可欠であると思います。今回の企画で、放送業界の労働現場における派遣労働者などの労働者の実態を知ることができ、非常に勉強になりました。今後も是非このような機会を設け続けたいと思います。
最後になりましたが、今回の企画において多大なご協力を頂きました読売テレビ労組の方々に、この場をお借りしてお礼申し上げたいと思います。

大阪過労死防止センター(シンポ+総会) 若者の過労死と経営者の責任~ワタミじけんから何を学ぶか

大阪労連 事務局次長 鈴木 まさよ

2016年4月15日に、大阪過労死防止センターがシンポジウムと第2回総会をエルおおさか南館で開催しました。第1部では、森岡孝二氏(過労死防止大阪センター代表幹事)の主催者挨拶があり、来賓として大阪労働局と連合大阪、大阪労連、大阪全労協の労働組合3団体の挨拶がありました。

 「ワタミ過労自殺訴訟の和解の社会的意義」と題してワタミ裁判代理人の玉木一成弁護士と「ワタミ過労死遺族支援と労働組合の役割」と題して全国一般東京東部労働組合の須田光照書記長が講演を行いました。

ワタミ過労死自殺事件は、平成20年4月にワタミに正社員として採用された26歳の女性新卒社員が、5月には精神疾患を発症、6月12日午前2時頃にマンションから墜落死した〝新入社員の過労死の典型例〟(玉木弁護士)ともいえる痛ましい事件でした。「体が痛いです。・・・どうか助けて下さい。誰か助けて下さい」という残された彼女のメモは、事件とともに衝撃をもって報道され、ブラック企業ワタミへの世論の批判が巻き起こり、若者を使い捨てにする、いわゆるブラック企業への規制強化の運動へと繋がった事件でした。

「道義的な責任はあるが、法的責任は認めない」という渡辺美樹氏に対し、両親の「誰が娘を殺したのか、真実を明らかにしたい」という思いに寄り添い、判決以上の和解を勝ち取った弁護団と支援する労働組合の役割と運動は大きな力を発揮しました。和解では、連日深夜・未明に及ぶ残業、不適切な社宅(遠距離)のため終業後も店内に留まらざるを得ず長時間労働になったこと、過重な調理作業、終業後や休日の研修会への出席など、業務が原因であることを認めさせるだけではなく、ワタミグループの創業者の渡辺氏、代表取締役と人事統括本部長の3者個人に対する、不法行為による損害賠償責任を認めさせたのも画期的でした。

特に渡辺氏に対しては、創業者・代表取締役として、最も重大な損害賠償責任を負うことを認めさせたことは判決以上の内容で、慰謝料額についても通常の慰謝料金額を超える、懲罰的要素を考慮した金額を認めさせました。

さらに、実労働時間を終業時間との相違がないように厳格に管理すること、勤務地と居宅地が離れていることによる、不要な事業場在場時間をなくすこと、研修会、新卒ボランティア活動、課題作成等を業務時間として残業代を支払うこと、さらに正社員募集にあたり、就労実態を正確に説明し、基本給額と深夜手当金額を分けて説明する等の、具体的で厳格な再発防止策を認めさせ、被災者だけでなく、他の新卒社員に対しても、全員賃金等の支払いや控除金の返金を約束させたことは、被災者の命を奪ったブラック企業をまともな企業への再生させたいという、遺族の強い願いを反映させたものでした。

経済利益優先で、長時間過密労働を強いる企業に対し労働時間規制などを強化する世論と運動をともに強化していきましょう。

おおさか労働相談センターは民法協と共催で3カ月ごとに労働相談懇談会を開催しています

おおさか労働相談センター 事務局次長 長岡 佳代子

 4月18日、国労会館1Fホールで第2回労働相談懇談会を開催し、8単産、11地域、弁護士、職対連、大学生など45名が参加しました。続所長の挨拶の後、西川大史弁護士が2016年1月~4月の労働情勢報告を行いました。資生堂争議の勝利和解、日本IBM元社員5人の解雇無効判決など21の報告がされ、「賃金や退職金を大幅に減額する場合、形式的な書類への署名押印にとどまらず、労働者への丁寧な説明を求めた山梨県民信用組合の最高裁判決は特に重要」と西川弁護士は話されました。「契約内容をよく確認せずに押印する労働者が多い中、活用できる良い判決が出された」と思いました。

メインの学習会は「労働者派遣法改正後、労働組合はどんな活動をするべきか?」と題して村田浩治弁護士が行い、具体的な団体交渉要求書(試案)も配布していただきました。厚生労働省は昨年9月30日に都道府県労働局長宛に「派遣が臨時的・一時的なものであること、派遣労働が労働コストの削減や雇用責任の回避のために利用されてはならないこと、労働者派遣法の根本原則である常用代替防止は派遣先の常用雇用労働者の雇用の機会が不当に狭められることを防止することを含むこと」などの通達を発しており、「付帯決議にもあるこの建前を大切にして、労働組合は派遣先事業所から回答を求めて欲しい」「事業所は法律の建前を無視した回答はできないので、派遣先労働組合は建前をきちんと守らせる活動が不可欠」と話されました。無期雇用派遣は派遣先の仕事がなくなれば派遣元の整理解雇の対象となる可能性が高く雇用安定が図られるのかは疑問であるとし、「労働組合は正社員化や均等待遇を求めて組織化をはかるチャンスだ」とも話されました。昨年10月1日施行の「みなし規定」制度について「使用者が違法と知らなかった場合は逃れられるが、労働組合が違法と指摘すれば翌日からみなし規定の適用が可能であり、労働者が承諾すれば派遣先事業所との雇用関係が発生する。過去の負けた60の派遣裁判の8割はこのみなし規定で勝てた」と話されました。「違法でなくなっても1年間はみなし規定が適用でき、派遣先事業所が仮に契約関係を切っても1年間はみなし規定が適用できる」とも話され、みなし規定を活用できるように学習する必要性を感じました。

参加者から「3年後、派遣先労働組合は意見を問われる。派遣先労働組合は派遣労働者の意見を聞くようになる。今までできていなかったことで、運動はこれからだ」との意見が出され、今後の労働局の役割についての質問も出されました。村田弁護士は「労働局は『違法かどうかの抵触判断はするが、みなし規定は裁判所が判断する』と言っている」と話されました。「未組織の派遣労働者の場合は、裁判に訴えないとみなし規定は活用できない、大きな一歩ではあるがハードルが高い」と感じました。

書籍紹介 『自治体職員の働く権利Q&A』と『新基本法コンメンタール地方公務員法』

弁護士 大江 洋一

4月に相次いで地方公務員の法律関係についての書籍が刊行された。どちらも日本評論社による出版であるが、一つは、自治労連弁護団のメンバーである弁護士たちの手になるものであり、もう一つは研究者による執筆である。

自治労連弁護団は平成6年に結成されているが、その前史として、労働戦線の統一を巡っての労労間の熾烈な「組合費裁判」を通じて、事件に関わった全国の弁護士たちの交流と連携があり、自治労連の結成とともに、その繋がりをもとに生まれ、発展してきたものである。その意味では、まさに、自治体労働者の権利擁護の第一線の実践部隊と言ってよい専門家集団である。

私もその末席をけがした一人であるが、結成の当時も『自治体労働者の権利』というような表題で類似のものをつくった記憶がある。しかし、当時の時宜に適ったものではあったが、パンフレットというのが相応しい体裁と中身であった。

ところが今回は、れっきとした出版社からの書籍である。自治労連弁護団が、広く社会的な存在として認知されたことを示すものと言ってよかろう。内容的にも、まさに今、職場で様々に問題化している実践的な項目が広く取り上げられており、検討すべき問題点を平易に示し、判例・学説・実例等を偏りなく引用して現状の到達点を明らかにしつつ、今後の方向性についても示す努力をしている。

個々の論稿には執筆者の名がない。これは、まず全体討議が尽くされ、個々の原稿について、編集にあたった者が全体に十分目を通して、偏りがないかをかなり厳しくチェックしたことが窺える。文字通り弁護団が集団責任でその叡智を集めたものと言ってよい。
労働者や労働組合幹部などにとってのみならず、弁護士にとっても、検討の指針と解決の方向性を探る上では、この本が極めて有益であり、是非推奨したい。

あわせて、より突っ込んだ検討を希望されるときは、後者の『コンメンタール』と一緒に活用されることをお勧めしたい。こちらはそれぞれの問題について精通した研究者の執筆であり、理論的要請にも十分こたえるものであって、この両書が相まって地方公務員法を正確かつ遺漏なく学ぶことができる。

現業・非現業・特別職・期限付き職員や臨時職員など地方公務員法制は錯綜しているが、編者の西谷先生が、スマートに整理されており、私のもやもやを吹き飛ばしてくれた。継受したドイツ法には無いこの混乱が、正されるどころか悪乗りされていることに対しての憤りがひしひしと感じられる。「抜本的な発想の転換」によって「労働法と行政法の統一」を図る課題が、今後を担う後輩たちに託されたと言えよう。