民主法律時報

2016年1月号

「常識」への挑戦――年頭のごあいさつ

会長 萬井 隆令 

 憲法は国家の最高法規であり、ある時の政府の意向で変更できるようなものではないこと、海外派兵が憲法違反であることは確固たる「常識」であった。ところが安倍内閣は、法制局長官を更迭した上で、閣議決定でその常識を覆し、戦争法を国会で成立させた。自民党政府は国際社会からの要請に応え、必要な後方支援(兵站)をするためには自衛隊の海外派兵もやむなし、というが、その「国際社会」は、図解でも星条旗が翻る軍隊に物資を運ぶ自衛隊が描かれていたように、実際にはアメリカ政府・軍のことであり、戦争法はアメリカの戦争に巻き込まれる危険を推し進めた。
従来は、一度成立した法律を廃止することは無理だというのが一般の「常識」であった。しかし、それを甘んじて受入れることはできない。今、戦争法廃止を目指す点で一致する政府を作ろうという運動が呼びかけられ、広がっている。その発想を「常識」として広め、ぜひとも成功させ、一日も早く、戦争法を廃止しなければならない。

沖縄の普天間基地は住宅や学校がすぐ傍にあり、世界一危険な基地だというのは「常識」のようだ。しかし、基地そのものは分厚いコンクリートに覆われた土地でしかない。それ自体が危険なわけではなく、危険なのはそこでオスプレイやヘリコプターを離・発着させて戦争に備えた演習をやるからだ。代替に辺野古に今より広い基地を作れば、より大きな危険と騒音がそこに移転する。その演習をやらなければ、普天間でも辺野古でも危険は直ちになくなる。
結婚すれば夫婦は同一の姓を名乗るものだ、結婚は男女がするもので、同性がするなど異常だといったことも長く「常識」であった。それは今や疑われつつある。
ホワイトカラーの仕事の成果は労働時間数では測れないから、法定労働時間制の適用除外(エグゼンプション)を認めるべきだとか、解雇無効を争って裁判で勝っても実際には職場には復帰できないから、一定額の金銭を支払えば労働契約を解消できる解雇の金銭的解決の制度化は労働者にとっても利益があるという考え方を「常識」化させようとする動きは根強い。しかし、ホワイトカラーも一定の時間内の仕事の成果を問うことにすればエグゼンプションは必然ではないし、裁判で解雇無効とされた労働者を職場に復帰させない使用者の我儘を起点にする金銭的解決制度は偏っている。
偽装請負の場合、発注者と下請け業者の従業員は事実上の使用従属関係にあるから、直接雇用の原則に照らし、両者の間に黙示の労働契約関係が生じていると労働法研究者の多くは理解するが、松下PDP事件・最高裁判決以降、下級審ではそれを否定することが「常識」化し、それ以上のことは考えない、恐ろしいほどの思考停止状態になっている。

世の中には様々な「常識」がある。「常識」は往々にして時の権力者に都合の良いものが含まれ、作られ、流布されるから、私達はそれを一度は疑ってかかる方が良い。一つ一つ自分の頭で考えて、反動的な「常識」は勇気をもって捨て去り、社会の進歩や生活の改善・安定に貢献する「常識」は残し、無ければ創造し、広めて「常識」化する。思想動員という言葉もあるように、そうすることは一つの闘いでもある。今、大らかで力強い「常識」への挑戦が求められている。

日本放送協会事件(不当労働行為救済申立事件)中労委勝利命令のご報告

弁護士 野矢 伴岳

1 事案の概要及び争点

本件は、被申立人である日本放送協会(NHK。以下、「協会」という)が、全受労からの団体交渉の申し入れに対し、協会が外部の者であるとする坂元氏(組合の特別執行委員で堺労連事務局長)の出席を理由として団体交渉を拒否したことが不当労働行為にあたるとして申立人組合(全日本放送受信料労働組合堺支部)から申立てを行った事件で、初審大阪府労委において、協会の団交拒否があったとして文書手交が命じられたことにつき、協会側から中労委に再審査の申立てがされた事件です。
本件の争点は、1.組合員である地域スタッフは協会との関係で労働組合法上の労働者と言えるか、2.平成23年11月2日団交申し入れに対する協会の対応は、正当な理由のない団交拒否にあたるか、の各点でした。

2 中労委の判断

平成27年12月7日付命令では、結論として、いずれの争点についても組合の主張が容れられ、再審査申立てを棄却するとされました。
争点1に関しては、INAX、ビクターの最判事例と同様の基準による検討を行い、(ア)事業組織への組み込みについては、協会が地域スタッフの目標数達成のために強い働きかけを行い、取次件数や集金額等につき法人委託に比較しても地域スタッフが相当大きな比率を占めていること等、(イ)契約内容の一方的・定型的決定については、統一様式の契約書が用いられていること等、(ウ)報酬の労務対価性については、出来高性を基調としつつも基本給的な性格が加えられた給与体系であることや、報奨金や餞別金など労務の供給に着目した制度があること等、(エ)業務の依頼に応ずべき関係については、地域スタッフは協会から目標数を設定され、その達成のために強い働きかけがされている実態があること等、(オ)労務提供に係る拘束や指揮監督については、協会のマニュアルが詳細にわたっていたこと、目標数達成のために強い働きかけが行われていたこと等、(カ)顕著な事業者性については、再委託は補助的なものに留まること、その他顕著な事業者性を認める要素が存在しない等、各々の考慮要素について、ほぼ組合の主張するとおりの事実を認定し、地域スタッフの労組法上の労働者性を肯定しました。

争点2については、坂元氏を地域スタッフではない部外者とし、同人がいなければ交渉を受けると述べ、同人が出席する余地を与えない明確かつ強固な姿勢を一貫して示していることからすれば、協会は本件団交申し入れに対し、坂元氏が出席することを理由に団交を拒否したとみるのが相当、としています。
この点につき協会は再審査段階において、出席者について双方了解のうえで決定するルールが「事前了解」されていたとして、本件団交申し入れに対する団交拒否の正当な理由になると主張しましたが、協会が提出した事前了解を示唆する書証は客観性が高いとは言えず、協会側の一方的な見解を記載したものであり、むしろ全受労側は合意をしたものではないとの立場を表明していたとして、協会主張のようなルールについての合意は認められない、と判断しました。

その他注目すべき点として、救済利益についても、本件が今後も行われる協会と組合との団交における出席者の問題に係るものであることや、協会が今後も同様の行為を繰り返す可能性は否定できず、その防止を図ることが必要であり、救済利益が失われているとはいえない、とされています。

3 本件命令の持つ法的・実践的意義

本件は、NHKの地域スタッフからなる諸組合にとって、使用者側が、不当にも長年に渡り争って来た労組法上の労働者性に関し、委員会の命令においても、最高裁判例の枠組みに従って正当な判断を示したものであり、今後の当該組合の活動にとって重要な意義があるといえます。
また、団交拒否の点についても、組合の交渉担当者は組合が決定すべき事項であることを明言し、これを制限する正当な理由を認めなかったことは、当然のことではありますが、これからの交渉を行う上での実践的な意味を持つと思われます。
上記に関しては初審でも同様の判断がされましたが、本件命令においては、救済利益についても付言された点には、労働者にとっての団交の価値について再確認したものとして、新たな意義があると考えています。

4 最後に

現段階で事件確定には至っておらず、協会側から取消訴訟が提起される可能性も高いと思われます。弁護団としても、手綱を緩めず、さらなる労働者の地位向上に向け、奮闘を続けます。

(弁護団は、河村学、井上耕史、西澤真介、野矢伴岳)

福住コンクリート工業事件・大阪高裁判決―濫用的会社分割による労働組合潰しについて元代表者の責任に加え関与した司法書士の責任 を認める

弁護士 谷  真介

1 事案の概要

本件は、会社分割制度を濫用した新しい形の偽装事業閉鎖・解雇の事案である。
福住コンクリート工業株式会社(以下「旧福住」という)は、生コンの製造・運搬を業とする会社で、代表取締役を務めるN氏一家の同族企業であった。その運搬部門につとめる運転手5名が建交労関西支部の組合員であった。

平成21年6月、旧福住は組合に対し、減給や解雇等を含む重大な合理化提案を行った。これに対し、組合は徹底して団体交渉を求め、不誠実団交で大阪府労委に救済申立を行う事態にまで発展した。すると、かかる救済申立手続き中の平成22年12月、旧福住は、突如組合員らに対し、同社の代表取締役をN氏から第三者に変更した旨と、組合事務所の変更を通知してきた。組合が旧福住の商業登記を調べると、同年11月に旧福住は、資本金わずか10万円で宝永産業株式会社(以下「宝永」という)なる新会社を新設する形で新福住と宝永という二つの会社に会社分割(新設分割)をしていたことが判明した(旧福住は、製造部門を宝永に引き継がせ、組合員はすべて運送部門として新福住に残した)。

その後、組合は新福住や宝永に団交を求めたが、両者ともにこれを拒否する事態となった。するとさらに、会社分割からわずか4か月後に、組合員のみを残した新福住が突如事業を閉鎖し、組合員ら全員を事実上解雇した。直後にN氏は暴力団風の人物を複数雇って、組合員が占有する組合事務所から実力で排除しようとする異常な状態となった。

組合は大阪府労委に新福住と宝永を相手方として救済申立を行い、さらに裁判所に対しても、組合員ら5名(後に1名脱退して4名)が法人格否認により両社に対する地位確認、また組合員らと組合がN氏や会社分割登記を行った司法書士らに対する共同不法行為に基づく損害賠償を求める訴訟を提訴した。

なお、審理の途中で、新福住だけでなく結局宝永も事業を閉鎖することなり、両社に対する地位確認請求や賃金請求は意味がなくなったため、事案を整理する意味で和解することとなった(実質的には意味なし)。その後の裁判での焦点は、N氏と司法書士の個人責任が認められるかどうかという点に絞られたが、さらにその後N氏が自己破産を申立てたため、組合員らが救済されるには司法書士の責任が認められることが必須という状況になった。

2 会社分割制度の問題点

会社分割制度は、平成12年の商法改正で設けられた比較的新しい事業再編制度である。分割会社の事業の一部を承継会社に承継させ、その対価として承継会社(新設会社または吸収会社)が発行した株式の引き当てを分割会社が受けるのが一般である。会社分割の手続は比較的簡便で、株式の引き当てを受けるだけで、承継会社が事業譲渡の対価を現実的に拠出せずとも良いため、本来の用途である分社化というよりも、簡便に事業譲渡ができる手段として、広く利用されている。

会社法上、会社分割に伴って会社債権者が分割会社から承継会社に免責的に承継される場合には債権者保護手続き整備されている。分割会社から承継会社に承継される労働者・労働組合に対しても、使用者が替わることになるため、同じく平成12年に成立した労働契約承継法において、詳細な保護手続きが定められている。しかし、分割会社に残される債権者や労働者には、上記のような保護手続きは存在しなかった。これは、建前上、分割会社は承継会社の発行した株式の引き当てを受けるため、帳簿上の分割会社の資産にマイナスはないからである。しかし、ここに制度上の抜け穴(欠陥)があり、分割会社が事業を譲渡する代わりに承継会社の株式の引き当てを受けたとしても、承継会社が閉鎖会社(株式の譲渡に取締役会等の承認を必要とする会社)で株式が流通しえない場合や、全く形だけの新設会社の場合には、実際には承継会社の株式に何の価値もない。そのため、非採算部門のみを分割会社に残して採算部門を承継会社に承継させた場合であっても、分割会社に残された債権者や労働者には何らの手続き上の保護も受けないまま、自らの会社が非採算部門のみになることを甘受しなければならなくなるという重大な問題が生じる。この抜け穴を濫用して、非採算部門のみを分割会社に残し、採算部門のみを譲渡した承継会社だけ生き残らせ、分割会社(非採算部門)に残した会社債権者・労働者が路頭に迷うという、濫用的・詐害的な会社分割が横行していた。このような法制度上の欠陥を見直すべく、平成26年6月27日に会社法が一部改正され(平成27年5月1日施行)、残存債権者を詐害する濫用的会社分割の場合には、残存債権者は承継会社に対しても直接請求ができる制度が新設された。

本件はこのような会社分割制度の法制度上の欠陥を利用して労働組合潰しを行った不当労働行為事案であり、従来あった佐野南海・第一交通事件のような偽装解散・解雇が会社分割制度を悪用して行われたものである。

3 N氏の責任のみを認めた地裁判決と指南・関与した司法書士の責任まで認めた高裁判決

平成27年3月31日の大阪地裁判決(中嶌崇裁判官)は、N氏が会社分割を悪用して組合を壊滅させようとしたことを認定し、組合員4名及び組合に対する合計約1000万円の損害賠償請求を認容した。しかし、関与した司法書士に対する請求は、N氏の意図を認識していたとはいえず、また容易に認識し得たともいえないとして棄却した。N氏も司法書士も会社分割の悪用の事実を全面的に否定・証言していたため、N氏の責任を認めさせるのが精一杯、という内容の判決であった。

これに対し、N氏はすでに破産していたため(配当は雀の涙ほどであった)控訴しなかったが、組合及び組合員らはこれでは実質的な救済にならないとして控訴。高裁では、組合側は司法書士に少なくとも過失責任が認められるべきだという主張(司法書士には専門家として高度の注意義務が課されており、労働者の権利を違法に侵害する疑いがある場合には、会社分割登記を依頼されてもこれを拒否して関与を避ける義務があった)を強調し展開した。

平成27年12月11日の大阪高裁判決(佐村浩之裁判長)は、司法書士が会社分割に関する豊富な経験を有していたこと、会社分割登記だけでなく会社分割による財産関係をも把握していたこと、組合との合理化に絡むトラブルが会社分割の原因であることを認識していたこと、N氏に新福住の社長を紹介したこと、組合員がすべて新福住に残ることを知っていたこと、会社分割無効の訴えの期間制限についてN氏に回答したこと等の間接事実を認定し、そこから司法書士がN氏と共謀して故意で会社分割・組合潰しを示唆したことを認定。過失どころか故意の責任(共同不法行為責任)を認め、司法書士に合計約1000万円の損害賠償を命じたのである。

4 本件の意義

本件は、会社法の分野においても制度の欠陥が指摘され分割会社に残された会社債権者からの詐害行為取消訴訟が頻発するなど問題の多い会社分割制度を利用し、分割会社に組合員を残して分割会社のみ事業閉鎖をし組合員を解雇して組合を壊滅させることにより、従来なされていた偽装閉鎖・解雇と同様の目的を達成する新手の手法に対して、首謀した元代表者N氏の不法行為責任に加えて、これに指南・関与した司法書士の責任まで認められた判決であり、先例的にも意義がある。会社分割制度の問題点について、労働者保護の側面からも警鐘をならすものであり、平成27年5月1日に改正施行された改正会社法でもその点の配慮はなされておらず、この事件をきっかけに立法的解決が必要である。

(弁護団は、徳井義幸、谷真介、喜田崇之)

芳香族アミン類による膀胱がんの多発問題を受けて

化学一般関西地方本部 特別執行委員 堀谷 昌彦

「職場で膀胱がんが多発している」という訴えから始まった

2015年9月化学一般関西地方本部の合同支部(一人で加盟している組合員によって構成されている)の定期大会で組合員Aさんから「職場で昨年から膀胱がんが多発しているので、何とかして欲しい」と訴えがあり、それを受けて職場の労働環境や取り扱い物質、発がん者の取り扱い履歴などの調査に入った。発がん者はすべてオルトトルイジンを含む芳香族アミンを原料としてアセトアセチル化反応を行った生成物を乾燥後収袋する作業に従事していた。その職場環境はガスと粉じんが蔓延し劣悪極まりないものであった。

芳香族アミンは主として膀胱がんを引き起こす化学物質として古くから知られており、オルトトルイジンについては動物実験だけではなく人に対する発がん性の証拠があるとして、IARC(国際がん研究機構)ではグループ1(人に対して発がん性がある)に分類されている。当該工場の従業員約40名のうち当該作業をしているのは10名程度であるが、2014年に1名、2015年に3名と4名もの膀胱がんが発症しており、大変な発症率である。私たちは翌10月福井県に出向き、Aさんの他発症者を招いて芳香族アミンの発がん性について報告するとともに会社が対応すべき暴露防止策やSDS(セーフティデータシート)の整備、発がん物質を取り扱った労働者に対し早期発見をするための特殊健康診断や術後の補償を取り決めた協約の紹介などについての学習会を実施した。参加者からは、これまでの働いてきた労働環境の実態が報告され、4年前まではSDSが整備されていなかったこと、職場に設置されたSDSには動物実験で発がん性が確認されたと記載があり、当該作業者が不安になり作業環境改善を申し入れたが対応してもらえなかったこと、それより以前にはTシャツ姿で粉じんまみれで作業していたことなどが報告され、労働組合を通し職場改善を実施していくことを確認した。

しかし11月に入るとAさんまでもが血尿が確認され、膀胱がんを罹患していることが判明し12月に腫瘍の摘出手術を受けることとなった。会社は操業を止めなかったが、ようやく12月3日労働基準局へ膀胱がんの多発について相談をした。

それ以降の経過を簡単に列挙する。
12月7日福井労働基準監督署が抜き打ちによる立ち入り調査を実施した。
12月14日Aさん他3名が労災申請の用紙を会社に提出し会社に証明を求めた。工場長は「署名捺印する」と返答があった。
12月15日と16日労働局と産業労働安全衛生研究所による現地調査があった。
12月17日Aさんらが会社に提出した労災申請用紙を求めると「証明はできない」とし証明拒否理由書を渡された。
12月18日厚生労働省が「芳香族アミンによる健康障害の防止対策について関係業界に要請しました」と報道発表した。
12月21日福井労働基準監督署と労働基準局に訪問し、職場改善の指導と原因特定についての要請をした。夕方県庁記者室にて記者会見を実施した。
12月22日当該工場へ訪問し今後の進め方などについて意見交換をした。これより当該事業場は操業を停止し現在に至っている。

化学物質の法規制における問題点

発がん物質の取り扱いに関しては、主として特定化学物質障害予防規則(以下、特化則と称す)で規制がかけられている。本事案に関わる化学物質であるオルトトルイジンについてはIARCではグループ1に分類されているにも関わらず、日本においては特化則に指定されておらず、従って製造する際の労働安全衛生対策はそれを取り扱う事業場の力量に委ねられてしまっている。

厚生労働省においては当該化学物質の危険性については把握していたが、曝露の評価が小さかったため、総合リスクは小さいとの検討会報告書を受け、規制対象から外している。過去に印刷業界で発生した胆管がんの多発問題があるが、危険性が明確でない化学物質の取り扱いの中で胆管がんが多発したのに対し、本事案は危険性が明確である化学物質の取り扱いの中で膀胱がんが多発した点に注目できる。即ち、曝露の評価が現場の実態を正確に反映していなかったことになる。更に、この事案はオルトトルイジンが原因物質と特定されたわけではなく、発がん者はオルトトルイジンを含む芳香族アミンと特にその誘導体に大量に暴露されてきたという事実が大変重要と考えている。

オルトトルイジンだけを特化則に指定して幕引きをするのであれば、また違う芳香族アミン及びその誘導体に大量暴露された労働者に膀胱がんが多発するなどということが再発しかねない。
本事案は芳香族アミンが引き起こすがん原性を包括的に捉えて法対応していく必要がある点を強調しておきたい。

第48回労災職業病学校 働くもののいのちと健康を守る学習交流会

大阪医労連 中島 昌明

 2015年12月5日に国労会館で第48回労災職業病学校が  名の参加で開催されました。実行委員会を6回開催して、メインテーマ・記念講演・特別報告・分科会の内容などを練り上げました。

大阪労連の川辺議長の開会あいさつに続いて、記念講演は和光大学教授でジャーナリストの竹信三恵子さんから「世界一企業が活躍しやすい国のリアル」と題してお話をいただきました。最初にピケティーの理論では、資本主義の下では格差は放置すれば拡大することが紹介されました。1970年代以降に資本の膨張が始まり、1980年代以降に所得格差の拡大が顕著になっていることがデーターで示されました。そして、現在の日本の税金の制度や経済政策が格差を拡大していることが厳しく指摘されました。安倍政権の円安・株高誘導と消費税の増税が格差を拡大させ、生活保護や社会保障の削減が再分配の仕組みを弱体化していることが、生きづらい社会にしているとの主張は参加者の納得と共感を得ました。

特別報告は「公務職場の労働安全衛生活動」について八尾市職労の方からと「過労死のない社会を」大阪過労死家族の会からの2本でした。安全衛生活動の基本を忠実に守り堅実に活動を継続している内容は大いに参考になるものであり、介護職場の事務をされていた夫を過労によるくも膜下出血でなくされた家族の会の方の訴えは、参加者の心に響く問題の深刻さと悲しみが伝わってくるものでした。

午後からの分科会は①メンタルヘルス問題、②安全問題、③労働安全衛生活動の3つで行いました。①メンタルヘルスの分科会では金融職場でおこったパワハラの事例が紹介されました。支店長を中心とする支店幹部の容赦のない攻撃や嫌がらせに、精神疾患を発症し休職を余儀なくされた事例は労働組合のない職場での常識を逸脱したパワハラが生々しく報告されました。参加者の討議でも印刷労働者から暴力が横行する職場の状況が報告され、問題の根の深さが実感されました。②安全問題の分科会では全労働の方を講師に大阪の安全問題について学習を行い、化学一般の労働者からの現場の報告を受けて、参加者から職場の実態や安全問題の取り組みなどを出し合い討論しました。③安全衛生活動では化学一般の方から労安活動の基本的な進め方、福祉保育労の方から職場での実際の取り組みの報告があり、参加者からも自分の職場の取り組みを出し合い、多くの経験が聞けて参考になったと好評でした。

全体を通して内容豊かに、充実した取り組みになったと思います。しかし、参加者が昨年と比べても少なくなっており、日常的な安全衛生運動の活発化と労災職業病学校の活動の前進にさらに努力しなくてはならないと感じました。

これでええんか! 雇用と貧困―働き方ASU―NET第23回つどいの報告

弁護士 稗田 隆史

 12月9日(水)、NPO法人働き方ASU―NETが主催する第23 回つどいがエル・おおさかにて開催され、私も参加してまいりました。
このつどいは、「雇用と貧困」をテーマとして取り上げており、今年、『雇用身分社会』(岩波新書)を著した森岡孝二さん(NPO法人働き方ASU―NET代表理事)と、『下流老人』(朝日新書)を著した藤田孝典さん(NPO法人ほっとプラス代表理事)のお二方のご講演と対談形式により行われました。会場には、140人を超える人たちが詰めかけており、大変な盛況でした。

森岡孝二さんのご講演では、「男は残業、女はパート」という考え方こそが今日の日本における労働状況の諸悪の根源であり、①この27年間で非正規雇用者が17 %から40%に増加しており、若者の世代ではそれが5割に達していること、②正規雇用者であっても賃金が下がり続けており、労働者の半数が年収300万円以下、年収200万円以下の労働者が日本には1800万人(うち1500万人が非正規労働者)にも達していること、③現代のブラック企業の働かせ方は、戦前の暗黒工場の働かせ方を想起させるものであって戦前回帰が始まっていることなど、日本の労働状況の問題点を指摘されました。その上で、雇用身分社会から抜け出す方法として、①労働者派遣制度の抜本的な見直し、②非正規労働者の比率の引き下げ、③雇用・労働の規制緩和との決別、④最低賃金の引き上げ、⑤8時間労働制の確立、⑥性別賃金格差の解消、の6点を実現する必要があることを紹介されました。

次に、藤田孝典さんのご講演では、「皆さん、まずは今日、絶望してください。未来のない話をします。」と衝撃的な言葉で始まり、社会福祉・社会保障という観点から、雇用問題について言及されました。日本の国民の貧困率(相対的貧困率)は、16.1%(6人に1人)であり、高齢者では、22%(4~5人に1人)に達しており、下流老人(藤田さんの造語であり、生活保護基準相当で暮らす高齢者及びそのおそれがある高齢者を指します。)に該当する高齢者は、700万人もいると推計され、今後も増える傾向にあることを指摘されました。その上で、このような下流化を防ぐ方法として、①生活保護制度の正しい理解、②社会保障・福祉制度の活用、③プライドを捨てること、④可能な限り貯蓄すること、⑤地域社会への積極的参加、⑥「受援力」を身に付けることを紹介されました。

海外では貧困を防止する政策が推進されていますが、日本では政策的に貧困が広がっていく制度になってしまっています。若者の雇用が不安定になることにより、年金制度が崩壊し、高齢者の社会保障・福祉制度の活用の機会が減ってしまうのです。今回のつどいに参加することにより、労働者の雇用劣化の問題は、日本における社会保障の問題と表裏一体の関係にあることが理解できました。このような深刻な事態にあることを社会全体で共有化し、正しい理解のもと、制度そのものを改善すべく、今後も社会的活動に取り組んでいく必要性があることを再認識することができました。

安心して住み続けられる住宅政策を求め続けて

全大阪借地借家人組合連合会 船越 康亘

 全大阪借地借家人組合連合会(大借連)は、昨年9月23日、第35回定期総会を開き、創立48年を迎えました。

家賃・地代高騰のなか、住環境改善へ

1960年代後半、人口の都市集中によって過密都市化が進み、乱開発による狭小過密住宅が乱立して住環境の悪化を引き起こし、公害問題とともに深刻な都市問題となりました。
当時の政府は、戦前に創設され、地代家賃の最高限度額を決めた地代家賃統制令(以下、「統制令」)の「廃止」を前提にして、1971年12月28日告示により、最高限度額を地代で2.8倍、家賃で2.7倍に引き上げて地代家賃の大幅な値上がりに追い討ちをかけました。大借連は、「統制令」の廃止に反対するために告示取り消しの違憲訴訟を提起しました。1981年、東京高裁は、告示行為は政府の裁量の範囲との判断を示す一方で、最高限度額を超えて合意した地代家賃は無効であるとの見解を示しました。

この「統制令」廃止反対運動の最中に、政府は、消費者米価の物価統制令の適用除外を廃止する方針を示し、国民の中に「米の物価統制令廃止」に反対する国民的運動が高まりました。
大借連は、政府の「米の物価統制令廃止」と「統制令」廃止の方針は、国民の衣食住に重大な影響を与える悪政であり、国民生活を不安に陥れる共通した課題として重視して取り組みました。

公営住宅の大量建設、家賃補助制度を

地代家賃の値上げ問題は深刻な社会問題となり、借地借家人の住生活に深刻な影響を与えました。とりわけ、民間借家の家賃負担が重くなることで政府の持家政策に拍車がかかり、住宅ローンが住生活に重荷となって「ローン破綻」に陥る国民が急増しました。
大借連は、天井知らずの家賃の高騰と「ローン地獄」に追い遣られる持家政策に反対し、「国民が安心して住み続けられる安価な公営住宅の大量建設」こそ国民の住生活の安定が確保できるとの見解を発表し、国民本位の住宅政策の実現を掲げて運動してきました。
合わせて、大借連は、民間借家居住者で公営住宅入居有資格者に対しては、公営住宅入居資格者並みの家賃補助制度の創設を求めてきました。現在も、低所得者や新婚世帯への家賃補助制度を創設することを課題として国と自治体へ要求し、署名運動に取り組んでいます。

借地法・借家法改悪反対の全国運動展開

80年代前半、中曽根臨調路線がすすむ中で、借地借家人の憲法であり、民事の基本法である借地法・借家法の改悪案が示されました。しかし、国民の激しい反対運動によって、借地法・借家法の名称を借地借家法に変更し、定期借地制度、定期借家制度を新設されたものの、既存の契約には適用しないことなど当初推進派が期待していた「改正」は実現しませんでした。この過程では、明け渡しの正当事由や賃料改定の事由などについても、基本的には「改正」が見送られました。
このように推進派が期待していた全面的な改悪に歯止めとなったのは、全国借地借家人組合連合会を中心とした住宅要求団体や自由法曹団などの広範な国民が改悪反対運動に取り組んだ成果でもありました。

空家対策は安全安心の街づくりの視点で

2014年11月27日、「空家等対策の推進に関する特別推進法」が公布されました。空家は、全国で約820万戸、大阪府内では67.9万戸(2013年、空家率14.8%)にのぼり、住宅改善の課題となっています。
大阪の空家は、賃貸用住宅が最も多く、41.9万戸あり、約25%15.7万戸が朽廃・破損状況と劣悪状態です。大阪府では、空家居住用住宅に対して固定資産税、都市計画税の特別措置を適用除外にする税制を今年度から実施し、空家を除去する誘導策を推進しようとしています。
空家の放置は防災面や地域治安など地域環境の悪化の要因ともなっており、地域住民の関心ごとで、住民参加の街づくりに発展する可能性が生まれています。大借連では、安全で安心して住み続けられる地域づくりをめざして運動しています。