民主法律時報

トンデモない国会戦略特区「雇用指針」

弁護士 城 塚 健 之

 安倍内閣の成長戦略は、雇用を流動化し、労働者への支払を少なくすることで企業利潤を高めようというものです。昨年、「ジョブ型正社員(限定正社員)」という概念が大いに宣伝されました。「職種・勤務地・労働時間が限定されている正社員は解雇しやすい(のではないか)」という宣伝です(どうやら普通の正社員は労働時間が「限定」されていないと言いたいようです。正社員たるもの、幸せをかみしめて過労死するまで働けということでしょう)。

 しかし、裁判所は、職種や勤務地が限定されているからといって、そうそう簡単に解雇は認めていません。そこで「ジョブ型正社員」論はやや下火になりました。
代わって登場したのが国家戦略特区です。最初は「解雇特区」を導入すると言っていました。そんなものが導入されたら日本の大半で解雇自由になってしまう、と昨年の民法協総会で日本労働弁護団の水口幹事長(当時)が警鐘を鳴らされたことはご記憶かと思います。しかし、まともに考えれば、「大阪では解雇自由です」なんてことが許されるはずがありません。厚労省も弁護士会も反対して、これも沙汰やみとなりました。

 結局、12月に成立した国家戦略特区法は、六つの分野で規制緩和を行うとしており、その中に「労働」という項目も挙げられてはいますが、それは、①「雇用労働相談センター」を作って労働法に疎い外資系・ベンチャー系企業の相談に応じる、②高度専門職の有期雇用の無期転換の特例を作る、の二つだけでした。でも、①は規制緩和ではありませんし、②は全国一律の法改正ですから、何でこんなものが国家戦略「特区」法に入っているのか、わけが分かりません。この法律の作り方から見ても、安倍内閣のめちゃくちゃさが分かります。無茶を承知でごり押し、抵抗が強ければ引っ込めるの繰り返し。集団的自衛権容認もそうですが、まったく前代未聞のトンデモ内閣です。

 さて、国家戦略特区法は、①の「雇用労働相談センター」が企業の相談に対応するための「雇用指針」を作るものとしています。かくて法律に義務づけられて作られた「雇用指針」ですが、これがまたトンデモない代物でした。「雇用指針」は、企業の労務管理を「外部労働市場型」(ヘッドハンティングで即戦力として中途採用されるイメージ)と「内部労働市場型」(新規学卒者を一定数採用して企業内で育てていくイメージ)に仕分けして、「外部労働市場型」では、転職あっせんや解決金などの「退職パッケージ」を提示すれば、容易に解雇ができるような書き方をしているのです。しかし、裁判所がそう言っているわけではありません。これは明らかに、裁判官も含めて国民の考え方を操作しようとしているのです。間違ったことでも、繰り返していればもっともらしく聞こえてくるものですから、これはあなどれません(この手法はナチスドイツの宣伝方法ですが、近年の消費税や大阪都構想なども同じです)。

 このほか、「雇用指針」には、年俸には残業代を含めて扱ってもいいなど、明らかに誤った記載も見られます。あぶない、あぶない。みなさん、国が作る文書だからといって正しいとは限りません。こういうものを鵜呑みにせず、分からないことは民法協の弁護士に相談するようにしましょう。

 なお、雇用指針に対するトータルな批判は、城塚健之「国家戦略特区「雇用指針」の問題点」労旬1818号(2014年6月下旬号)をご参照ください。同号は国家戦略特区批判特集で、「雇用指針」も全文が収められています。

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