民主法律時報

2014年9月号

朝鮮学校襲撃事件――第1審、控訴審判決を経て

弁護士 仲  晃 生

第1 事案の概要

 在日朝鮮人が民族教育を実施することを目的に運営する学校法人に、在特会というグループのメンバーが押し掛け、差別言動等を繰り返して授業を妨害する等したことに対して、学校法人が原告となり、在特会及びそのメンバーを被告として、名誉毀損・業務妨害に基づく損害賠償(3000万円ほど)のほか、学校周辺での街宣活動の差止を求めた事件で、京都地裁平成25年10月7日判決も大阪高裁平成26年7月8日判決も、1266万円ほどの損害賠償請求を認容。さらに、被告の一部メンバーに対する差止請求を認容した。

第2 両判決の相違点 人種差別撤廃条約上の裁判所の責務、直接適用の可否

 両判決とも、在特会側の行為を人種差別撤廃条約上の人種差別に該当すると認定し、同条約を不法行為法の解釈に読み込む形で、賠償額の高額化を導いた。だが、同条約の適用にあたっての論理は、両判決で大きく異なる。

 京都地裁判決は、同条約2条1項は締結国に対し人種差別を禁止し終了させる措置を求めていること、6条は締結国に対し、裁判所を通じて、人種差別に対する効果的な救済措置を確保するよう求めていることを受けて、「これらは、……締結国の裁判所に対し、その名宛人として直接に義務を負わせる規定であると解される。このことから、わが国の裁判所は、人種差別撤廃条約上、法律を同条約の定めに適合するように解釈する責務を負う」としたうえで、民法709条を同条約の定めに適合するように解釈する。たとえば、無形損害の金銭評価に際しては、「無形損害に対する賠償額は、行為の違法性の程度や被害の深刻さを考慮して、裁判所がその裁量によって定めるべきものであるが、人種差別行為による無形損害が発生した場合、人種差別撤廃条約2条1項及び6条により、加害者に対し支払を命ずる賠償額は、人種差別行為に対する効果的な保護及び救済措置となるような額を定めなければならないと解される」とする。ここでは、日本における不法行為法の通説である損害の填補賠償にとどまらず、「効果的な保護及び救済措置」を実施するための制裁的な、あるいは特別予防もしくは一般予防的な賠償額の高額認定をも可能とする論理が、同条約の文理解釈・趣旨解釈を通して説得的に導かれている。これは、刑事事件であれば人種差別の動機が量刑を加重させるとする日本政府の人種差別撤廃員会における答弁で示された、「人種差別撤廃条約が法の解釈適用に直接的に影響することは当然のこととして承認されている」とする認識の当然の帰結でもあった。

 ところが、大阪高裁は、上記の下線部等を削除した。そのうえで、私人間への間接適用法理を用い、不法行為法の通説の枠内すなわち填補賠償の枠内で、人種差別撤廃条約の趣旨が人種差別行為の悪質性を基礎づけ、それにより無形損害に対する賠償額が高額化するという論理を用いた。

 今後は、①なぜ大阪高裁は、同条約上の裁判所の責務や、制裁的あるいは特別予防・一般予防的な損害額の認定を可能にする、1審判決の論理を削除したのか、②はたしてそのような削除が同条約の趣旨に合致するのか、③1審判決の論理が、不法行為法の従来の通説の枠や司法権の範囲に関する通説の枠を超えるとしても、人種差別撤廃条約に加盟した現段階において、それら従来の通説の枠組みを維持し続けることに法的合理性・論理性は存在するのか、といった点について議論を深める必要があろう。

第3 両判決の共通点 被害事実の深刻さが基礎となっていること

 「効果的な保護及び救済措置」のための賠償額高額化という論理を採用しなかった大阪高裁判決だが、結論的には、京都地裁の認定した賠償額は追認した。両判決のよって立つ論理の相違を思うと奇異にも思える。しかし、両判決とも、学校側が長期に渡り強いられた対応が如何に過酷で厳しいものであったかということ、これからもインターネットによる動画拡散等を通じて被害が再生産される可能性があることなど、被害事実及びその深刻さについての認識・評価では一致している。それらの被害事実をベースとした場合、本件は、人種差別行為による損害は過小評価されがちであるとする人種差別撤廃委員会の一般的意見  ―1などを踏まえると、大阪高裁の論理によっても1226万円程度の賠償額は優に認められて当然の事案であった。そして、京都地裁判決も、実は、同様に積み上げた賠償額1226万円が「効果的な保護及び救済措置」に資する額であると判断していた可能性もある。

第4 展望

 本件に人種差別撤廃条約を適用することで妥当な結論を導くには、どのような論理を用いるべきか。京都地裁判決と大阪高裁判決は、そのための論理が二つありうることを示した。いずれがより適切であるのか、あるいは他の論理もあるのか、第2で述べた点を中心に、今後、議論が深まっていくことを期待したい。

トンデモない国会戦略特区「雇用指針」

弁護士 城 塚 健 之

 安倍内閣の成長戦略は、雇用を流動化し、労働者への支払を少なくすることで企業利潤を高めようというものです。昨年、「ジョブ型正社員(限定正社員)」という概念が大いに宣伝されました。「職種・勤務地・労働時間が限定されている正社員は解雇しやすい(のではないか)」という宣伝です(どうやら普通の正社員は労働時間が「限定」されていないと言いたいようです。正社員たるもの、幸せをかみしめて過労死するまで働けということでしょう)。

 しかし、裁判所は、職種や勤務地が限定されているからといって、そうそう簡単に解雇は認めていません。そこで「ジョブ型正社員」論はやや下火になりました。
代わって登場したのが国家戦略特区です。最初は「解雇特区」を導入すると言っていました。そんなものが導入されたら日本の大半で解雇自由になってしまう、と昨年の民法協総会で日本労働弁護団の水口幹事長(当時)が警鐘を鳴らされたことはご記憶かと思います。しかし、まともに考えれば、「大阪では解雇自由です」なんてことが許されるはずがありません。厚労省も弁護士会も反対して、これも沙汰やみとなりました。

 結局、12月に成立した国家戦略特区法は、六つの分野で規制緩和を行うとしており、その中に「労働」という項目も挙げられてはいますが、それは、①「雇用労働相談センター」を作って労働法に疎い外資系・ベンチャー系企業の相談に応じる、②高度専門職の有期雇用の無期転換の特例を作る、の二つだけでした。でも、①は規制緩和ではありませんし、②は全国一律の法改正ですから、何でこんなものが国家戦略「特区」法に入っているのか、わけが分かりません。この法律の作り方から見ても、安倍内閣のめちゃくちゃさが分かります。無茶を承知でごり押し、抵抗が強ければ引っ込めるの繰り返し。集団的自衛権容認もそうですが、まったく前代未聞のトンデモ内閣です。

 さて、国家戦略特区法は、①の「雇用労働相談センター」が企業の相談に対応するための「雇用指針」を作るものとしています。かくて法律に義務づけられて作られた「雇用指針」ですが、これがまたトンデモない代物でした。「雇用指針」は、企業の労務管理を「外部労働市場型」(ヘッドハンティングで即戦力として中途採用されるイメージ)と「内部労働市場型」(新規学卒者を一定数採用して企業内で育てていくイメージ)に仕分けして、「外部労働市場型」では、転職あっせんや解決金などの「退職パッケージ」を提示すれば、容易に解雇ができるような書き方をしているのです。しかし、裁判所がそう言っているわけではありません。これは明らかに、裁判官も含めて国民の考え方を操作しようとしているのです。間違ったことでも、繰り返していればもっともらしく聞こえてくるものですから、これはあなどれません(この手法はナチスドイツの宣伝方法ですが、近年の消費税や大阪都構想なども同じです)。

 このほか、「雇用指針」には、年俸には残業代を含めて扱ってもいいなど、明らかに誤った記載も見られます。あぶない、あぶない。みなさん、国が作る文書だからといって正しいとは限りません。こういうものを鵜呑みにせず、分からないことは民法協の弁護士に相談するようにしましょう。

 なお、雇用指針に対するトータルな批判は、城塚健之「国家戦略特区「雇用指針」の問題点」労旬1818号(2014年6月下旬号)をご参照ください。同号は国家戦略特区批判特集で、「雇用指針」も全文が収められています。

第59回定期総会を開催しました

事務局長 中 西   基

 2014年8月30日(土)に民法協第59回定期総会を開催しました。
好天に恵まれた夏休み最後の週末にもかかわらず、87名もの多数の参加者があり大盛会でした。これも安倍内閣が矢継ぎ早に繰り出す労働法破壊、憲法破壊の策動に対して、多くの会員が危機感を抱いておられることの反映だと思われ、民法協の活動への期待の大きさを感じました。

記念講演は、森岡孝二さん(関西大学名誉教授)に、『労働者の命と健康を売り渡す残業代ゼロ制度~制度設計のウソの皮を剥ぐ~』との演題でご講演いただきました。森岡先生は、6月に閣議決定された成長戦略改訂版の柱は雇用制度改革であり、雇用制度改革の中の柱は労働時間制度の規制緩和である、と指摘されました。安倍政権が進めようとしている「新たな労働時間制度」とは、過重労働防止策が先決なのに過重労働促進策を提起しており、労働者の「いのち」よりも、企業の「もうけ」を優先している点で本末転倒の議論であると喝破されました。そのうえで、今年6月に制定され11月に施行予定の過労死防止法を活用して、安倍政権の労働時間規制緩和の流れを変えようと提起されました。

その後、議案書に基づいて、2014年度活動総括と2015年度活動方針が提案され、引き続いて、会員各位から積極的な討論が行われました。主な発言は次のとおりでした。
・日本郵政の有期契約労働者が正社員との処遇格差の是正を求めて提訴した裁判の意義について。(郵政ユニオン・松岡さん)
・東京高裁で不当判決が出され最高裁へ上告して闘っているJAL争議について。管財人による不当労働行為については、東京都労委に引き続いて、東京地裁でも不当労働行為が認定されたこと。(JAL争議団・内田さん)
・大阪高裁で不当判決が出され最高裁へ上告して闘っているダイキン争議について。(JMIU・青山さん)
・橋下市長が実施した思想調査アンケートについて、市長直筆の業務命令として回答を命じられ、回答しなければ懲戒処分を受けるのではないかとの恐怖にさらされた現場の職員の思いについて。(大阪市労組・川本さん)
・特定秘密法廃止運動について。(関西MIC・伊藤さん)
・生活保護基準の切り下げ、生活保護法の改悪に対して、団結して闘っている生健会の活動について。(大生連・江田さん)
・最高裁で弁論が開かれることとなった泉南アスベスト国賠訴訟への支援の訴え。(弁護団・鎌田弁護士)
・教育委員会制度の改悪、教科書検定への介入、道徳の教科化によって国民への思想教育を進めようとしている安倍内閣の危険性について。(藤木弁護士)

以上の他にも多数の発言があり、討議の時間が足りなくなってしまったことは、事務局として大反省していますが、あらためて、民法協の活動の広がりと重要性を実感する総会になりました。
引き続き、厳しい情勢が続きますが、新たな活動方針の下に活動してまいりますので、会員の皆さまにはぜひ積極的に活動へ参加していただきますようお願いいたします。

大阪弁護士会における秘密保護法反対の取り組み

弁護士 向 井 啓 介

1 7月6日扇町公園での野外集会

2014年7月6日の雨が降る日曜日、扇町公園にて、秘密保護法の廃止を求める集会が大阪弁護士会主催で行われました。これに先立つ5月15日には、集団的自衛権の行使を容認すべきであるとの安保法制懇の報告を受け、安倍首相が集団的自衛権の行使容認に向けた法整備を検討するとの記者会見を行い、それを受けて7月1日に、集団的自衛権の行使を容認するとの憲法解釈の変更を閣議決定しました。扇町公園での集会は、閣議決定直後の大規模な集会ということもあり、秘密保護法の反対にとどまらず、閣議決定による集団的自衛権の行使容認に対する反対する人々も多数参加されました。
そのため、この日の集会は、政党関係者、秘密保護法の廃止に向けて行動している市民団体、宗教団体、環境団体、医療関係者、消費者団体等多岐にわたる団体がアピールをし、また、5000人を越える人々が集い、集会としては成功したと言ってもよいと思われます。
もっとも、大阪弁護士会としては、これまで5000人規模の屋外集会をした経験がなく、集会の企画段階から、運動団体の協力をえながら進めていきました。集会自体に参加された各種団体はもちろんのこと、集会の企画段階から協力していただいた団体には、この場を借りてお礼を申し上げます。

2 大阪弁護士会の秘密保護法反対の動き

大阪弁護士会では、2010年8月に出された有識者の報告書を受けて、政府(当時は民主党政権)が法案準備に取りかかろうとした時期の2011年2月に、秘密保全法プロジェクトチームが設置されました(座長は大江洋一弁護士)。
その後、4月に元毎日新聞記者の西山太吉さんらをお招きしてシンポジウムを行い、5月には弁護士会主催でデモ行進を行いました。その後、年に2回のペースでシンポジウムを行い、弁護士会の会員及び市民に向けて、秘密保護法の問題点と危険性を訴えてきました。
そして、プロジェクトチームは対策本部に格上げされ、秘密保護法が国会に上程された2013年秋の臨時国会の期間中には大規模なデモ行進を行うことができました。残念ながら、法律は成立してしまいましたが、その後も法律の問題点や危険性について研究し、その成果を市民に向けて発信し続けています。

3 10月30日の中央公会堂での集会

現在、大阪弁護士会では、10月30日の夕刻に中央公会堂の大ホールをお借りして、市民集会を開催することを企画しています。現時点では、どのようなゲストをお招きするかとか、どのように進めていくかについて企画段階ではありますが、12月の法律施行前の大規模な集会になるように知恵を絞っています。折しも、閣議決定で集団的自衛権の行使容認を決めた直後の臨時国会の開催期間中であり、また、秘密保護法の運用基準等もとりまとめられ、いよいよ秘密保護法が実際に運用されようとしている時期でもあり、もう一度、昨年の11月から12月にかけて全国各地で秘密保護法の成立に反対するとの声がわき起こったような運動の起爆剤になることを期待しています。
この記事をお読みになられた皆様も、お忙しいとは思いますが、お時間の許す限り、10月30日の中央公会堂の集会にご参加されますよう、お願いいたします。

なお、現在の情勢においては、秘密保護法の単独の法律に反対するだけにはとどまらず、7月1日の閣議決定や法律レベルで憲法が標榜する戦争の禁止や平和主義が踏みにじられようとしていることへの対応が必要です。秘密保護法も、戦争準備のための統制の法律の一部であり、また、秘密保護法の次は共謀罪の成立とも言われており、こちらの法律は、市民運動や労働運動を抑圧する手段として利用されかねず、治安立法の強化の動きには弁護士会のみにとどまらず、運動団体においても敏感に対応していくべきであると思われます。

第4回労働相談懇談会の報告

弁護士 中 峯 将 文

 2014年8月28日、第4回労働相談懇談会が大阪労連労働相談センターと民法協共催で開催されました(参加者約20名)のでご報告いたします。
宮武委員長(大阪労連労働相談センター)から主催者挨拶がなされた後、西川大史弁護士から恒例となっている労働裁判等の情勢報告(2014年6月~同年8月)が行われました。

西川弁護士からは、NHK受信料の集金業務スタッフの労働者性が認められた判決(2014年6月5日)、大阪市の思想調査アンケート問題について不当労働行為と認定した中労委の決定(6月27日)、日本郵便を相手に労働契約法20条違反を主張し正社員との格差是正などを求めて提訴した事件(6月30日)、パワハラを受けたとしてサントリーに対し損害賠償を求めて提訴した事案で290万円もの賠償命令が出た判決(7月31日)、育児休業を理由に昇給させないことを違法として損害賠償を求めた事件について賠償を命じた地裁判決をさらに進め認定額を増額した高裁判決(7月18日)などが紹介されました。この間の情勢を見ると、これまでと流れを一にしており、非正規を巡る事件と精神疾患の事件が多数を占めるとのことでした。

参加者からは、サントリーに対するパワハラはどのような主張立証をして認められたのか、労働相談を受けるにあたって参考にするために知りたい、という質問や、日本郵政に対する裁判の原告の年齢構成について質問が出ました。後者については、若年令層の争議が少ないと感じているという問題意識から出たものでした。

次に、菅野園子弁護士を講師として、会社からの損害賠償を巡る法律問題について学習会が行われました。菅野弁護士から一般的な法律論について説明してもらった後、典型事例や労組側から事前に出してもらった相談事例をもとに参加者で議論が行われました。議論の場では、レジの金額が合わない場合に欠損分を従業員に支払えと言われる事例に対してどう対処すべきか、疾患が原因で仕事のミスをしてしまった事例をもとに、疾患の存在を会社にどこまで言うべきか、などが議論されました。

議論は盛り上がり尽きませんでしたが、労組としては、労働者を働かせて利益を得ている使用者は労働者に求償出来ないのが原則と考えるべきだということが確認されました。
次回は、 月3日午後6時 分から国労会館にて開催される予定です。終了後懇親会も開かれるので、皆さん是非ご参加ください。

書籍紹介『労働審判を使いこなそう! 典型事例から派遣・偽装請負まで』

弁護士 西 川 大 史

1 はじめに

2014年8月に、「労働審判を使いこなそう!」(伊藤幹郎・後藤潤一郎・村田浩治・佐々木亮各弁護士著、エイデル研究所)が発行されました。
労働審判の申立件数が年々増加する傾向にある中、労働審判手続の解説など入門書的な書籍が多く発行されていますが、本書は実践的な内容であり、労働者側弁護士や労働組合の活動家にとっては必読の一冊です。

2 書籍の特徴

まず、本書では、解雇や残業代請求などの典型的な類型から、ハラスメントや派遣労働などの複雑な類型まで網羅しており、それぞれの事件類型ごとの留意点やポイントが記されています。また、巻末には著者がこれまでに扱った全222件の労働審判事例の一覧が掲載されていることも本書の大きな特徴の一つです。労働審判の解決事例は法律雑誌等にも掲載されることが少なく、どのような事案について労働審判手続を選択したのか、各事件の解決水準などがあまり明らかではありません。これだけ多くの解決事例が掲載されている書籍はまずありません。

また、本書では、第1回審判期日に当たっての留意点なども詳しく記されています。近時の労働審判手続では、審判委員会が第1回期日で心証をとり、第1回期日から調停が始まることも多いというのが実情です。そのため、本書で述べられている「第1回審判期日が「勝負」と知るべし。とにかく第1回期日が勝負の日だということを肝に銘じて臨むこと」は、代理人弁護士としての準備、心構えの大切さを改めて痛感する内容であり、そのために必要な準備や心構えが詳しく記されています。

3 著者による座談会

本書の第5章では、4人の著者による座談会が掲載されています。申立時や期日における留意点、申立書のボリューム、陳述書や証拠説明書の活用方法、解決金の水準、労働審判にふさわしい事案などについて本音で討論されており、労働審判の魅力や課題が分かりやすく語られています。
代理人として直面する日頃の労働審判における悩みのほぼすべてがこの座談会に凝縮されているように思います。この座談会は、手続の選択や、事件の見通し、解決金の提案など、労働審判手続全般で悩んだとき、迷ったときなどのバイブルとなるものでしょう。

4 さいごに

著者の一人である後藤潤一郎弁護士は、「おわりに」において、労働審判は、これまで裁判官主導で行われてきた労働裁判とは異なり、「申立側が土俵を設定し、そこでどのような相撲が展開されるか、どのような軍配が下されるかを予測して行う手続きなので、解決の満足度は申立代理人の手続法的、実体法的力量に大きく依存することになるのです。」と述べられています。
早期に労働者の勝利的解決を勝ち取るために労働審判を有効に活用し、労働審判をより利用しやすく満足いく制度とするためには、まさに私たち申立人側(本人、組合、代理人)の努力と力量によります。本書は、私たちの力量を磨くための最大のツールとなるものです。是非ご一読下さい。

2014年8月18日
エイデル研究所 発行
定価 2700円
民法協で少しお安くお求めいただけます。