民主法律時報

大阪市生活保護行政問題全国調査団の取り組み報告

全大阪生活と健康を守る会連合会(大生連) 大 口 耕吉郎

 大阪市は、橋下市政のもとで、生活保護行政の「適正化」が徹底して行われ、人権侵害が多発している。この違法・不当な保護行政の抑止を求め、法律家・専門家、労働組合・市民団体が「大阪市生活保護行政問題全国調査団」(以下・調査団)を結成し、2014年5月28日・29日に調査活動を行った。2日間でのべ約900人(うち大生連370人)が参加した。事前に電話相談を行い、人権侵害の実態を把握、また、資料を情報開示させ、その分析も行った。

人権侵害の実態
①歯が痛いと役所に医療券を貰いに行くと、ワーカーから「口を開けてみろ」と言われた(70代女性)。
② 30歳の男性(血圧200)に、申請と同時に「助言指導書」(注1)が出され、週3回ハローワークに行き、面接まで漕ぎつけなければ保護は開始しないと「指導」。
③30年間音信不通だった父親の扶養(注2)を求める書類が送られてきた(40代女性)。
④介護扶助の自己負担を強要された(注3)。

資料分析で明らかになったこと
(1) 2014年1月の市の保護世帯は前年同月比より減少している(前年同月比99.5% 23 億円減)。政令市で減少しているのは大阪市だけだ。高齢世帯は増加(前年同月比104%)しているが、その他世帯(注4)が減少(前年同月94.7%)している。働ける世帯への過酷な「適正化」が行われた結果である。
(2) 「不正受給」(法78条)の扱いのデタラメさも判明した。数百円を「不正受給」として摘発している。これは預貯金の再調査によって100円程度の残金を発見し、申告しなかったとして「不正受給」で「処理」したと考えられる。
(3) 現業職員の充足率(1ケースワーカー被保護世帯80人以下という国基準)は61%でしかない。政令市中で最低(京都市101.7%)(注5)だ。現業職員の資格取得率の低さも目立つ(注6)。
(4) 全国で警察OBが配置されたが、大阪市のように保護利用者を尾行・張り込みしているところはない。府警との連携は前市長時代よりさらに強まった。

2日間の調査活動
 「調査団」は、以上のことを要望書にまとめ、市に提出し、交渉を行った。要望項目は、①申請権の保障、②「助言指導書」の撤回、③扶養親族の仕送り額の「めやす」(生活保護の親族からも扶養を求める大阪市独自のもの)の撤回、④介護扶助自己負担の中止、⑤警察OB配置の廃止、⑥「不正受給」キャンペーンの中止である。
調査活動の第1日目は、各区の保健福祉課と交渉、その夜に集会を開き、交渉結果と市の保護行政の問題点を報告した。2日目は、1日目の各区の交渉結果を踏まえ、大阪市保護課と交渉を行った。交渉では「助言指導」や扶養「めやす」の撤回を迫ったが、市側はこれを認めなかった。

調査活動の成果
市は、①介護保険の自己負担について調査を約束、②扶養については「期待できないものは対象から外すと回答、③「助言指導」の撤回はしなかったが、行き過ぎた「指導」は不適切と回答した。「口をあけてみろ」と言われた女性は、担当者が謝罪に来た。調査団活動は違法な保護行政に風穴を開けた。これをさらに発展させる必要がある。

大阪市の保護行政の根底にあるもの
大阪市の違法な保護行政の根底あるものは、①「維新の会」市長の福祉敵視政策、②公募区長の暴走、③職員基本条例(注7)にある。国民分断をはね返し、自治体職員と市民の連帯が求められている。その共同は、来年11月の市長選挙で貧困問題に向き合う市長を当選させることだ。

(注1)生活保護法上、指導できるのは被保護者。申請から保護決定までの人は「指導」できない。
(注2)20年以上音信不通の親族やDV被害の人は扶養照会はできないことになっている。
(注3)生活保護法15条2に介護扶助(自己負担がないこと)が規定されている。
(注4)その他世帯には、障がい者・母子、稼働年齢者(16歳~18歳)が含まれる。
(注5)高齢担当(主に任期付き職員)は約300世帯を持たされている。
(注6)資格取得率は、社会福祉主事74 %、 社会福祉士4.6%、精神保健福祉士0.5%。
(注7)3回同じことで違反した場合は分限免職になるなど、職員をがんじがらめにする条例。

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