民主法律時報

2014年5月号

北港観光バス事件――大阪高裁も書記長の自然退職扱いを無効と判断

弁護士 西 川 大 史

1 はじめに
 建交労北港観光バス分会の安田博之書記長が、北港観光バスに対して地位確認等を求めていた裁判の控訴審で、大阪高裁(小松一雄裁判長)は4月23日、会社側の控訴を棄却し、安田書記長に対する自然退職扱いを無効との判決を言い渡しました。

2 事案の概要
 安田書記長は、2010年9月、通勤途中に交通事故被害に遭い負傷し、事故翌日から会社を欠勤したところ、会社は、「ゆっくり治るまで休んでもらって良い」と述べたので、安田書記長は治療に専念していました。会社からの休職命令はありませんでした。ところが、2011年2月2日、安田書記長が会社に連絡したところ、会社は、安田書記長に対して、休職期間が満了しており、復帰の見込みがないため退職にするとの通告をしたのでした。
 北港観光バスでは、建交労の組合員が賃金制度の改定に反対するなどの組合活動を行ったことを強く嫌悪し、分会長が雇止めされ(雇止め無効との判決が大阪地裁で確定)、副分会長の配車を大幅に減少する(大阪地裁は配車減少が違法との判決を言い渡し、現在控訴審が係属中)などの嫌がらせが続いており、安田書記長に対する自然退職扱いも組合嫌悪に基づく嫌がらせの一環でした。

3 大阪地裁判決
 大阪地裁(田中邦治裁判官)は、2013年1月18日、「使用者が、休職期間満了により労働者を退職扱いとするためには、労働者に就業規則上の休職事由が存在すること、使用者が休職命令を発したこと及び休職期間が満了したことが必要であり、これらの要件を満たす場合に、労働者が休職期間満了による退職の効果を否定するためには、休職期間満了の時点で就労が可能であったことを立証する必要がある」と述べたうえで、会社から安田書記長に対して休職を命じた事実は認められず、安田書記長が自然退職扱いとされた2011年2月2日時点で復職が可能だったとして、自然退職扱いが無効であると判断しました。会社側の不合理な主張を排斥した勝利判決であり、会社はこれを不服として控訴しました。
 もっとも、大阪地裁判決は、会社が安田書記長に対して自然退職扱いとしたのは、組合に対する嫌悪感情が主たる理由ではないとして、自然退職扱いが不法行為であることは認めなかったため、原告側も附帯控訴しました。

4 大阪高裁判決
 会社側は、高裁においても従前の主張を繰り返すばかりにすぎず、大阪高裁も、地裁判決と同様に、安田書記長に対する休職命令はなく、自然退職扱いとされた2011年2月2日時点で復職が可能だったとして、会社側の控訴を棄却しました。
 他方で、組合側では、会社がこれまでに建交労の組合員に対してありとあらゆる嫌がらせを繰り返してきたことなど、自然退職扱いは安田書記長及び労働組合嫌悪であることは明らかであると詳細に主張をしました。しかし、大阪高裁は、「自然退職扱いしたことにつき、法律的、事実的な根拠を欠くことが明らかとまではいえない」、「組合活動に対する嫌悪によるものと認めることは困難である」として、自然退職扱いが不法行為であるとは認めませんでした。しかし、休職命令が発せられていないにもかかわらず自然退職扱いとすることは法律的、事実的な根拠を欠くことは明らかであり、それは判決も認めたところでした。また、分会長の雇止めや副分会長に対する配車差別なども併せて検討すれば、安田書記長に対する自然退職扱いは組合嫌悪以外に考えられません。それにもかかわらず、自然退職扱いの不法行為性を認めなかったことは極めて遺憾であります。

5 さいごに
 会社及び組合双方ともに大阪高裁判決に対して上告をしなかったため、判決は確定しました。今後は、安田書記長の復職により、北港観光バスにおける正常な労使関係の回復を目指しての職場での闘いが始まります。
北港観光バス事件では、街宣活動の問題や組合員個人の裁判など、多大なご支援をいただき、ありがとうございました。

(弁護団は、梅田章二、杉島幸生、原啓一郎、吉岡孝太郎各弁護士と当職です。)

ノーモア・ヒバクシャ訴訟 大阪地裁第2民事部判決も全員勝訴!

弁護士 愛 須 勝 也

1 国の違法行政を断罪した33回目の判決
 本年3月20日の大阪地裁(第7民事部)、3月28日の熊本地裁、4月23日の岡山地裁(国賠)に続いて、5月9日、ノーモア・ヒバクシャ近畿訴訟について大阪地裁第2民事部(西田隆裕裁判長)は原告2名全員勝訴の判決を言い渡した。しかし、原告梶川一雄さん(伊丹市)と榎本寛さん(神戸市)は判決を聞くことなく亡くなった。原告らは、2008年に認定申請したが、2年経過しても認定されないために、義務付け訴訟を提訴。その後、申請が却下され、請求の趣旨を取消訴訟に切り替え、判決まで6年を要した。梶川さんは、22歳の時、陸軍船舶整備隊(暁部隊)に所属し、1945年8月6日から、負傷者の救護・看護活動に従事。同月10日から3日間、爆心地から1.5キロの広島市横川町に駐屯し、遺体焼却作業等に従事。申請疾病は心筋梗塞。榎本さんは、21 歳の時、爆心地から3.2キロの長崎市水ノ浦町の三菱造船所で被爆し、友人を探すために爆心地に向かったが火事のために進めず引き上げた。申請疾病は、腎臓ガンと慢性腎不全。裁判所は、梶川さんの心筋梗塞、榎本さんの慢性腎不全について却下処分を取り消して国に認定を命じた。

2 昨年12月16日の認定基準見直しによる実質的な再審査
 厚労省は、集団訴訟の終結合意(8.6合意)で原爆症認定のあり方検討会を設置。その報告書を受けて、昨年12月16日、審査方針を一部手直しした。内容は心筋梗塞、甲状腺機能低下症などの非がん疾患について、2キロ以内の直接被爆か、翌日爆心地から1キロ以内に被爆した場合にのみ認定するという極めて限定された手直しにとどまった。判決が基準見直後に却下処分を取消したということは、司法が現行の認定基準の誤りをただしたことになり、認定行政に突きつけられた「司法と行政の乖離」はまったく解消していないことを意味する。

3 懲りない厚労省
 ところが、田村厚労大臣は、本件訴訟が、基準見直し前に結審し、審査方針改定は審査の対象になっていないという形式的な理由から、基準をもう一度見直す意思はないと繰り返した。これは全く詭弁である。厚労省は、基準見直し後に、係争中の原告全員について、改訂後の基準で再審査をしており、その結果、却下処分を見直すべきと判断した原告については却下処分を取り消しているのである。その実質見直しの結果について結審後に裁判所に対して、わざわざ「新基準で見直した結果、原告らについては認定に至らなかった」と報告している。つまり、原告らは、実質的に、新基準で再審査された結果、見直す必要がないという新たな処分をされているのである。厚労大臣は官僚のいいなりに形式論を繰り返すだけである。なんと情けない。

4 厚労省! 生きてる間に認定せんかい!!
 判決後、梶川さんの奥さんは、「主人が生きていたらどんなに喜んだろうか、これから帰って仏壇に報告します。」とコメントされた。国の違法な認定行政を断罪した33回目の判決。本年3月20日の判決でも4人の原告全員が勝訴となったが、こともあろうに厚労省は、原告の1人について不当にも控訴した。控訴された原告は 歳という高齢。非人道的な暴挙である。怒りが収まらない。厚労省! 生きてる間に認定せんかい!!
 今こそ被爆者の苦しみに終止符を打たなければならない。

安倍総理は重要な国会決議を忘れたのか――「自衛隊の海外出動を為さざることに関する決議」

弁護士 橋 本   敦

1 安倍内閣の危険な戦争する国への道
 安倍内閣は、去る5月9日、憲法改正の条件づくりである改憲手続法を強行採決した上、いよいよこれまでの憲法解釈を変えて、集団的自衛権の承認に踏み込み、明文改憲の条件づくりを強引に進めている。
 しかし、安倍総理が強調する「積極的平和主義」とは、平和とは逆の「戦争する国への道」であることを多くの国民は見抜いている。
 例えば、本年5月3日憲法記念日の毎日新聞は、全国世論調査の結果を「9条改正反対51%、賛成36%を大きく上回り、集団的自衛権警戒か」と書いている。このように、今、多くの国民は、安倍内閣の集団的自衛権の承認によって、日本がアメリカの目下の同盟軍となって、地球上のどこであれ、ともに戦争する国にされることに反対を強めていることを示している。
 こうして、今、憲法9条をまもるたたかいがいよいよ当面の重大な国民的課題となっている時、自衛隊の創設にあたり、わが国会で重要な決議がなされていたことを想起しよう。

2 「自衛隊の海外出動を為さざることに関する決議」
 それは、昭和29年7月の自衛隊創設を目前にして、昭和29年6月2日に参議院本会議において可決されたもので、その決議文は、次のとおりである。

  自衛隊の海外出動を為さざることに関する決議

 本院は、自衛隊の創設に際し、現行憲法の条章と、わが国民の熾烈なる平和愛好精神に照し、海外出動はこれを行わないことを、茲に更めて確認する。

 右決議する。

 これは、まことに明快にして、国民の平和憲法をまもり、平和を願う深い心情を表明する、まさに国権の最高機関たる国会にふさわしい正義と道理にかなう重要な決議であった。
 この決議案の提案理由を、提案者を代表して鶴見祐輔議員は次のように演説している。
「 自衛隊出発の初めに当り、その内容と使途を慎重に検討して、我々が過去において犯したるごとき過ちを繰返さないようにすることは国民に対し、我々の担う厳粛なる義務であると思うのであります。
 その第一は、自衛隊を飽くまでも厳重なる憲法の枠の中に置くことであります。即ち世界に特異なる憲法を有する日本の自衛権は、世界の他の国々と異なる自衛力しか持てないということであります。
 その第二は、すべての法律と制度は、その基礎をなす国民思想と国民感情によって支えられて初めて有効であります。そして今日の日本国民感情の特色は、熾烈なる平和愛好精神であります。
   ―(中略)―
 敗戦によって、日本民族の尊き体験として学びとりましたことは、戦争は何ものをも解決しないということであります。(「そうだ」と呼ぶ者あり、拍手)殊に原爆と水爆との時代において、戦争は時代錯誤であるということであります。(「そうだ、その通り」と呼ぶ者あり、拍手)この惨禍をこうむった唯一の国民として、日本はこれを世界に向って高唱する資格を持っておるのであります。
   ―(中略)―
 故に今日創設せられんとする自衛隊は、飽くまでも日本の国内秩序を守るためにものであって、日本の平和を守ることによって東洋の平和維持に貢献し、かくしてより高度なる人類的大社会的組織の完成を期待しつつ一つの過渡的役割を果さんとするものであります。それは、決して国際戦争に使用さるべき性質のものではありません。
   ―(中略)―
 自衛とは、我が国が不当に侵略された場合に行う正当防衛行為であって、それは我が国土を守るという具体的な場合に限るべきものであります。故に我が国の場合には、自衛とは海外に出動しないということでなければなりません。如何なる場合においても、一度、この限界を越えると、際限もなく遠い外国に出動することになることは、先般の太平洋戦争の経験で明白であります。
 それは、窮屈であっても、不便であっても、憲法九条の存する限り、この制限は破ってはならないのであります。
   ―(中略)―
 条約並びに憲法の明文が拡張解釈されることは、誠に危険なことであります。故にその危険を一掃する上からいっても、海外に出動せずということを、国民の総意として表明しておくことは、日本国民を守り、日本の民主主義を守るゆえんであると思うのであります。
 何とぞ満場の御賛同によって、本決議案の可決せられんことを願う次第であります。」

 そして次に、賛成討論に立った羽生三七議員(日本社会党)は、次のように演説している。
「 自衛隊の海外出動を認めないという一点で各派の意思が、最大公約数でまとまったことは、参議院の良識として、誠に欣快に存する次第であります。
 自衛隊の創設は、直接侵略に対応するものとして企図されたものであり、どのように呼ばれましょうとも、国際紛争に介入するような自衛隊の出動は、断じてこれを避けなければなりません。
   ―(中略)―
 若し戦争になったらどうするかという議論もありますが、併し第三次世界戦争の意味するものは、全人類の破壊であります。祖国の破壊であります。我々に必要なることは、戦争になったらどうするかということではなく、戦争を起こさないこと、且つそれを避けるための無限の努力にあると言わなければなりません。(拍手)
 広島、長崎において世界で初めて原爆の洗礼を受け、更に又世界で初めて水爆実験の被災を経験した我が日本民族は、それ故にこそ強く世界に、日本国憲法の精神を以て訴えるべき最善の立場に置かれております。(拍手)
 この立場に立って自衛隊の海外不出動を示した本決議案の精神には、自由党も社会党もなかろうと思います。これは我が八千万日本民族の悲願であり、そして更には又、世界全人類の希望と言うべきものと思います。自衛隊創設の賛否は、いずれにもあれ、この決議案に盛られた精神が知性と高い良識を以て貫かれることを衷心より希望し、以上を以て本決議案賛成の討論といたします。(拍手)」

 討論を終わり、議長が起立採決を求めた結果、本決議案は賛成多数により可決された。
 そして、この決議に対して、吉田総理も出席の下、政府を代表して、木村篤太郎保安庁長官は、次のとおり発言して、この決議を支持し、尊重する政府の方針を明らかにした。
「 只今の本院の決議に対しまして、一言、政府の所信を申し上げます。
 申すまでもなく自衛隊は、我が国の平和と独立を守り、国の安全を保つため、直接並びに間接の侵略に対して我が国を防衛することを任務とするものでありまして、海外派遣というような目的は持っていないのであります。従いまして、只今の決議の趣旨は、十分これを尊重する所存であります。」
(以上は昭和29年6月2日 参議院会議録第57号)

 こうして、我が国憲政史上、特筆さるべき重要な国会決議がなされているのである。
 言うまでもなく、国会は、国民を代表する国権の最高機関である(憲法第41条)。その国会が、前記のとおり明確に自衛隊の海外派兵はしてはならぬと決議していること、そして、政府の代表者も、この決議に従って自衛隊の海外派兵はしないと、国会すなわち全国民に対して誓約したこの歴史的事実を、安倍総理と政府閣僚は今、なんと考えているのかと厳しく追及しなければならない。
 安倍内閣は、本年5月16日、安倍首相の私的諮問機関に過ぎない「安全保障の法的基盤の再構築に関する懇談会」(安保法制懇)に「集団的自衛権行使容認を求める報告書」を出させて、安倍内閣は、いよいよ憲法9条を踏みにじり、「戦争する国」への道を急いでいる。
 しかし、この「安保法制懇」なるものは、安倍首相が「集団的自衛権行使」賛成論者ばかりを私的に集めたもので、出された報告書なるものも、到底まともな論議に値するものではない。
 この事実は、今月15日の朝日新聞朝刊が「委員の一人は、『今回は官僚が仕切っていた。私たちは政府のための駒だった。』とぼやいていた。」、法制懇の見解は「熟議なき結論だ」と厳しく批判していることでも明白である。
このような「私的懇談会」の「熟議なき結論」で、これまでの政府見解をくつがえし、戦争する国への道を急ぐ安倍内閣の反国民的不条理は断じて許せない。
 毎日新聞も、本年5月16日朝刊の社説で、この安倍総理の集団的自衛権を認める解釈変更は「根拠なき憲法の破壊だ」「現在の憲法解釈は、歴代政府が30年以上積み上げ、国民に定着したものだ。その時々の内閣が憲法解釈を自由に変えられるなら、憲法への信頼は揺らぐ。憲法が権力を縛る立憲主義にも反する。」と厳しく批判しているのは当然である。しかも、長年にわたる政府の憲法解釈を不当にも安倍内閣はこれをほうむり去ることはできても、国会決議は変えられないのだ。

 最後に、われわれの親しい憲法知事であった黒田了一教授が我が憲法第9条の歴史的意義について、次のように述べられていることを想起し、安倍内閣の憲法を蹂躙する集団的自衛権の強行を断固許さず、平和憲法をまもりぬく決意を新たにしたい。
「 かくの如き憲法は、他のどこにも存しないのである。要するに、日本国憲法の基本的な態度としては、いわゆる『力による平和』、たとえば『自衛軍の増強による国の防衛』、或いは『集団安全保障機構への軍事的参加による国の安全』(集団的自衛権―筆者註)といった体制をみとめていない。それよりも、原水爆時代における最もすすんだ、人類文化の最終段階にあたかもふさわしい、『全面的な戦争の放棄』、つまり『絶対非武装・恒久平和』の理想をかかげて、『いっさいの国際紛争は、これを平和的な手段を通じてのみ解決する』との決意を表明しているのである。それは、国連憲章の現体制よりも、さらに一歩すすんだものであり、日本が率先して、かかる態度を採ることにより、これをやがては全世界の諸国に及ぼし、もって世界平和に寄与し、人類をその破滅から救済せんとの大理念・大悲願にもとづくのである。」(黒田了一「学習憲法学」192頁)

書籍紹介 『これでいいのか 自治体アウトソーシング』城塚健之・尾林芳匡・森裕之・山口真美 編著

 弁護士 谷   真 介

 「公務の民間委託」や「指定管理者制度」といった自治体業務のアウトソーシング(外部化・民間化)に関する問題は、私たち民法協会員(自治体労働組合の方を除く)にとってすら、とっつきにくいとの印象を受ける分野であると思います。マスコミでは、「人件費が高く無駄の多い行政は民間を見習え」とばかりにこれを後押しする論調がほとんどです。負の側面については、「官製ワーキング・プア」として、その担い手の貧困化が単発的に取り上げられたくらいで、本体の自治体アウトソーシングそのものが、私たちの身近な暮らしに直結する問題であると認識するに至っていないのが、現状です。

 著者・編者の一人である城塚健之弁護士は、担当された「第一章 自治体アウトソーシングの現段階と自治体の課題」を次のように締めくくっています。「公務の市場化をめぐる問題は、自治体労働者や、福祉サービスを受けている人だけの問題ではありません。それは、私たちがどのような社会を築いていくのかという根幹に関わる問題なのです。」
 本書を読み進めるうち、その意味するところに、打ちのめされそうになります。

 本書では、私たちの暮らしそのものとして受けられるのが当たり前になっている、医療や保育、交通、水道、図書館、役所の窓口業務等のアウトソーシングが例にあげられています。例えば、お金のない人でも公平に医療を受けられること、どこに居住している人でも「足」として交通機関を利用できること、個人情報を侵されることなく安心して文化的な生活を送ることができること等、誰もが健やかに、また豊かに生きていくために、公平に受けられるべき行政サービスが、アウトソーシングという手法によって、企業の利潤追求の場として開放され、また拡大されようとしています。そこでは、企業の利潤が絶対的価値となり、住民の権利・生活は度外視されることになります。果たして、それでいいのでしょうか。「公共」「社会」とは、何でしょうか。

 いま安倍政権は、アベノミクス第三の矢として「成長戦略」を掲げ、「日本を世界一企業が活動しやすい国にする」と公言し、「岩盤」としてその妨げとなっているあらゆる規制を徹底的に緩和するとし、「国家戦略特区」を最大の目玉にすえるなど、これを加速度的に進めています。その一つとして、先ほどあげた医療や教育のほか、農業やその他の「公共」の分野を企業の利潤追求の場として開放し、誰もが公平に受けられるべき公共サービスを「商品化」しようとしているのです。

 本書では、安倍政権が加速度的にすすめている各政策について、全体に俯瞰して、またアウトソーシングし企業に開放しようとする分野ごとに、豊富なまた最新の情報を網羅し、これに的確な分析を加え、対峙する側が打ち出すべき方向性の示唆までなされています。この時期に、これだけ情報の質が高く、かつコンパクトにまとめられた著作は、ほかにないと断言できます。その意味でも、たくさんの方に、できるだけ早く手にとってお読みいただきたいです。また、本書を題材に、身近な暮らしの問題として「これでいいのか」と議論したり、また学習会を開催してほしいと思います。

 個人的には、(私のような)若手の弁護士にも、事件活動だけでなく(一生懸命事件活動に取り組むのは弁護士の基本ですが)、人権保障を具体化する「自治体」というものがどうあるべきかという、人権保障の最前線の問題として、この分野に一緒に取り組んでほしいと思います。そのきっかけとして、本書を手にとってもらえれば嬉しいです。どういう社会を築きたいかという問題として、ぜひ一緒に議論し、取り組んでみませんか。

2014年5月
自治体研究社
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2014年新人学習会 第3回「非正規労働のリアル」

弁護士 馬 越 俊 佑

1 はじめに
2014年4月22日に第3回新人学習会が開催されたので、報告いたします。
テーマは、派遣法改悪の動きが強まる中、問題となっている「非正規労働」についてでした。学習会では、岩佐賢次弁護士、村田浩治弁護士から、非正規労働について解説して頂き、実際に非正規雇用労働を経験された当事者の方からお話を聞くことができました。
2 非正規労働の解説
 非正規労働の特徴は、①雇用が不安定になる、②低賃金、③雇用主の責任が果たされにくいという特徴があります。派遣労働は、派遣元会社、派遣先会社、労働者との三者契約になり、派遣元会社と派遣先会社は「派遣契約」という契約を締結します。しかし、「派遣契約」は労働契約ではなく、一種の商行為に過ぎませんから、契約の解除などに特段の規制はありません。これが①労働者の雇用を不安定にする原因となっています。また、派遣先会社が派遣元会社に支払った契約金から派遣元会社によるいわゆるピンハネが行われて、労働者に賃金が支払われます。そのため、②賃金は低いものとならざるを得ません。さらに、労働契約は派遣元会社と労働者との間で締結されていますが、実際に労働者が、労働力を提供しているのは、派遣先会社に対してですから、派遣元会社が安全配慮義務といった③雇用主の責任を果たしにくいものとなっています。
そのため、以前は、専門業務に限って派遣労働が認められていました。しかし、規制緩和が進み原則と例外が逆転して、現在では原則派遣労働が認められる結果となっています。
3 当事者の声
当事者の方からは「偶然、勉強会に参加し、弁護士や組合の方から教えてもらわなければ、労働者として当然主張できる権利を知らないままでした。弁護士や組合の方から教えてもらい、雇用条件の不利益変更を断ることができたり、有給休暇をとることができたりしましたが、非正規雇用だから認められないと思っている人もいると思います。正規の労働者と全く同じ労働をし、新人の正規労働者には、仕事も教えていたくらいであったのに、給料は全く違いました。」など、非正規労働の過酷さをお話して頂きました。
4 現状を踏まえて
現在、派遣法が改悪されて派遣労働が実質的に無期限で許されることになり、非正規労働がさらに拡大するおそれがあります。過酷な労働を強いられる非正規労働が無制限となるような、派遣法改悪には断固として反対しなければなりません。

労働法研究会「労働者派遣法改正法案」が緊急開催されました

弁護士 南 部 秀一郎

 現在会期中である通常国会では、労働者派遣法の改正法案が提出されています。この法案は、安倍内閣の矢継ぎ早の労働規制緩和のひとつとして出されているものです。この緩和はいずれも、労働者の権利を脅かすもので、危険なものですが、議論も乏しく拙速に法案化されたものです。労働者派遣法の改正も、常用代替防止という派遣制度の大前提が放逐され、危険性が明確でありつつも、内容について、深く分析されることはありませんでした。そこで、労働法研究会では、労働者派遣法改正を許さないという目標実現のため、「労働者派遣法改正法案」を検討しました。当日は、ゴールデンウイーク初日の午前中という時間にも関わらず、大阪弁護士会館の920号会議室が満員になるほど、多くの会員の出席をいただきました。
まず、研究会の最初では、中西基弁護士から、「労働者派遣法の制定経過」と題して、報告がなされました。そこでは、もともと違法である労働者供給事業を労働者派遣として解禁することから、派遣労働者の保護はもとより、労働者全体の雇用の安定と労働条件の維持、向上が損なわれることのないように配慮する必要があると、当時の労働省の審議会で報告がなされていることが、強調されました。
続いて、派遣法改正について議論してきた「今後の労働者派遣制度の在り方に関する研究会」の報告書について、河村学弁護士から報告がありました。この報告については、今年度の権利報告集会の第2分科会の報告でも、河村弁護士の詳しい分析がありますが、派遣契約に何らの縛りがない状況で、派遣元義務強化や、派遣元での派遣社員の無期化という、実態無視の実効性のない内容で、派遣制度が使いやすくなり常用代替がすすむことに対して、何らの意味もないとの批判がされました。
続いて、中西基弁護士から、法案について、労働政策審議会の建議と、実際に出された法案との違いを説明しつつ、法案の分析がされました。この建議については、その最後で、労働者側委員から、派遣元事業主が会議で多くの発言を行ったことについて、会議での議論のあり方の再検討を求める意見が出ているという異例のものです。建議では、派遣労働の期間制限の維持や、均等待遇についての踏み込んだ内容を求める労働者側委員の意見、逆に手続き違反の場合の労働契約申し込みみなし制度等の見直しを求める使用者側委員の意見が、対立したまま両論併記されています。
更に、この建議に基づいて提出されたはずの、改正法案においては、建議になかった内容が盛り込まれていると、中西弁護士は報告しました。まず、建議で登録型派遣・製造業派遣の派遣社員についての雇用安定措置が盛り込まれるとされているものが、改正法案にはありません。また、建議では派遣労働の利用を臨時的・一時的なものに限定することが原則とされていますが、改正法案では、これも抜け落ちています。また、期間終了後の派遣社員の雇用安定措置について、派遣元から派遣先への直接雇用の依頼という措置が、建議には示されていましたが、法案には欠けています。
加えて、期間制限について、個人単位にして、期間終了後の雇用安定措置が、派遣元に丸投げで不十分なままで、更に規制潜脱も派遣先の社内の構成を変えるだけで容易という制度設計になっています。まさに一生派遣社員であることを制度が後押ししているかの様相です。中西弁護士の報告に改めて参加者は派遣法改正法案の実情を知らされました。
最後に、報告を受けて参加者の討論が行われました。龍谷大学の脇田滋教授からは、今回の派遣法改正により、派遣業者が労働組合に代わり、外部労働市場の代表者として、会社と対峙する立場になることへの危惧が示されました。また、他の参加者からは、派遣法改正に対する運動への意見の提起もされました。
このニュースが出る2014年5月下旬時点では、国会は他の法案の審議等で時間不足となり、今会期中の派遣法改正は行われない可能性が高くなっています。しかし、秋の臨時国会では、また改正法案の審議が行われ、それに対抗する運動が必要です。民主法律協会では、今後とも派遣法改正ひいては、安倍内閣の狙う労働規制緩和を阻止すべく、様々な活動を行っていく所存です。

「ブラック派遣・ブラックバイト」ホットライン報告

弁護士 馬 越 俊 佑

 2014年5月10日(土)に派遣研究会のメンバーを中心に、「ブラック派遣・ブラックバイト」ホットラインを実施しました。
「労働条件の改善」や「不当な雇い止め」など5件の相談がありました。
中でも、「社長が特定の主義主張を称賛し、社員にも思想を問うようなアンケートを採るなど、事実上思想を強制する。やめてほしいが、どうすればよいか。」との相談は、憲法上の人権ともかかわる重大な問題だと思いました。
また、「当初の労働契約とは異なる仕事内容をするように言われ、断ったところ契約を打ち切られた。」との相談も、雇用主の身勝手な理由で労働者が解雇されている実態があることを示しています。
今回のホットラインは、ベテラン弁護士と若手弁護士が待機し、回答が難しい相談については、一旦回答を保留して、よく議論してから、正確に回答できるよう努めました。実際に相談を聞いて、自分で考え、ベテラン弁護士と議論することは大変勉強になり、今後の弁護活動にも役立つ経験となりました。また、電話待機中もベテラン弁護士と議論するなど、有意義な時間となりました。
相談は、13時から14時半までに3件、17時台に2件でした。18時以降には相談はありませんでした。今回は時間が合わずに電話をかけられなかった方もおられると思います。今後もホットラインを行い、多くの労働者の権利擁護を目指すべきだと思いました。