民主法律時報

2013年10月号

大庄日本海庄や過労死事件の上告棄却・上告

弁護士 松 丸   正

1 新卒就職後4ヵ月目の過労死
 東証一部上場企業である大庄が経営する日本海庄や石山駅店に、大学を卒業し正社員として平成  年4月1日から勤務していた故吹上元康さん(当時  才)が、入社してわずか4ヵ月にして心機能不全で死亡した。
 元康さんの労働時間は、「死亡前の1か月間では、総労働時間約245時間、時間外労働時間数約103時間、2か月目では、総労働時間約284時間、時間外労働時間数約116時間、3か月目では、総労働時間約314時間、時間外労働時間数約141時間、4か月目では、総労働時間約261時間、時間外労働時間数約88時間となっており、恒常的な長時間労働となっていた」(地裁判決の認定)。
 弁護団は大津労基署長に対し、業務上の死亡として遺族補償給付等の支給請求を行い、平成20年12月10日付けで業務上として支給決定が下された。

2 京都地裁への大庄、更に取締役に対する損害賠償請求
 元康さんの父母は、同年12月22日に大庄のみに対する損害賠償請求を提訴した。
 しかし、元康さんの命を奪った責任は、長時間労働を前提とする賃金体系や三六協定をつくりあげた経営陣にあり、彼らの責任を抜きにしてこの過労死事件を語ることはできない。翌21年1月8日に会社法429条1項に基づき代表取締役社長並びに当時管理本部長、店舗本部長、第1支社長であった取締役3名の計4名を被告とする訴訟を追加提訴し、大庄を被告とする事件と併合して審理することになった。

3 社長らを被告に加えた理由
 会社法429条1項(旧商法266条の3)は、取締役がその業務の執行を行うにつき、悪意又は重大な過失により第三者(労働者も含まれる)に損害を与えたときは、取締役が個人としても損害賠償責任を負うことを定めている。
 大庄事件以前にも、過労死の損害賠償請求事件でこの条文に基づき、会社のみでなく社長ら取締役の責任を追及する訴訟は、大阪を中心に少なからず取り組まれ勝訴判決を得てきた。しかし、これらの訴訟で取締役を被告に加えた理由の多くは、会社が小規模なため勝訴した場合においてもその支払い能力がなく、損害が填補されないおそれがあることにあった。
 大庄は東証一部上場企業であり、そのおそれはなかったが、社長らを被告にした理由は、過労死を生み出す社内体制を構築した経営陣の責任を明らかにし、それにより過労死を防止する社内体制を構築させることであった。

4 大庄の賃金・労働時間体制
 大庄では新卒一般の初任給は当時月19万4500円とされていたが、基本給12万3200円、役割給7万1300円とされており、役割給は月80時間の時間外労働分の賃金とされていた。
 月80時間の時間外労働は過労死ライン(厚労省の過労死の認定基準では発症前2ヵ月間ないし6ヵ月間に月あたりおおむね80時間を超える時間外労働が認められるときは原則として業務上と判断される)である。
 心身の健康を損ねるおそれのある長時間労働が元康さんら社員の「役割」として賃金体系上位置づけられていた。
 大庄の三六協定は特別条項で時間外労働を「1ヵ月100時間(回数6回)」まで延長することができると定められていた。
 このような賃金・労働時間体制の下、社員は元康さんの勤務していた石山駅店のみならず、他の店舗においても過労死ラインを超えて働くことが常態化していることを、裁判で明らかにしていった。

5 京都地裁、大阪高裁の判決
 京都地裁判決は平成22年5月25日「恒常的に長時間労働をする者が多数出現することを前提とした一見して不合理であることが明らかな労働時間(三六協定)・賃金体系の体制」をとっていたとして、大庄のみならずその社長ら取締役4名の個人責任(会社法429条1項の責任)を認める判決を下した。
 これに対し被告らは大阪高裁に控訴し、会社側は三六協定や賃金体系につき、「その体制は経営判断事項であり、労災認定上の基準時間はその一要素にとどまる。」としたうえ、どのような体制をつくるかは、「経営判断事項にあたり、労災認定上の基準時間は経営判断における裁量権限の行使が著しく不合理とは言えないかどうかを判断するにあたって、検討の一要素である社会情勢等の一事情になるにすぎない。」と言い放った。同時に同業他社の三六協定(例えば、ワタミフードサービスの特別条項は月120時間)を提出し、外食産業の三六協定では過労死ラインを超えた時間外労働があたりまえとなっていることを主張した。
 大阪高裁は平成23年5月25日に控訴棄却の判決を下した。
 高裁判決は「責任感のある誠実な経営者であれば自社の労働者の至高の法益である生命・健康を損なうことがないような体制を構築し、長時間勤務による過重労働を抑制する措置を採る義務があることは自明であり、この点の義務懈怠によって不幸にも労働者が死に至った場合においては悪意又は重過失が認められるのはやむを得ないところである。なお、不法行為責任についても同断である。」と判示した。
 過労死ラインを超える労働時間、賃金体系をとるか否かは経営判断とする会社側の主張に対し、労働者の生命・健康は至高の法益として、誠実な経営者であれば長時間労働による過重労働を抑制するのが当然の責務としたこの判決は、大庄のみならず過労死ラインを超える三六協定や賃金体系をとっている企業に対する大きな警鐘を打ち鳴らしたものと言えよう。

6 最高裁の上告棄却、上告不受理決定
 大庄と社長ら取締役は、最高裁に上告並びに上告受理申立を行った。上告受理申立理由書はつぎの言葉で結ばれている。
 「高い志を持った従業員を大切に育てたい、やる気を持ち続けてほしいという思いから、申立人会社では『社員が幸せでなければ会社とは言わない』という大原則に基づき、『親が子どもに与えるような見返りを求めない愛』を従業員らに与え、従業員らが来店したお客様に愛を与えていくという『愛の経営』を目指して実践してきた。そして、志の高い従業員のためのインセンティブとして『大庄8大制度』(ストックオプション制度、従業員持株制度、所得倍増制度、持家(住宅資金融資)制度、独立制度、持店(ダブル・インカム)制度、執行役員制度、Uターン独立制度)を整備・実施し、福利厚生にも力を入れている。
 志が高く向上心が強い申立人会社の従業員たちの中には、早く自らの技術を向上させたいがために、日夜研鑽に励む者もいる。しかし、申立人会社では、そういった従業員たちのやる気を尊重しつつも、健康であることや健全な家庭を築くことも申立人会社の従業員として、また将来の起業家として重要であるという考えから、過重労働に陥ることのないよう各店舗の状況に応じて法定時間以上の休憩時間を確保し、従業員らは仮眠を取ることもできていた。勤務のあり方については店長から個別に注意を促したり、細かい心配りをし、適宜休みを取らせるなどの柔軟な対応によって従業員の健康管理にも心を尽くしてきた。
 このように、従業員らを何よりも大切にしてきた申立人会社にとって、原審の認定は極めて心外であり、御庁による是正を心から願うものである。」
 最高裁は平成25年9月24日付けで、上告棄却・上告不受理決定を下している。
 親が子どもに与えるような見返りを求めない「愛の経営」、志の高い従業員のためのインセンティブとしての「大庄8大制度」の「夢の経営」との言葉の下で、恒常的長時間労働が全社的に常態化する社内体制がつくられてきたことを、この事件は明らかにすることができたと言えよう。

7 過労死防止を経営陣に突きつけた裁判
 現在、過労死防止基本法の制定を求める運動の下、同法の制定に向け国会で議連が結成され、法案上程への動きが高まっている。また、若者の労働現場を中心とした「ブラック企業」問題が社会的に注目を浴びている。社長ら取締役にも厳しくその個人責任を指摘した地裁・高裁判決、並びに上告棄却・上告不受理決定は、過労死ラインを無視した賃金体系や三六協定による労務管理を行っている多くの会社の経営陣に対し、その個人責任を明確にすることにより、その是正措置をなすべきことを突きつけたものと言えよう。
 

(この事件は松丸正と佐藤真奈美で担当しました。)

 

「働き方ASU―NET」NPO法人移行記念 第18回つどい開催

弁護士 楠   晋 一

 2006年にホワイトカラーエグゼンプション法案阻止のために結成された働き方ネット大阪が、2013年7月にNPO法人「働き方ASU―NET」に移行しました。そして、働き方ネット大阪から通算して第18回目のつどいは、NPO移行記念講演として「アベノミクスにどう立ち向かうか」というテーマで、同志社大学教授のエコノミスト浜矩子先生にお話しいただきました。
 アベノミクスは富国強兵を目指すもの、すなわち経済的に再び世界制覇を試みようとしつつ(「富国」)、憲法改正によって再び日本を戦争のできる国にしようとするものであり(「強兵」)、決して貧困を抱える人を包摂して格差を是正しようとするものではない。頑張る人は頑張って下さいと包摂性を低める方向ではデフレは解消しない。アベノミクスはいずれ自壊すると看破されました。
 そして、アベノミクスの問題点として、①「異次元」緩和、②市場至上主義、③「みぞの鏡」病という3つのキーワードを挙げました。
 ①は、2%の物価目標を達成するために日銀に異次元緩和を行わせ、国債を買い支え、現金を市場に流入させている。そのため、目標を達成すれば異次元緩和を収束させる必要が出てくるが、収束させれば国債相場が大暴落するために収束させられない。そのうち、市場から財政赤字を隠すことが異次元緩和の真の目的であることがばれて、日本は国際的信用を失うことになる。
 ②は、政府はアベノミクスによって株価を上げ、為替相場を円安に誘導しようとしているが、誘導するためには常に新しいイベントを打ち出していく必要があり、イベントが尽きたときには終わってしまうという脆弱性を抱えている。
 ③は、「みぞの鏡」とは自分の一番欲しいものを手にしている姿が写る鏡のことで、みぞの鏡病とは、鏡を見た者が現実を直視できずに、鏡に写る姿の虜になって鏡から離れられず死に至る病です。安倍総理は永遠の若さを手に入れた(つまり高度成長期の伸び盛りの)日本の姿を取り戻そうと躍起になり、現実が直視できていないので現実への対応力がまるでない、と指摘します。
 そしてアベノミクスへの対立軸として「シェアからシェアへ」というキーワードを提示されました。世界一を目指して市場占有率(シェア)を奪い合う発想から、分かち合い(シェア)に発想を転換する必要があると述べて講演を締めくくられました。
 
 続いて、ASU―NET代表理事の森岡孝二先生が「雇用改革と限定正社員」と題して、この  年で正規労働者はほとんど増えていないのに非正規労働者だけが増えその傾向が若者において特に顕著であること、若者の労働所得が減少する一方で正社員の労働時間はこの  年ほとんど変わっていないことをデータに基づいて説明されました。安倍政権の成長戦略の目玉は雇用労働改革ですが、この改革は、企業が世界で一番活動しやすい国すなわち労働者が一番働きにくい国を目指すものです。そして、既に事実上存在している限定正社員、ホワイトカラーエグゼンプション(残業代の支払を受けない管理職)を例に取り、実際はこれらの制度が労働条件を悪化させるものでしかないことを示しました。そして、最後に過労死防止基本法を制定して労働時間規制に踏み込むことと、サービス残業の解消による雇用創出を訴えました。

 浜さんの講演は非常に歯切れが良くてあっという間に時間が過ぎました。森岡先生の講演は、図表や具体例をベースに分かりやすくお話しいただきました。また、質疑応答もたくさんの質問が集まり、もう少しいろんなお話しを聞きたいところでした。
 講演はASU―NETのホームページから録画が見られますので、そちらもご覧下さい。
 最後に、働き方ASU―NETは趣旨に賛同いただける会員の方を募集しております。詳細はASU―NETホームページをご覧いただくか、当職までご連絡下さい。

労働者の使い捨てを許すな! 全国一斉ブラック企業被害ホットライン

 弁護士 菅 野 園 子

 2013年10月8日に「全国一斉ブラック企業被害対策ホットライン」が開催されました。
大阪では民法協と大阪労働者弁護団の共催で実施し、合計  件の相談がありました。全国では  都道府県で合計330件の相談がありました。
私は、午後1時~3時の相談にはいりましたが、概ね2回線が常に埋まっている状態でした。NHKの方も取材にきておりました。試用期間経過後の解雇、パワハラ、給与未払い、退職強要など、2時間の間に8件から9件はかかってきていました。
その日のホットライン30件の相談用紙を見直すと、相談件数のうち半分以上が、「初めて相談した」方で、相談をこれまでにしたことのある人の相談窓口の多くが労働基準監督署でした。告知も8割以上が新聞、テレビ、ラジオでした。新聞マスコミの効果が大きいと思いますが、「誰かに相談したい」という気持ちを抱えているが、しかしどうしたらいいかわからないという人の声を拾えたのではないかと思います。
相談傾向としては、残業代11件、いじめ6件、労働時間6件、解雇6件でやはり残業代の問題がかなりの部分を占めており、解雇とパワハラ、解雇と退職勧奨などパワハラがともなう事件も多かったです。また相談者としては正社員19人、非正規が11人でした。私が聞いた相談者は、相談の最後に「これってブラック企業ですよね。」という同意を求めてきました。相談者は、自分や家族がブラック企業であるのではないかと考えていながら、相談をして、専門家からブラック企業であることの確認を得たいという気持ちをもっているようでした。私からすれば、日頃聞いているホットラインの内容と変わらない(日頃我々が聞いている労働相談のかなりがブラック企業)ですが、「ブラック企業」という言葉が生まれたことで、周囲にその会社の労働条件の酷さをより伝えやすくする効果があると思いました。そういう意味では「ブラック企業」という言葉を考えた方、その問題に対応する弁護団を作ったということは、大変重要な意義があるのではないかと感じました。

9条世界会議関西2013大成功  戦争のない世界の盛り上がり

弁護士 徳 井 義 幸

1 はじめに
  2008年にも開催された9条世界会議が、第2次安倍改憲内閣による執念ともいうべき改憲志向の動きの加速のもとで、去る10月13日には9条国際会議(於関西大学)、14日には9条世界会議(於大阪市中央体育館)という形で、のべ5500人の参加をもって成功のうちに閉幕しました。大阪では、この9条世界会議を成功させようと「法律家の会」が結成され、プレ企画(元芦屋市長北村春江講演)を実施するなどして活動してきましたが、13 、14日の模様を簡単に報告して、カンパを始め9条世界会議の成功のためにご協力頂いた皆さんへのお礼としたいと思います。
  なお、紙数の関係等もあり省略せざるを得ない部分が多々あることをご了解下さい。

2 9条国際会議、大盛況
  まず13日に予定されていた9条国際会議の前日の12日夜には、この国際会議に参加するために来日された海外ゲストの皆さんの歓迎レセプションが、シティプラザ新大阪で開催された。写真は、歓迎レセプションで津軽三味線の演奏に聴き入る海外ゲストである。
 さて本題の9条国際会議は、13日に午前中に全体会が、午後からは三つの分科会が開催された。全体会では、関西大学の高作正博教授が「憲法9条をめぐる情勢と課題」と題して、この間の日本の改憲を巡る情勢報告がなされ、その後海外代表がそれぞれ発言された。印象深かったのは、元米国陸軍大佐でブッシュ政権によるイラク戦争を国連憲章違反と批判して辞職し、その後反戦・平和活動に従事しているアン・ライトさんの、「自衛権の発動から侵略戦争遂行への転落はあっという間の出来事である」という強い警告であった。日本の改憲を巡る情勢に対する鋭い警鐘である。
 この国際会議全体会には、予想を超えて約500名もの参加があり第二会場を設定せざるを得ないほどの大盛況であった。
  また、昼からの分科会には三つの分科会に海外ゲストが  数名も参加され、それぞれパネラーを勤めて頂き、9条の値打ちを各分科会とも国際的に再確認できたようである。 

3 9条世界会議関西2013――5000人規模の大聴衆で盛り上がり
 14日は大阪市立体育館でのメイン集会が午後から開催されたが、午前中は三つのワークショップが持たれた。①「戦争のない世界へ」②「アジアの中の9条」③「若者が伝える9条」の三つである。私は、「法律家の会」で運営した①「戦争のない世界」に参加したが、午前中から沢山の人が参加して、いずれのワークショップも盛況だったようである。
 ①「戦争のない世界」では、米国憲法にも9条を入れるべきと運動しているという映画監督であるディビッド・ロスハウザー氏の映画「被爆者として生きる」が上映され、監督自身からも9条についての思いを語る発言があったほか、原爆症認定訴訟の被爆者原告からの被爆体験が語られ、また弁護団から被爆者に対する国の不当な救済拒否に対する批判もなされた。「戦争のない世界」への思いは、戦争がもたらす悲惨な現実の直視無しにはありえず、参加者の皆さんも改めて被爆体験の語りを通じて「許すまじ原爆、許すまじ戦争」の強い思いを共有できたのではないかと思う。
  さて、最後は午後からのメイン集会である。第1部は「世界に広がる9条」と題して海外ゲストよりの報告がなされた。前述の米国のアン・ライト氏、韓国のイ・キョンジュ氏、チュニジアのベルハッセン・エヌーリ氏、フランスのローラン・ベイユ氏の4氏が報告をされ、いずれも9条の精神の世界への広がりを実感できるものであった。特に印象深く思ったのは、フランスのローラン・ベイユ氏の平和への闘志ぶりであった。同氏は現在  歳でナチに対するレジスタンス運動の体験もあるという方であるが、国際平和のための国連憲章の意味を語るその気迫に圧倒される思いであった。
  その後、第2部は「若者が伝える9条」で、若者の中に9条を伝える困難と同時に未来をも感じさせるものであった。さらに第3部は「私たちが生かす9条」で沖縄の戦いと福島での戦いが報告された。
  そして報告を聞きっぱなしで若干疲れ気味となったとき、上條恒彦さんのライブとなった。私の世代にとっては聞き逃せない歌声であり、その力強い声量が会場を大きく盛り上げて、メイン集会もお開きとなった。

4 おわりに
  最後の写真は、  日夜の大正区の沖縄料理店で実施された海外代表を含めた打ち上げ風景である。海外ゲストもこの9条世界会議で大きな平和へのエネルギーを得て、意気盛んに各国に帰国してくれたであろう様子がよくわかるのではないか。

労働者派遣法改正の動きについて

弁護士 河 村   学

1 はじめに
 2013年8月20日付で発表された「今後の労働者派遣制度の在り方に関する研究会報告書」(以下「報告書」という)を受け、現在、労働政策審議会職業安定分科会労働力需給制度部会において、労働者派遣法を改正する議論が進められている。厚労省は、年内には議論をまとめ、来年の通常国会には法案を提出する予定である。
 この動きは、「ワーキングプア」「派遣村」などが社会問題化した2005年頃からの世論と運動の成果をご破算にし、労働者の置かれた状況はむしろより深刻化しているにもかかわらず、さらなる困窮を押しつけるものである。
   
2 報告書の内容
(1)   今回の報告書の主眼は、派遣先の受入期間制限を緩和するという点にある。どのように緩和するのか。結論を大雑把にいうと、派遣労働を①無期雇用派遣(派遣元と期間の定めのない労働契約を締結している者の派遣)と②有期雇用派遣に分け、①については受入期間の制限なし、②については派遣労働者個人レベルで3年、派遣先レベルでも3年の受入期間制限を設けるというものである。
 最後がわかりにくいが、ある派遣労働者が同じ「業務・組織」で働けるのは3年までとし、人を入れ替えたとしても同じ「業務・組織」で派遣労働者を受け入れられるのは3年までにするということである。前者の上限に達した場合には、派遣元にその派遣労働者の雇用安定を図る措置が求められている。後者の上限についは、労使協議によりこの期間を延長できるとされている。

(2)   このように書いてもよく判らないと言われそうだが、「派遣先がどのように派遣労働者を使えるようになるか」を考えれば、報告書の示す方向性は見えてくる。
 まず、無期派遣労働の場合、派遣先は原則的にどのような業務についても、いつまででも派遣労働を受け入れることができる。しかも特定の業務に縛られることなく直用の労働者と同様に働かせることができる。もちろん派遣労働が不要になればいつでも受け入れを辞めることができる(派遣元との契約による)。派遣先は派遣労働者の雇用について何らの責任も負わない。
 有期雇用派遣の場合は、受入期間に制限がある点が異なるだけで、その他は無期雇用派遣の場合に書いたことと同じである。しかも受入制限といっても、「業務・組織」については、部署を変えれば制限はかからないし、労使協議を行えば期間を延長することもできる。また、派遣先は、雇用に関して責任を負わないことが前提となる。
 つまり、派遣先はほとんど自由に派遣労働者を受け入れ、いらなくなれば自由に派遣労働者を放逐することができる制度となってしまうのである。

(3)   報告書は、この制度変更を派遣労働者の保護のためと述べている。では、派遣先が派遣労働者を自由に使い捨てにできる制度が、どうして派遣労働者のためになるというのか、そのからくりを見てみよう。

3 報告書のからくり
(1)   報告書は、まず第一に、派遣労働者の保護が図られる理由として、派遣元が無期雇用をすれば労働者の雇用の安定につながるし、有期雇用でも3年以上同じ派遣先の同じ「業務・組織」で働いている場合には、派遣元が雇用安定措置をとることになるので、使い捨てにはならないとする。
 しかし、報告書は、派遣元は、派遣先が存在しなければ派遣労働者を雇用し続けることはできないという労働者派遣制度の本質を隠している。無期雇用であろうが、派遣元が雇用安定措置をとろうが、派遣先が就業を受け入れなければ労働者の雇用はそれで終わりなのである。
 派遣先が受け入れ続けるのなら、受入期間を制限するより雇用は安定するのでは?、と思う方もおられるかも知れない。しかし、制限を超える労働者の受け入れが必要なら、その労働者は派遣先が直接雇うべきというのが現行派遣法の基本的な考え方である。言い換えれば、派遣先の自由で、いつでも、どんな理由でも労働者を放逐できる制度より、派遣先がきっちり雇用責任を果たす制度の方が労働者の保護に資するという考え方である。報告書の内容が、労働者の保護を後退させることは明らかである。

(2)   報告書は、第二に、こうした本質を隠すために、派遣先が直接雇うべきという考え方(派遣労働に置き換えてはいけないという考え方。これを「常用代替の禁止」という)を、派遣先にいる正社員を保護する考え方であるとし、派遣労働者の保護には反するという趣旨を述べている。
 しかし、これは詭弁である。常用代替の禁止とは、現に存在する正社員を派遣労働者の身分に置き換えることを禁ずるのではなく、恒常的・一般的な業務は、派遣先が直接雇う労働者という立場で従事させるべきなので、派遣労働者という立場で従事させることを禁ずるいう趣旨である。すなわち、現にいる正社員を保護する考え方ではなく、派遣労働者を出来る限り正社員にしよう(そうでなくても派遣先が雇用責任をもつ直用社員にしよう)という趣旨である。
 報告書の内容は、詭弁を弄さなければ理由らしい理由が提示できないほど支離滅裂なものになっている(これは報告書の随所に現れている)。

(3)   報告書は、第三に、こうしたおかしさを自ら自覚して、何でもかんでも理由に加える。例えば、わかりやすさの点で現行制度より勝っている、派遣労働を望む労働者がいる、雇用が安定している派遣労働者に制限をかけるのは不当、などなどである。
 しかしながら、まず、制度のわかりやすさは、理由にはならない。特に、労働者の保護のために設けた制度をわかりにくいといって切り捨てるのは、論理もなにもない単なる横暴である。
 次に、派遣労働を望む労働者なるものは虚像にすぎない。勤務先・勤務地・勤務内容・勤務時間を決めるのは派遣先であり労働者はこれに応募することしかできない。しかも、派遣労働の場合は就業できたとしても、前述のような使い捨ての現実が待っている。本当のことを知っていれば、直接雇用と派遣が用意されているときに、誰も派遣を選ぼうとは思わないのである。
 さらに、雇用が安定している実例として報告書が挙げているのは、正社員気分で働き、年功序列的な賃金を受け取っており、正社員並に教育訓練を受け、定年まで勤務する派遣労働者がいる、というものである。このような実例がどこにあるのかと思うが、もしそのような労働者がいるのであれば、それこそ派遣労働である必要はなく、また、このような労働者がいるからといって、大多数の労働者のための規制を緩和する理由にはならない。
     
4 おわりに
 報告書が改正を求める本当の理由は、自ら指摘するとおり、労働者派遣制度に「労働力の迅速・的確な需給調整という重要な役割」を担わせることにある。必要なときに、必要な能力を、必要な量だけ、という労働者の「カンバン方式」の実現である。
 このような世にも恐ろしい報告書だが、規制改革会議などはさらなる規制緩和を要求している。また、雇用に関する国家戦略特区の構想や、有期労働規制に関する労働契約法改正の動きなど規制緩和の圧力は留まることを知らない。
 さまざまな社会問題・運動の根幹として、労働問題を捉えるべきである。

まるまるブラックホール化する究極の国家秘密法案

弁護士 大 江 洋 一

 「特定秘密保護法案」が与党内の合意手続きを経て臨時国家に提出されることとなり、政府は今国会での成立を狙っている。具体的に条文の形で示されたことによって、法案概要の説明とは異なり、そのひどさが露わになった。これでは「特定秘密」ではなく「国家まるまる秘密法案」というべきものである。4半世紀前の議員立法案であった「国家秘密法案」とは違い、洗練された装いをこらしながら、水も漏らさぬ秘密国家体制を構築することを狙ったそらおそろしい法案である。官僚の悪質さをあらためて思い知らされた。

1 まず第1に、秘密指定権者が防衛省や外務省に限定されているわけではなく、宮内庁までも含む国の政府機関が網羅されている。したがって、防衛、外交、「特定有害活動」やテロリズムにかかわるとさえ言えば、財務省であれ、厚労省であれ、その長が秘密と指定して「特定秘密」とされる仕組みとなっている。行政の秘密体質に法的なお墨付きを与え、市民がそれに近付くことを厳しく処罰するという法案である。真に重要な機密に絞り込んで、それを取り扱う者の範囲を最小限に限定するのが秘密保全の要諦であるが、「特定秘密取扱職員」の範囲はどこまで広がるのか限定がない。

 そして、この「特定秘密」指定を限定し、不要な情報や違法な情報を排除するというシステムが法案にはおよそ定められていない。民主主義社会における秘密保護法制としては致命的な欠陥というべきである。現時点でも「機密、極秘、秘、部外秘」など秘密指定され管理されており、この法案ができれば41万件という膨大な指定がなされると言われている。指定の有効期間は5年とされているが更新に制限がなく無制限に等しい。アメリカでも9・11委員会報告で、過剰な機密指定がテロを未然に防げなかった要因として指摘され、2010年10月には「過剰機密削減法」を制定し、知る権利との調整に一定の配慮がなされているが、この法案にはそのような仕組みは皆無である。違法秘密を排除するシステムも保障されておらず、現在公益通報者保護法7条で「一般職国家公務員等に対して免職その他不利益な取り扱いがされることのないよう」にと定められていることと整合しない。

3 「とくに秘匿することが必要(1条)」だとして国民には隠す一方で、他の行政機関の利用や都道府県警察には広く提供が認められ、外国の政府や国際機関にまで広く提供が認められているのは余りにもバランスを欠いている。
 さらに、国会や裁判所、情報公開審査会などへ提供する場合も極めて制限され、提供するか否かの最終判断権はあくまで行政が握っている。「特定秘密」と指定さえすれば国会や裁判所の要請や命令でも出さなくてよいという、呆れるほどの行政優位の仕組みであり、三権分立や国会の最高機関性を定める憲法秩序に反するものである。

4 「適性評価」はその範囲が「特定秘密取扱業務を新たに見込まれることとなった者」にまで行われるため、広く上級職公務員や一定以上の管理職を対象とされることになりかねず、調査を受けるか否かを踏み絵にし、また思想調査を含む身元調査を法認することに道を開くことになりかねない。内縁を含む配偶者や子、父母兄弟から配偶者の父母などまで広い範囲に及ぶほか、「特定有害活動」や「テロリズム」との関係などという問題に関わる思想調査としての項目に及ぶことになり、極めて問題がある。しかも、「特定秘密」の提供を受ける適合事業者の従業者の適正評価の結果は事業者に通知することになっており、民間企業にも及び、その影響は甚大である。

5 国家公務員法などでは「秘密を漏らしたもの」として処罰しようとするときには、何が秘密かは検察官の立証責任であり、秘密と指定されているだけではなく実質的にも秘密性をもたなければならないというのが最高裁の確立した判例であるが、この法案は行政機関の長が指定した「特定秘密」を漏洩したりすれば処罰されることになっており、実質的に秘密に値するか否かは問われない。最高裁判例を実質的に変えるとんでもない内容である。違法な秘密であっても、指定されていれば処罰される仕組みである。

6 罰則規定も極めて問題である。事前の概要説明とは異なり、10年以下の懲役に1000万円以下の罰金併科が定められており、また特定秘密取得行為は「欺き」「管理を害する」などという曖昧なものであるうえ、共謀、教唆、扇動が規定されている。これは現に秘密の提供を受けなくとも、「共謀、教唆、扇動」行為がなされた段階で犯罪が成立することになり、取材活動やオンブズマン活動などはこれによって摘発される危険が極めて大きい。注意を要するのは「外国のスパイ」だけが処罰されるのではなく一般市民の取材や調査活動が「取得行為」として処罰対象となるのである。イチジクの葉のような「報道の自由に十分配慮する」だけでは何ら毒消しにはならないのである。

7 そもそも秘密保護法制と情報公開制度とはトレード・オフの関係にあり、放置すると秘密は無限に増殖する。したがって、知る権利を支える情報公開制度の確立が秘密保護法制の大前提なのであるが、インカメラ制度の導入などを含む情報公開法改正案は廃案とされたまま放置されている。無茶苦茶指定した秘密でも誰の目にも触れず隠し通せるという法案は、以前の国家秘密法案より以上に超秘密国家をつくってしまうことになる。
 条文の形で示された法案は、8月末の法案概要よりもはるかに危険な内容である。新聞協会も10月2日に、「知る権利」を踏みにじるものとして特定秘密保護法案に反対するとの声明を発表しており、世論を大きく広げられる条件は整ったといえる。
 政府も法案の形を小出しにし、小手先の「修正」を加えつつ世論の動向を睨んでいるのであって、国民の大きな反対運動によって阻止する可能性はある。
 まず情報公開法改正を先行せよという点を一つの柱として反対の声をあげていこう。

オスプレイは憲法違反―そして、許せぬアメリカの治外法権―

弁護士 橋 本   敦

1 オスプレイは明白な憲法違反
 「オスプレイ来るな! あいば野大集会」(10月6日)は、全国各地から1000名をこす参加者が結集し、意気高き国民的抗議集会となった。「オスプレイ反対!」の声は、今、沖縄をはじめ日本中に高まっている。
 オスプレイの配備は、米海兵隊の先制攻撃・戦闘能力を飛躍的に向上させ、最強の遠征兵力にするのである。
 防衛省が公表した「オスプレイの普天間配備と日本での運用レビュー」でも、オスプレイ配備の目的は「世界中における戦争の支援」であるとし、「このオスプレイの配備によって、米海兵隊は考えられうる最も過酷な状況下でも交戦能力を有し、不確実な将来の戦闘作戦への即応性を有した迅速で決定的な遠征部隊となる。」と書いている。
 このような侵略的先制攻撃装備の日本への配備が、わが平和憲法9条を踏みにじるものであることは明白である。
 日本共産党の市田書記局長も、あいば野集会で次のとおり厳しく指摘した。
 「そもそもオスプレイは、米海兵隊が他国への侵略作戦を強化するためにつくられた輸送機であり、海兵隊の『侵略力』を強化するために配備されたのであります。そのオスプレイとどんな訓練をやろうというのか。防衛省が発表した訓練内容によれば、陸上自衛隊と米海兵隊が『ヘリボーン訓練』をおこなうと書かれています。『ヘリボーン』というのは、ヘリコプターを使って敵地へ部隊が侵入・奇襲し、目的地を制圧する戦術のことであります。ベトナム戦争やアフガニスタン戦争で特に多用された、まさに侵略戦争そのものであります。
 誰がなんといおうと『日本防衛』どころか、米軍と一緒に敵国を攻撃する演習以外のなにものでもありません。憲法9条をもつ日本では、絶対に許されない訓練であります。」
 まさにこのとおり、オスプレイの日本配備とその運用は、「専守防衛」を越えた「殴り込み部隊」の強化にほかならず、戦争の放棄を世界に宣言した我が憲法9条に違反することは明白である。
 われわれは「日本国憲法に違反するオスプレイは、アメリカへ帰れ」の声を大きく上げよう。

2 許せぬ治外法権の屈辱
 さらに、このオスプレイ問題を解明すると、そこにみえるのは、米軍の治外法権である。
 治外法権とは、「社会科学綜合辞典」(新日本出版社)では、「外国人が、現に居住する国の法律に拘束されない特権。日本では、日米地位協定および刑事特別法によって米軍基地内のアメリカ軍人・軍属などに治外法権があたえられている。」と書いてある。
 オスプレイが国民の大きな反対を無視して、日本の法律(航空法)に従わず、平然と日本の空を飛ぶのは、まさにこの治外法権である。

3 日米安保とオスプレイ
 オスプレイの危険の最大の問題は、そのオートローテイション(自動回転飛行機能)の欠如である。このオートローテイションとは、ヘリコプターのエンジンが停止して、機体が落下する際、プロペラが上向きの風を受けて揚力が生じるようにして着陸の衝撃をやわらげる機能で、これはヘリコプター運行に絶対必要なものである。従って、わが国の航空法では、このオートローテイション機能がないヘリコプターは飛行が禁止されている。すなわち、航空法施行規則の附属書第一「航空機及び装備品の安全性を確保するための強度・構造及び性能についての基準」の第二章「2―2―4―3」項は、「回転翼航空機は、全発動機が不作動である状態で、自動回転飛行(オートローテイション)により安全に進入し及び着陸することができるものでなければならない。」と定めている。このため、オートローテイション機能をもたないオスプレイは、危険な航空機であるとして所管大臣の「飛行安全証明」、すなわち「耐空証明」が受けられない。そうすると、わが国の航空法第  条は、「航空機は有効な耐空証明を受けているものでなければ、航空の用に供してはならない。」と定めているから、この証明が受けられないオスプレイは、わが国の航空法では、日本の空を飛ぶことはできないのである。
 しかるに、オスプレイはなぜ日本で飛行できるのか。なぜ、日本の法律(航空法第11条)に従わなくてよいのか。まさにそれが、アメリカの治外法権である。
 ところが、日本政府は、この米軍の治外法権を日本の法律によって容認する措置をとらされている。
 すなわち、日米安保条約第6条は、米軍の日本駐留を認め、その米軍の日本における軍隊の運用と基地利用の便益を容認するために、「日米地位協定」が締結されている。
 そして、この日米地位協定第3条では、「合衆国は施設及び区域において、それらの設定、運営、管理のため必要なすべての措置をとることができる。」とされ、それによって、アメリカの要求どおりにオスプレイの飛行を認める航空法の特例がつくられているのである。それが「日本国における合衆国軍隊の地位に関する協定の実施に伴う航空法の特例に関する法律」である。
 その特例法第2項は、次のように定める。
 「合衆国のために又は合衆国の管理の下に公の目的で同軍隊のために運行される航空機並びにこれらの航空機に乗り組んでその運行に従事する者については、航空法第11条の規定は適用しない。」
 何たることであろうか。こうして米軍機には、日本の航空に関する根本原則である航空法第11条が適用されないとされ、この特例によって、オスプレイは日本の法律の制約を受けずに飛行することが容認されているのである。
 まさに、この特例法なるものは、米軍の特権的治外法権を日本が認めさせられている屈辱的法律であることが明白である。
 しかも、今回のオスプレイの配備は、アメリカの日本に対する「接受国通報」という名の一方的発表によって強行され、事前協議も許さず、高度や騒音規制などの日本の法的規制も全く無視した無法な運用がまかり通っていることも断じて許せない。
 われわれは、今大きく高まっている「オスプレイ反対!」のたたかいを、憲法9条を守れの声を大きくするとともに、米軍の治外法権を認めさせられ、その屈辱と危険の対米従属の根源である日米安保条約そのものを廃棄せよとの大きな国民的平和のたたかいに進めて行かねばならない。