民主法律時報

2013年8月号

日本放送協会事件(不当労働行為救済申立事件) 勝利命令のご報告

弁護士 野 矢 伴 岳

1 事案の概要及び争点

 本件は、被申立人である日本放送協会(NHK。以下、「協会」という)が、①NHKの地域スタッフ(受信料の取次・集金等を行うスタッフ)で構成される申立人組合(全日本放送受信料労働組合堺支部。以下、「全受労」という)の執行委員長A氏に対して、契約の取次等に用いる通信決済機器(キュービット)の貸与を取り消し、返却させたこと、②全受労からの団体交渉の申し入れに対し、協会が外部の者であるとする坂元氏(組合の特別執行委員で、堺労連事務局長)の出席を理由として、団体交渉を拒否したこと、が不当労働行為にあたるとして申立てを行った事件です。
 本件の争点は、1.全受労の組合員である地域スタッフは協会との関係で労働組合法上の労働者と言えるか、2.協会がA氏に平成23年1月中旬以降キュービットの返還を要求し、その後貸与しなかったことは、組合員であるが故の不利益取扱いに当たるか、3.平成23年11月2日団交申し入れに対する協会の対応は、正当な理由のない団交拒否にあたるか、の各点でした。

2 委員会の判断

 7月30日付命令では、結論として、争点2については理由が無いとして棄却されましたが、争点1及び3については、全受労の主張が容れられ、団交拒否が正当な理由の無いものであり、不当労働行為であったことを認め、今後このような行為を繰り返さないことを約束する旨の文書を全受労に手交する命令が出されました。

 争点1に関しては、INAX、ビクターの最判事例と同様の基準による検討を行い、(ア)事業組織への組み込みについては、協会の事業は受信料が収益の大部分を占めており、その契約取次等について協会が様々な研修や指導を行い、必要な物品等を交付していたこと等、(イ)契約内容の一方的・定型的決定については、統一様式の契約書が用いられていること等、(ウ)報酬の労務対価性については、地域スタッフの報酬体系は、名目は相違するものの一般の労働契約上の賃金体系と同じものであること等、(エ)業務の依頼に応ずべき関係については、地域スタッフは協会から目標数を設定され、それが遂行できない場合には、協会の担当職員からの助言、指導や特別指導を受けることになっており、協会からの圧力を受けていたこと等、(オ)広い意味での指揮監督下の労務提供、一定の時間的場所的拘束については、協会が目標数を算出して設定していたことや、協会の助言や指導が詳細にわたっていたこと、地域スタッフの携帯端末が局によりリアルタイムで管理されていたこと等、(カ)顕著な事業者性を認める要素が存在しない等、各々の考慮要素について、ほぼ全受労の主張するとおりの事実を認定し、地域スタッフの労組法上の労働者性を肯定しました。

 争点2については、協会が、本件係争中に、A氏にキュービットを交付するように転じたこと等も影響してか、組合の活動を行ったことを理由とする不利益取り扱いであるとは認められませんでした(ただし、協会にそのように転じさせたこと自体が、本件申立ての一つの成果であるとはいえます)。

 争点3については、地域スタッフ以外の第三者を交渉に加えないことについて、これまで労使間で合意が成立した事実は無いこと、坂元氏を団交に出席させる必要性があるかは組合の判断する問題であること等を指摘し、「団交申し入れに対する協会の対応は、正当な理由の無い団交拒否にあたると言わざるを得」ないとしました。

3 本件命令の持つ法的・実践的意義

 本件は、NHKの地域スタッフからなる諸組合にとって、使用者側が、不当にも長年に渡り争って来た労組法上の労働者性に関し、委員会の命令においても、最高裁判例の枠組みに従って正当な判断を示したものであり、今後の当該組合の活動にとっても重要な意義があるといえます。
 また、団交拒否の点についても、組合の交渉担当者は組合が決定すべき事項であることを明言し、これを制限する正当な理由を認めなかったことは、当然のことではありますが、これからの交渉を行う上での実践的な意味を持つと思われます。
 一方で、本命令に残る課題として、命令内容に関し、申立人がキュービットの交付以外にも要求していた事項があったにも関わらず、誓約文の交付のみで、団交応諾を認めなかったことについては、判断に不服が残ります。

4 最後に

 本件では申立て当初より、河村学先生、井上耕史先生に様々なご指導、ご鞭撻をいただき、事件に関しても一定の成果を挙げることが出来ました。西澤真介先生とは、共に学び、意見を交わさせていただきました。紙面にて恐縮ではありますが、謝辞を述べさせていただきます。
 協会は本命令を不服として再審査を申し立てたため、引き続く闘争への支援をお願いします。

民法協 第58回定期総会のご報告

前事務局長 増 田  尚

 8月24日、いきいきエイジングセンターにて、民法協第58回定期総会が開催され、76名の参加者がありました。
 冒頭、大江副会長のあいさつがあり、直近に明らかにされた秘密保全法案が「知る権利」を抑圧する構造は残されたものの、国民を直接に規制するものでなくなり、国民の運動によって大きく変わりうる情勢にあることが示されました。
 また、来賓の水口洋介・日本労働弁護団幹事長よりごあいさつをいただきました。水口幹事長は、第2次安倍政権の下で進められる労働規制緩和の動きに対し、中小企業・女性・非正規労働者を救済するかのようなごまかしを丁寧に暴き、再び導入を阻止することを訴えられました。また、「国家戦略特区」では、東京・大阪・愛知で労働時間規制を緩和して、「世界で一番ビジネスのしやすい環境の実現が企まれており、東京と大阪で力を合わせて反撃することを呼びかけられました。

 続く講演では、萬井隆令会長から、「労働規制緩和の策動と民法協の課題―派遣法改正論議の行方―」と題し、一連の労働規制緩和の問題点について、とりわけ直前に公表された「今後の労働者派遣制度の在り方に関する研究会」の報告書を徹底的に批判し、これに反対する視点を提示いただきました。
 萬井会長は、規制緩和策のうち①限定正社員、②金銭的解決制度、③ホワイトカラー・エグゼンプションの3つをとりあげ、①については、「正社員=職種も勤務地も労働時間も無限定」との議論の前提から疑うべきであること、②については、労働者の側に解雇の効力を争わずもっぱら損害賠償によって解決を図る選択肢は用意されており、労働者の「救済」という導入の根拠はまやかしであって、違法な解雇をしておきながら復職を不当に妨げている企業を免罪し、企業の側に「解決」の道具を与えるものでしかないこと、③については、「サービス残業」や長時間労働によるメンタル不全・過労死などの違法な状態を合法化するものでしかないこと、とそれぞれコメントされました。

 また、派遣法改悪の動きに対して、直接雇用の原則が理論と運動の基軸に据えられるべきであり、財界にとっては「ノドに刺さった骨」のように桎梏となっていると指摘されました。財界側の手法は、違法な労働者供給事業を蔓延させ、法律で規制する体裁をとらせて合法化を推し進めていくというものであり、これに対し、行政や司法も、違法な偽装請負について、派遣法の問題ととらえ、罰則をともなう職安法を適用しようとせず、このような態度が、派遣先が派遣の適法性に頓着せず、違法な派遣をのさばらせてきたと批判しました。他方で、直接雇用申込義務や、「みなし」制度など、直接雇用の原則に基づき、間接雇用である派遣を例外化する改正も並行して進められてきたことも見る必要があると述べられました。次に、「在り方研」の報告書が、財界側の要望を多く取り入れ、政令指定業務と自由化業務の区別を廃止したり、派遣期間の上限を業務単位から個人単位に変更すると提案するなど、派遣労働の一時性・臨時性という考え方を根底から覆すものであり、「キャリアアップ」など派遣労働者への「配慮」も、派遣労働者の置かれている実態や、派遣先と派遣元の力関係などを見ない空疎なものにすぎず、派遣先への団体交渉応諾義務や製造業派遣原則禁止の見送りなど、論点を回避する姿勢に終始するものであると厳しく批判しました。

 その上で、こうした規制緩和に対しては、実際の現場で起きている違法を許さず、労働者の権利を実現する課題に取り組む中でこそ、阻止に向けた国民との共闘が可能になると呼びかけられました。

 次いで、事務局長より、1年間の総括と新たな活動方針の報告がありました(議案書は、「民主法律」292号に掲載されています。)。労働規制緩和と改憲の動きをどうとらえ、闘うのかについて行動を具体化する討論を呼びかけました。
 討議では、労働規制緩和に関わって、派遣法改悪阻止の運動や、派遣先との団交応諾義務に対する中労委の不当な判断を跳ね返す闘争、労働時間規制緩和を阻止する運動と過労死防止基本法制定、若年労働者の就活やメンタルヘルスなどの問題とASU―NETの活動などについて発言がありました。また、改憲の動きに関しては、各法律事務所でのとりくみや「明日の自由を守る若手弁護士の会」の活動の報告、「平和への権利」実現の運動と9条世界会議関西成功の呼びかけ、集団的自衛権の行使・秘密保全法・武器輸出などを可能にする国家安全保障基本法阻止のたたかい、「教育再生」のもとで進む「自虐史観批判」と「自己責任」の押しつけや、教科書採択をめぐる政治介入の動きへの対抗運動などの発言がなされました。また、裁判闘争について、オレンジコープ、ダイキン控訴審、泉南アスベスト第2陣控訴審結審について、それぞれ支援の訴えがありました。
 その後、決算報告と予算の提案、会計監査報告に続き、活動方針案と予算案が採択されました。また、新役員の提案も承認されました。

 最後に、城塚幹事長より、橋下維新と第2次安倍政権による新自由主義・新保守主義との闘いが山場を迎える中、中西基・新事務局長のもと、民法協に課せられた役割を果たす活動に結集することを訴えられました。
 総会で採択された活動方針案に即して、様々な分野で、労働者や市民の権利を擁護する活動にとりくまれることを会員各位にあらためて呼びかけたいと存じます。

第3回労働相談懇談会報告

弁護士 河 田 智 樹

 2013年8月1日、国労大阪会館地下会議室において労働相談懇談会を開催した。参院選直後のため他のイベントも盛り沢山であったにもかかわらず、約25の方にご参加いただき、盛況であった。 
 はじめに、毎回恒例の「最近の労働裁判例」について、河田が報告を行った。
 ヘルパーの頸肩腕腰痛症を公務災害と初めて判断した大阪地裁判決など、画期的な判決が出ており、実務への影響は大きい。

 次に、西川大史弁護士を講師に「残業代の計算」について、ご講演いただいた。
 労働時間や休日の基本的ルールについて講義があった後、具体例を用いて実際に計算過程を大変分かりやすく説明していただいた。応用問題として、一日8時間超、週40時間超で休日労働に当たる重複部分の計算方法についても表を用いて検討した。
 なお、大阪地裁(5民)が残業代の計算方法に関するレジュメを配布しているとのこと(判例タイムズ1381号36頁)。
 一方、労働賃金の消滅時効が2年と短いため、残業代の計算を完璧にしようと時間をかけている間に時効が完成してしまうという悲劇にならないよう、訴状は早めに出すことを心がけること、また、内容証明郵便が相手方に到達後、6か月以内に提訴しなければ時効が中断しないこと等、労働者が誤解しがちな点の助言もあった。

 続いて、谷真介弁護士から定額(固定)残業代と割増賃金請求について、ご報告をいただいた。定額残業代は、ブラック企業で横行しておりタイムリーな問題である。
 基本給組み込み型、定額手当型について、高知県観光事件、テックジャパン等の最高裁判決やアクティリンク事件等の地裁判決にも言及して非常に分かりやすくご説明いただいた。

 今回も活発な議論ができ、非常に有意義な懇談会であった。

9条世界会議・関西 プレ企画 北村春江さん講演会

弁護士 西 川 大 史

1 はじめに

2013年10月13日、14日には、9条世界会議・関西が大阪で開催されます。9条世界会議関西2013を成功させる法律家の会では、8月19日に、9条世界会議のプレ企画として、北村春江さん(弁護士・元芦屋市長)を講師にお迎えし、「戦争につながる道に一歩でも踏み込んだら、後は泥沼」というテーマで講演をいただき、約80名が参加されました。

2 北村春江さんの戦争体験

北村春江さんは、1928年生まれの84歳です。1991年に芦屋市長に当選され、全国初の女性市長として注目を集め、3期12年市長を務められ、阪神大震災からの復興を陣頭指揮されてきました。2013年6月21日の毎日新聞のインタビューでは、「戦争につながる道に一歩でも踏み込んだら、後は泥沼。かたくなな考えかもしれませんが、戦争を体験した世代として、そこは強く言いたいですね」と語っておられます。
北村さんは、「兵隊さんに感謝し、銃後を守らなければならない」「欲しがりません、勝つまでは」と教えられるなど、戦時中は「軍国少女」だったと言います。それでも、空襲にも何度も遭い、低空で迫る敵機のパイロットと目が合ったこともあり、命を奪われかねない恐怖とたたかい、終戦の日の安堵の気持ちは今でも忘れることができないと話されました。

3 戦争への道だけは阻止しなければならない!

北村さんは、「戦争も震災も残酷なもの。それでもどちらがより残酷かといえばそれは戦争に間違いありません」と言われ、「戦争を体験した私たちにとって憲法9条の戦争放棄、平和主義はかけがえのないもの。大事にしないといけない。少しでも緩めると大変なことになる。少し譲ったところからまた少し譲ることになり死文化することになってしまう。戦争への道だけは何としても阻止しなければなりません。」と力を込められました。
参加者からは、「講演テーマの「後は泥沼」という言葉の実態がよくわかった」、「平和のありがたさを勉強できた」、「戦争体験を聞くことができて良かった」など多くの感想も寄せられました。

4 さいごに

北村さんの講演はまさにご自身の戦争体験を踏まえて、現在高まる改憲論議に一石を投じていただく内容でした。
この秋は、改憲勢力からの集団的自衛権の行使容認という憲法9条への挑戦との熱い闘いとなります。9条世界会議・関西を成功させ、憲法を守り生かす運動を広めていきましょう。

民法(債権法)改正問題

弁護士 井 上 耕 史

一 民法(債権法)改正作業の経過

 法務省は民法(債権法)を抜本的に見直す方針を打ち出し、09年10月、民法(債権法)改正が法制審議会に諮問された。これを受けるかたちで法制審議会は民法(債権関係)部会を立ち上げ、11年5月、「民法(債権法)改正に関する中間的な論点整理」を発表した。その後さらに議論を重ね、同部会は、13年2月26日に「民法(債権関係)の改正に関する中間試案」を決定し、同年4月16日から6月17日までパブリックコメントを募集した。
 「論点整理」の段階では、労働契約に影響を及ぼすものや、相殺の遡及効を制限するもの等、一般市民、労働者、中小零細業者から見て重大な権利後退となるおそれのあるものが多く含まれていたが、これらに対する異論・批判が相次ぐ中で、「中間試案」ではかなりの部分が改正対象から外された。しかし、なお問題のある改正案も多く残されている。

二 全面改正の必要性はない

 基本的に、現行法の適用によって国民生活に不都合が生じているわけではない。国民からも全面改正を求める声はあがっていない。かえって、立法事実について慎重な検討を経ないままの改変によって、実務に多くの混乱をもたらし、多くの国民が被害を受けるおそれがある。
 現時点で債権法の全面改正をする必要はなく、個人保証の規制等、必要な部分についてのみ一部改正を行うことで対応すべきである。

三 改正案の問題点

 中間試案における改正事項は多岐にわたっており、判例法理を明文化するだけでなく、判例・実務を変更するものも多く含まれている。

 中間試案には、例えば次のような前進面もある。
・保証人保護の方策として、貸金債務について経営者を除く個人保証を無効とする、債権者の個人保証人に対する説明義務などを検討する(実際に盛り込まれるかは不明)。
・不法行為に基づく20年の制限を除斥期間とするのが判例法理であるが、これを消滅時効と明記する。また、生命・身体の侵害による損害賠償請求権の消滅時効については、債権の原則的な時効期間(後述)より長期とする。

 他方、権利の後退を招くおそれのある条項案も少なくない。
・錯誤の効果を無効から取消しに変更する。
・取消権の行使期間につき、知ったときから5年、行為の時から20年とする現行法を、それぞれ3年、10年に短縮する。
・債権の消滅時効における原則的な時効期間を短縮する。行使できる時から5年とする(甲案)又は知った時から3年、行使できる時から10年(乙案)の両論併記。
・法定利率を年3%を当初利率とした変動制とする一方で、中間利息控除の割合を年5%に固定。労災や交通事故などで被害者の得られる賠償額が減少する。
・時効消滅した債権を自働債権とする相殺を、債務者の時効援用前に限定。
・書面による諾成的消費貸借契約を認め、金銭を受け取る前に借主が解除した場合に損害賠償義務を負わせる。過剰貸付等の弊害が懸念される。
・消費貸借の期限前弁済について損害賠償義務を負わせる。期限の利益は債務者の利益のためと推定される現行法から後退。

四 今後の課題

 「中間試案」のパブリックコメントの結果を受けて、同部会は、14年7月末までに「要綱仮案」を、15年2月ころまでに「要綱案」を取りまとめるとしている。
 一般市民、労働者、中小零細事業者の権利を拡大し、後退を許さないよう、債権法改正作業を注意深く監視し、債権法改正の必要性及び改正内容の個別具体的な分野において、積極的に意見を表明していくことが求められる。