民主法律時報

2013年1月号

朝が来なければ夜は永遠に続く 〈2013年新年のごあいさつ〉

会長 萬 井 隆 令

 どこに向けて良いのか判らない憤りや落胆を感じながら、総選挙の開票速報を見ました。ただ、議席数には大差がつきましたが、比例代表区では総数180議席のうち自民党は  議席( 31.7%)でしかなく、反対に、小選挙区では当選者のなかった共産党が8議席(4.4%)、2議席の未来が7議席(3.9%)を得ています。いかに、小選挙区制が制度として民意を反映しない不公正な制度か、を物語っています。それに対する批判の声も上がっているようで、熱の冷めないうちに選挙制度の改革を迫る必要を感じます。 
 その後の調査では「民主政権に失望」が81%(朝日新聞12月19日)。それが今回の選挙の基盤であったようです。たしかに民主党は、3年前の政権交代にかけた国民の期待からは程遠い政策に終始しましたから絵に描いたような惨敗を喫したと言わざるを得ません。自民・公明が連携し、それに維新が協力する政権の下で、基地問題でも原発問題でも、さらには憲法問題でも、今後、小泉政権とは少し趣向が異なった復古調で反国民的な動きが出てくることが予想されます。しかし、先の調査では「自民の政策を支持」は僅か7%(自民支持層でさえ13 %)でした。国会の中で議院の構成は激変したとしても、国民の眼はある意味では堅実です。
 そういう状況を見据えながら、私たちは大阪府・市が次々繰り出す無法な政策を止める闘いや非正規労働者の闘い、JALや電気産業の大量解雇に対する反対運動を力強く進め、公職選挙法の改正や過労死防止法の制定などで打って出る必要があります。
 
 昨年は労働契約法および派遣法の注目すべき改正が行われました。
 改正労働契約法は、既にJR東日本や喫茶チェーン・ベローチェに現われているような「有期雇用不安定化法」となるのか(和田肇・労働判例1054号)、有期雇用労働者の権利の前進に有益・有効な法的基盤となるのか(東海林智・毎日新聞11月5日)。私は使い方次第の諸刃の剣と見ています。
 不合理な労働条件の「相違」を禁止する20条は、自動的に効果を発揮してくれるものではありませんが、団体交渉や裁判の場での使い方次第で、実質的な有期雇用の入口規制および同一労働同一処遇の原則として機能する可能性をもっています。また付則2条があるので、18条の無期契約への転換のみなし制が直ちに適用されるわけではないとしても、既に施行されている19条を直ぐにでも援用して有期契約を更新し続け、5年後の無期契約への転換みなし制の利用に繋げば、現実には5年の猶予はないに等しい状況を創り出すことも不可能ではありません。厚生労働省の「有期契約労働者にあらかじめ無期転換申込権を放棄させること…法第18条の趣旨を没却するもので…有期契約労働者の意思表示は、公序良俗に反し、無効と解される」とする2012.8.10通達(第5―4―(2)―オ)も活用できます。
 紆余曲折があったとはいえ、派遣法は、派遣対象業務以外の派遣、派遣可能期間を超えた派遣、偽装業務請負などを行った場合、「その時点において」派遣先は当該労働者に「労働契約の申込みをしたものとみなす」と規定しました(40条の6第1項)。違法派遣の場合、派遣先が直接雇用するという形で立法的に問題解決を図ったわけで、施行が3年先だという問題はあるにせよ、これまで日本にはなかったシステムであり、画期的であることは間違いありません。 
 有期雇用や派遣という形で働く非正規労働者を正規化しようとしても、これまでは使用者が抵抗する場合には裁判所の判決に期待を掛ける以外にありませんでした。今回、正規化を使用者に強制する(少なくとも、派遣先は「労働契約の申込みをした」ことを否定はできない)ことを、法律の条文という確固たる足掛かりを曲がりなりにも創りだしたわけで、非正規労働者の正規化の運動に大きな支えを提供するものです。
 ただ、労働契約法の18条による無期契約への転換にせよ19条による有期契約の更新にせよ、労働者の申込みが条件となっているので、その条文を活かすためにはまず「申込み」をする必要があります。しかし、彼・彼女らの努力だけでは企業の壁を突破することは至難なことで、個々の非正規労働者だけでは「申込み」さえ無理なこともあるかもしれません。したがって問題は、労働組合がそれらの規定を活用する視点を持ち、方針化し、それを実現する状況を自ら創りだし得るのか、に掛かっています。ますます労働組合の存在意義が鋭く問われることになるとともに、民主法律協会の真価を発揮することが期待されています。 
  
 『マクベス』の中の「明けない夜はない」はやや消極的な、待ちの訳で、本来は、「朝が来なければ夜は永遠に続くからな」と、奮起を促す趣旨だと誰かに聞きました。不利な状況と有利な条件、その中で、条件を活かし有利な状況を自ら創りだすことへ大きく踏み出しましょう。「朝が来なければ夜は永遠に続くから」。                    

最高裁よ、今こそ自らのあやまりの歴史を正す勇気をもて――レパ裁判 上告審のたたかいにあたって 〈新年の所感〉

 弁護士 橋 本   敦

 レッド・パージ――それは言うまでもなく、思想・良心の自由を侵害する許されざる人権侵害である。
 わが憲法第19条が宣言する「思想及び良心の自由」は、国民がひとしく保有する基本的人権の中核をなすものである。
 新しい年を迎えて今、私はこの国民の基本的権利をまもりぬく決意を新たにする。
 かつて西ドイツのハイデッカー大統領が「過去の歴史を正しく見ない者は、未来にも盲目となる。」と有名な演説をした。そのドイツでは2009年に、ヒットラー時代のナチスによる不法な弾圧と人権侵害によって国民が蒙った損害に対し名誉回復と損害保障のために「包括的名誉回復法」を制定する立法措置がとられた。また、スペインでは2007年に「歴史の記憶に関する法律」が制定され、フランコ政権下の人民弾圧に対して権利回復措置がとられた。
 しかるにわが日本ではどうか。思想・言論・結社の自由という不可侵の基本的人権に対する不法な侵害であるレッド・パージ、それはまさにまぎれもない日本の戦後史の重大な汚点であるのに、その犠牲に対してはこれをただす法的措置は一切とられていない。
 諸外国ですすめられた歴史のあやまちをただす正義の措置が何故日本では無視され続けるのか。
 私は今、新しい年を迎えるにあたって、とくに最高裁判所に対して最高裁は自らの過去のあやまちの歴史をただす勇気をもてときびしく問いたい。
 神戸中央電報局で「共産主義者又はその同調者」であるとして免職処分を受けた大橋豊ら、もはや90才をこえるレッド・パージ犠牲者3名が「生きているうちに名誉回復を」と願って神戸地裁に提訴したレッド・パージ裁判が第一審、第二審の不当判決を経て、その上告審裁判がいよいよ今年最高裁判所で審理される重大な年を迎えた。
 そこで私はもう一度声を大にして言いたい。
 「最高裁よ、今こそ、自らのあやまちの歴史を正す正義と勇気をもて」と。
 何故か。実は、憲法と法の正義、国民の基本的人権をまもるべき最高裁もまた、驚くべきことにレッド・パージの下手人だったからである。
 それは、元東京地方裁判所の職員であった加藤栄一氏が、本人の受けた免職処分はレッド・パージであり許されないものであると日弁連に対して人権救済の申立をした事件に対し、日弁連は慎重な審査の結果、2010年8月21日、これをレッド・パージであると認めて、最高裁判所に対して次のように述べて人権救済勧告を出したことで明白である。
 「最高裁判所には法の支配の担い手として政治部門の権力濫用を防止し、国民の人権を保障することこそが期待されるのに、申立人の思想・信条の自由を侵害したことはその職責に照らし、責任は極めて重い。」
 これはまことに正当かつ重大な日弁連の指摘である。 
 このように、法の正義と人権をまもるべき最高裁までもが時の政府によるレッド・パージの共犯者だったことが証明されたのである。
 このレッド・パージの下手人であった最高裁判所に対して、今年われわれはいよいよ神戸の3名のレパ裁判の上告審のたたかいを開始するのである。
 こうして今、最高裁判所での公正な正義の審判を求めるために、私たちは声を大にして言いたいのである。
 「最高裁判所よ、法の正義と憲法を踏みにじって政治権力に屈従迎合し、自らもレッド・パージを行った過去の重大なあやまちの歴史をただす勇気をもて」と。
 そのために当然必要なことは、これまでに全国で数百件もあったとみられるレッド・パージ裁判をすべて敗訴させた元凶である不当な二つの最高裁の決定のあやまりを今こそ最高裁が自ら正すことではないか。
 その二つのレッド・パージ事件の決定とは、最高裁判所の1952年4月2日の共同通信事件と1960年4月18日の中外製薬事件の二つの大法廷決定である。
 この最高裁決定が、労働者の憲法をまもり正義を実現する不屈のレッド・パージ反対のたたかいに、いかに不当な結果をもたらしたかという事実は、北海道教育大学の明神勲教授が本件の神戸地裁に提出した「意見書」で次のように述べられているとおりである。
 『公共的報道機関のレッド・パージについては、既に占領下に、共同通信社事件に対する最高裁決定(1952年4月2日)が、マッカーサー書簡の効力は公的報道機関にも及ぶと判示したことによって判例として確立していた感があった。残る問題は「その他の重要産業」に対する効力についてであったが、独立後にはこれを否定して国内法を適用し、レッド・パージ無効判決をくだす下級裁判例が増加する傾向が強まった。しかし、マッカーサー書簡の効力は、「その他の重要産業」にも及ぶと判示した中外製薬事件に対する1960年の最高裁決定を契機に、これを踏襲する下級審判例が続出し、有効説が圧倒的多数となり判例の傾向は完全に逆転した。
 最高裁は二度にわたる決定によって数万人のレッド・パージ被追放者たちの法的救済を完全に断ち切り「職場からの追放」を合理化し、さらに彼らを「法の保護」という世界からも追放したのである。』
 また、本多淳亮大阪市大教授も「思想・信条の自由」と題する論文で次のようにきびしく批判されている。
 『思想・信条の自由は現代社会における人間存在の基底を形作るものである。重要な人権主体として人間の尊厳が保障されるためには、何をさておいてもまず確保されねばならない根源的な自由という性格を持つものである。思想・信条の自由の欠けているところでは必ず人権が蹂躙されることは否定できない。最高裁判決を初め日本の裁判はどうであったか。いやしくも裁判所が事件を扱う限り、厳密かつ明確に法的根拠を示さなければレッド・パージを肯認できないはずである。にもかかわらず最高裁判決を初め、下級裁判所の多くの裁判例は、あいまいな法的根拠のもとに解雇有効の結論を下した。この態度は占領軍当局の巨大な魔手におびえて自ら司法権の不羈独立を放棄した、と言われても仕方あるまい。』(「季刊労働法」別冊1号、124頁、1977年)
 われわれはこれまでの審理でも、この最高裁決定はマッカーサーのレッド・パージ指示を超憲法的なものとしただけでなく、具体的事実の論証もなく、それがすべての重要産業に及ぶことは明白であると独断するもので、それは重大なあやまりであり、判例として先例的価値はなく、速やかに破棄されるべきであるときびしく主張してきた。しかし、本件の第一審判決も、さらに大阪高裁判決も最高裁の決定に追随してわれわれの主張をしりぞけた。それが今や、本件レパ裁判の上告によって、最高裁自らがこの不当な誤った決定を破棄・変更する絶好の機会がおとずれたのである。それがまさに本件のレッド・パージ上告審である。
 反共マッカーシズムの嵐が吹き荒れた国アメリカでも1958年6月18日に、「赤狩り」の思想差別は違憲であるとする連邦最高裁判所の判決が出され、『世界週報』は、「マッカーサーシズムも臨終へ・米最高裁判所は、三つの重要な判決を下し、一つの主義(反共主義)に『墓標』をたてた」と書いた。
 今や、日本の最高裁もレッド・パージについて自らのあやまちの歴史を正し、ゆるぎない正義の判断を示す時である。
 すべての裁判が全部敗訴とされたこれまでのレッド・パージ裁判の痛恨の歴史に、今こそ終止符を打って、歴史の正義とわが憲法が生きる画期的な判決が下されることを今年の年初にあたり、あらためて強く切望する。そして、すべてのレッド・パージ犠牲者の名誉回復と損害補償を勝ちとり、今こそ、日本の戦後史の一大汚点をただしぬぐい去るために、本件レパ裁判上告審のたたかいに対して、わが民主法律協会はじめ、広く全国の皆さんのあたたかい御支援を心からお願いする。

金額提示をしないのは違法 一時金支払を求め提訴――天雲産業第2次一時金訴訟

弁護士 増 田   尚

一 本件紛争の経緯

1 15年にわたる不当労働行為
 天雲産業(本店:大阪市西区)は、アンカーボルトを製造販売する会社です。同社の代表取締役は、業界団体の会長を務め、業界でも有数の業績を誇り、経営も堅調です。しかし、一方で、同族会社にありがちなワンマン経営で、場当たり的な人事や、営業利益を従業員に還元しない姿勢に対し、従業員の不満が鬱積していました。
 そうした中、本件訴訟の原告である山下さんらが中心となって、1998年2月に、全大阪金属産業労働組合(現在の全日本金属情報機器労働組合大阪地本)の分会を結成し、職場の民主化を図ることとなりました。しかし、同社は、組合結成直後から、加入妨害や脱退工作を繰り返し、組合対策のため、就業規則にもない課長職を創設して、脱退者や加入の意向を示した者を昇格させるなどの不当労働行為を行い、そのために、組合員も2名になりました(うち1名が後に退職し、現在は本件原告の山下さんのみ)。
 また、同社は、一時金や定期昇給をめぐる団体交渉において、経常利益の額など必要な情報の開示を拒否し、資料も提出せず、具体的な説明をすることなく、不誠実な交渉態度に終始しました。そのため、組合は、2000年9月に、これらの不当労働行為につき救済を求めて大阪地方労働委員会(現大阪府労働委員会)に申し立てました。同委員会は、2004年2月19日、不誠実な団体交渉について不当労働行為であるとして、団交応諾と謝罪文の手交を命じました。この救済命令については、その後の再審査請求、取消訴訟の1審、控訴審でも維持され、同社の不当労働行為は明確に断罪されました。にもかかわらず、同社は、売上高、経常利益等の経営指標について、第三者への開示をしないことや、違反した場合には違約金の支払を約束させる「確認書」の提出を求め、これに応じなければ、これらの経営指標を開示しないとする不誠実な対応をとり、今日に到るまで、団体交渉において、これらの経営指標を開示せず、救済命令を無視し続けています。

2 「新人事・賃金制度」導入と第1次訴訟
 同社は、2005年10月に、成果主義に基づき昇格・昇級と一時金査定を行う「新人事・賃金制度」を一方的に導入し、2006年年末一時金から、同制度に基づく査定を強行しました。これにより、山下さんに対して、従来は、明確な資料の裏付けのある時期に限っても、8年・18季にわたって、各季70万円の一時金を支払ってきたのに、およそ4分の1もカットした約53万円を提示しました。山下さんは、同制度の導入に同意せず、組合の団体交渉において、同制度導入の必要性・合理性を追及するとともに、提示額の妥当性について協議を求めましたが、同社は、経常利益等の経営指標を開示することもなく、実質的な説明・回答を拒否しました。その上、同社は、一時金の支払期日になっても、組合と妥結していないことを理由に、支払をしませんでした。
 山下さんは、このような支払拒否は違法であるとして、従前の支給額である各季70万円の一時金の支払を求めて、2007年7月に、大阪地裁に提訴しました。大阪地裁(菊井一夫裁判官)は、2010年4月30日の判決で、各季70万円の一時金を支払うとの労使慣行が成立するとの山下さんの主張を採用しなかったものの、提示額の限度で請求を一部認容しました。双方が控訴しましたが、大阪高裁(田中澄夫裁判長)は、2012年2月3日の判決で、1審判決と同様、山下さんの労使慣行の主張を認めず、また、労使間で支給額を妥結しない限り一時金の支払請求権は発生しないとする同社の主張についても、そのように解すべき就業規則等の根拠はないと斥け、双方の控訴を棄却しました。同判決は、同社が組合との「間の賞与についての団体交渉において、本件組合から考課査定の内容や配分方法について説明を求められたにもかかわらず、考課査定の内容や配分方法は従来どおりであり、会社の方針で明らかにできないと答え、それ以上の説明をしようとしなかった」ことからすれば、同社の「団体交渉に臨む姿勢は、本件労働組合との協議によって賞与額を決定しようとしたものではなく、第1審被告の考課査定を本件労働組合に押しつけようとしたもの」であるとして、同社の弁解が不当労働行為であると断罪しました。同社は、同判決を不服として上告・上告受理申立てをしましたが、同判決に基づき、山下さんに、2011年夏季までの各季の一時金につき提示額のとおり支払いました。

二 幼稚な金額提示拒否~第2次提訴へ

 控訴審判決後の2012年夏季一時金の団体交渉が開催されましたが、同社は、突如として、「新人事・賃金制度」に基づく運用を認めないのであれば、支給額の提示もしないと言い出したのです。金額を提示すれば、その額で一時金の支払請求権が発生すると裁判所に判断されたことから、それならば、金額を提示しなければいいという稚拙な論理で、山下さんや組合に対する敵意に基づく不当労働行為というほかありません。同社は、組合から、査定は可能であり、すみやかに金額を提示し、妥結の有無にかかわらず、提示額の限度で支払期日に支給するよう求めましたが、「新人事・賃金制度」に同意しなければ金額も提示しないとの態度に頑迷に固執しました。
 そのため、山下さんは、同年8月に、未支給の2011年年末一時金(金額提示済み)と合わせて仮の支払を求める仮処分を大阪地裁に申し立てました。審尋では、裁判官を介して、少なくとも、12年夏季一時金につき有額回答をして回答額を支払うよう求めましたが、これも頑強に拒否し、結局、回答済みの11年年末一時金の回答額のみを支払い、その余の申立てを取り下げる内容で和解し、あらためて、同年12月26日に、各季70万円(11年年末について差額)の一時金等の支払を求め提訴しました。
 訴状では、第1順位請求として、一時金額を70万円とする労使慣行が成立しており、しからずとも、適正に査定すれば70万円を下回ることがないことから、一時金又は査定・支払義務の不完全履行による損害賠償として、第2順位請求として、一時金の査定・支払義務の懈怠による不法行為責任に基づく損害賠償として、冬季70万円の支払を請求しています。
 加えて、同社の一時金不支給は、単なる査定・支払義務の懈怠というにとどまらず、山下さんと組合の弱体化をねらった不当労働行為であるとして、有形無形の損害について220万円の賠償を求めています。同社は、組合憎しのあまりに、山下さんを不当に差別して、生活に打撃を与えようとするもので、およそ一般の企業では考えがたいような無法な仕打ちであって、到底許されません。
 本件訴訟においては、一時金を就業規則に定める支給期日に支払うべき義務が使用者にあるという当たり前の論理に基づき、それまでに当然に公正な査定をへて支給すべきとの判断がなされるのは当然として、同社の前近代的な反労働組合体質が明確に断罪されることが求められます。
 天雲産業に業界のリーディングカンパニーにふさわしい法的・社会的責任を果たさせるため、第1次一時金訴訟の最高裁勝利の確定と、第2次訴訟の完全勝利に向けて、多大なご支援をいただきたいと存じます。

(代理人は小林保夫弁護士と当職)

求められるILO条約・勧告の遵守  JAL裁判控訴審勝利をめざす12.18学習決起集会

 JAL不当解雇撤回裁判原告 西 岡 ひとみ

 新年明けましておめでとうございます。
 いつもご支援をいただき、本当に有難うございます。
 私達原告団は昨年3月、東京地裁での「解雇は有効」との判決を受けまして、4月に東京高裁に控訴いたしました。
 第1回控訴審はパイロットが昨年12月6日、客室乗務員は12月14日行われ、第2回の期日はそれぞれ、2月7日、3月1日となっております。
 高裁勝利へ向け12月18日に行われました集会には、衆院選直後であり年末の慌しい中であるにもかかわらず、100名近い方々にご参加いただき、おかげ様で大変盛り上がった会となりました。
 萬井隆令先生の開会のご挨拶に始まり、東京からお越しいただいた牛久保秀樹弁護士による「ILO勧告の意義と活用」の学習会、航空連事務局長、津恵さんの「今後のたたかいと当面の行動提起」、原告団の決意表明、最後に梅田章二先生によるご挨拶、航空連大阪地連平井事務局長による「団結ガンバロー」で締めくくっていただきました。

 集会のメインである牛久保先生のお話はとてもわかり易く参加された方からも好評でした。
 2010年12月9日、私達対象者に会社から「解雇予告通知書」が送られてきました。
 同年12月13日にILOに書簡を提出、12月26日にはILOから日本政府にILO条約に沿った対処を要請しています。
 しかしながら日本航空が12月31日に解雇を実行したため、翌2011年2月に、ILO駐日事務所に結社の自由委員会宛の申立書要約文、及び申立書本文を提出し受理されました。
 また5月には原告団が要請団としてILO本部を訪問しています。
 2012年3月29日、30日の東京地裁判決(原告の請求を棄却)を受け4月30日に地裁判決要旨をILOに提出し、6月15日ILO第315回理事会で勧告が採択されました。
 この「ILO結社の自由委員会」及び「ILO理事会」の勧告には大きな意義があります。牛久保先生が指摘されている点は今回の勧告により「日航の整理解雇案件がILOの監視下に置かれた」と言う事です。
 今回の是正勧告を受けて日航案件は、ILO結社の自由委員会のフォローアップ(追跡検証)手続きの対象として位置付けられます。政府、申立人からの追加情報を受けて、今後状況に応じてILOから追加勧告が出されることになります。ILOはその事を「again  and  again 」と表明して、解決するまで継続する、としています。
 勧告の主な内容は大きく分けて以下の3つです。
 (a) 委員会は従業員の人員削減の過程において、労働組合と労働者の継続する代表者が役割を果たせるように、関連する当事者間で協議が実施されることを確実に保障するよう日本政府に要請する。
 そして、(b)整理解雇された148人が2011年1月に会社を相手取り、東京地裁に提訴し、労使間に法的拘束力のある雇用契約が存在していることを認めるよう、裁判所に要求していることに対して、委員会は当該の裁判の結果に関する情報を提供するよう日本政府に要請する。とし、
 (c) 再建計画を策定する場合、そのような性質の計画が労働者に及ぼす悪影響を可能な限り最小限に止める上で労働組合は主要な役割を担うため、委員会は労働組合と十分かつ率直な協議を行う事の重要性を強調する。委員会は日本政府がこの原則が十分に尊重されることを確実に保障するよう、期待する。
としています。
 
 今後政府と日航経営者がこの勧告を守るように、私達原告団はこの内容について学習を深め、また広くこのILOの勧告について皆様に知っていただけるように運動を広める取り組みをしていかなければならないと思っています。
 国労闘争の際にはILOから9回の勧告が出されたと伺っています。
 そして原告団がILO本部を訪問した際「国労の件が解決したところなのに日本政府はどうなっているのですか」と聞かれたとうかがいました。
 更に昨年10月に来日されました、ILO国際労働基準局次長のカレン・カーチスさんは、客乗の内田団長と懇談した際に、本件解雇後会社が940名の客室乗務員の新規採用を行ったと聞いて、「94 名ではなくて?」と大変驚かれていたそうです。
 誰がみても非常識な本件解雇と日航の経営を改め、皆様に安心と安全とお届けできる航空会社としてJALが真の再建を遂げる様に原告団も頑張って参りますので、今後ともご支援をどうぞよろしくお願いいたします。

西谷敏先生の『労働組合法 第3版』を読む

弁護士 出 田 健 一

 第2版刊行後6年を経て、昨年12月に西谷敏先生の『労働組合法第3版』(有斐閣)が出版されました。
 同書の「はしがき」にもあるとおり、主な改訂箇所は労組法上の「労働者」概念に関する部分(同書77頁以下)と「使用者」概念に関する部分(149頁以下)です。いずれも当協会の会員が取り組んだ事件に関係しますが、前者は三つの最高裁判決が出て判例命令の前進面が顕著です。これにつき、「新たな最高裁判決の結論そのものは広く支持されているが、判決がいずれも事例判断にとどまっていることもあって、理論的な決着にはほど遠い状況である」として、著者は労組法3条の「労働者」は憲法28条の「勤労者」と基本的に同義で、「その意味内容と範囲は、基本的には憲法28条の趣旨から導かれるべきである」として、全逓中郵事件の最高裁大法廷の判旨も引用しながら、「使用者(労務供給の相手方)との関係で社会的経済的に従属的な地位にあり、そのために労働基本権の保障を必要とする者」と定義し、最高裁判決や労使関係研究会報告を批判的に検討されています。これは「経済的従属性」を基準とする説です(先生の『労働法』459頁も参照)。
 一方、「使用者」概念についての判例命令は複雑です。派遣・下請関係や偽装解散・事業譲渡の場合には相当の前進面が見られますが、関西航業事件・大阪証券取引所事件や近年の高見澤電機製作所事件のような支配企業の使用者性をめぐる判例命令は、派遣・下請型に関する朝日放送事件最高裁判決の判断方法を形式的にあてはめて、支配企業が従属企業の労働条件等の具体的決定に関与することを求めています。先生は、「支配企業が、株式所有、役員派遣その他を通じて従属企業の経営全体に支配的な影響を及ぼしている場合には、・・・支配企業が従属企業と重畳的に使用者となることを認めるべきである」といわれます。ここは旧版にあった「間接的」「実質的」影響という文言がないので一瞬無限定ではないかと感じましたが、代わりに、158頁で義務的団交事項や「誠実」交渉の程度は支配の内容、程度に応じて異なると限定されているので、この相関関係に注意して読む必要があると思います(この理解は本書注29引用の竹内(奥野)氏の論文129頁を参照しました)。なお、経営協議会を利用した複数組合間差別の例として本書でも引用していただいたNTT西日本事件は、種々の理由で被申立人としなかった持株会社が主導し、東西NTTが同席する東京で開かれた中央経営協議会が舞台で、持株会社の使用者性が隠れた、しかし重要な論点でした。その経験で申しますと、理論とは別に弁護団・労働組合の証拠収集・立証の工夫の問題もあります。理論・実践の両面にわたってここを突破するのが次の大きな課題です。
 本書では国家公務員労働関係法案等、公務員の労働基本権の展望(73頁)や大阪市に見られる公務員と不当労働行為に関する記述の補充もされています(158頁)。その際、「行政改革」・民営化と国鉄・電電公社を含む官公労働者への攻撃(35頁)の箇所はもちろん、是非とも第1章全部を読まれることをお勧めします。
 これは何も公務員の問題に限られません。本書初版の「はしがき」に書かれたように、本書の基本的特徴は、①労働組合法体系の頂点に位置する憲法28条の労働三権を重視していること、②労働基本権の理解において、その自由権的性格をふまえつつ、全体としてそれを労働者の関与権として位置づけていること、③労働者個人の自由意思を尊重する立場から、そうした自由意思が制限される場合にその根拠(正統性)の明確化が要求されるという点にこだわっていることにあります(③は組合民主主義と統制処分の根拠、労働協約の不利益変更とその限界、ユニオンショップ等の諸問題の考察の際に関連)。その真髄を把握するには第1章をよく理解することが必須です。
 「憲法28条は『労働組合法』のアルファでありオメガである」(第1節)。それを知るには内外の長い歴史を振り返る必要があるとして、第2節・第3節で詳述されています。北港観光バス事件異議審で強力なヒント・確信になったのもワイマール憲法118条1項(263頁)から説き起こす著者の鋭い論述でしたが、今回正月に読み返して改めて感銘を受けたのは、第3節の大正デモクラシーと労農運動の高揚→戦前の農商務省・内務省・政府の労働組合法案と末弘厳太郎博士らのワイマール・ドイツ労働法の研究→戦後の労働改革と終戦の年の年末に早くも自らの力量で作成できた旧労組法→憲法28条の作成という一連の歴史過程の人的担い手・内容面の連続性・発展性の指摘です(旧労組法までの条文の資料として、さしあたり東大労働法研究会『注釈労働組合法』上巻参照)。その後の占領政策の転換による公務員に関する諸法の制定と労組法改正・・・とずっと続いて現在の情勢と法現象に至る訳です。これは他に類を見ない日本国憲法の労働条項の優れた教科書でもありますし、「GHQ押し付け論」に対する雄弁な反論です。憲法問題を考える際にも必読文献だと思います。
 現行労組法制定時には55.8%の労働組合組織率がいまや20%を切り、争議行為件数85件、半日以上の同盟罷業(ストライキ)が年間38件?!、労働組合がある事業所で労使協議機関を設置するのが 83.3%という困難な状況下で(すべて本書に統計資料が引用されていますのでお探し下さい)、著者は「労働組合とは何のために存在するのか、憲法28条はなにゆえにすべての勤労者に労働基本権を保障したのかを問い続け」ます。それは憲法前文、11条、97条等が強調する、過去現在未来にわたって「侵すことのできない永久の権利」の呼びかけです。多くの方々が本書を学習し、明日の糧にしていただきたいと思います。

 有斐閣2012年12月発行
 A5判並製カバー付536ページ
 定価 4,305円
民法協で特別価格にてお求めいtだけます。