民主法律時報

2012年12月号

津田電気計器・高年法継続雇用拒否事件――初の最高裁判決で勝訴確定!

弁護士 谷   真 介

 1 はじめに

 平成24年11月29日、津田電気計器継続雇用拒否事件において、最高裁第1小法廷(山浦善樹裁判長)は、会社の上告を受理した上で棄却し、原告労働者・岡田茂さん勝訴の判決を言い渡した。平成18年改正施行の高年法下の継続雇用拒否に対し、労働者が地位確認を求めて闘った事件において、初めての最高裁判決である。

 2 事案の概要と地裁・高裁判決

(1) 津田電気計器事件は、会社側が、高年齢者雇用安定法(高年法)による継続雇用制度(高年法9条1項2号)における選別基準(本年改正前の高年法9条2項)を設けた上で、長年労働組合(JMIU大阪地本津田電気計器支部)の役員を務めた岡田さんに対して恣意的査定を行い、継続雇用を拒否した。会社は、岡田さんと同年代の非組合員は全て継続雇用をしながら、岡田さんを含む組合員3名については全て継続雇用を拒否するという、継続雇用制度を利用した露骨な不当労働行為であった。岡田さんは物静かだが実直な人柄の技術者で、継続雇用された非組合員に全く見劣りせず、真面目にかつ正確に定年まで勤め上げた方であった。

(2) 平成18年改正高年法において65歳までの雇用確保規定が、従来の事業主の努力義務から法的義務とされた。これは年金(基礎部分)支給開始年齢の引き上げに伴い定年と年金支給開始との間にすきまが生じることを防ぎ、高年齢者の雇用を保障する趣旨であった。しかし、同法で義務付けられた雇用確保措置の一つである継続雇用制度は、希望者全員雇用が原則であるにもかかわらず、現実には、本年改正前の同法9条2項で例外的な制度であるはずの対象者選定制度の選定基準やその前提となる査定項目が抽象的・主観的に定められ、その運用(査定)が組合差別など恣意的になされ、不当な継続雇用拒否が相次ぎ、全国で多くの裁判が提起された。まさに継続雇用制度は差別の温床となっていたのである。厚労省によると全国で64000社が継続雇用基準を定める継続雇用制度を導入しており、継続雇用を求めたが基準に満たないとして雇用されなかった者は1年間に6000人いるという。実際は、もっと多くの人が恣意的な継続雇用拒否をされ、泣き寝入りをしていると思われる。

(3) 平成21年3月、組合員として最初に継続雇用を拒否された岡田さんは、従業員としての地位確認及び継続雇用がなされるべき期間の賃金支払を求めて提訴した。
 大阪地裁、大阪高裁では、もっぱら岡田さんが会社の設立した継続雇用基準をクリアしていたのかどうかという事実関係が争点となった。
 平成22年9月大阪地裁において、また平成23年3月には大阪高裁において、岡田さんは会社の定めた継続雇用基準に達していたとして、岡田さん勝訴の判決を言い渡した。
 もっとも、その法律構成については、両者で判断が分かれた。すなわち、大阪地裁は、会社が継続雇用基準を定めた就業規則を制定・周知させた行為が再雇用契約の申込となり、継続雇用基準を満たした労働者が再雇用を希望した行為が再雇用契約の承諾となるとの法律構成をとったのに対し、大阪高裁は、会社が継続雇用基準を定めた就業規則を制定・周知させた行為は再雇用契約の申込の誘引にすぎず、労働者の再雇用の希望が再雇用契約の申込で、会社が継続雇用基準を満たした労働者の再雇用契約の申込を拒否することは、解雇権濫用法理の類推適用により権利の濫用となる旨の法律構成をとった。
 なお、そのほか大阪高裁では、労働者が継続雇用基準を満たしていたかどうかについては、継続雇用を拒否する会社側に、当該労働者が継続雇用基準を満たしていなかったことについて立証責任を負うと判断している。

(4) 会社は、かかる大阪高裁の判断を不服として、上告、上告受理申立をした。 

3 会社の上告受理申立理由と最高裁の判断

(1) 会社は、法律審である最高裁に対し、岡田さんが会社の定めた継続雇用基準を満たしていたかという事実関係については争わず、主に以下の法律的な点について、岡田さんの地位確認請求を認めた高裁判決は不当だとして、上告受理を申し立てていた。
 ①労働契約法6条の労働契約が成立するには賃金額、就労場所、労務の種類や態様、就労時間等の労働契約の本質的要素について確定的内容の合意がなされるのが不可欠であるにもかかわらず、この合意なく労働契約の成立を認めたのは誤りである。②「週30時間以内」(会社の継続雇用規定に定められていた)という所定労働時間が確定的に定まっていない特異な労働契約を認めたのは誤りである。③継続雇用条件を満たす労働者から再雇用契約の申込があった場合に、本件継続雇用規定には同規定の範囲内で労働条件を決定できるとされているのに、使用者にその申込に対する承諾義務を負わせたのは誤りである。④継続雇用条件を満たす労働者の申込に対して使用者が承諾義務を負ったとしてもそれは単なる債務不履行であって損害賠償請求が認められることはあっても、承諾義務を履行しなかったとして解雇権濫用法理が類推適用されるものではなく、承諾義務違反を理由として使用者に再雇用契約の承諾の意思表示が擬制されるとするのは誤りである。

(2) 最高裁は、これらの点を受理した上で、以下の判断を行った。
 会社の定めた継続雇用契約基準を満たす労働者には、定年後も「雇用が継続されるものと期待することには合理的な理由がある」とし、会社がその労働者に対して継続雇用基準を満たしていないとして継続雇用規定に基づく再雇用をしないことは、「他にこれをやむを得ないものとみるべき特段の事情もうかがわれない以上、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない」とした上で、高年齢者の職業の安定その他福祉の増進を図ることを目的とする高年法の趣旨に鑑みて、定年後も本件継続雇用規定に基づき「再雇用されたのと同様の雇用関係が存続しているものとみるのが相当であり、その期限や賃金、労働時間等の労働条件については本件規程の定めに従うことになるものと解される」と判断した。
 最高裁の判示した「客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない」というのは労働契約法16条の解雇権濫用法理の言い回しそのものであり、また最高裁は有期雇用契約の雇い止めについて解雇権濫用法理を類推適用した東芝柳町工場事件、日立メディコ事件を引用していることからも、解雇権濫用法理の類推という大阪高裁のとった枠組みを明快に採用した。しかも、雇用契約が「成立」ではなく「存続」とした点については、高年法の継続雇用は新たな契約の成立の場面ではなく、高年法の趣旨に鑑みて、定年前の雇用契約が継続する場面であると解釈したものとみることができる。であるからこそ、継続雇用拒否に解雇権濫用法理が類推適用されることとなるのである。

 4 最高裁判決の意義

 以上のように、今回の最高裁判決は、高年法下における再雇用を拒否された事案について、雇い止め事案と同様に「解雇の法理」が類推適用され、「客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない」場合には、再雇用されたのと同様の雇用関係が存続することを、最高裁として初めて判断したものであり、画期的な意義を有する。
 ところで、平成24年9月には、平成25年4月から年金の報酬比例部分の支給開始年齢も65歳まで引き上げられることに対応するものとして、継続雇用者の選別を許す改正前高年法9条2項が段階的に廃止されることとなった(平成25年4月1日施行)。
 しかし、平成37年まで12年かけて段階的に廃止するという長期間の経過措置がとられたため、その間は、選別雇用制度が存続する。また、厚生労働省の定めた指針によれば、対象労働者が心身の故障や勤務状況の著しい不良など就業規則に定める解雇事由又は退職事由に該当する場合には継続雇用しないことを可能としている。継続雇用制度の恣意的運用による継続雇用拒否は、本年の高年法改正後も、繰り返されることが懸念される。
 本最高裁判決は、今後も懸念される本件同様の高年齢者雇用に関する紛争に関し、高年齢者の雇用安定という高年齢者雇用安定法の趣旨に立ち返って、継続雇用に関して解雇の法理を類推適用し、雇用の存続と賃金請求権を認めたものであり、高年齢者の雇用安定を大きく前進させるものといえる。
 津田電気計器では、残り2名の組合員(植田修平さん、中田義直さん)も会社から継続雇用を拒否され、労働委員会、裁判において現在も係争中である。私たちは、この判決を手に、全面的な争議解決のためにこれからもっと運動を強める所存である。
 この最高裁判決が、岡田さんと同様に、恣意的な査定、不当な差別によって継続雇用拒否をされた全国の労働者が、泣き寝入りをしないで立ち上がるための一つの武器になれば幸いである。

(弁護団は、鎌田幸夫、谷真介、中村里香)

 

 

過労死企業名情報公開訴訟 最高裁へ!

弁護士 和 田   香

1 情報公開訴訟逆転敗訴

 去る平成24年11月29日、大阪高裁第3民事部(山田知司裁判長)は、大阪労働局管内で発生した過重労働による脳心臓疾患の発症(以下、「過労死」といいます。)の事案について、労災認定を受けた従業員がいる企業名の公開を求める情報公開請求に対し、企業名を不開示とした大阪労働局長の決定を違法であるとして取り消した大阪地裁第7民事部の判決を全て覆す、被控訴人(原告)敗訴の判決を言い渡しました。
 本訴訟は、大阪過労死問題連絡会と過労死を考える家族の会が協力して、家族の会の代表世話人の寺西笑子さんを原告として、企業や行政が過労死を生じさせない職場環境づくりに真摯に取り組む体制を構築すべく提起したものです。

2 敗訴の理由

 本訴訟での主たる争点は、企業名が開示されることで①被災労働者個人が特定されるか、②企業の正当な利益を害するおそれがあるか、③行政の適正な遂行に支障を及ぼすおそれがあるか、④①~③に該当するとしても人の生命・健康等を保護するために公開を要するか、の4点です。
 ①について、企業名を聞いても当該被災者を知らない一般人は、被災者を特定することができません。しかし、高裁は、特定できるか否かの判断基準として、近親者等も含めるという枠組みを採用しました。
 ②について、利益が害される「おそれ」とは、具体的なおそれが存在する必要があり、高裁もその枠組み自体は採用しました。その上で、高裁は、ネット上の書き込み、例えば過労死を出した企業を「ブラック企業」と評価したものや、報道各社が地裁判決の見出しに「労災認定を受けた企業名」という書き方ではなく「過労死企業名」といった用語を用いたことなどを挙げて、労災認定を受けたということにより世間的にマイナスの評価を受けるため、企業の正当な利益を害するおそれは、抽象的な可能性に留まらないと判断しました。
 ③についても、高裁は、②のような評価を受けることを恐れた企業が“機微”に亘る事項についての聴取に応じなかったり、行政の担当者が少ないことから強制権限の発動による調査を行う場合に日程調整に時間を要することなど、行政の遂行に支障を及ぼす蓋然性があると判断しました。
 さらに、④について、高裁は、1人の労働者が過重労働にあっても、同じ職場の他の労働者が過重労働だとは認められず、企業名の開示によって人の生命・身体・健康等が保護される具体的関連性はないとしました。

3 高裁判決は取り消されなければなりません

 上記の各論点について、高裁判決は、裁判所は公正・中立の立場で判断すべきであるにも拘わらず、国が主張したこと以上に過度に国に配慮したものでした。
 ①について、労働者が特定できるかどうかの判断の基準に近親者まで含めると、国民が国民主権の下、行政に開示させる意味のある情報の多くは不開示となってしまいます。
 ②について、国は、過労死が生じた企業が労災認定を受けたことが公になったことで損害を受けたという具体的な立証はせず、控訴審において300社を超える企業に対し企業名の開示により「何らかの不利益が生じると思うか」というアンケート調査を実施し、その結果を書証として提出しました。このような抽象的なアンケートですので、「何らかの不利益」があると答えた企業が約8割でした。しかし、何らかの不利益が生じるとしても、企業の社会的責任として開示すべきであると答えた企業も数十社ありました。このような企業の態度は、社会の構成員としての自覚を表したものです。
 ところが、高裁は、このような企業の姿勢に触れることなく、単に数字上「何らかの不利益」が生じると思うと回答した企業が8割程度あることや、匿名で過激な書き込みが多いネット上の掲示板での発言等も世論形成に影響を与えないとは言えないとして、不開示とすべき理由としました。
 情報公開法は「企業の正当な利益」を守るために一定の情報を不開示としているのですが、高裁の判断と先述の企業の姿勢とを比較すると、企業の意識の方が人権を守る機関である裁判所よりも先行していると言わざるを得ません。
 ③については、行政の担当者の人員不足を裁判所が過度に考慮する必要はありません。
 ④についても、裁判所が職場全体が過重労働になっている労働現場について理解していないことが露呈したとしか言い様がありません。

4 最高裁へ!

 このような控訴審判決は、到底承服しかねるものであり、私たちは上告及び上告受理申立をしました。
 最高裁で弁論が開かれ企業名の公開が実現するよう、弁護団一同、一層努力する所存ですので、引き続きご支援宜しくお願いします。
(弁護団は、松丸正、岩城穣、下川和男、上出恭子、田中宏幸、波多野進、四方久寛、生越照幸、長瀬信明、舟木一弘、立野嘉英、瓦井剛司、足立賢介、團野彩子、和田香)

雨宮処凛さんと考える なくせ! 職場のいじめ・ハラスメント

弁護士 中 峯  将 文

 2012年11月16日、「雨宮処凛さんと考える なくせ! 職場のいじめ・ハラスメント」と題するシンポジウムが開催されました。講師に、作家であり若者の貧困問題に取り組んでおられる雨宮処凛さんをお招きし、約  名の参加者とともに、職場のハラスメントの実態や、職場からハラスメントをなくすためにどのような手段があるのかなどについて学びました。
森岡孝二関西大学教授による開会のあいさつの後、和田香弁護士によるパワハラ事案の報告、ハラスメントによる過労自死人のご遺族による発言がありました。さらなる被害者を出さないためにと、辛いお気持ちを押して登壇されたご家族の思いを無駄にしないために自分に何ができるのか。当事者の方のお話を聞くたびに感じることです。
次いで、地域労組おおさか青年部書記長・北出茂さんが、ご自身の労働相談や団体交渉の経験をもとに、パワハラの原因や実態、労働組合としての活動などについて、具体的な事例を踏まえながら語られました。事例の紹介では、相談者の本当の望みは職場に戻れることだが、実際には解決金をもらって納得せざるを得ないことが多いことに問題を感じているとおっしゃっていました。北出さんが、「20代をうつ状態で過ごさなければならない人の辛さを想像してください。」と時折声を震わせ、また、「理想に現実を近づける努力をしなければならない。」と力強く訴えていらっしゃった姿が印象的でした。
 その後、雨宮さんが、下川和男弁護士との対談形式で、ご自身が貧困問題に取り組んでいった経緯や、現在の企業の価値観を労働者に押し付けその枠にはまらなければ切り捨てる社会の仕組みに反対の声を上げられました。
雨宮さん自身、アルバイトをしていて数日で首を切られた経験があり、その時は自分が悪いんだと自己を責めたそうです。今は、平日の昼間から路上でお酒を飲むという活動をしているそうです。雨宮さんいわく、何の役に立っていなくたって生きていていいんだというメッセージを伝えるための必要な活動だとのこと。人が助けを求めてくる条件は3つあって、それは、自己肯定感、他者への信頼、そして、ダメなところをさらけ出すことだと考えているとおっしゃっていました。また、企業の価値観に合わせられる者が正しいなどという価値観が蔓延していては、人を信じず自分だけが勝ち残ろうという社会になり、いじめが起こるのは当たり前だともおっしゃっていました。
雨宮さんの話は、全体を通して、何の役に立っていなくても生きていていいんだ、自己肯定感を持ってほしい、というメッセージが伝わってくる内容となっており、話を聞いて救われた方が多くいらっしゃったのではないかと思います。
翌日には、過労、ハラスメントの電話相談を開催しましたがあいにく2件の相談に終わりました。集まった弁護士の間で電話相談を増やす方策について話し合われましたが、被害者のさらなる救済につなげるべく皆様のお知恵をお借りできればと思います。今後ともご支援よろしくお願いいたします。

働き方ネット大阪第17回つどい「アカンやないか!? 今の働き方と貧困」

弁護士 中 西   基

 11月30日、働き方ネット大阪の第17回つどい『アカンやないか!? 今の働き方と貧困』がエル・おおさか南館ホールにて開催されました。約100名が参加しました。
 今回のつどいは、AIBOが呼びかける「“変える”に参加する10日間~大阪ええじゃないか~」の企画の一環としても位置づけられました。
 まず、第1部では、小久保哲郎さん(弁護士・生活保護問題対策全国会議事務局長)と竹信三恵子さん(和光大学教授、元朝日新聞記者)のお二人から講演していただきました。

 小久保さんは、「大阪の貧困と生活保護の実情について」と題して、生活保護をめぐる状況について報告されました。大阪では生活保護を利用している方の割合が全国平均の3倍以上と高くなっているけれど、その原因は、全国平均と比べて大阪では、失業率が高い(全国5.1%、大阪6.9%)、非正規雇用の割合が高い(全国34.5%、大阪44.5%)、離婚率が高い(全国1.9%、大阪2.8%)、高齢世帯が多い(全国19.4%、大阪21.3%)、特に高齢世帯のうち単身者が多い(全国9.2%、大阪13.5%)、といった事情が挙げられます。これら貧困の原因を解消する施策を尽くすのではなく、結果としての生活保護率の高さだけを叩いてみても何の解決にもなりません。また、大阪市では生活保護費が財政を圧迫しているとまことしやかに言われているけれど、実際には生活保護費2714億円のうち2579億円は国が負担しており、大阪市の負担は135億円だけです。しかも、2714億円の保護費のほとんどは大阪市内で消費されることになるので、結果的には、大阪市は国から巨額の補助金をもらっていることと同じです。今年7月に大阪市が発表した「生活保護制度の抜本的改革にかかる提案」では、年金や最低賃金よりも生活保護の方が高いので、「市民の不公平感やモラルハザードにつながっている」、だから生活保護を厳しくせよと提言されており、年金や最低賃金を引き上げるべきだという発想は一切ありません。生活保護を切り下げてしまうと、最低賃金は抑制され、就学援助や地方税の減免、公営住宅家賃減免など生活保護に連動する様々な制度にも影響が及びます。住民税の非課税基準も下がり、今まで無税だった人も課税されることにつながります。

 つづいて、竹信三恵子さんは、「ここが変だぞ、維新と自民の雇用政策」と題して、報告されました。維新や自民の発想は、成長しさえすれば雇用は生まれるはずだという「甘い」考え方です。しかし、いくら企業が活動しやすい環境を整えたところで、働き手に分配される仕組みが機能していない現状では富は労働者に回らず、消費は活性化せず、デフレからも脱却できません。1997年以降で実質賃金が下がっているのは主要国の中では日本だけです。2002年からの戦後最長といわれるいざなぎ越え景気のときにも人件費比率は低下しています。また、時代に合わせて産業構造を転換させることが必要ですが、維新や自民のようにただただ解雇規制を緩和するだけでは、雇用は流動化しません。失業が増えて生活保護を利用する人が増えるばかりです。それよりも、過度な企業への拘束を緩和し、新たな能力やアイデアを引き出すだけの余裕を労働者に保障することが重要です。特に、日本の正社員は、安定雇用の見返りとして、恒常的残業の受入、家庭を顧みない転勤などの滅私奉公を暗黙の了解としてきました。この状態のままで解雇規制を緩和すれば、労働者はますます企業に必死でしがみつこうとするばかりでしょう。まずは長時間労働の規制から始めるべきであり、過労死防止基本法の制定がとても重要になっています。

 第2部は、おなじみの岩城穣弁護士の司会で小久保さんと竹信さんの「真剣対談」が行われました。生活保護利用者に対する「就労指導」が厳しく言われるようになってきていますが、現状の「就労指導」や「就労支援」は、ただ「働け! 働け!」とお尻を叩くばかりです。厚生労働省の方針も、低賃金でも短時間でもいいのでとにかく働けというものです。厳しい「指導」の結果、うつ病を発症するようなケースも出ています。
 対談の途中で、湯浅誠さんが会場に登場! 湯浅さんは今年夏から大阪で「AIBO(Action Incubation Box Osaka)」という市民運動をサポートする活動をされています。昨年11月のダブル選挙で維新の会が大勝しました。特に、大阪市長選挙では既存の全政党が相乗りで対抗したのに維新が勝利しました。市長就任後に橋下氏は「思想調査アンケート」などを矢継ぎ早に繰り出し、普通の政治家なら政治生命を失いかねないその危険な内容にもかかわらず、多くの市民は橋下氏に喝采をおくりました。そんな大阪の状況に危機感を抱き、「おまかせ民主主義」では社会は変わらない、変えられるのは私たち。それが民主主義であり社会に参加するということだという思いを実践するために大阪を活動拠点に選んだそうです。「市民運動なんかで社会は変わらない」という批判がありますが、社会というものは誰かヒーローが現れて変えてくれるものではなくて、一人一人様々な意見を持つ人たちの集合体が社会なのだから、お互いが意見を持ち寄ってお互いの意見を知り、そこで意見を交換しあうことによって相手の意見を変えていくこと以外には方法はありません。同じ意見を持つ者同士が集まって話をすることは簡単ですが、異なる意見を持つ者との意見交換を避けていては社会は変えられません。市民運動の側には、できるだけ自分たちの意見とは異なる意見の人に届くような工夫が求められます。また、仕事や生活に追われてじっくり政治のことや社会のことを考える余裕が持てない人も多くいます。そんな人たちとも意見を交換しあえるために市民運動の側は参加のハードルを下げる努力も必要です。

 つどいの最後に、森岡孝二会長から、「働き方について今日からできる10のこと」が発表されました。
◇職場の仲間と「働き方」について話す時間を持つ。
◇自分の労働時間を記録する習慣を身につける。
◇労働法の入門書を読んで、働くときに必要な基礎知識を学ぶ。
◇自分の労働契約書を隅々まで読み直してみる。
◇うつ病や過労死について自分と同僚を守るために基礎知識を持っておく。
◇労基署やハローワークが何をするところか、どこにあるか調べておく。
◇年次有給休暇を完全消化するために年に一、二度は連続休暇を取る。
◇過労死防止基本法の制定を求める署名用紙を常に携帯し周囲の人に署名を訴える。
◇労働相談ができるPOSSEを教えたり、「ユニオンに入ろうよ」と気楽に声をかけたりする。
◇「働き方ネット大阪」のHPにアクセスし、同会主催の「つどい」に参加する。
 

2013年権利討論集会のご案内

事務局長 増 田   尚

 今年も権利討論集会の季節が近づいてきました。
 この1年、大阪では、文字どおり、橋下市長・「維新」の暴風とのたたかいに明け暮れました。彼らは、思想調査というべき職員アンケートなどの職員や労働組合に対する攻撃に見られるように、法も権利も徹底的に破壊し、社会保障を切り捨て、地方公共団体のリソースを企業活動に集中しようと画策し、地方自治を根本から変質させようとしています。橋下市長は、その動きを国レベルに広げるため、石原・前東京都知事と手を組んで、「日本維新の会」を立ち上げて国政に打って出ました。この動きに引きずられるように、自民、民主を中心として、「国防軍」、「9条改悪」などのタカ派的提言や、TPPへの参加、生活保護の「見直し」といった新自由主義的な政策が堂々と掲げられ、競い合う中で衆院選が行われ、自民党政権へと「先祖帰り」してしまいました。「維新」も自民と改憲で協力することを明言しており、戦後政治が岐路に立っていると言って過言ではないでしょう。こうした情勢の下、労働組合や民主団体にとって、新たな「権利のための闘争」を開始することが問われています。貧困化が国民から活力を奪い、対立と分断が持ち込まれようとしている中で、団結と連帯を広げて反撃に転じられるかどうか、来年1年は大きな転機になるといえます。
 こうした中で開催される2013年度の権利討論集会は、現在の課題をとらえ、これからの運動に生かす場として成功させたいと考えています。
 全体会での記念講演では、東洋経済記者の風間直樹さんを講師にお招きします。風間さんは、つとに、著書「雇用融解」・「融解連鎖」などで、派遣・偽装請負などの問題を取り上げてこられました。最近も、「週刊東洋経済」誌上で、大企業によるリストラ解雇や退職強要などの横暴を告発し、雇用や経済分野における規制緩和の危険な動きを指摘しておられます。風間さんには、豊富な取材経験に裏付けられた「雇用融解」の現状をご報告いただきます。新たな政権の枠組みが誕生し、改憲や規制緩和の動きが活発化しています。こうした新保守主義・新自由主義的な政策に対抗する労働・市民の運動の理論的・実践的な課題を追究する場にしたいと考えています。
 また、分科会も、①労働裁判・労働委員会闘争、②派遣労働(改正派遣法)、③有期・パート(労働契約法改正等)、④過労死・過労自殺、⑤大阪府市の自治体・公教育、⑥新自由主義と改憲の6つのテーマで開催します。日ごろの研究会・委員会の活動を基盤にしつつ、時宜に適った最先端の議論がなされるよう準備を進めております。
 今年は、宿泊が難しい方も両日に参加しやすいよう、交通アクセス至便な会場として「大阪アカデミア」で開催することにしました。地下鉄中央線・ニュートラムのコスモスクエア駅からシャトルバス(15分に1本)で来場できます。
 各組合・団体・事務所におかれましては、春闘など来年1年の運動の出発点と位置づけていただき、多数の方が権利討論集会に参加し、熱く討論し、交流を深められるようお願い申し上げます。

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