民主法律時報

2012年7月号

法律家8団体共催「橋下市長に異議あり!!6・25集会」

弁護士 中 森 俊 久

1  1200人以上の参加者
2012年6月25日(月)、午後6時30分から大阪市立中央公会堂にて、法律家8団体(連合大阪法曹団、大阪労働者弁護団、大阪社会文化法律センター、自由法曹団大阪支部、青年法律家協会大阪支部、大阪民主法曹協会、日本労働弁護団大阪支部、民主法律協会)主催による「橋下市長に、異議あり   6・25  集会」が開催された。集会には、連合系、全労連系、全労協系という所属組織の違いを越えた組合が結集するとともに、現在の大阪市政の問題に疑問や怒りを抱いている市民の方々も駆けつけ、1200人以上の大集会となった。
冒頭の日本センチュリー交響楽団の四重奏に続いて、民主法律協会幹事長の城塚健之弁護士が主催者挨拶を行った。叩きやすいものを叩く一方で、大飯原発再稼働に対する意見の撤回など、結局は長いものに故意に巻かれ続ける橋下市長の政治手法の話や、①2条例、②組合事務所明渡し要求、③職員アンケート、④労使関係に関する条例、⑤政治活動の制限条例などの問題点の整理とともに、広く財界や政府との関係にも注目する必要性についての提言があった。

2  基調講演
続いて、日本労働弁護団会長の宮里邦雄弁護士が「公務員の権利と、労働組合の権利を考える―大阪でいま起きていることの意味」と題して基調講演を行った。大阪市の組合活動に対する攻撃は、表現の自由と結社の自由に対する侵害であること、支配と服従という職務規律関係の貫徹を求め、「公務員は物言わぬ者。自由に考え闊達に議論する公務員は好ましくない」とのレッテルを貼る職員への攻撃は、思想・信条の自由に対する侵害であることなど、橋下市政の具体的な施策の誤りを憲法やILO条約などの国際規範に則って分かりやすく説明いただいた。
また、宮里弁護士は、「人権や人間の尊厳について、橋下市長はいかなる考えでいるのか? 大阪市は、今、基本的人権を蹂躙してもよい、労働者の団結権や思想信条の自由を侵害する『憲法特区』になろうとしている。」と橋下市政を批判するとともに、民主主義や民意を強調し、それを恣意的に利用する(例えば、原発住民投票については民意を聞く必要はないとして、都合の良い民意と都合の悪い民意を明確に使い分ける)手法に対し、「民意とは何か? 国民の意思とは何か? 選挙に当選すれば何をやってもよいという話ではなく、こと基本的人権に関してはいかなる政府であっても守らなければならない。」と語気を強め、多くの聴衆が賛同した。
さらに、宮里弁護士は、敵を作り出し、集中的に攻撃をかけ、それを通じて政策を遂行していく強権的な橋下市政の手法は、ファシズムに似ていると改めて指摘した。そして、官と民とを分断しようとする攻撃手法に対して、これまでの運動の手法を検証するとともに、広く民間の労働者と市民と連帯していくことの重要性を訴えた。一定の有権者が橋下市長を支持している現状のもと、そのような有権者にこそ橋下市政の本質的な問題点を周知していくことが大切であり、その手段としての「連帯」を図るべく、会場からも大きな拍手が起こった。

3 各分野からのリレートーク
基調講演に続いて、各分野からの出席者がリレートークを行った。所属団体だけ紹介すると、大阪市労働組合連合会書記長、大阪自治体労働組合総連合執行委員長、大阪市教職員組合書記長、JAM大阪、全日本建設交運一般労働組合大阪府本部執行委員長、全国労働組合協議会教員合同労組執行委員、大阪の男女共同参画施策をすすめる会、学童保育連絡協議会、全大阪生活と健康を守る会連合会などである。男女共同参画センターの廃止問題、学童保育の廃止問題、西成区の生活保護医療登録制度の問題など、弱い者いじめのような政策によって浮かび上がる問題点を具体的に訴える当事者の声が相次いだ。
また、平松邦夫前市長も登壇し、「一番言いたかったことは、宮里会長が仰った法治国家であるということ。法に基づいて市長や国会議員がやらねばならないことを一生懸命やるというのが仕事だと思っている。」「職員アンケート、憲法違反ちゃうの?という思いが直ぐ浮かぶ。それを大声を出して指摘したメディアがあったでしょうか?」等、純粋な思いを語った。

4 終わりに
集会アピールの前に、大阪市長の不適正な市政運営による弊害が看過できないことを理由に、「大阪市長は、法律を守らなければならない。」「大阪市長は、人権を尊重しなければならない。」「大阪市長は、職員が人間であることを認めなければならない。」などの8条項からなる仮想の「大阪市長適正化条例」を採択した。
翌日には、産経新聞、朝日新聞、読売新聞の朝刊に本集会の開催に関する記事が掲載された。現状の大阪市政による事態は、大阪だけ、公務員だけの問題ではなく、すべての労働者と労働組合の権利にかかわる問題である。所属組織の違いを越えた労働組合が結集した本集会を契機に、更なる連帯が図られることを期待したい。

大阪府労働委員会との懇談会を開催

弁護士 遠 地 靖 志

 2012年6月27日、大阪府労働委員会との懇談会が開催されましたので、ご報告します。
府労委との懇談会は、2008年以来4年ぶりの開催です。府労委からは井上隆彦会長をはじめ8名の公益委員が出席、民法協からは大江洋一、出田健一両副会長、城塚健之幹事長をはじめ10名が参加しました。

 懇談会は、井上会長、城塚幹事長の双方からのあいさつ、府労委事務局から主に審査事件を中心とした状況が報告された後、8項目にわたり意見交換が行われました。

① 口頭申請、主張書面のFAX提出、正本・副本等の提出部数について
まず、口頭申請については、平成  年以降では1件だけである旨回答がありました。また、府労委として口頭申請に対応する体制をとってはいるが、原則、書面での申請を求めているとの回答がありました。また、主張書面のFAX提出については、申立のうち半数以上の事件に代理人が就いておらず、FAXが未設置又は役員等が常駐していない労組がある現状では、申立人に不利に働くこともあるので原則認めていない、との回答がありました。また、提出部数の問題については、委員数、事務局、速記者用等必要であり、現在の部数をお願いしていること、また、府労委側での複写も人手や予算の問題があり、財政的に厳しいとの回答がありました。ただ、何とかしたいとの思いはあるとの意見もありました。

② 審理の進行について
次に、事案に応じて集中審理を行うことについては(現在は1回2時間)、労働委員会では証人調べを特に重視しており、そこに全力を注ぐとなると1日2時間が限度であること、これまでの経験から1日2時間程度が適切な時間と考えている、との認識が示されました。また、1回の審問で主尋問を集中的に行い、次回に反対尋問を行う現状について、代理人が就任していない場合は当事者が1回の審問で反対尋問を行うことは負担が大きく、そのため、このような審理方式をとっているとの回答がありました。ただ、双方に代理人が就任している場合には、主尋問に続けて反対尋問を行うなどの柔軟に対応したいとの回答もありました。
また、第1回期日の調整については、できるだけ早く第1回期日を入れた方が全体として迅速な審理ができるとの経験的な判断から、申立人とも日程調整をせずに、委員のみで日程調整をしているとの回答がありました。ただ、申立人側との日程調整については検討するとの回答がありました。

③ 物件提出命令について
まず、物件提出命令が出された例は、平成  年以降、1件あるとの回答がありました。また、棄却や翌年度への繰越が見受けられる点については、条文上、物件提出命令が最後の手段と位置づけられており、そのため、判断が後回しになったり、他の証拠による認定が可能なため必要性がなく棄却される例があるためである、との回答がありました。また、労働委員会として物件提出命令を積極的に活用する方策は検討していない旨の回答がありました。
その後の意見交換では、公益委員から、できるだけ柔軟に対応したいが、要件が厳しいと言う問題があり、できるだけ任意の提出を求めている運用も紹介されました。また、同様の問題が証人出頭命令でもあること、中労委が証人出頭命令を出した例が平成  年に1件あることが報告されました。

④ 証人の採用、当事者である補佐人の退席について
次に、補佐人の退席について、府労委では、在室させる方が労組にとって好ましい場合が多く、原則在室を認めていること、それとのバランスで使用者側の補佐人にも在室を認めているとの回答がありました。もっとも、公益委員からは、立証趣旨によっては在室を認めないこともあり、ケースバイケースで考える、との意見も出されました。
この点に関しては、民法協からは、双方代理人が就任している場合には、訴訟と同じように退席の扱いをする必要があるのではないか、との意見を述べました。

⑤ 結審から命令までの期間について
結審から命令までの期間については、審理計画策定時に事案の難易によって決定までの期間を決めており、目安として単純2号事件の場合は4か月、通常で6か月、困難な事件の場合は8か月としていること、実際には、計画より1か月ほど早く命令が出ているとの報告がありました。また、訴訟と比べて長いとの指摘に対しては、委員会制度(合議制)をとっていること、委員が常勤ではないという点があるがゆえに訴訟より長くならざるを得ないが、努力はしており、少しずつ前進していると思う、との認識が示されました。

⑥ 使用者性の認定について
使用者性の認定については、府労委としても最重要テーマと考えているとの回答がありました。また、使用者性が問題となる事案が多々あるが、朝日放送事件の判断基準では現状に対応できず、労働委員会としても判断基準を作る必要があると感じている、との意見も出されました。また、使用者性の問題は府労委側の努力だけで解決できる問題ではなく、組合、代理人側の努力も必要であり、がんばってほしいとの注文もありました。このような府労委側の認識、注文を受けて、民法協としても学者会員とも協力して、研究していきたいと答えました。

⑦ 不当労働行為事件審査の実効確保の措置勧告の手続、運用基準について
この点については、最初に最近の2例(ひとつは、いわゆる大阪市思想調査アンケートに対する不当労働行為申立の事案)が紹介されました。また、実効確保の申立があった場合は、すべて公益委員会議で判断すること、公益委員会議で勧告をしないとの判断をした場合でも、個々の委員のもとで、口頭で事実上の要望を行うことがあるとの運用が報告されました。
また、判断基準は特になく、個別に対応しているが、参考になるものとして労働委員会施行規則通知(昭和27年5月26日中労委文発221号)の紹介がありました。

⑧ 申立組合、代理人に対する要望について
意見交換事項の最後として、府労委側から、代理人が複数いる場合には代表者だけでも日程があう日に日程を入れたい、書面提出期限、尋問時間の遵守等の要望がありました。また、和解に積極的に協力して頂きたい、手続き選択や当事者申立の場合の書面の作成等について当事者に適切なアドバイスをお願いしたい等の要望がありました。

 さいごに、出田副会長から、忙しい中、懇談会の時間をとって頂いた公益委員にお礼を申し上げるとともに、今後も労働委員会を充実したものにすべく民法協としても努力を重ねていく決意及び労働委員会が労働者や労働組合を鼓舞するような命令を出すことへの期待を述べて、1時間半の懇談会は終了しました。

連載TPPリポート⑤ TPPは、雇用と労働条件を直撃する

弁護士 大 前   治

◆TPP「労働に関する覚書」
 TPP参加は日本の労働者の雇用・労働条件に重大な悪影響を及ぼします。貿易と国際投資の円滑化には、雇用の自由化・流動化が不可欠だというのが財界・多国籍企業の要求だからです。
 TPPと同時に各国が締結する「労働に関する覚書」という付属文書があります。その第二条には、「締約国が保護貿易主義的な目的のために法規制、政策と労働慣行を定めることは不適当である」とあります。もし労働者派遣法の抜本改正が実現しても、それが「海外企業から見れば保護貿易主義的だ(=海外企業に不利だ)」となると、撤回や不適用を要求される危険があるのです。

◆TPP「労働」部会での議論 ――労働者保護を明記するか否かは未定
   あるTPP作業部会のうち「労働」部会は、「貿易・投資の促進を目的とした労働基準の緩和の可否」や「国際的に認められた労働者の権利の保護の妥当範囲」などが実務レベルの交渉議題とされています。
 ところが、せっかく議題を設定したのに、「労働者保護」の観点から条文を明記しようという合意には至っていません。労働分野について独立した章を設けるか否かすらも合意がない状況です。
 そもそも現行のTPP本体文書にも、労働者保護の条項は存在しません。

◆現存するFTAに存在する条項が、TPPにはない?
 現存する自由貿易協定=FTAや経済連携協定=EPAは、どうでしょうか(※注1)
 米豪FTAや米ペルーFTAには、労働に関する規定が置かれています。内容は、次のとおりです。
 ①国際労働機関(ILO)加盟国と しての義務を再確認する。
 ②貿易・投資の促進を目的とした 労働基準の緩和(労働者の権利保 護の水準の引き下げ)は不適当で あることを確認する。
 ③国際的な労働に関する約束と国 内法の整合性を確保しかつそれを 効果的に実施する。
 ④協定の規定の解釈や適用をめぐ り問題が生じた場合の協議、紛争 解決手続の適用について定める。
 これらは、労働者保護のため当然の事項です。米国は、自国のFTAではこれら条項を定めているのです。
 ところが、日本が他国と締結しているEPAには、こうした条項はほとんど存在しません(わずかに、フィリピン・スイスと締結したEPAには②が規定されています)。日本政府が労働者保護条項を求める姿勢が弱いのではないでしょうか。
 そして、TPP本体文書にも、これらの条項は存在しないのです。

(※注1)FTAとEPAの意味は、連載②(本年4月号)で中島弁護士が解説しています。

◆作業部会の議論に対する日本政府の姿勢
 2012年10月に政府各省がまとめた文書「TPP協定交渉の分野別状況」には、次の一文があります。
「(1)我が国が確保したい主なルールの内容―― ILO加盟国としての義務の確認、『労働基準の緩和の禁止』等の規定が盛り込まれる場合は、不当な競争によって日本における事業コストが相対的に上昇することを防ぐ上で有意義である。」
 つまり、「この条項によって国内労働者が保護されるから」ではなくて、「他国の労働者が安価で雇用されるようになると国内企業の競争力が弱まるから」という理由なのです。 これはまったく逆転した発想です。この発想からは、「国外でも国内でも、同様に労働条件が下がるのであれば、企業の競争力は維持できる」ということになり、労働者保護条項は不要ということになりかねません。

◆「サービス貿易の自由化」は「労務提供の自由化」をもたらす
 TPPの  作業部会は、広汎な生活分野を対象としているので、あらゆる分野の雇用と労働条件にも影響を与えます。
 「越境サービス貿易」部会では、「無差別原則(内国民待遇、最恵国待遇)の徹底」や、「数量規制と形態制限の禁止」を各国に義務づけることが議論されています。ここでいう「サービス」には、建設、流通、金融、保険、教育、通信、観光など広汎な事業が含まれています。これらの多くは「労務提供」を重要な要素とする産業形態であり、必然的に「労働力の国際移動」が自由化へと動き出すことになります。国内就労者の約六割がサービス産業で就労していることから、影響は重大です。
 就労目的の入国者の入管手続簡素化、就労ビザ発給の容易化などが求められる可能性もあります。低賃金で就労する外国人労働者が大量に入国し、そのことが賃金水準を低下させて日本人の労働条件にも悪影響を及ぼす可能性があります。(なお、外国人労働者の権利擁護は重要課題ですが、その点は本稿の主題ではないので割愛します。)

◆「最低賃金法や公契約法は、参入障壁だ!」
 建設分野を例にあげると、海外企業が日本の公共工事を受注し、自国の労働者を日本へ移住させて低賃金で就労させることが考えられます。海外企業にとって邪魔な存在である「最低賃金法」の撤廃を求めたり、自治体発注工事の労働条件を規制する「公契約法」も参入障壁だから廃止せよと求めてくるでしょう。実際に、ラトビアの建設企業がスウェーデンに進出した際、現地の労使協約に基づく最低賃金を適用する義務があるか否かが欧州司法裁判所で争われた例もあります。
 このように海外企業との受注競争(コストダウン競争)が熾烈化して、賃金水準に重大な悪影響を及ぼしそうです。

◆国内企業の海外進出が「産業と雇用の空洞化」を招く
 このほか、TPP参加により国内企業の海外進出が拡大すると、国内雇用は激減し、産業と雇用の「空洞化」が進みます。このことも、労働者に重大な影響を与えます。
 自由貿易の拡大により企業買収や企業分割(M&A)が活発化することによる労働者の地位の不安定化も懸念されます。
 医療労働者への影響については、連載③(本年5月号)で染原さんが指摘しています。
 これまでも米国は、日本の終身雇用制を批判して、雇用の流動化(=雇用の不安定化)を求めてきました。
 日米両政府が共同作成した「2006年日米投資イニシアチブ報告書」は、次の対日要求を掲げています。
・従業員の確定拠出年金制度の活用
・解雇紛争の金銭解決(=解雇の自由 化)
・労働時間規制を緩和するホワイトカ ラーエグゼンプション導入
・労働者派遣の規制緩和と拡大
 これらの要求が、TPP協議でも日本へ向けられます。多国籍企業(日本企業を含む)からみれば、解雇権濫用法理、整理解雇の四要件、労働者派遣法などは不公正な参入障壁ということになり、アジア各国との賃金水準の差異を考えれば最低賃金法すらも参入障壁とされるかも知れません。今まで以上に熾烈な競争にさらされます。
 TPP参加はあらゆる方向から労働者に不利益をもたらします。阻止しましょう。

中国雲南省 麗江 シャングリラ紀行(第2回)

 弁護士 福 山 孔市良

4月 29日(日)晴れ 麗江へ

1 雲南省の少数民族について
 昆明のホテルのモーニングコールで午前5時に起床する。外はまだ暗い。起きてすぐお湯を沸かし、紅茶を飲む。ホテルのロビーに集合して、各自弁当(パンとタマゴ、水、バナナ等)を持って昆明空港へ出発。空港には午前7時前に到着したが、中国も連休のためか大変混雑している。
 7時40分、MU2581で麗江へ出発。飛行時間は約50分で、麗江の空港に到着する。晴天で、空気が澄んで透明である。空港には、麗江の観光ガイドをしてくれる陳さんが迎えに来てくれていた。この陳さんは雲南省大理の白(ペー)族の出身である。そういえば、昨日昆明から全行程のガイドとして参加してくれたエンさん30歳は、雲南省の南西部ミャンマーやラオス国境に接するシーサンパンナ・タイ族自治州、ヤオ族出身の勉強家の女性である。
 中国には56の民族があり、90%以上が漢民族で、残り55が少数民族である。中でも雲南省は20以上の少数民族が住んでおり、それぞれ各地で一番多い民族が、自治州の州長を務めている。
 例えば、これから行く麗江には納西(ナシ)族、大理は白(ぺー)族、シーサンパンナはタイ族、麗江の次に行くシャングリラはチベット族ということで、同じ地域にいろいろの民族が共存して生活をしている。その特徴は、言語、衣類、祭、食事で区別できるのではないかと思われる。特に文化面では、麗江の納西(ナシ)族の象形文字(生きている東巴文字)と古楽は世界的にも注目されている。

2 雲杉坪(うんさんへい)へのハイキング
 麗江の空港に着いてすぐ、どこにも寄らないで玉龍雪山のすぐ近くの雲杉坪(3240メートル)の高原にハイキングに出発する。近くまで行くとパスポートが集められた。どうも入場に一定の許可が必要のようだ。なぜかよく分からない。空港ではあれだけ好天であったのに、もう空は曇ってきており、玉龍雪山(5996メートル)の頂上付近はよく見えない。午前10時40分、ビジターセンターでシャトルバスに乗り換え、下車してロープウェイで10分位で雲杉坪に到着する。
 美しい広い草原を板敷きの道がぐるりと囲んでおり、遊歩道を歩いて回るようになっている。ここからは玉龍雪山の東壁を見ることができるのだが、天気が急に悪くなり、雨模様で展望は良くない。4月末は花の季節には少々早いのか、ところどころにシャクナゲの花が咲いている位で、目立つ花はない。小さなハルリンドウの花が咲いているのを見つけたが、小さすぎて撮影しにくい。草原の一角に絵馬を売っており、これに願い事と名前を書いて、木々にぶら下げているのが見られた。なんだか日本と同じような懐かしさを感じ、一枚買ってしまった。
 雲南地方は6月末から雨季で、それまでは乾季で雨が少なく、雨が降らないと花が咲かないと言われた。一ヶ月来るのが早かったかなあと思う。天気か花か、選択が難しい。私達一行も、草原のお花畑を見るというつもりで来ているのに、全くといっていい程花がなく、何となくがっくりした気持ちで早々とロープウェイで帰ることになった。
 この季節、街角のあちこちで、おばさん達がバケツにさくらんぼをいっぱいにして売っているのが見られる。蒲田さんは一句作って発表していたが、忘れてしまった。小さな赤い実は季節感があって美しかった。

3 東巴文字博物館
 象形文字といえば、数千年前に使用されていた人類の文字と思いがちであるが、ここ麗江には生きている象形文字が存在している。それが東巴(トンパ)文字である。
 雲杉坪から帰って市街地の北約1キロに位置する公園の北側の麗江市博物館を訪れた。この博物館は納西(ナシ)族の起源や特徴、文化、伝統儀式やトンパ文字に関する展示がなされている。
 現在残るトンパ文字は1400とされているが、トンパ文字はトンパ教典に使用されている。トンパ教はナシ族の原始宗教で、チベット仏教や仏教、道教などの影響を受けた多神教で、7世紀には、ナシ族の社会に存在していたことが分かっている。トンパ教には、トンパ(知恵を持つ者)といわれる司祭がおり、かつては共同体の役割をはたしていた。
 現在でも、トンパ教の司祭がいて、毎日博物館に出勤してトンパ文字を書いて販売しつつ、トンパ文字の保存と普及につとめている。納西族の人の名前の70以上が和(ワ)さんで、現在の司祭は和前文で90歳近い人である。トンパ文字は現在も生きている象形文字として、最近世界記憶遺産に登録された。
 私達はこの司祭の和さんと一緒に写真を撮り、和さんにトンパ文字を自分の氏名を入れて書いてもらった。200元・3000円は、トンパ文字に対する保存協力費と思って提供した。帰ったら額を買って、それに入れて飾るつもりである。
 トンパ文字は象形文字としてよりもデザインとして見ると大変興味深くあり、芸術性もある。街中の土産物屋はトンパ文字のデザインのショールなどトンパ文字だらけで、観光商品としては現在も十分に役立っている。 (つづく)