民主法律時報

2012年6月号

派遣労働問題研究会がMBS(毎日放送)労働組合を訪問

弁護士 岩 佐 賢 次

 2012年6月1日、派遣研究会の有志メンバーで、大阪市北区茶屋町にあるMBS(毎日放送)の労働組合を訪問し、懇談会を行いました。
 懇談会へは、村田浩治弁護士、大西克彦弁護士、喜田崇之弁護士、藤井恭子弁護士、高橋早苗弁護士、中村里香弁護士、中峯将文弁護士、岩佐の他、組合関係者3名が参加しました。
 放送業界の労働組合と懇談会を持つのは、最近ではytv(読売テレビ)に続いて2回目です。
 懇談会に先立ち、MBSの看板報道番組であるVOICEのスタジオ見学会も開かれました。
 報道フロアには人の入れ替わりがありながら、常時  数名のスタッフが働いていました。それぞれが、ディレクターの指示に従い、モニターを切り替えたり、次の段取りのために動いたりとそこには一つのチームとして番組を作り上げる姿がありました。取材し編集した題材を確実に視聴者へ届けなければならないというスタッフの使命感と、失敗は許されないという生放送ならではの緊張感を感じました。
 続いての懇談会は、参加者の自己紹介の後、まず村田弁護士が改正労働者派遣法の概要の講義を行いました。改正の大きなポイントである、法律名・目的(1条)の変更とみなし労働契約申込み(40条の6)を中心に歴史的な経過を踏まえた説明がありました。その中で、問題のある法律も使えるところがあれば使うという派遣法を使う上での姿勢の話や、みなし労働契約申込み規定があれば、村田弁護士が経験したこれまでの敗訴判決の中で、(少なくとも)6割はこれからは勝てるようになるはずであるとコメントされていたのが印象に残りました。
 その後、懇談会は、質疑応答、そして、MBS労組サイドからの個別相談という流れで開かれました。MBS労組の奮闘の歴史的経緯があり、現在MBS本社には派遣・契約社員はおらず、全員正社員ということでした。しかし、その反面、制作スタッフの大部分が所属するのは、子会社であるMBS企画からの派遣又は契約社員ということでした。MBS労組からは、子会社MBS企画の契約社員の方の正社員化闘争を例に挙げて、子会社のMBS企画にMBS労組の支部を置き、労働組合を正社員・非正規社員を問わず組織してきたが、正社員と非正規社員の立場の違いからおのずと要求内容が異なることに加え、非正規労働者間の雇用条件や組合への関わり方などのスタンスの違い等の理由から労働者を結束させることが困難になっているという話をされました。不安定な非正規労働者の立場そのものが組合の分断につながっていることを改めて思い知らされました。
 懇談会は、予定時間を30分も過ぎて、続きの相談は、この後の懇親会でということになり、近くの居酒屋で懇親会が持たれました。
 私は、労組関係者から今までの闘争の歴史の話、獲得した成果の話をうかがいました。また、放送業界の営業がどんなことをやっているか、番組制作の実情、スポーツニュース番組の今と昔の違いなどの話や、昔のアナウンサー全員がレギュラー出演していた「あどりぶランド」というMBSの名物番組のなつかしい話で大いに盛り上がりました。
 みなさまご存じのとおり、放送業界は一部の高収入正社員がいて、これを支えるかのように大勢の非正規社員が番組制作に関わり、厳しい条件で働かされている業界です。国民の知る権利に奉仕する報道の自由の享有主体である放送業界が、長時間・低賃金・不安定な労働条件の中で懸命に働いている非正規社員によって支えられているというのはやはりいびつな感じがします。MBS労組関係者から、職場での状況など生の声を聞くと、我々若手弁護士は特にこれは何とかしないといけないと思います。ただし、その手法は、直ちに弁護士が介入して法的紛争に持ち込むというものばかりでないのも事実です。この点で労働組合の意義を再確認するとともに、労働組合と弁護士が継続的に相談できる関係・体制を作っていかなければいけないと改めて思いました。
 これからも、ytv労組と同様にMBS労組とも、定期的に派遣法や労基法などの勉強会を行いながら、関係を密にして継続的に個別の相談を受け入れる体制を作っていくことを約束して、その日は散会となりました。
 このような貴重な機会を作って頂いた村田弁護士、MBS労組にはこの場をお借りして御礼申し上げます。ありがとうございました。

労働相談懇談会 「骨抜きにされた労働者派遣法をどのように活用するか」学習会

弁護士 中 村 里 香 

 6月8日、国労会館において、労働相談懇談会が行われた。

 初めに、地域からの相談事例として、雇われ店長かフランチャイジーかという労働者性に関わる問題と、パワハラ・退職強要に関する問題が提起された。

 次いで、西川大史弁護士より、「最近の労働裁判に見られる特徴」として労働情勢の報告がなされた。
 昨今の労働裁判といえば、まず目を引くのは何と言っても、「大阪市問題」の関係である。
 3月の動きとしては、14日には、市庁舎内事務所の退去問題について、事務所の継続利用を求め、市労組が大阪市を提訴、16日には同じ問題で市労連が府労委に救済申立て、29日に市労組が救済申立てを行っている。また、同月23日には、大阪教育合同労組が、教職員に君が代の斉唱を義務づける市条例に関する団交を市が拒否したことについて、府労委に救済申立てを行っている。
 また、4月の動きとしては、6日には、事務所退去問題につき市が団交を拒否したこと、16日には、大阪市がチェックオフを廃止することをそれぞれ不当労働行為として、市労連が府労委に救済申立てを行った。
 さらに、19日には、事務所退去問題について、市労連が損害賠償を求めて大阪市を提訴、24日には、同じく市労連が、アンケート問題で大阪市と野村修也弁護士(元大阪市特別顧問)を提訴している。
 これに対し、5月10日、大阪市が事務所の明渡しを求めて2労組を提訴しており、労組側は現在も大阪法務局に使用料を供託した上で、事務所を使用して闘っている。
 大阪市問題については、このように時系列にしてみると、改めて紛争の多さを実感する。刻一刻と変わる情勢について、時機を失することなくフォローしていきたい。
 これ以外では、3月28日の泉南アスベスト2陣訴訟の判決及び一連の対企業アスベスト事件、3月29日・30日のJAL不当判決などが目を引く。
 また、5月25 日に提訴された、公務員給与を削減する臨時特例法が違憲であるとして、国家公務員約240人が国に対し給与減額分の支払い等を請求している事件(東京地裁)などを始め、公務労働関連の動きも比較的多くみられる。

 次に、大西克彦弁護士、村田浩治弁護士より、「骨抜きにされた労働者派遣法をどのように活用するか」と題して講演が行われた。
 「骨抜き」とはいえ、確実に前進した点もみられ、今後活用できそうな部分に注目していくと、まずは、1条で「目的」として「派遣労働者の保護」という字句が加わったことは重要であろう。これは、派遣法が、職安法とあいまって労働者を保護する法律であるという位置づけを明確にしたものであり、派遣法違反から私法上の効力や損害賠償請求権が導きやすくなると考えられる。
 また、29条の2において、派遣先都合による労働者派遣契約の解除にあたって派遣先が講ずべき措置が明文化されたこと(特に、休業手当の負担について具体化されたこと)も、一定の意義を有する。この点については、派遣先の団交応諾義務も否定できなくなるであろう。但し、契約期間満了による終了の場合には、この規制が働かないと解釈されるおそれもあり、注意が必要である。
 このほか、労働者派遣の料金額についても、派遣労働者に明示することが定められ、派遣元のマージン率が明らかにされることになる。
 そして、最大の改正点はやはり、限界があるとはいえ、40条の6で「みなし労働契約申込み」が定められたことであろう。
 具体的には、派遣先が、
 ①派遣禁止業務への派遣
 ②無許可・無届派遣元事業主からの派遣
 ③派遣受入期間制限違反の派遣
 ④偽装請負
の各違法行為を行った場合には、その時点で、派遣先が派遣労働者に対し、労働契約の申込みをしたとみなされることになる。この「みなし申込み」に対し、派遣労働者が承諾の意思表示をすれば、派遣先との間で、派遣元事業主との労働契約と同一の労働条件を内容とする労働契約が成立することとなる。
 また、派遣先は、労働契約の申込みに係る行為が終了した日から1年を経過する日までの間は、申込みを撤回することができないとされる。したがって、例えば「派遣切り」の相談があり、事情を聴取して期間制限違反が判明した場合には、「派遣切り」に遭ってから1年以内に派遣先に対し承諾の通知を送る、といった対応をすることになろう。
 派遣先は善意無過失により免責されるとされるが、派遣先がそれなりの規模の企業である場合には、善意無過失が認定されることは考えがたいのではないかと思われる。
 問題は、この規定については施行が遅らされており、2015年とされていることである。
 改正派遣法の施行を前に、「派遣切り」や、不当な条件での有期・請負への切替えなどが横行することも予想され、今後の動きに注目する必要がある。
 この点に関し、村田弁護士からは、「切られてから慌てて動いたのでは遅い。今までの裁判例をみても、派遣就労中に組合に加入して対応を行うことが肝要で、そのようなケースでは、裁判闘争でも一定の成果を上げてきた」との話があり、施行までの期間の重要性が強調された。

 期待も大きかっただけに、「骨抜き」と評されることも多い改正労働者派遣法。しかし、派遣労働者保護という立法目的が明文化されたこと、また、限定的とはいえ、みなし雇用が認められたことの意義は決して小さくはない。
 改正労働者派遣法を最大限に活用することで解決可能も今後出てくることを考え、施行に向けて、学習・取組を進め、準備万端で施行の日を迎えたい。

若者を守れ! 「勝ち組」さえもうつに追い込む労務管理の新たな手口―過労死110番プレシンポジウム

京都POSSEスタッフ

 6月13日(水)に、エルおおさかで過労死110番プレシンポジウムを開催しました。本シンポジウムは、大阪過労死問題連絡会と若者の労働問題に取り組むNPO法人POSSEの共催で開かれました。当日は、83名の方に参加していただき、会場は満席で立ち見も出るほどでした。

 第1部では、遺族や当事者、そしてPOSSEがそれぞれの立場から、今、若者の労働環境がどうなっているのかを話しました。

 まず、ウェザーニューズ過労自死事件で弟さんを亡くされた遺族の方が発言されました。入社してわずか6カ月後に過労自死された弟さんの働き方について報告されると、会場は騒然となりました。入社したその月から79時間の時間外労働を強いられ、最長で1カ月に232時間の時間外労働があったとのことでした。これは過労死ライン(月80時間の時間外労働)をはるかに超える働き方を入社後6カ月間で強いられていたということになります。また、長時間労働に加え、上司によるパワーハラスメントもあったことについても触れられました。メールで「なんで真剣に生きられないのだ」と上司に叱責されたり、事前に申し出た休みをとることさえ許されませんでした。さらに、ウェザーニューズは、入社後6カ月間は「予選」と称して、その期間に今後継続雇用するかどうかを見極める「お試し期間」を設けていたことが明らかになりました。それが、働く人にとって相当なプレッシャーになっていたことは容易に想像できます。事実、  月に上司に「予選通過は難しい」と言われた後に、過労自死しています。遺族の思いとして、企業は社員の労働時間管理や健康管理を責任をもって行うこと、そして、過労死根絶のための法整備や体制構築を求めると訴えました。

 次に、NPO法人POSSE川村遼平事務局長が、POSSEに寄せられている相談に基づいて、若者の心身を追いつめる職場の状況について話しました。POSSEには今年の1月から5月までに192件の労働相談が寄せられており、そのうち心身不良を伴うものが55件(29%)あったと報告しました。そして、その背景にはブラック企業の問題があると述べました。ブラック企業には、①ウェザーニューズのように、採用後に新たに選抜を行う選別排除型、②体を壊すまで働かせる消耗使用型、③職場環境自体が崩壊している秩序崩壊型の3つの類型があると説明しました。選別し排除する際にパワハラして自分から辞めるように仕向けるといった手法や、あるいは長時間労働をさせて使い切るといった働かせ方が、職場うつにつながっていると話しました。そして、20年以上かけて育成した人材を1年でうつに追い込み、その治療費や新たな人材を育成するための費用を社会に転嫁するブラック企業こそがフリーライダーだと述べました。ブラック企業であることが合理的ではないように、外部から規制をかけていかなければいけないと訴えました。

 そして、POSSEに相談に来られ、現在は大阪のユニオンに加入されて会社と交渉中の当事者からの報告がありました。「絶対にリストラしない」と言われて入ったIT企業から退職勧奨を受けており、それが原因でメンタルを患ってしまったということでした。このケースは、まさに①選別排除型にあたるでしょう。

 第2部では、昭和女子大学特任教授の木下武男先生より、「若者の過酷労働と貧困」というテーマで職場うつを生み出す仕組みについてご講演いただきました。近年、過酷な労働、過労死、精神障害が特に若年層にまで広がっていることに触れられました。そして、過労死が起きる理由を説明するために、日本型雇用システムの本質であるメンバーシップ型契約について話されました。職務の範囲や責任が明確に規定されているジョブ雇用契約とは違い、職務の限定のない企業のメンバーになるための契約がメンバーシップ型契約だと述べ、それゆえ、企業は労働者に対して絶大な指揮命令権を行使することができていると説明されました。だから、労働運動の課題としては、単に賃上げを求めるのではなく、会社の人事権や指揮命令権を制限することが必要だと強調されました。そして、過酷労働を克服するためには、やはり労働時間の短縮が必須だと述べられました。労働時間の短縮が、過労死を防ぎ、少子化対策や失業対策・雇用創出にもつながるとのお話でした。

 私が印象に残っていたのは、木下先生のお話のなかで出てきた過労死を出した企業に対する逆ユニオン・ラベル運動による規制というものです。やはり過労死を出した企業を徹底的に追い詰め、二度と同じことがないように歯止めをかけていくことが必要だと思います。過労死を出すような企業はこの社会に存在する権利は無いというお話は、まさにそうだと感じました。現在、家族の会などが取り組んでいる過労死を出した企業名公表裁判は、その点からも非常に重要な裁判だと思います。また、過労死防止基本法の制定を通じて、若者を使い捨て、死ぬまで追いつめる企業の働かせ方に対して、社会的に規制をかけていくことが最重要課題であると思います。
 今回のシンポジウムには、弁護士や労働組合、家族の会、労働NPOなど、労働問題に取り組む様々なアクターが集結しました。その結果、今回のようなイベントを成功させることができたと思います。今後も、様々な領域で労働環境の改善に向けた行動をとっていくことで、過労死のない安心して働ける社会を構築することができるのだと思います。

労働相談入門講座「精神障害と労災請求の実務」

弁護士 喜 田 崇 之

1 はじめに
 6月18日午後6時30分より、民法協新人歓迎学習企画「労働相談入門講座」が開催されました。講師に立野嘉英弁護士を迎え、「精神障害と労災請求実務」と題して、約2時間の講演となりました。
 参加者は、弁護士、労働組合、一般の方を併せて合計29名で、非常に素晴らしい企画となりましたので、ご報告致します。

2 講演の内容
 立野先生は、まず、平成23年12月に改定された「心理的負荷による精神障害の認定基準」の内容をお話されました。
 例えば「強い心理的負荷と認められる出来事の前と後の両方に発病の兆候と理解しうる言動があるものの、どの段階で診断基準を満たしたのかの特定が困難な場合には、出来事の後に発病したものと取り扱う」とされた点や、「いじめやセクシャルハラスメントの場合には発病前6カ月よりも前に開始されていて、発病前6カ月以内の期間にも継続している場合には、開始時からの全ての行為を評価の対象とする」等、労働者側に有利となる新しい認定基準の注意ポイントや、これまでの認定基準と比べて違っている点などを中心に解説されました。また、長時間の時間外労働との関係や、具体的な出来事の評価・判断方法等など、幅広く重要なポイントを解説されました。
 また、時には、立野先生の豊富な実務経験から得られた実務上のポイント等も交えられていました。
 そして、依頼者との打ち合わせ等において注意すべき点にも話が及びました。例えば、相手のペースで話してもらいよく聞く姿勢が大事であるが、他方で同調しすぎず、客観的な法律的見解を伝えることも重要である等という話もして下さいました。また、できる限り直接面談し、友人等のサポーターにも同席してもらう等、依頼者の負担を十分に踏まえつつ、慎重に手続きを進めることが重要であると話して下さいました。依頼者は、個人で会社相手に訴訟等の法的手続きに踏み切ることは非常にハードルが高く、係争状態に置かれること自体が大きな心理的・社会的ストレスになり、相談を聞く側はそのことを常に意識しなければならないことを確認させられました。
 立野先生の講演が一通り終了した後、質疑応答の時間となりました。たくさんの質疑が出て、非常に内容の濃いものとなりました。難しい内容でしたが、皆さんが熱心に立野弁護士のお話に、メモを取られているのが印象的でした。
 そして、最後に、立野先生は、精神障害と労災請求の実務は、多くの弁護士が避けたいと思う分野かもしれないが、精神障害・自殺事案は急増しており、この分野の法律相談も増えているので、労働者の真の救済のために、労災認定基準を正確に理解することの必要性を訴えておられました。また、初めて事件を扱う方のために、もし困ったことがあれば連絡してくれれば力になるという、温かいお言葉もありました。
 学習会の後、近くの居酒屋で懇親会が開かれました。

3 今後
 さて、民法協主催の新人歓迎学習会は、労働者を守るための様々な法的な知識を多くの方に知って頂くとともに、民法協の存在や理念をより多くの方に知ってもらい、新人会員を増やすことを目的にしていました。ただ、会社側代理人事務所の方の参加も多く、果たして目的にかなった企画になっているかどうかという議論もありました。
 そこで、今後は、労働相談懇談会とともに学習会を開催することを検討しています。次回は、夏頃を予定しており、高年法の実務上の問題や法改正の動き等について、中村里香弁護士がお話をする予定です。
 また、詳細が決まりましたらご案内いたしますので、ぜひご参加ください。

兵庫民法協50周年行事に参加して

弁護士 城 塚 健 之

 6月23日、グリーンヒルホテル神戸にて、兵庫民法協  周年行事が開催され、大阪からは私が代表として出席してきました。
 兵庫民法協は、1961年に民法協神戸支部としてスタートし、1962年に独立して発展してきた組織です。学者、弁護士、労働組合がともに会員として参加するという組織スタイルは今も同じで、現在、団体会員65団体、学者・個人16名、弁護士53名という陣容です。
 いただいた総会議案書や「50年のあゆみ」を拝見しますと、人数の割には非常に活発に活動されている様子が伝わってきます。
 さて、記念行事の目玉は、野田底吾弁護士と羽柴修弁護士の対談でした(司会 本上博丈弁護士)。懇親会の会場でテーブルに座ったのに、飲み物も何も出てこないままの、小一時間の対談でしたが、お二人がそれぞれ事務局長を務めておられた時代のたたかいを回顧され、今日に伝えるという試みは大変面白いものでした。
 裁判所には期待せず、とにかく運動で勝利することをめざしたという野田事務局長の時代。しかし野田先生は、それではいかんと考えて、理論的な学習活動も進めてきたと言われます。地理的に離れた兵庫県内各地での多数の学習会の成功は特筆すべきものです(ちなみに兵庫民法協は自前の車を持っているそうです)。他方、時代は移って、裁判を提起すれば当然のように勝っていたという羽柴事務局長の時代。その後また揺り戻しが来るのですが、そうしたたたかいをふりかえって、羽柴先生は、「労働者の権利宣言」をつくるべきではないかと提起されます。この話を聞いて、私は、自治労連が  年前の発足時に「自治体労働者の権利宣言(素案)」というかなり立派なものを作りながら、その後、現場での議論はあまり進まず、今日の異常な公務員バッシングの時代を迎えていることを思い浮かべ、いろいろと議論しなければならないことも多いかも、などと考えておりました。
 それはさておき、その時代時代を全力でたたかってこられた先輩方の発言にはじ~んと来るものがあります。ちなみに私は、以前、野田先生と一緒に、ひょうご21世紀協会事件を取り組んだことがあります。その後、野田先生はお体を壊されたのですが、久しぶりにお会いして、思いのほかお元気そうで少し安心しました(それにしても兵庫民法協の事務局長在任期間の長さにはちょっとびっくり。人使いが荒いなあと思います)。
 その後、ようやく乾杯、そして懇親会となったのですが、そこではスライドを使って、兵庫民法協に加盟する(おそらく)すべての労働組合の紹介がなされ、紹介された組合の方がその都度挨拶をされていました。これは加盟組合の多い大阪ではなかなかできないことかもしれませんが、でも大事な企画だと思いました。
 隣に座られた長渕満男先生(甲南大)はすでに定年になられたということで、年月のたつ早さには少々怖くなったりしました。
 私はといえば、どなたからも「大阪は(橋下相手に)たいへんですねえ」などと、ひたすら同情されていました。
 このほか、個人的には、これまでわが民法協の長老の先生方から幾度となくお名前をお聞きしながら、これまでお会いする機会のなかった「伝説」の小牧英夫弁護士にお会いできたのが嬉しい出来事でした。
 なお、検索エンジンで「民法協」と入力すると、ときどき兵庫民法協のホームページがトップに出てくることがあるのですが(ちなみにこの原稿を書いている時点では大阪がトップでした)、この50周年の会場には若手弁護士や女性の姿が少なかったので、この点では大阪が勝ったかなと。
 ともあれ、今後も、神戸と大阪の二つの民法協がますます発展していくことを祈念して夜の神戸をあとにしたのでした。

連載TPPリポート④ TPPと司法

弁護士 杉 島 幸 生

1 TPPは、国民生活全般を規律する
 TPPが、関税撤廃だけでなく、国民生活に関わる様々な分野における非関税障壁の撤廃を締結国に義務付けるものであることがようやく知られてきました。しかし、TPPの恐ろしさは、それだけではありません。TPPの場合、相手国がTPPルール違反をしていると考える締結国は、その是正を求めて国際仲裁裁判所に相手国政府を訴えることができるとされています。そして、仲裁裁判所がTPPルール違反を認定すれば、加盟国は違反とされた国内状況を是正するか、膨大な損害賠償の支払を義務付けられるのです。これは、TPP加盟国は、その国内法、国内制度のすべてがTPPルールに従っているかどうかを常に外からチェックされつづけるということを意味しています。現在、この紛争解決制度を政府間のみならず投資家・政府間においても利用可能なものとすることが検討されています。そうなれば、海外の投資家が、TPPを根拠に、あの法律、この制度が気に入らないと日本国政府を訴えることができます。まさに国民生活全般がTPPルールによって規律されるのです。

2 わが国の司法権を排除するTPP
  通常、私たちは、ある法律により自分たちの権利が侵害されたと考えた場合、国内裁判所に対して訴えを提起します。その際、日本の裁判所は、よかれ悪しかれ、その法律が制定された際の諸事情(立法事実)や、現在の社会状況、権利侵害の内容・程度など様々な要素を考慮して、その法律の有効性を判断します。ところが、国際仲裁裁判所での審理では、TPPルールだけが判断基準となります。しかも、仲裁裁判を担当する仲裁人は、国際貿易の専門家ではあっても、法律の専門家というわけではありません。また裁判長役の仲裁人は、当事者国双方の同意がなければ、WTO事務局長が選任することとなっています。国際貿易の専門家が国際貿易ルールにのみ基づいて、私たちの生活に密接に関連する法律や制度の有効性を審査するのです(しかも、この審理は公開ではありません)。このとき日本の裁判所が関与することはもちろんできません。TPPは、わが国の司法権を排除するものと言うことができそうです。

3 裁判所を拘束するTPPルール
 有効に成立した国際条約は、その内容が具体的なものであれば、直ちに国内法としての裁判規範性をもち、その効力は法律に優先することとなります。TPPも国際条約です。そして、TPPルールは、もともと国際仲裁裁判所における裁判規範としてつくられたものですから、その意味するところは相当程度に明確なものとなっています。従って、TPPが締結されれば、わが国の裁判所においても、TPPルールが法律に優先する裁判規範として裁判所を拘束するという事態になる可能性も充分に考えられます。例えば、正当な理由のない解雇を禁止した労働契約法16 条が、投資家保護のためのTPPルールに違反しているのではないかと争われるというようなことが、実際におこるかもしれません(この点、アメリカは、この種の国際経済条約が国内における裁判規範性を有するためには、別途、履行法が制定されることが必要であるとしています。さすがアメリカというべきでしょうか)。

4 司法判断に影響を与える国際仲裁裁判所の判断
 外資系企業を相手に労働者が解雇無効を争う裁判を起こしたとしましょう。その外資系企業が労働契約法  条が、投資家保護のためのTPPルールに違反しているから無効だと主張すればどうなるでしょうか。実際には日本の裁判所が、そうした主張に組みするとは考え難いのかもしれません(労契法は、確立した判例法理を立法化したものですから)。しかし、国際仲裁裁判所が、TPPルールを根拠に、解雇の金銭解決制度の制定を日本国政府に求める勧告を出したとしても(これはありえないことではないように思われます)、裁判所の判断に変わりはないのでしょうか。このとき、解雇が有効とされる社会通念上相当かつ合理的な理由の解釈に、使用者からの金銭提供の申し出を組み込んで考慮するということが行われないとは誰も言えません。TPPが締結されれば、これと似たような問題が、あちらこちらで発生する可能性は大いにあります。

5 予測不可能なTPPの影響
 怖いのはTPPの対象分野があまりに広範であること、その詳細が国民に知らされていないことから、TPP締結により果たしてなにが起きるのかということが、現時点では、ほとんど明らかになっていないということです。いったい、どれくらいの法律や、国内制度、慣習が、どのような形でTPPルール違反となるのか、誰もはっきりとしたことは言えません。「バスに乗り遅れるな  」が、TPP推進派の合い言葉になっています。しかし、行く先の分からないバスに、そのまま飛び乗ることは、あまりに愚かな行為なのではないでしょうか。それだけでもTPP協議への参加を反対する充分な理由となると、私は考えています。みなさんはいかがでしょうか。

中国雲南省 麗江 シャングリラ紀行 (第1回)

弁護士 福 山 孔市良

1 はじめに
 麗江が1996年2月にマグニチュード7の地震に襲われた。この災害を援助するため、世界各国の援助隊が麗江を訪れた。このことがきっかけで南宋時代から変わらない黒い色瓦が重なる町が世界に知られるようになった。
 特に納西(ナシ)族の象形文字、生きた化石文字と言われる東巴(トンパ)文字(世界記憶遺産や納西古楽など文化の面からも貴重な遺産が明らかになり、地震の次の年1997年12月、この町が世界文化遺産に登録された。
 この麗江の町から北へ15キロ、南北35キロにわたって13の峰々がそびえる玉龍雪山が万年雪で覆われているのが見える。この山の主峰は5596メートルで1987年、アメリカ隊が、初登頂を成功させるまでは、長年未踏峰の山であった。この玉龍雪山の存在が、麗江の魅力を一層増加させている。
 この玉龍雪山に1998年、ロープウェイが完成し4500メートル地点まで、登ることが可能になった。また、このロープウェイの乗り場から8キロ程行くと、緑の草原雲彩平(うんさいへい・3240メートル)があり、ここからは、玉龍雪山の東壁を見ることができ、やはりロープウェイで登ることができるので、玉龍雪山への高山病対策にもなっている。
 私は2003年1月1日、日本を出て上海経由昆明、昆明から麗江へと飛行機を乗り継いでやって来て、正月から玉龍雪山にもロープウェイで登り、また、この周辺を走り廻ったことがある。もう10年も前のことである。この10年、中国の変化も激しく2002年雲南省西北端のチベット族自治州の中甸(ちゅうでん)が、ジェームズ・ヒルトンの小説「失われた地平線」の理想郷が「シャングリラ」だと自治政府が主張し、名前も中甸から香挌里拉(シャングリラ)と変更してしまった。
 このことがきっかけで、雲南省の中でもシャングリラは特別な地域となった。この町の標高が3276メートルと高い上、まわりに4000メートルを超える山々がそびえ、京都大学の登山隊の遭難でも知られる梅里雪山(6740メートル)がここから車で7時間の奥地にあり、興味深い地域を形成している。
 このシャングリラも麗江と共に、一度は訪れたいという思いが重なって、ようやく10年目の2012年4月末から5月にかけて麗江シャングリラの旅が実現することになったのである。
 
2 いよいよ出発
 この旅には、佐賀、福岡の九州から13名、関西からは7名の計20名の参加で、九州の人達とは上海で合流することになっている。
 大阪組は7時40分に関西空港に集合し、9時40分発中国東方航空730便で、上海に向かった。関空、上海間の所要時間は2時間20分、時差は1時間なので、気分的にはヨーロッパに行くのと比べて気楽である。
 上海の国際線浦東空港に、午前  時(現地時間)に到着して、九州組と合流し、バスで虹橋空港に移動する。
 上海16時05分発MU5818にて、いよいよ雲南省の省都、昆明へ出発する。
 今回の旅の大きな課題の一つは高山病対策である。昆明で合流したガイドのエンさんが言うには、昆明は標高1870メートル位、次の麗江が2400メートル、シャングリラは3200メートルと、だんだん高度が上がっていく。ベッドで寝る高さから昼間ハイキングで歩く高さはシャングリラでは、3700メートルから4500メートルも上がるということで、高山病対策が重要である。
 私は添乗員の阿辻さんから小さなお菓子の様な酸素の固まりをもらったり、佐賀の平山さんからはペットボトルに酸素の粉を入れてもらって飲んだり、いろいろ助けてもらった。みんな、それなりに常備している。麗江でも、シャングリラでも酸素を買った。1つ80元(80×15=1200円)で、高価な空気である。
 19時20分に昆明の空港に到着、3時間15分の空の旅で、着後バスで錦江大酒店へ。立派なホテルで、昆明そのものも思ったより大都会である。
 夕食はホテルから近い椎苑酒店、中国第1日目の夕食なので、メニューの詳細を書くことにする。鶏肉炒め料理、キノコと牛肉の炒め料理、豚肉の団子、カボチャの蒸し料理、松茸入りの茶わん蒸し、菜の花、茄子の炒め料理、ピーマンと豚肉の炒め料理、冬瓜のスープ、チャーハン、フルーツ。野菜類が多い料理で食べやすかった。 (つづく)