民主法律時報

2012年5月号

大阪市職員アンケート問題プロジェクトチームの活動について~実態調査報告書作成と大阪市への要望書提出~

事務局長 増 田   尚

 ご承知のとおり、橋下徹大阪市長は、2月10日から16日にかけて、任期付職員、再任用職員、非常勤嘱託職員、臨時的任用職員、消防局職員を除く全職員に対し、「労使関係に関する職員のアンケート調査」(以下、「本件調査」といいます。)を実施しました。本件調査の質問項目には、街頭演説等の政治活動への参加や投票依頼の有無など、個人の政治活動の内容や、労働組合活動への参加や加入の有無などを確認し、組合に加入するメリットや、加入しない(脱退する)ことの不利益などを感じているかなどまでも尋ねるものであり、職員の思想・良心の自由を蹂躙し、自主的な労働組合の活動に介入する不当労働行為というべきものでした。

  民法協では、本件調査の実施を知り、2月11日・12日の土日に緊急の会合を開き、この問題でのプロジェクトチームを立ち上げ、アンケートへの回答を強制されている職員に対し、本件調査の違法性を明らかにして、回答する義務のないことを伝え、アンケートに応じないよう呼びかけること、提出しなかった職員に対する懲戒処分を許さないよう、職員と市民への理解を広げ、橋下市長らの暴挙に対する抗議の声を集中させるようとりくむことを確認しました。
 13日(月)には、さっそく、会長声明を発表し、同日朝の通勤時間帯に、市労組とともに市役所前で宣伝を行い、ビラや会長声明を配布しました。市労組は、大阪労連などとともに各区役所前でもビラを配布しました。また、民法協のウェブサイトに、「『労使関係に関する職員のアンケート調査』の問題点」のページを設けて、アンケートの設問項目ごとに問題点を解説しました。当該ページは、ツイッターやフェイスブックなどで拡散され、問題意識の乏しいマスメディアに代わって、広く市民に本件調査の問題点を伝えることに役立ったと自負しています。
 こうしたとりくみが、多数の労組、弁護士会、市民団体の抗議の声ととともに、アンケートの集計作業を凍結させ、大阪市労連の申立てに対する大阪府労委の実効確保措置勧告と相俟って、さらには、データの破棄へと追い込む力となりました。
  他方で、橋下市長も野村顧問も、違憲・違法の本件調査を反省することなく、職員や労働組合に謝罪をしていません。こうした無反省な態度が、5月に全職員に対する入れ墨の有無を調査し、回答をしなかった職員に対し、昇進させないなどの不利益処遇や、懲戒処分をほのめかすなど、人権無視の職員管理につながっています。

  プロジェクトチームは、橋下市長が実施した本件調査による異常な人権侵害の実態を記録化するために、7回にわたり13名の職員からヒアリングを行いました。このたび、その結果を報告書にとりまとめました。ヒアリングからは、本件調査が職員の内心を踏みにじり、自由な政治活動や労働組合活動を萎縮させ、職員間や労働組合に対する相互不信を植え付けて、「物言わぬ」職場づくりをねらうものであったことが浮き彫りになると同時に、こうした暴挙に抵抗する職員、市労組の活動が多くの職員を励まし、人間性を回復する力になっていることを認識することができました。
 また、5月23日には、大阪市に対し、この報告書とともに、①全職員及び各職員組合に対する謝罪、②回答・非回答のデータの削除、③非回答を理由とする不利益取扱いの禁止、④労働組合との信頼回復を求める要望書を提出しました。大阪市では、所管の人事室において、要望への対応を検討するとしています。
 橋下市長は、7月市議会にも、職員の政治活動を刑事罰で禁止する条例案や、職員団体の自主的な運営に介入する条例案など、憲法、地方公務員法などを無視して、異論を許さない市役所へと変質させようと躍起になっています。同様の違法行為を繰り返させないためにも、市長に謝罪をさせ、被害回復をさせることが不可欠であり、そのためにも様々な手段によって、引き続き市長の責任を追及することが求められています。
   ◇
 なお、プロジェクトチームがとりまとめた実態調査報告書は、「労働法律旬報」6月上旬号に掲載されます。同号は、「橋下政治に対する批判的検討―公務員労働組合問題を中心に」との特集が組まれており、萬井隆令会長の巻頭言や、西谷敏教授、城塚健之幹事長、谷真介会員、市労組の中山直和さんと当職など、民法協からも多数の会員が執筆を担当しており、自治労・市労連の活動を含む、大阪市における職員や労働組合の権利闘争が取り上げられています。実情を知り、橋下流の地方自治破壊と対決する理論的・実践的な確信をつかむことができます。民法協でも取り扱っていますので、ぜひお買い求め下さい。

障がいのあるバス運転手に対する「勤務配慮」の打ち切りが違法だとした仮処分命令―阪神バス事件

弁護士 中 西   基

1 事案の概要

 Aさん(  歳)は、1992年に入社した路線バスの運転手である。Aさんは、1997年に「腰椎椎間板ヘルニア」手術の後遺症で「神経因性膀胱直腸障害」の障がいが残った。神経機能の障害のため、自然に排便することができず、下剤を服用するなどして数時間をかけて強制的に排便しなければならない。
 当時、会社には「勤務配慮」という制度があった。これは、心身の状況や家庭の事情等によって、通常の勤務が困難な労働者について、勤務に支障が生じないように必要な「勤務配慮」を行うという制度である。Aさんは、毎日就寝前に下剤を服用し、翌朝起床後に強制的に排便しているが、排便を完了するまでに2~3時間かかってしまうことから、①乗務シフトは毎日午後からとする、②時間外労働は避ける、③前日の勤務終了から翌日の勤務開始までの間隔を最短でも12時間以上空ける、という「勤務配慮」が行われてきた。
 ところが、会社は、2011年1月から「勤務配慮を廃止して、通常の勤務シフトで勤務させる」としてAさんに対する「勤務配慮」を打ち切った。その結果、Aさんは勤務時間に合わせた排便コントロールができなくなり、2011年1月だけで当日欠勤が3回、2月は6回、3月は8回もに及ぶことになった。
 Aさんは、「勤務配慮」を受けない通常の勤務シフトでの勤務する義務のないことの確認を求める裁判(本訴及び仮処分)を提訴した。


2 争点

 身体や精神に長期的な障がいがある人への差別撤廃・社会参加促進のため、2006年の国連総会で「障害者権利条約」が採択されている(2011年3月現在の批准国は99か国であるが、日本はまだ批准していない。)。同条約では、①直接差別、②間接差別、③合理的配慮の欠如の3類型をいずれも障がい者に対する差別だとして禁止している。合理的配慮とは、「障がいのある人に対して他の者との平等を基礎としてすべての人権及び基本的自由を享有し又は行使することを確保するための必要かつ適当な変更及び調整であって、不釣り合いな又は過度な負担を課さないもの」と定義される。
 Aさんの勤務シフトに関する前記のような「勤務配慮」は、この障害者権利条約の「合理的配慮」に当たるものであり、これを廃止することは、障害者権利条約が禁止している障がい者に対する差別に該当し、私法関係においては公序良俗違反ないし信義則違反として無効だというべきではないか。これが本件の主たる争点である。
 また、「勤務配慮」の打ち切りについては、会社が労働組合と合意の上で決定されたものであるところ、このような労使間の合意によってAさんには重大な不利益が生じてしまう。にもかかわらず、労使合意に先だってAさんの意見を反映するような手続は取られておらず、このような労使合意に規範的効力を認めることができるのか否かも争点である。


3 仮処分決定

 2012年4月9日、神戸地裁尼崎支部(裁判長揖斐潔、裁判官惣脇美奈子、裁判官小川貴寛)は、会社が「勤務配慮」を打ち切ったことが公序良俗違反ないし信義則違反で無効だとして、「勤務配慮」がないままでの勤務シフトによって勤務する義務のないことを仮に確認する仮処分決定を出した。また、「勤務配慮」を廃止する旨の労使合意についてはAさんに対しては規範的効力が及ばないと判断した。
 障がいのある労働者に対する合理的配慮の打ち切りが公序良俗違反ないし信義則違反であると判断した裁判例は、先例的価値があると思われる。
 現在、本訴(1審)及び保全異議が係属中である。引き続き、ご支援をお願いします。

(弁護団は、岩城穣、立野嘉英、中西基)

連載TPPリポート③ TPPと医療

大阪医労連書記長 染 原   剛

 今、年収200万円以下の給与所得者が5年連続で1000万人を超え、2010年の調査では給与所得者全体の22.9%を占めています。また、就業形態の多様化に関する総合調査結果では、非正規社員の割合が38.7%と過去最高となっています(2011年8月29日、厚労省発表)。 その上、警視庁の「自殺の概要資料」によれば、自殺者数は1998年以降3万人を上回る水準が続いています。そして今、子どもの貧困や高齢者の孤独死・孤立死が社会問題となっています。生活保護の受給者は昨年7月全国で205万人を超え、戦後最多を記録する異常な事態となっています。このような社会情勢のもと、経済困難なために医療機関にかかる事ができない人も少なくありません。全日本民医連の「国保など手遅れ死亡事例」調査では、2010年は71例と調査開始以来最高で、前年の1.5倍になっています。国保の滞納世帯の割合が21%と、5世帯に1世帯が滞納という状況が10年近く続いています。厚労省の社会保障審議会医療部会は2011年7月6日、都道府県が5年ごとに策定する医療計画に記載する疾病に、精神疾患を新たに追加し5疾病(がん・脳卒中・急性心筋梗塞・糖尿病・精神疾患)とすることで合意しました。

 この様に、深刻な労働者・国民の貧困問題、精神疾患をはじめとした健康不安が現実の課題としてのしかかる中で、野田首相は所信表明演説で、TPP参加について「早期に結論を出す」と表明しました。TPPは、「非関税障壁」撤廃のもと、暮らしと経済のあらゆる分野が対象となります。これまでも、米国は繰り返し民間医療保険や医薬品などの市場開放を要求し、米国資本の生命保険会社や巨大チェーンホスピタルによる病院経営参入を目的としています。現行の医療保険制度において、市場開放の障害となる日本の公的医療保険制度(共済)や国民皆保険制度が標的となっています。その上、医療分野においても、混合診療(保険のきく診療と自由価格の医療)の全面解禁で保険のきかない医療が拡大し、お金の有る無しによって受けられる医療が制限され、株式会社の参入によって、もうけ本位の医療が優先されることとなります。当然、不採算部門(医療)の切り捨て、地域からの撤退等がおこります。つまり、混合診療を全面解禁すれば、診療報酬によらない医療市場が拡大し、公的医療保険の縮小が懸念されます。外資を含む民間企業にとっては魅力的な市場となり、医薬品や医療機器の高騰も考えられます。さらに、医療従事者にとっても、すでに看護師や介護士の一部受け入れが進められている状況はありますが、更に、医師・歯科医師等も対象となります。現在アジアからの受け入れは、看護師・介護士不足が大きな理由となっていますが、現行の労働条件や賃金水準からすると、営利が目的になった場合は、更に労働条件の悪化や低賃金が医療分野に拡大することとなります。そして、医師などは現状の過労死水準の労働条件からの離脱と高収入を求めて海外流失が起こることも考えられます。この事は、医師・看護師等が多国籍で移動する事による人材不足や偏在、労働条件の低下などが今以上に進んでいくことに他なりません。当然、日本の医療・福祉・介護は根底から崩壊が始まり、金の有る無しで命も健康も介護も左右される事態の進行と健康破壊と命の切り捨てがおこります。

 その反対に、海外富裕層の医療費は全額自己負担として旅行会社などと提携し、政府も積極的に受け入れ医療機関の認証制度(医療特区)等全面的に支援(医療ツーリズム)した医療形態が広がっていくことも考えられます。保険のきかない医療技術、医薬品、医療機器が自由に使われる事から、国内の富裕層からも、自分たちも自由に使いたいとの要求が高まる事が考えられ、混合診療の拡大につながり保険診療の患者さんが取り残される事になります。医慮機関側でも利潤追求のために、患者の選別が起こり、高機能を備えた病院は、高賃金で診療能力の高い医師、看護師等の人材を集中させる結果となります。この事から、地域の医療体制は偏在し、施設でも人材でも劣悪な状態に落ち込み地域医療の崩壊が更に進むこととなります。正に、医療が営利企業の目玉商品となり、結果的には諸外国に市場開放することとなります。

 橋下・維新の会は政権党と社会の矛盾と対峙しているようなパフォーマンスを繰り広げていますが、維新八策ではTPP推進となっており、その政策は米国・財界いいなりで、民主党や自民党と何ら変わるところがありません。
 この様な情勢の中で、野田首相は声高に税と社会保障の「一体改革」を叫び、橋下大阪市長の2条例をはじめとした人間の権利の切り捨て、憲法否定が進んでいます。それらに何ら批判することなく、助長を促進するマスコミの異常性は目に余るものがありますが、
 今こそ事実を見つめ、安全・安心の医療・福祉・介護を守る運動・連帯の輪を広げ、TPPをぶっ壊す市民・府民・国民の力を結集することが大切です。

分断された仲間つなぐ一歩に――「マスコミ文化産業で働く非正規、フリーランス労働者のつどい」

 新聞労連・関西新聞合同ユニオン

 テレビや新聞、出版業界などで働く非正規労働者らの交流を目的とした「マスコミ文化産業で働く非正規、フリーランス労働者のつどい」が4月21日、大阪市内で開かれ、関係者ら約30人が参加した。
 今年2月、東京で新聞労連が初めて開催した「新聞産業で働く非正規労働者のつどい」の関西版として企画された。今回は関西MIC(関西マスコミ文化情報労組会議)が主催し、対象をマスコミ文化産業全体に拡大して開かれた。
 
広がる企業の〝いいとこどり〟
 はじめに、関西で若者を中心とした労働運動をリードする「大阪青年ユニオン」書記長の中嶌聡さんが、非正規問題の現状や取り組みについて講演した。中嶌さんは実際に受けた労働相談の事例から、非正規や個人事業主といった働き方の境界が曖昧になってきていると指摘。フルタイム以上に働いても社会保険に入れないなど、「(企業にとって)〝いいとこどり〟の働き方が広がっている」との懸念を示した。
 また、労働者が個別に企業と交渉すると、結果的には一人一人がより劣悪な労働条件を受け入れざるを得なくなる仕組みを解説。こうした「労働者間の安売り競争」をなくすことが労働組合運動の原点だと強調したうえで、「その機能を強めることなしに労組に勝ち目はなく、何十年かかってもそこへ到達しなければならない」と力強く訴えた。
 その後、非正規労働者の待遇改善などに取り組む2つの労組が活動報告を行った。まず、読売テレビ労組は今年1月、子会社で働く非正規との懇談会を開催し、その後も弁護士を招いて勉強会を開くなど、組合役員と非正規がともに非正規問題への理解を深めていった。
 その結果、4人の非正規が新たに組合員となり、今年2月に加入したという契約社員の女性は「もともと組合は正社員のためのものと思っていた。私を受け入れてくれた組合の力強さ、懐の深さをみなさんにも知ってほしい」と語った。
 一方、京都放送労組はアルバイト100人の雇い止め阻止などを勝ち取った闘争について報告。組合役員が粘り強く非正規との対話を続け、不満や要望を丹念に聞き取り、会社への要求につなげていった経緯を説明した。

小グループで話しやすく
 後半の意見交換では、すべての参加者が十分に発言できるよう、全体を4つの小グループに分けて議論するスタイルを取り入れた。
 こうした集会では、せっかく意見交換の場を設けても、人数が多すぎて1人の発言量が限られてしまい、議論に発展せず交流も深まらない、といった不満が残りやすくなる。そこで今回は、誰もが十分話せるよう7~9人ずつのグループに分け、各グループで話し合う形をとった。また、民法協「有期・パート・非常勤問題研究会」などの弁護士がグループに1~2人ずつ入り、法律的な話もできるようにした。
 新聞社などで働く契約社員らのグループでは、正社員との待遇格差に対する不満が語られた一方、「(入社時の)試験が違うので差は当然だと思い、(正社員と同じ待遇を)要求することができない」といった声も聞かれた。また、非組合員の労働者は「組合に誘われたことがない」「相談しても話を聞いてもらえないと思っていた」などと語り、職場の労組に距離を感じていることが分かった。
 小グループでの意見交換については、終了後のアンケートでも「ざっくばらんに話せた」「次回もこういう時間をつくってほしい」など好意的な感想が目立った。他の労働関係の集会でも、今後こうした話し合いのスタイルがもっと広まってよいのではないだろうか。

散らばったビーズ
 今回、新聞労連傘下の個人加盟ユニオンに所属する私は「主催者側」の立場で参加していたが、同時に、仲間との交流を求めて集まった非正規労働者の一人でもあった。
 集会は様々な業界の人と出会い、語り合える貴重な場となったが、肝心の非正規・フリーランスの参加が伸び悩み、中でも労組と関わりのない「個人参加」の労働者は少数にとどまった。背景には、彼らに広く参加を呼び掛けるべき各職場の労組が、日頃から「非組合員」の非正規と十分コミュニケーションを取っていない実態があることは容易に想像でき、悔しさも残った。
 非正規労働者は、同じ会社でもフロアが違えばまったく交流がなかったり、同じ部署でも人の入れ替わりが激しく、深い人間関係を築きにくかったりする。そのうえ、大部分の非正規は労組と接点がなく、横のつながりを持てないまま分断され、お互いの情報を共有することもできない。
 集会では、そのバラバラに散らばったビーズの一粒一粒を丁寧に拾い集め、つなぎ合わせる地道な作業を今後も続けていこう、との方向性は確認できた。しかし、行動を伴わない掛け声だけの目標設定は空しい。集会を第一歩に、次のアクションへと確実につなげていきたい。

東京地裁「不当判決」をはね返し、JAL不当解雇撤回闘争の勝利を!

弁護士 南 部  秀一郎

1 はじめに

 去る4月27日、国労大阪会館大会議室において、「東京地裁『不当判決』をはね返し、JAL不当解雇撤回闘争の勝利を! 4・27  『判決報告&決起集会』」が開催されました。この日は、ゴールデンウイーク開始前日にも関わらず、150人を超える参加者が会場に集結しました。


2 開会のあいさつと若干のコメント

 集会はまず、集会を主催した大阪支援共闘会議代表・萬井隆令民主法律協会会長の開会のあいさつからはじまりました。このあいさつに引き続き、本訴訟2判決についての若干のコメントと題して、本訴訟2判決を分析するとともに、高裁での戦いに向けての課題が示されました。ここで会長から示された視点については後述します。


3 東京地裁判決報告

 続いて、JAL不当解雇撤回裁判弁護団の清見榮弁護士から判決報告がされました。この報告では、本判決が、整理解雇法理の適用は認めたものの、具体的な運用については、整理解雇の法理を無視したものであることの指摘がされました。
 整理解雇法理は、ご存知の通り、①人員削減の必要性、②解雇回避努力、③人選の合理性、④解雇手続きの適正が、要素・要件とされています。
 そして、本件解雇では、
①解雇が行われた2010年度には、更生計画での利益目標の実に3倍もの1884億円の営業利益をJALがあげていたこと、東日本大震災にも耐えられるほどのリスク耐性を持っていること等から、法廷での稲盛JAL会長(当時)が証言しているように、「人員削減の必要性がなかったこと」
②組合が提起した「解雇回避努力が十分行われていないこと」
③「病気欠勤・休職などによる基準」「目標人数に達しない場合の年齢基準」による判断で、熟達した経験の伝承が妨げられ、「人選の合理性がないこと」
④人員削減に労働組合を関与させず「手続きの適正もないこと」
以上の事実があります。
 しかし、判決では、以上の事実に触れないで判断がされています。その理由付けでは、更生計画が無批判に絶対化されているだけであると清見弁護士は指摘しました。
 更に、清見弁護士は、日本航空の客室乗務員組合が、30歳での若年定年制や結婚退職制度・妊娠退職制度を撤回させ、女性の人権を無視した「監視ファイル」裁判を戦い抜いた組合であること、乗員組合も勤務裁判で安全問題を提起し、それぞれの組合が労働者の権利、安全を守ってきたことを指摘します。そして、解雇が組合を狙い撃ちした、不当労働行為であり、判決がこの不当労働行為を免罪するものであると報告し、控訴人・組合員への更なる支援を呼びかけました。


4 原告団決意表明

 次に原告団の皆さんのうち、乗員1名、乗務員4名の計5人の方から、決意表明がされました。
 この原告団の決意表明からは、不当解雇後の日航社内の状況が伝えられました。既に早期退職した社員が5000人以上、不当解雇後でも、乗員60人以上、客室乗務員に至っては500人以上が自主退職。暗い職場に、職員のモチベーションが低下し、骨折した機長がそのまま乗務するなど、日航社内の安全に対する意識・技術が低下している状況は惨憺たるものです。
 その中、原告それぞれが高裁での勝利を、職場復帰を誓いました。日航は、原告に対し、会社を通じた住宅ローンの一括返済を求めているそうです。原告団の中には、一人で子育てをされている方、配偶者をなくされた方、失業手当が止まり、夜勤で働きながら、裁判活動に取り組んでいる方もおられます。大阪からも原告団を支援する更なる活動が必要です。


5 今後の戦いと当面の行動提起

 この原告団の声に答えて、大阪の支援共闘会議からはオルグ活動の強化の方針が示されました。また、ターミナルでの宣伝活動について、なんば駅での駅頭活動(6月5日18時30分から)に加えて、初めての試みとして、伊丹空港ターミナルでの宣伝活動が行われることが発表されました。5月24日と6月15日の両日19時から、横断幕などを示して航空旅客に訴えていきます。
 最後に、職場のうたごえのみなさんが原告団とともに「あの空へ帰ろう」を合唱し、支援共闘会議副代表の川辺和宏大阪労連議長の発声で、団結がんばろうを行いました。


6 まとめ 今後の高裁での闘いについて

 今後の高裁での闘いについて、順番が逆転するが、開会のあいさつにおいて、萬井代表の挨拶及び判決分析から、重要な視点の指摘があったので、最後に示します。
 まず判決分析において、萬井代表は、清見弁護士と同じく、本判決が、整理解雇法理に従うとしながら、何ら同法理に沿っていないことを示しました。その中で、筆者が気になったのは、原告が「解雇の必要性がないこと」を示す証拠とした、稲盛会長の発言についての評価です。しかし、この発言については、「整理解雇をするという債権者らへの約束を反故にできない」と続きます。つまり、解雇の必要性がなくとも、再建計画により損失を被った株主・債権者(である銀行・国)とのバランスをとり、それらの理解を得るために、計画通り解雇を行ったと、この発言は評価できるのです。この発言から想起されるのは、民主党が提案した議員定数削減です。消費税増税の理解を求めるため、国会議員も身を削らないといけないとの発想は、一見、「わかりやすい」ものですが、少し考えると、増税と定数削減に全く関連がないことは明らかです。そして、日航でも同じことが言えます。日航の経営悪化の真の原因は、日航経営陣の放漫経営と必要のない地方空港を建設し、そこに不必要な路線を開設した、国の航空政策の失敗です。この経営悪化について、なぜ、乗員・乗務員が責任をとらないといけないのでしょうか?損を関係者みんなで被ろうというのは、一見、「わかりやすい」発想ですが、何らの合理性もありません。それで仕事と生活を奪われる原告にとっては、何の説得力も持たない話です。百歩譲って、政治家の判断として、一定の理解の範疇であっても、事実をもとに合理的な判断を下すべき裁判官の判断ではありません。
 萬井代表からは、高裁での闘いについて、日航の主張だけでなく、東京地裁の判決という大きな壁も打ち破る闘いになるとの発言もありました。原告・弁護団は、これから高裁で、この不合理な地裁判決を打ち破る闘いをされます。大阪からも、この不合理に対する闘いを支援しなければならないとの感想を持ちました。

労働仮処分審理について意見交換会を開催

弁護士 西 川  大 史

1 はじめに

 5月2日、労働仮処分の審理についての意見交換会が行われ、連休の間にもかかわらず、ベテラン弁護士から若手弁護士まで十数名の弁護士に参加いただき、熱い議論が交わされました。


2 大阪地裁における労働仮処分の審理の実情について

 近時、大阪地裁では、労働組合の宣伝活動を制約する仮処分決定が数件出されています。
 そもそも、大阪地裁では、地位保全等の労働仮処分事件は、労働部である第5民事部に配点されますが、労働組合の街宣活動禁止仮処分事件等は、保全部である第1民事部に配点される運用となっています。また、大阪地裁では、従来、労働仮処分について、「大阪方式」(本訴並みに実質上証人尋問を行う口頭弁論的審尋方式)が採用されてきましたが、現在では、任意的口頭弁論が開かれることはなく、書面審理のみで判断されています。
 このような大阪地裁における労働仮処分事件の審理の実情が、不当な仮処分決定につながっているのではないかという危惧感から、この意見交換会が行われました。


3 議論・意見交換

 まず、北港観光バス事件や福住コンクリート事件などの街宣禁止仮処分事件(いずれも保全部に係属)や、中央交通事件(第23民事部に係属)や河内長野事業所事件(堺支部。最高裁の上告不受理により組合側の勝利が確定)などの組合活動を理由とする損害賠償請求事件について、当該の弁護団から詳細な報告がなされ、その後、組合の宣伝活動の内容や係属部、審理の問題点等について意見交換がなされました。
 具体的には、まず裁判官の資質の問題、すなわち、裁判官、特に労働部以外の裁判官は、労働事件に慣れておらず、まともな宣伝活動に接する機会も少ないため、我々が当たり前だと思っていることが裁判官にとって当たり前ではないことや、裁判官には、宣伝活動等禁止仮処分事件が、労働事件であるという感覚がないのではないかという問題点が指摘されました。
 また、従来は、仮処分事件でも実質的に証人尋問を行っており(いわゆる「大阪方式」)、それが組合側の勝因につながっていたが、現在では書面審理のみとなっていることに大きな問題があり、今後は、裁判所に慎重かつ適切な判断をさせるためにも、仮処分事件について合議体での審理の要求や、任意的口頭弁論により証人尋問を要求することも必要であることなどの問題提起もなされました。


4 今後の方針について

 この意見交換会を踏まえて、労働仮処分事件は、やはり労働者、労働組合の権利に直結することに鑑み、地位保全等のみならず、街宣活動禁止の仮処分等も含めたすべての労働仮処分事件が、第5民事部で審理されるよう裁判所に要求することが不可欠であるということを改めて確認することがされました。
 今後、民法協としては、慎重かつ適切な審理がなされるよう、労働事件に精通している労働専門部に係属されるよう申し入れをしたいと考えております。

レッド・パージの歴史的あやまりをただす今日的意義―大阪レパ反対連絡センターが発足

弁護士 橋 本   敦

1 決意みなぎるレッド・パージ反対大阪連絡センターの発足

 思想・信条の自由を踏みにじった許すことのできない憲法違反のレッド・パージ、政府によるその不法な暴挙を今にただすたたかいは、戦後史の汚点をぬぐい、被害者の名誉とはかり知れぬ人生の損失を回復する重大な人権擁護のたたかいである。
 大阪においてそのたたかいの中核となるレッド・パージ反対大阪連絡センターが去る4月14日に発足した。それは、大阪におけるレパ犠牲者の怒りと名誉・損害回復の熱い決意を反映した意気高き発足集会であった。


2 レッド・パージの歴史的本質―戦前の治安維持法弾圧の戦後版と言うべき国家の犯罪―

 戦後朝鮮戦争の前夜に、平和・革新の日本をめざす労働者の陣営を襲ったレッド・パージ、それは国家による思想・信条の自由に対する明白・重大な人権侵害であり、戦後史の一大汚点である。
 東京都立大学の塩田庄兵衛教授は、その著『弾圧の歴史』で次のように書かれている。
 「レッド・パージは、朝鮮戦争勃発とともに、アメリカ占領軍の勧告と指導にもとづいて、日本政府と経営者の手で、公然と開始されました。まず、新聞放送関係の五〇社七〇四名を手はじめに全産業を軒なみに襲いました。(中略)
 レッド・パージの不法を訴えても、裁判所ではほとんどすべてが身分保全の申請を却下し、労働委員会も審問拒否の態度をとったため、労働者は法の救済を求める道がほとんどまったくとざされました。この大弾圧によって、組合や職場から戦闘的分子が一掃され、これまで労働運動のなかに強い影響力をもっていた共産党は、壊滅的打撃をうけました。
 レッド・パージは支配者にとって好ましくない思想を持っているという理由だけで、生活権を奪いとる明白な基本的人権侵害の弾圧です。こうして労働者階級の前衛であり、労働運動の先頭に立ってたたかいつづける共産党は、半ば非合法に追いこまれ、半身不随の状態におちいりました。幹部は地下に潜行し、警察の追求をのがれながら、活動をつづけました。また、戦闘的な幹部や活動家を失なって、労働組合は力を失ない、労働者の利益のためにたたかう力を抜きとられました。」
 また、今日のレッド・パージ研究の第一人者、北海道教育大学の明神勲教授は、国家による不法な弾圧であるレッド・パージの本質を次のように明らかにされている。
 「レッド・パージは、実質的には戦前の治安維持法体制下における弾圧の復活に類似するので『戦後における治安維持法体制現象』というべきものであった。
 レッド・パージは、米ソの冷戦体制の進行と超憲法的占領権力を背景に、GHQと日本政府および企業経営者の共同行為として強行されたものであった。
 レッド・パージという不法な措置を実施するにあたり、GHQ及び日本政府は、事前に裁判所、労働委員会、警察をこのために総動員する体制を整え、被追放者の『法の保護』の手段をすべて剥奪した上でこれを強行したのであった。違憲・違法性を十分認識し、法の正統な手続きを無視したレッド・パージは、『戦後史の汚点』とも呼ぶべき恥ずべき『国家の悪事』であった。」
 まさにこのように、日本政府は憲法を踏みにじるレッド・パージというこの「国家の悪事」を全国的におし進めた正犯として重大な責任があるのである。


3 国の責任を問うレッド・パージのたたかいの重要性

 このようなレッド・パージの歴史的本質にもとづいて、国の責任でレパ被害者の名誉を回復し、損害を補償させることは戦後史のあやまりをただす正義のたたかいである。
 ここに、レッド・パージのたたかいの今日的国民的意義がある。そして、同時にこのたたかいは、憲法で保障された思想・良心の自由をまもり民主主義の確立をめざす今日においてもなお重要な国民的たたかいである。何故なら、橋下大阪市長の職員基本条例案や、不当な憲法違反の思想調査でも明白なように、現在でも基本的人権の最重要なその中核をなす思想・言論の自由が職場・地域で十分保障されているとは言えないからである。
 この点は、日本弁護士連合会がそのレパ人権救済勧告(2008年10月24日)でも「レッド・パージは『思想・良心の自由』と『結社の自由』という民主主義社会の根幹に関わる問題であり、現在そして今後も、わが国の社会や企業において鋭く問われて続ける重大な問題である。」ときびしく指摘しているとおりである。
 しかし、今世界は過去の歴史のあやまりを正して前進していることを直視しよう。
 スペインでは、フランコ独裁下の弾圧犠牲者に対する名誉と権利回復のため、「歴史の記憶に関する法律」(2007年12月)が制定され、ドイツやイタリアではナチズムによる犠牲者の名誉回復と損害補償が行われた。さらにアメリカでも、1957年、米最高裁は、共産主義者が弾圧された三つの事件でマッカーシズムによる反共攻撃は、言論・思想の自由を侵すもので許されないと断罪した。その時、アメリカの有力誌『世界週報』(1957年7月6日号)は「マッカーシズムも臨終へ・米最高裁判所は三つの重要な判決を下し、一つの主義(反共主義)に墓標をたてた」と書いた。
 日本もこの世界の正義の流れに背いてはならない。しかるに、日本ではいまだに戦前の治安維持法弾圧の犠牲者に対する名誉回復も、レパ犠牲者に対する権利回復も全くなされてはいない。この政府の責任は重大である。


4 今日のレパ反対のたたかいの展望

 発足した大阪レパ反対連絡センターは、すべてのレパ犠牲者に対して名誉回復と損害補償を行なうレパ救済の特別法の制定を要求する国会請願活動を行うことを決定した。
 これはレッド・パージの重大な国の責任を追及する正義のたたかいでもある。
 そしてこのたたかいは次のとおり、その正当性が憲法上も承認される重要な課題なのである。
 政府は1952年講和条約発効に際して、公職追放令廃止の特別法を制定し、軍国主義者らの追放をすべて解除するとともに、年金等の損失を回復した。
 また、2010年にはシベリヤ特措法を制定して、シベリヤ抑留者に対し特別給付金を支給して損害補償を行った。
 それなのに、政府は、レッド・パージの犠牲者に対しては名誉回復もなんの損害補償も行っていない。戦争に協力した軍国主義者には追放を解除して損害補償をしたのに、戦争に反対し平和のためにたたかったレッド・パージ犠牲者にはなんの補償も名誉回復もしないこの国の不当な差別は明らかに憲法第14条の法の下の平等原則に違反するものである。
 それにもかかわらず、レパ犠牲者に対してはなんの名誉回復等の措置もとらないこの国の責任は重大である。この国の責任を追及し、大阪連絡センターがかかげるレパ救済特別法制定の国会請願活動を大きく進めねばならない。
 大阪府下のレッド・パージは「大阪社会労働運動史」によると、新聞・交通運輸・金属機械・化学・国鉄・郵政など広汎な業界に及び、その犠牲者数は1、011の多数に及んでいる。そのレパの弾圧からはや60年となる今日、苦難の日々に耐え無念のうちに亡くなられた人々を思うと胸が痛む。そして今元気で頑張っている人々の多くも80才の老いの坂を迎えておられる。一日も早い勝利の日をねがわずにおられない。
 日本共産党の市田書記局長が「レッド・パージ被害者の名誉回復と補償措置を実現することは、歴史の一大汚点をただす大きな意義をもつとともに、現にいまも行われている、職場における思想差別を克服し、思想・良心の自由、言論表現の自由、結社の自由など、基本的人権を確立する今日的意義をもったたたかいだと確信いたします。」(レパ60周年記念のつどい挨拶)と述べられているとおり、レパ反対のたたかいは、われわれにとって憲法と人権・民主主義をまもる今日の重要な国民的たたかいであることをあらためて深く受けとめて一日も早く勝利の道を開くために奮闘しよう。