民主法律時報

2012年3月号

ビクターサービスエンジニアリング事件最高裁判決について

弁護士 河 村   学

  1. 事案の概要 本件は、ビクターサービスエンジニアリング株式会社から個人業務委託業者(個人代行店)とされ、ビクター製品の出張修理業務に従事している労働者が、条件改善のため労働組合を結成し、会社に団体交渉を申し入れたところ、労働者ではないという理由で団体交渉を拒否された事件である。府労委・中労委では会社の不当労働行為を認め救済命令を出したが、東京地裁・東京高裁は個人代行店は労組法上の労働者ではないという理由でこれを否定した。
     2012年2月21日、最高裁は、原判決を破棄し、東京高裁に差し戻す判決を下した。2005年1月31日の団交申入れから既に7年が経過している。

  2. 最高裁判決の内容(1)労組法上の労働者性5事情
     最高裁は、新国立劇場事件・INAXメンテナンス事件各最高裁判決(平成23年4月12日)と同じく、①会社組織への組み込み、②契約内容の一方的決定、③報酬の労務対価性、④業務の依頼に応ずべき関係、⑤指揮監督下の労務提供・時間的場所的拘束、の5つの事情を挙げて労働者性の判断を行っている。
     ただ、本判決は、前の2判決よりも言葉を慎重に選び、同種事案の一般的考慮事情として通用させることを意図しているように思われる。

     会社組織への組み込み
     2判決では、「事業の遂行に不可欠な労働力」として組み込まれているという事情を挙げていたが、本判決では、「事業の遂行に必要な労働力として、基本的にその恒常的な確保のために」組み込まれているという事情を挙げている。
     これは「不可欠」性までは必要なく必要性で足りること、恒常的な労働力確保の目的も基本的にそう言えれば足りること、を示したということができる。

     契約内容の一方的決定
     2判決では、業務内容の一方的決定という点に重点が置かれていたが、本判決では、「業務内容やその条件等」について個別に交渉の余地がないという事情を挙げている。
     これは会社が示した労働条件で就労せざるを得ない地位にあることが労働者性を認める事情になることをはっきり示したということができる。

    エ 報酬の労務対価性
     2判決では、報酬決定の実態や時間外手当に相当するような報酬が支払われていたことなどから対価性を認めているが、本判決では、報酬決定の実態に加えて「修理工料等が修理する機器や修理内容に応じて著しく異なることからこれを専ら仕事完成に対する対価とみざるを得ないといった事情が特段うかがわれない」との判示をわざわざ挙げている。
     これは、専門的な機器や技術を駆使するため報酬が格段に高いなどの事情がある場合には対価性を否定する趣旨と思われるが、その是非はともかく、一般的考慮事情として通用させようとする意思の表れと思われる。

    オ 業務の依頼に応ずべき関係
     この点は、2判決と同様に「各当事者の認識や実際の運用」から判断するとし、また、「基本的」な関係であれば足りるとしている。

    カ 指揮監督下の労務提供・時間的場所的拘束
     指揮監督下の労務提供について、2判決にはなかった「基本的に」という用語を加え、時間的場所的拘束について、2判決では「一定の拘束」としているものを「相応の拘束」という用語に変えている。
     また、本判決では、会社とFAXでやりとりしている直行直帰の就業者についても同様の拘束があると判断されており、直行直帰それ自体は事情判断に影響を与えないことを示した点で重要である。
           
    (2)労働者性を否定する特段の事情
     本判決は、上記5事情から直ちに労働者性を認めず、「①他社製品の修理業務の受注割合、②修理業務における従業員の関与の態様、③法人等代行店の業務やその契約内容との等質性などにおいて、なお、独立の事業者としての実態を備えていると認めるべき特段の事情がない限り」という限定を付した(番号は筆者)。
     そして、本件事案については、この3点の事実関係が判らず、「個人代行店が自らの独立した経営判断に基づいてその業務内容を差配して収益管理を行う機会が実態として確保されているか否かは必ずしも明らかであるとはいえ」ないとして、東京高裁への差し戻しとなった。

     ただ、特段の事情の判断にあたって、①出張業務の際自ら保有する自動車を使いその費用を負担していることは、作業用の高価な機械が会社から無償貸与されていることも考えると、それだけで自ら収益管理を行う機会があったとは認めるに足りないとし、また、②源泉徴収や社会保険料等の控除を受けておらず、自ら確定申告を行っていることは考慮すべき事情とならない、としている。

     今後、東京高裁において、この点が審理されることになるが、独立自営業者として「収益管理を行う機会が実態として確保されているか否か」という判断基準は、実は前記5事情の有無の裏返しであり、5事情がすべて認められることに加えて特段の事情が認められるという事態はおよそ想定しがたいように思われる。
       

  3. 最高裁判決の意義と今後のたたかい
     
    (1) 本判決は、その判示の中で、「実態に即して客観的に決せられるべき労働組合法上の労働者」というフレーズを挿入している。
     このフレーズの明示こそ、前の2判決をさらに進めて、東京地裁・高裁の裁判官が試みた形式的解釈を最終的に打ち砕くものであり、当然のこととはいえ、労働者にとって重要な意義がある。
     本判決が、「基本的に」とか、「相応の」とか、「実態」などという語を多用し、直行直帰の場合、業務用自動車保有の場合、源泉徴収や社会保険料の控除がされていない場合など具体的に解釈方法を示すなどして、形式的解釈に強い警戒を与えているのもこのフレーズの実践である。(2) 本判決は、同種事案にも一般的に通用する考慮事情を示そうとする意図がうかがえる。これは前の2判決以降の学界や労働界からの批判に配慮するものであり、とりわけ昨年7月に発表された労使関係法研究会報告書との整合性に配慮するものである。本判決で「特段の事情」を加えたことにより、少なくとも判断要素については、最高裁の判示と同報告書の内容とは基本的に一致することとなった。
     ただ、同報告書では、基本的判断要素(5事情の①~③)、補充的判断要素(5事情の④⑤)、消極的判断要素(特段の事情)に分かれており、判断要素に強弱を付けている。また、同報告書では、基本的要素の一部が満たされないからといって直ちに労働者性を否定することにはならないことを明記している。
     いずれにしても、労組法上の労働者性については、今後、本判決と同報告書を軸に判断される可能性が高く、労働者・労働組合としては、事例を積み上げることにより、実態に即した判断指標となるようにする必要がある。
         
    (3) 本件において「特段の事情」の考慮事情として挙げた事実に関する主張立証は既に尽くされており、本判決において自判することも可能であった。団交申入れから7年も経過して未だ決着をみないというのは、司法による救済拒否に等しく、この点で、最高裁の態度は批判されるべきである。
     
    (4) なお、「実態に即して客観的に決せられるべき」とは、労組法上の労働者性の議論に限ったものではない。労働問題は常に実態に即して判断・解決されるべきであり、使用者によっていかようにでもなる形式を重視することは労働者保護の否定につながるものである。
     非正規労働をはじめ労働をめぐる争点の多くは「形式対実態」のせめぎ合いである。他の論点が問題となる場面でも、本判決のフレーズも活用しながら、就労実態に即した判断を求める必要がある。

大阪市バス職員雇止勝訴判決報告

弁護士 喜 田 崇 之

  1. はじめに
     大阪市バスの運転手の雇止事件につき、平成24年2月23日、大阪地方裁判所にて勝訴判決を得ましたので、ご報告します。弁護団は、当職の他に、出田健一弁護士、横山精一弁護士。組合は自交総連。
  2. 事案の概要
     被告は、大阪市交通局から委託を受けて、大阪市バスの運行をしている大阪運輸振興株式会社です。原告は、嘱託職員として平成15年4月1日に雇用され、1年更新を繰り返していました。
     被告は、年に数回程度、抜き打ちで従業員の添乗調査を行っていましたが、添乗調査の結果、原告の車内マイクアナウンスの活用は不十分であると判定されていました。そこで、被告は、平成20年度及び平成21年度の契約更新の際に、もっと有効な車内マイクアナウンスをするよう原告に注意指導をしましたが、その後成績の向上が見られないと判断し、平成22年3月末をもって原告を雇止めにしました。
     しかしながら、原告は、6年間の勤務の中で、車内事故を起こしたことが一度もなく、安全運転の面での指導は過去に一度もありませんでした(無事故表彰を受けた実績もあります。)。また、原告は、状況に応じて必要な車内アナウンスをしており、車内アナウンスについての苦情等もありませんでした。さらに、添乗調査の成績も、わずかではありますが上昇傾向にありました。
     このような事実関係の下、原告に対する雇止めの有効性を正面から問いました。
  3. 裁判所の判断
    (1)仮処分の判断
     原告は、賃金支払の仮処分を申立てたところ、裁判所は、「バスの運転手にとって最も重要なのは安全に運転する技術を有していることであるところ」、原告には安全運転についてはほぼ問題のない評価を受けていると認定し、会社に対し仮払いを命じました。ただし、保全の必要性については一部認めず、仮払い金額は若干限定されました。
    (2)本訴の判断
     判決は、「多数の従業員を雇用する被告において、相対的に勤務成績が低位にあり続ける従業員に対し、そのことを理由に解雇することが当然に合理性及び社会的相当性を認められるものではなく、職務能力の欠如が業務遂行に与える支障の程度や、改善の余地の有無、被告からの指導等の在り方等も踏まえた総合検討が必要である。」と述べ、単に成績が低いだけで雇止めにしようとした被告の態度を非難するかのように一般論を展開しました。その上で、原告の安全運転の評価が高いことをしっかりと認定し、アナウンスが不十分な点が業務遂行に多大な支障を与えると評価することはできないと判断しました。
     また、「問題点の指摘と改善の指導を繰り返して自主的な技能習得を期待するのみでは、成績の向上が見られないのも無理はなく、むしろ、車内放送や乗客とのコミュニケーションに特化した実地研修等の適切な指導措置を取るべきであり、それによる原告の職務能力向上を期待する余地もあったと認めることができる。」と述べ、被告が単に問題点を口頭で指摘するに留まった点についても、不十分な対応であると判断しました。
  4. 判決の評価
     相対的に成績が低いということだけでは解雇・雇止めの合理的な理由とならないことについては、これまでもセガエンタープライゼズ事件東京地裁決定(平成11年10月15日)等がありましたが、同様に、かかる一般論を明確に展開して雇止めの無効を判断したことは率直に評価できます。
     また、近時、橋下大阪市長が、職員の人事評価を5段階の相対評価に分け、2年連続で最低の評価を受けた職員が免職の対象となることを盛り込んだ職員基本条例案を議会に提出していますが、このような条例案が提出されるというタイミングで、大阪市バス職員の雇止事件において、上記のような一般論が示されたことは、条例案に警笛を鳴らすものとして非常に重要であると考えます。
  5. 今後
     本判決は、被告が控訴したため確定とはなりませんでしたが、高等裁判所においても、地裁判決が維持されるように奮闘する次第です。

大阪市庁舎からの一方的追い出し行為は許さない ― 組合事務所使用不許可処分の取消等を求めて大阪市労組らが提訴

            弁護士 谷   真 介

  1.  2012年3月14日、大阪市役所労働組合(大阪市労組)及び大阪市労働組合総連合(大阪市労組連)が原告となり、両組合が橋下徹・大阪市長にこれまで使用してきた大阪市庁舎地下1階の組合事務所について同年4月以降も使用を許可するよう申請したところ橋下市長よりこれを不許可とされた処分に対し、その取消等を求める行政訴訟を大阪地裁に提訴したので、報告する。
     なお、大阪市長は、市庁舎地下1階の本部組合事務所の使用不許可処分に先んじて、同年1月19日には、市労組の各区役所等の支部と各区役所等との合意に基づき継続使用してきたロッカー・印刷機などの設置場所である支部組合スペースについて、まだ許可期間が残っているにもかかわらず、その期間中にこの許可を一方的に取り消した。これらについても追加で提訴する予定であるが、この点は割愛する。
  2.  大阪市労組は、1990年7月に連合・自治労系の大阪市職等から分離独立する形で結成、現在の組合員は約500名という少数組合である(なお自治労・大阪市職は組合員約1万1000名、大阪市職を含む連合・大阪市労連は組合員約2万8000名である)。また大阪市労組連は、大阪市労組のほか、大教組傘下の大阪市学校園教職員組合(大阪市教)、大阪市立高等学校教職員組合(大阪市高教)、大阪市立障害児学校教職員組合(大阪市障教)の3労組と、大阪市学校現業労働組合(学現労)を併せた5労組の連合体であり、合計組合員数は約3000名である。
     大阪市労組と大阪市労組連は、2006年7月より、労使の合意に基づいて、大阪市庁舎の地下1階に組合事務所を継続的に使用してきた。その法律上の根拠は、地方自治法238条の4第7項の行政財産の目的外使用許可である。大阪市の財産条例において、許可期間は1年以内とされているため、市労組らは毎年1年間の使用許可申請をして大阪市長の許可を受け、組合事務所の使用を継続してきた。賃料(使用料)については、使用許可申請に併せて毎年減免申請を行い減免が認められてきた。ただ減免率については2009年以前は8割減免であったが、労使協議を経た上で、2010年度は7割減免、2011年度は6割減免と、逓減されてきた。直近の2011年度には6割減免で約80万円の使用料を支払い、わずか約44㎡のスペースの組合事務所を使用してきたのである。
     なお2012年度についても、継続的に組合事務所を使用することを前提に、減免率を5割にすることが労使で合意されていた。
  3.  しかしその後、ご存じのとおり、2011年11月27日の大阪府市ダブル選挙で府知事から鞍替え出馬した橋下徹氏が市長に当選し、同年12月19日に大阪市長に就任した。橋下市長は就任直後から、「職員組合と市役所の体質をリセットする」、「組合の事務所には庁舎から出ていってもらう」などと、公然と、あからさまに、職員組合を敵視する発言を繰り返した。
     その言葉どおり、2012年1月30日には、市労組らがまだ来年度の組合事務所の使用許可申請をしていないにもかかわらず、先んじて、総務局長名で、来年度の組合事務所の使用許可を行わない方針であることと、3月末までに退去するように通告がなされた。市労組らは2月17日に4月以降の使用許可申請を行ったが、橋下市長は2月20日に早速これを不許可とし、改めて3月末で市庁舎から退去するよう通告してきた。単に「組織改編による新たな事務スペースが必要になった」という理由を示したのみで、労使協議は一切ないといってよく、代替案すら示さなかった。
     市労組らは、このような労使の話し合いを全くせず一方的に追い出す橋下市長の手法を唯々諾々と容認することはできないと意思統一し、裁判闘争に踏み切ることになったのである。
  4.  訴訟における請求の内容は、上記不許可処分の取消請求と4月1日からの使用許可の義務付け請求、各労組200万円の国賠請求である。行政財産の目的外使用許可はまさに行政の裁量行為であるが、その裁量に逸脱濫用がある場合に違法となるのは当然である。
     本件で橋下市長が行った組合事務所の使用不許可処分は、まさに労働組合の弱体化をねらった不当労働行為目的に基づいている。前述のように、橋下市長は就任当初より、「組合との関係をリセットする」として組合事務所退去の方針をとっている。そして、何ら行政上の必要に迫られていないにもかかわらず、この市長の意向を受けて組合事務所の撤去そのものを目的として、不許可処分が行われたのである。本来、目的外使用許可をする際に検討されるべき以外の事情(不当労働行為)を考慮に入れて不許可処分を行っていること自体、大阪市長には裁量権の逸脱濫用があり、同処分は違法である。
     とりわけ大阪市労組は、大阪市長選挙における交通局での投票依頼の問題のような、橋下市長や当局が問題とする行為すら、何ら行っていない。仮に他労組に問題行動があったとしても、それを理由に市労組らに不許可処分をすることが許されてならないのは当然である。
     本件で問題となる組合事務所の撤去の問題は、労働組合にとって極めて深刻な問題である。組合事務所が組合活動の最も重要な拠点であることは、疑う余地がない。本件不許可処分の目的は、まさにこの活動拠点を奪うことで、労働組合の活動を弱体化させるところにある。かかる一方的な組合事務所が適法とされてしまうと、他の自治体の労働組合や民間の労働組合への影響も計り知れず、この点からも本件訴訟は極めて重要な位置づけを有している。
  5.  本件は、単に一自治体において一市長の意向で組合事務所の撤去が要求されたという単純な問題ではない。ポピュリズム的手法をとる維新の会・橋下市長による、組合や職員に対する数々の攻撃の一環として行われたものである。
     ご存じのとおり、橋下市長は市長就任後、思想良心の自由や団結権を侵害する職員アンケートの実施、職員・教育基本条例の提案、密告の奨励など、職員や労働組合の適法で自由な行動まで規制し、思想良心さえ統制する動きを顕著に進めてきた。職員はその中で物も言えず、市政への批判などは全くできない状況になりつつある。職員・労働組合は原則として政治的活動も自由にできるはずであるのに、マスメディアを利用した誤った情報操作により、市民に誤解を生じさせ、職員や労働組合の自由が全く奪われてしまっている。橋下市長の真の狙いは、このように「市民」を誤った情報で煽って公務員バッシングの世論を形成し、また職員や組合を徹底的に攻撃をすることで、職員を統制し、市政への批判を封じるところにある。結局、これでは市民の自由や権利の行使も萎縮させることになり、市民・住民の利益に真っ向から反することになるのである。しかし、橋下市長は圧倒的な選挙結果を背景にして、自身の行動が「民意」であるとして、専制支配を実現しようとしているのである。
     市労組の事務所には、橋下市長就任以来、「市民」と名乗る人々からの根拠のないクレームの電話が鳴り止まない。「ここは市民の財産だ」と言って、同意なく事務所内にまで入ってこられることもしばしばだそうである。提訴の際にも、某テレビ局の職員が組合事務所の中を撮りたいといったのに対し、突然言われてもすぐに同意はできないと断ったところ、「市民の財産なのに許可は必要ない」と言って、強引に入ってこようとした騒ぎがあった。市政クラブでの提訴会見でも、「4月1日以降は不法占拠になるがどう考えているのか」という質問ばかりで、組合を「市民」の敵としか捉えない橋下市長べったりのマスコミの姿勢を体感することとなった。このようなプレッシャーの中で最前線で闘っている市労組の方々やその中で働く職員の心理的負担は計り知れないものがある。
     このような橋下市長の手法にどう対抗するか、市民への共感を呼ぶ運動をつくりあげるかは、難しい課題であるが、乗り越えなければ大阪の未来はないであろう。市職員の仕事や労働組合の意義や役割について、市民に伝える努力を粘り強く続けることしかないと思う。
  6.  提訴後、本件裁判は一旦は行政部に係ったが、その後労働部に回付され、労働部で審理されることとなった。提訴しても市長の退去要求が止まることはなく、提訴翌日には早速、当局より改めて退去をするよう通告がなされた(明け渡さない場合、明け渡しの民事訴訟を起こすようである)。なお市労組には現業の組合員もいるため、年度内に労働委員会への救済命令申立も行う予定である。
     最後になったが本件は緊急の提訴であったにもかかわらず、民法協会員を中心に  名もの弁護士に弁護団に参加していただくことができた。市労組らは、法廷内外の運動を含め、あらゆる手段を駆使して労働組合としての権利を守り正常な労使関係を取り戻すべく最後まで闘いぬく決意を固めているので、今後も全面的なご支援をお願いする次第である。(実働弁護団は、自治労連弁護団を中心に、豊川義明、大江洋一、城塚健之、河村学、増田尚、中西基、喜田崇之、宮本亜紀と谷真介。その他弁護団、73名)

 

カプコンパワーハラスメント事件提訴のご報告

弁護士 山 室 匡 史

  1. 2012(平成24)年3月13日、株式会社カプコンを相手取り、従業員の地位確認とパワーハラスメントを理由とする損害賠償請求を求める訴訟を提起しましたので、弁護団を代表し、ご報告致します。
  2. 事案の概要
    (1) 株式会社カプコンは、主としてコンピューターゲームソフトの製造販売を行っている株式会社で、多数の人気ゲームソフトシリーズを有するゲーム業界でも屈指の大手企業です。原告は、20代の女性ゲームクリエイターであり、他の大手ゲームソフト制作会社での勤務を経て、平成21年5月16日に正社員としてカプコンに入社しました。原告は、入社後数ヶ月の間、社内にある複数のゲーム開発チームに派遣された後、平成21年9月には「ドラゴンズ・ドグマ」というゲームの開発チーム(以下「DDチーム」と言います。)に配属されました。

    (2) 
    その後もしばらくは順調に業務についていたのですが、平成21年12月ころに、原告より年齢が高く経験も長い女性従業員が「DDチーム」に配属されてから、状況は変わり始めました。この女性従業員は、ことある毎に原告を長時間にわたって叱責したり、会議で原告のみを叱責したり、実現不可能な業務指示を出すなど、理不尽な振る舞いを繰り返しました。時期を同じくして、社内で、原告がトラブルばかり起こしている人物であるという悪い噂が立ち始めました。そのため、原告は、「DDチーム」内で孤立しはじめ、大きな精神的苦痛を感じるようになり、次第に体調を悪化させていきました。

    (3)
     そのような状況にあっても、原告は、何とか会社の役に立つ仕事をしたいと考え、「データベース」の作成を提案しました。この「データベース」があればゲーム開発を円滑に行うことができますが、制作には長い時間と大きな労力を要します。そのため、過去には、技術部門すら制作を断念していました。原告は、困難な状況にあっても、このような人がやりたがらない役割を積極的に担い、会社のために尽力しました。原告の上司も、このデータベースの重要性を認め、原告に作成するように指示し、「『データベース』の作成に尽力すれば、チーム内でも評価される。」と言っていました。もっとも、原告は、通常業務に加えて、「データベース」の作成も並行して行わなければならなかったため、平成22年7~8月にかけて、連日徹夜で作業をすることを余儀なくされました。その結果、8月末にはデータベースを試験運用することができる状態にまで仕上げました。

    (4)
     ところが、上司は、平成22年10月6日、突然、原告を「DDチーム」からはずし、データベース作成も他の部署に引き継ぐように指示しました。その際、上司は、「『データベース』を作成していても、チーム内で評価できない。」などと前言を翻しました。そして、その後、10月20日から11月4日にかけて、別の上司2名から、執拗な退職強要を受けました。両名は、原告に対して、「トラブルが多い。」、「職務放棄を行った」、「ミーティングを放棄した」、「企画がおもしろくない」、「指示内容と異なる仕事を行う」などと、根も葉もないことを理由としてあげ、「あなたのような人間に仕事ができるはずがない。」などと、原告の人格を否定する発言を繰り返し、退職を迫りました。原告は、人事部の相談窓口にパワーハラスメントを受けていることを相談したのですが、人事部はまともに動こうとしませんでした。
     
    (5)
     このようなパワーハラスメントが繰り返された結果、原告の体調は一層悪くなり、平成22年11月12日に病院で診察を受けたところ、混合性不安抑うつ障害であると診断されました。そして、12月10日以降、事実上休職することになりました。このような状況に追い込まれたことによって、原告は自暴自棄となり、抗うつ剤、睡眠薬、風邪薬等の自宅に保管されていたありとあらゆる薬を大量に服用して、自殺をはかりました。幸いにして一命はとりとめたものの、原告は4日4晩にわたって眠り続けており、死亡しても全く不思議ではない状態でした。
     
    (6) 
    平成23年4月になって体調が改善してきたことから、中央区地域労組「こぶし」を通じて職場復帰の申し入れを行い、5月からリハビリ勤務が、6月から正式勤務が開始しました。しかし、会社は、「こぶし」から抗議を受けたにもかかわらず、退職強要を行った張本人を原告の管理者にあえて配置してきたため、原告の体調はそれ以上改善することはありませんでした。そのような状況でも何とか出勤を続けてきたのですが、平成23年8月4日になって、会社は、原告が数日休みをとったことをもって病気が回復していないと強弁し、復職を取り消して再び休職扱いにしました。そして、8月13日をもって休職期間満了による退職扱いにする旨通知しました。

    (7) 
    これに対し、「こぶし」は、復職取消が就業規則の要件を満たしていないとして、復職取消の撤回を求めましたが、会社は「決定事項なので覆らない」と繰り返し、全く耳を貸そうとしなかったため、本件提訴に至りました。
  3. 地位確認と損害賠償請求を求める訴訟の提起
     原告は、人がやりたがらない手間のかかる仕事を自ら進んで行い、長時間労働をも厭わずに全力を尽くして業務についていました。ところが、会社は、原告に対して根も葉もないことを理由に退職を強要し、原告の体調が悪化したことを奇貨として原告を退職に追い込みました。このような心ないパワーハラスメントによって、原告は、人格を深く傷つけられ、自ら生命を絶とうとするほど精神的に追い詰められました。
     原告は、会社のために全力で業務に取り組んできたにもかかわらず自殺寸前まで追い込まれたことや人事部が事実関係をまともに調査しなかったことについて、公の場で事実関係を明確にし、責任の所在を明らかにしたいと考え、本件提訴を行いました。
     今後、法廷傍聴等のお願いをすることもあるかと思いますが、ご支援を賜れれば幸甚です。(弁護団は、雪田樹理、西川大史、山室)

大阪の行政・教育を考える 2条例の制定を許さない府民集会に参加して

弁護士 藤 井 恭 子

1 中央公会堂に2000人を超える府民が集結
 去る2月22日、大阪市中央公会堂において、2条例(教育基本条例案・職員基本条例案)の制定を許さない府民集会が開催されました。
 この日、中央公会堂には、主催者の予想を遙かに超えて、2000人を大きく上回る参加者が集まり、会場は熱気に包まれました。
 集会においては、まず主催者挨拶として、藤木邦顕弁護士が現在の大阪府政・市政、及び、2条例案に対する運動の情勢を報告しました。
 また、劇団きづがわによる「教育基本条例残酷物語」と題する寸劇が上演されました。教育基本条例案が成立した時に教育現場がどのように変容するかがコミカルに描かれ、観客の笑いを誘うとともに、条例案が教職員と子どもにとって深刻な悪影響を与える内容を含んでいることを再認識させられました。
 昨年9月の維新の会による2条例案の提案と、それに続くダブル選挙があり、選挙後は橋下新市長による市職員に対する絶え間ない攻撃が続いています。
 このような厳しい情勢の中、これに屈することなく運動を続けるために何をしていくべきか、参加者全員が真剣に舞台に見入っていました。

2 条例案・橋下市政の問題点
 集会では、東京大学教授の小森陽一氏による講演が行われました。
 小森教授は、教育基本条例案が、子どもを「守るべき存在」として扱わず、グローバルな競争に勝てる「人材」としてしか見ていないこと、「人材」育成のために、教職員に対して徹底した統制管理を強いていることについて、教育の本質を見誤った条例案であって、断じて許すべきものではないと強い口調で述べられました。
 また、橋下市長・維新の会によるこの間の府政・市政のあり方についても、2月10日に実施が発表された「思想調査」アンケートなど、職員とりわけ労働組合を「敵」と見なして攻撃を行っていく手法について批判した上で、これからの市政・府政をただしていくためには、まずは橋下・維新の会を支持する市民と手を取り合っていくことの必要性を訴えました。
 そのためには、ただ単に橋下・維新の会のやり方が「独裁・ファシズム」であると批判するだけでなく、市民ひとりひとりと対話する必要性があること、なぜ橋下・維新の会の政治に問題があるのか、現在のままで本当に大阪が良くなっていくのか、市民のためになるのか、話し合い、理解を求めていくことが大切であると述べられました。
 小森教授による力強い講演の後には、各団体がリレートークを行い、2条例に反対するそれぞれの取り組みや、今後の活動について語られました。
 高校生や、婦人団体などは、周囲の人に2条例の問題について話して理解を求め、一緒に活動していく取り組みを行っていると述べており、市民同士の相互理解が今後の取り組みにおいて重要であると感じました。
 集会の最後には、2条例の制定を許さないアピールが全会一致で決議され、参加者全てが2条例に反対するための活動に取り組んでいくことが確認されました。

3 今後の大阪市・府政に関する運動について
 現在、橋下・維新の会による、大阪府民・市民への様々な「反動」的な攻撃が続いており、2条例案も維新の会の勢いのままに、成立に向けて進んできています。
 昨年の維新の会が提出した2条例案は、府民による強い反対運動の成果もあって、ダブル選挙後に一旦見直した後、改めて提出されることになりました。
 本集会後の2月28日、大阪府は、「教育行政基本条例案」と「府立学校条例案」を大阪府議会に提出しました。
 この両条例案は、昨年9月に維新の会が府議会に提出した条例案と同様、教育への政治介入を許し、教育の場に徹底した競争と管理統制を持ち込もうとするものです。
 また、同日に大阪府が議会に提出した「職員基本条例案」と「職員基本条例の施行に伴う関係条例の整備に関する条例案」も、昨年9月に維新の会が提出した「職員基本条例案」と同様、新自由主義的な自治体改変を狙う極めて危険な内容を含んでいます。
 松井知事は、重大な問題を含んでいる上記の条例案を、3月23日の府議会閉会日に強行採決しました。
 条例案は、大阪府の教育と地方自治を歪め、大阪府の子どもたちの将来に深刻な悪影響を生じさせます。
 また、大阪市においても、府提出の条例案と同様の内容の「教育」2条例案、「職員」条例案を大阪市に提出しましたが、各会派から批判や修正意見が相次ぎ、大阪市議会開会中の採決は困難であり、継続審議となる見通しです。
 この間、民法協では、3月5日に法律家団体8団体共催の集会、3月18日の2条例反対をアピールするパレードなど、大阪府・市の「教育」2条例案、「職員」2条例案の成立に強く反対し、府民に条例案の問題点を訴え続けてきました。
 大阪の行政と教育が、憲法の理念から外れ、歪んだ形となって未来に残されることのないよう、今後も問題の重大性を府民・市民に伝えていく活動を続けていく必要があります。

民主主義の意味を履き違えた橋下氏・維新の会にNO!―大阪法律家8団体共催 大阪「維新」を考えるつどい

弁護士 中 峯 将 文

1 はじめに
 2012年3月5日、エル・おおさか南ホールにて、大阪法律家8団体共催集会「教育基本条例・職員基本条例 これでいいの? 大阪の公教育と公務員 2条例にNO! 大阪『維新』を考えるつどい」が開催されました。民法協幹事長で自治労連弁護団の城塚健之弁護士の開会挨拶から始まり、連合大阪法曹団代表幹事で大阪市労連弁護団でもある北本修二弁護士がアンケート調査、メール調査、組合事務所の明け渡し請求等の大阪市職員を取り巻く現在の情勢報告を行ないました。
 次いで浦部法穂・神戸大学名誉教授の講演があり、その後、大阪市労働組合連合会から田中浩二書記長が、大阪市職員労働組合から島  淑美副執行委員長が、大阪府関係職員労働組合から橋口紀塩執行委員長が、大阪教育合同労働組合・堺支部から高畠伸書記長が、現場からの声を届けられました。 
 最後に「法律家8団体と参加者一同は、大阪における民主主義の危機に立ち上がり、2条例案の成立を阻止し教師や自治体職員に対する不当な人権侵害に抗議するとともに、住民との協力共同により、真の公教育・地方自治の実現に向けて全力を尽くすことを誓う。」とのアピールを採択しました。

2 浦部法穂・神戸大学名誉教授の講演
 浦部教授は「民主主義が民主主義を滅ぼす」というテーマで、講演されました。
 教授は「大阪はミュンヘンと同じ経過を辿っている。国政でも大政党が擦り寄って生き残ろうとする状況は、ミュンヘンと同じである。そしてミュンヘンの小政党であったナチスが勢力を広げ、ヒトラーはミュンヘンの王様からドイツの王様になった。大衆の人気に群がった結果がナチスの独裁を生んだ。」と、大阪とミュンヘン、大阪維新の会とナチスとの類似性を述べました。
 また、「ところで、ドイツは社会権を初めて保障したワイマール憲法を持つ国であるにもかかわらず、そのようなドイツからなぜナチスやヒトラーが出てきたのか。」と問題提起をし、引き続き、「当時のドイツでは、ワイマール憲法は無用の長物と考えられていた。この状況は、現在の日本と似ていないか。主要政党は日本国憲法を敵視している。自民党は憲法改正案を提出しているし、民主党も憲法改正を主張している。いまや護憲勢力はほんの一握り。憲法なんかどうでもよいという風潮が橋下・維新の会を支えている。憲法軽視が容認されるから憲法違反のアンケート調査もできる。では、憲法軽視の風潮はどこから来るのか。それは、国民の『権力依存』の意識にある。憲法は国家権力を国民が監視するためのもの。権力を危険視する感覚がないと、憲法軽視は当然のことになる。維新の会・橋下の理屈はそこにつながる。『法律が悪い、裁判所が悪い、府労委が悪い。』で通ってしまう。そして、マスコミが大衆人気のある維新の会・橋下に迎合することにより国民の憲法軽視を助長する。」と現在の日本に共通する国民意識の根本的な問題点を指摘しました。
 さらに、教授は、「『民主主義』とは『民意に基づく政治』であると言われるが、これを実践することは決して簡単なことではない。民意は一つではないからである。多様な民意を出来る限り反映しなければならないのである。たしかに最後は多数決によらなければならないが、これで民意が保障されるわけではないことを常に意識しなければならない。多数決に至るプロセスでいかに多様な民意を汲むことが出来たかが重要なのである。このように考えた場合、『民主主義』とは、多様な民意の合意に向けたプロセスと言うことができる。橋下流の民主主義の考え方は根本的に間違っているのだ。」と、橋下流を批判する際の視点を提供してくれました。

4 現場の声から
 田中氏と島崎氏が語った内容で共通していたのは、職場内での相互監視の状況がはびこり、非常に働きにくい職場になっているということでした。大阪市職員労働組合の島崎副執行委員長が「戦前みたい。」と語っていたことが印象に残っています。職員を統制するために、アンケート調査、メール調査は効果絶大だったということです。
 また、橋口氏は、「福祉の現場ではチーム全体で一つの仕事をするのであり、相対評価で職員の関係が悪くなり仕事が成り立たなくなれば府民の利益に反するし、土木の現場で風通しが悪くなり技術が伝承されなければ仕事の質が低下し、府民の利益に反する。」と言っておられました。高畠氏は、「今、公立高校の入試では外国出身者のための特別措置があるが、これを学区撤廃で自由化したらどうなるか。第4学区では、今年は定員割れをしたので来年は定員を減らす学校が出ている。特別措置を取る学校が廃校になると、この生徒たちの進路はどうなるのか。」と言っておられました。

5 最後に
 橋下徹氏が昨年11月27日に大阪市長選挙に当選してからというもの、公務員批判、労働組合批判がますます強まっています。今年2月9日には、あろうことか大阪市職員に対する思想調査というべきアンケート調査まで行なわれる始末です。
 また、大阪府議会には大阪維新の会により「教育基本条例案」「職員基本条例案」が提出され、大阪市議会にも同様の条例案が提出される予定です。これら2条例案が議会で可決されるようなことがあれば、首長による公教育・公務員に対する統制が正当化されてしまいます。そこでは、多様な個性を持った子ども一人一人に価値を見出すことも、多様な住民のニーズに向き合うことも全く予定されていません。維新の会が謳う競争原理・自己責任論に拠った、弱者切捨ての世の中を容認することになるのです。
 前記のような現在の大阪を取り巻く現状で、法律家8団体の弁護士および大阪市、堺市の職員等、総勢161名が、民主主義の意味を履き違えた大阪維新の会、橋下徹氏にNOを突きつけるため集まりました。浦部教授は、「橋下が大阪の王様でいるうちに彼を辞めさせてください。」と言って講演を締めましたが、参加者の総意であったでしょう。

              

教育・職員基本条例反対の意気高き御堂筋パレード ―戦前の教育に対する痛恨の思い忘れず―

                    弁護士 橋 本   敦

 3月18日、雨上がりの中之島女神像前の広場から、御堂筋パレードへと2条例反対の熱い市民の声がとどろいた。
 その集会に参加した私には、少年時代に受けた軍国主義教育の日々が思い出され、二度と再び政治権力の教育支配を許してはならないという思いがあらためてよみがえった。
 戦前の教育、言うまでもなくその基本は「教育勅語」(明治  年)であった。その最高の国民の義務は「一旦緩急あれば義勇公に奉じ以て天壌無窮の皇運を扶翼すべし」にあったことは言うまでもない。
 そして、その国民の責務は「軍人勅諭」(明治  年)の「軍人は忠節を尽くすを本分とすべし。・・・・・世論に惑わず、政治に拘わらず、只々一途(いちず)におのれが本分の忠節を守り、義は山獄よりも重く、死は鴻毛よりも軽しと覚悟せよ。」と一体とされた。
 その教育勅語を小学校でも一語の間違いもなく暗記させられたのであった。
 このことを思い返せば、政治の教育に対する不当な支配を許さぬという原則の意義とその重大さが身に迫る。
 ところが、この原則が今くつがえされようとしている。実に重大なゆゆしい事態ではないか。
 民法協は2条例案の撤回・否決を求める声明で「それは教育への政治介入に道を開き、教職員への管理統制を強めるもの」と強く反対しているのは当然である。また、大阪経済大学の丹羽徹教授も「教育行政の独立という戦後教育行政の基本原理からの決別の宣言であり、教育行政を政治による統制の下に置くものである。」と強く反対されている。
 政治の教育支配=戦前の軍国主義教育の重しから国民は容易に解放されなかった暗い日々を今思い返すにつれ、今日の「維新」による2条例は絶対に許せぬという気概が強く湧いてきた3・18集会であった。
 私は、「日本現代史」(岩波新書)第2巻「民権と憲法」の中の次の記述を読み、政治の教育支配がいかに恐ろしいかという戦前の歴史的事実に、あらためて痛恨の思いを深くした。
『それゆえにまた、女子教育では「母の役割」は子どもを健全に育てるだけではすまなかった。一八八七(明治二〇)年の演説で森有礼文相は、教室に掲示すべき「女子教育の精神」をあらわす図として、「子を養育する図」などとともに、「軍隊に入るの前、母に別るる図」、「国難に際して勇戦する図」、「戦死の報告、母に達する図」をあげている。〈国家のために殺すこと、死ぬこと〉を自発的に受け容れる子どもを育てる、これが女子教育の目的なのだった。』
 これが教育として許されるのか。なんとおそろしいことであろうか。
 このような歴史のあやまちは二度とくり返してはならない。その強い思いで政治の教育支配を許すなと明日もまた2条例反対のたたかいに参加する。

「韓国の労働運動」学習会に参加して

 弁護士  中 村 里 香

 3月19日、エルおおさかにて、韓国の社会情勢、労働情勢にも造詣の深い脇田滋教授(龍谷大学)を講師にお迎えし、「世界の民主化運動に学ぶシリーズ」第3回として「韓国の労働運動」と題する学習会が開催された。

1 はじめに
 リーマンショックイヤーである08年度についても、日本の労働損失日数(ストライキにより労働が失われた日数)は1万1000日であり、韓国の80万9000日とは大きな開きがある。韓国の労働者数は日本の約3分の1であるから、韓国では日本の200倍規模の労働争議が行われているといえる。学ぶべきは、まずはこの活発さであろう。

2 韓国の労働運動の歴史
(1)韓国では、87年の民主主義革命以降、大企業労働者を中心に、労働者大闘争が勃発した。この闘争においては、全国で3341件の争議に120万人の労働者(正規労働者の3分の1)が参加し、労働争議に量的変化がもたらされた。
 この民主労組運動は、自然発生的・非組織的な運動から、企業を超えた組織的な連帯に結びついていった。

(2)90年には、全国労働組合協議会(全労協)が結成され、600余の労組、22万名の組合員が組織化された。基本原則としては、民主制・連帯性などが掲げられ、組織戦略としては、産別労組の建設が明確に掲げられた。
 ただ、90年代には、盧泰愚政権下での激しい弾圧により、労働運動は大きく萎縮した。

(3)
93年、金泳三大統領による文民政権が成立した。
 金政権は、労働運動弾圧とは一線を画したものの、日本をモデルとした規制緩和に乗り出し、「世界化」を標榜するなど新自由主義路線を掲げ、「社会的合意」(経営側に親和的な労組が、低賃金などの労働条件を容認・合意すること)を通じた労使関係形成などの政策を取った。
 96年12月、金政権は、整理解雇の法制化や派遣勤労の合法化を盛り込んだ労働法改悪を強行した。これに対し、95年に結成されたばかりの民主労総は、直ちに大規模なゼネストを行い、これを機に、守勢になっていた労働運動が再び高揚し、労組が主導する大衆的政治闘争が幕を開けた。

(4)
金大中政権下では、親資本的労働政策が導入され、労働市場の柔軟化により、非正規労働者が急増、製造業では雇用が減少し、「雇用なき成長」の時代に突入した。
 98年には、韓国の経済成長率はマイナス5.8%、失業率は7%となり、整理解雇による大量失業が社会問題化するとともに、貧困と格差が表面化し、社会的に構造化していった。同時期には、非正規のみならず、大企業労働者を含む正規労働者も大規模リストラにさらされており、日本とは違った様相を呈している。
 同時期には、非正規の闘いも、個別抗争から組織的闘争へと発展していった。
 例えば、金属労組は非正規労働対策として、事業場内非正規職の組織化と、総雇用保障による非正規職優先解雇反対を明確に掲げた。「派遣切り」を容認してきた日本の大企業労組とは対照的といえる。

(5)
03年からの盧武鉉政権下では、非正規労働者保護が掲げられた。06年11月には、派遣勤労者保護法の改正、期間制・短時間勤労者法及び労働委員会法の制定が行われ、「非正規職保護法制」が固められた。これにより、出口規制として、非正規労働者の2年経過時の正規職転換(みなし雇用)が定められたほか、非正規労働者の差別是正(賃金その他の勤労条件などにおける合理的な理由のない差別を禁止)が明文化された。
 とはいえ、現実には、正規・非正規間で2倍程度の賃金格差が存在する。また、労働委員会での差別是正事件についても、07年からの4年間で2294件の申立てのうち、認定されたのは133件に留まっており、実効的に機能しているとは言い難い。この理由としては、差別是正には非正規労働者本人による申立てが必要とされていること、労組が代理人になれないことなどが考えられる。
 なお、2年経過時のみなし雇用については、政府雇用労働部調査(11年)によれば、6割から7割が正規や長期雇用に転換される一方、期間制勤労者136万人のうち雇止めされたのは2.35%に留まっており、非正規職保護法による正規職転換効果が明確となっている。

3 韓国大法院判例について
 韓国大法院は、偽装請負で働いていた労働者について、派遣先との間に当初から労働契約関係があることを認定したインサイトコリア事件(03年)を初め、違法派遣にも直接雇用みなし規定の適用があるとした現代自動車事件(12年)など、画期的な判決を連発している。
 このような中、金属労組は「社内下請正規職化大闘争」に乗り出し、不法派遣集団訴訟(原告は8企業12事業所の2679名)など、大規模な法廷闘争も行っている。

4 おわりに
 韓国では、活発な市民・社会運動と、労組によるによる労働運動が連帯し、ともに反貧困や総雇用保障を掲げて活発に活動している。また、産別・業種別組織化志向など、日本に比して、労働者間の分断がさほどみられない点に特色があるように思われた。
 韓国の労働運動の歴史や、韓国の活発な労働運動の一端を知ることができ、有意義な学習会であった。4月8日からの韓国視察旅行で、現場の生の声が聞けるのが楽しみです。

街頭宣伝の自由確立をめざす各界懇談会(街宣懇)・再開の報告

弁護士 西 川 大 史

1 はじめに
 近時、労働組合や民主団体等の街頭宣伝に対して、警察が干渉・介入してくる事例が急増していることに鑑み、大阪労連、国民救援会、自由法曹団大阪支部、民主法律協会では、この間、学習会や意見交換会を重ね、警察等による近時の街宣活動に対する干渉が看過できないこと、また、放置すれば街頭宣伝の自由が制限されるとの危機感を抱き、組織的な対応が必要であるとの共通認識を持つに至りました。
 そこで、「街頭宣伝の自由確立をめざす各界懇談会」(街宣懇)を再開し、具体的な事例の集約と分析、必要な対応と運動化を目指すこととなりました。

2 街宣懇とは?
 街宣懇が結成されたのは、1989年のことです。当時、私はまだ7歳であり、当時の弾圧、それに対する闘いを体験したわけではありませんが、街宣懇が結成されたのは以下の経緯によるものと聞いています。
 1980年代に入り、労働組合や民主団体などの行うポスター貼り、ビラ配り、宣伝カーの運行などに対して、道交法や軽犯罪法、屋外広告物条例など、本来、取り締まりの根拠にならないはずの関係法令を駆使した干渉・妨害、逮捕などの事案の鎮圧が相次ぐなか、個別の対応ではなく、ともに知恵と力を寄せ合って、組織的に対応しなければならないということが意識され始めたとのことです。そこで、警察権力からの干渉・妨害事例を情報交換するとともに、集約・分析し、不当な弾圧を許さないという、まさに「弾圧」に対抗する手段として、街宣懇が結成され、警察権力からの弾圧と闘ってきたと聞いています。
 しかし、90年代に入り、警察からの弾圧は様変わりし、街頭宣伝やビラ配布、ポスターに対して、近隣住民からの苦情や美観維持等、一見、誰もが反対できないような命題を突きつけて、干渉、妨害してくるようになり、街宣懇の活動も次第に休眠状態になったとのことです。
 街宣懇結成に至る経緯や、当時の弾圧等については、国民救援会大阪府本部の伊賀カズミさんの「『言論表現の自由』と『弾圧』について考える」(民主法律287号(2012年権利討論集会特集号)139頁)に詳細が分かりやすく紹介されていますので、そちらを併せて参照していただきますようお願い致します。

3 近時の街宣活動に対する干渉、介入状況
 ところが近時、労働組合の街頭宣伝に対して、警察等が干渉・介入してくる事例が急に増えています。具体的には、「許可を取ったのか」、「道路交通法違反である」、「いつ終わるのか」などと宣伝行動をやめさせようとする干渉、介入です。
 しかし、街頭宣伝に許可を必要とする法令はなく、裁判例でも、「通行量の多いとはいえない道路は当然のこと、交通の頻繁な道路でも、通行を大きく阻害するような形態でビラを配布しない限り、法律上許可をとる必要はない」と明確に示しています(有楽町駅前ビラまき妨害事件判決・東京高裁昭和41年1月28日判決)。また、街頭宣伝の制限時間を定める法令も公選法を除いて存在しません。
 それにもかかわらず、警察権力は、「許可が必要だ」などと言って街頭宣伝に干渉、介入しているのであり、ある宣伝行動に対しては、警察官から「判例を作るために検挙することもあり得る」という看過できない暴言まで飛び出しています。しかし、長年このような警察権力からの干渉・介入の事例は多くなかったことから、現場でどのように対応すべきか迷うことがあるとの声が多く寄せられています。
 そこで、警察権力と闘い、自由な街宣活動を守るために重要な役割を果たしてきた街宣懇を再開し、具体的な事例の集約と分析、必要な対応と運動化に取り組むとともに、委縮することなく自由な街宣活動の確立を目指すこととなりました。

4 4月3日、再開総会
 街宣懇を再開するにあたり、4月3日午後6時30分から、国労会館3階中会議室で再開総会を開催し、「街頭宣伝の自由を守るたたかい」についての学習を予定しています。
 民法協会員の皆様には、この「街頭宣伝の自由確立をめざす各界懇談会」の再開へのご協力と、再開総会へのご参加をお願い致します。