民主法律時報

2012年1月号

新年のごあいさつ ―日本再生に向けて― 

                会長  萬 井 隆 令

 今年は、例年以上に、「明けましておめでとうございます」とすなおには言いにくい気がします。
 東北大震災とそれに伴う東京電力福島第一原子力発電所の事故は国民に大きな問いを投げかけたました。震災の何割かは人知の及ばぬところもあるかもしれないとしても、原発は人間が創造したものであり、その事故はすべて創り出した人間に責任があります。40年運転した後、廃棄するまでに30年以上かかるというだけで工作物としてまともではありません。しかも、放射性廃棄物の処理の方法や場所、子孫への影響など分からないことだらけですが、人間が創り出したものは人間が葬らねばなりません。
 民主党の、政権交代を元の木阿弥にするような昨今の諸政策-沖縄普天間基地の移転問題、消費税増税、大規模コンクリート事業の再開、TPP問題など――をみると、政治というものに悲観的になり、眼をそむけたくなりますが、それでは、だれかの思う壺にはまることになります。 
 大阪で浮上した教育と職員にかかわる2つの条例案は、単に大阪の問題としてだけみているわけにはいきません。職員基本条例案前文は「これからの都市間競争を勝ち抜くためには…」と書き出しますが、地方自治体は隣の自治体とも互いに協力しながら住民の安全や福祉を回復し、維持し、向上させることが使命のはずで、隣の県に「勝つ」とか「負ける」という性格の問題ではないと思います。何を「競争」し、どうなることが「勝ち抜く」ことなのか。「地域経営」などという言葉があるところを見ると、自治体と営利企業とを取違えているのでしょうか。
                             
 リーマンショックを期に横行した派遣切りに対し、ユーザーとの労働契約関係の存在確認を求めた裁判で判決が相次いでいますが、下級審は松下PDP最高裁判決の前に拝詭し萎縮し、憂うべき理論的頽廃状態に陥っています。事実認定は粗雑だし、結論だけで理由付けのない判決もあります。「事実上の支配従属関係」といった労働法学上の基礎的概念を理解できていない判決も困りものですが、遂に、労働者が直接雇用を申込んだことを「内容的に、自らが被告でなく派遣元に雇用されていることを前提とする行為」と指摘し、それを被告ユーザーとの労働契約関係の存在を否認する根拠の1つとする判決まで現れました(日本化薬事件・神戸地姫路支判平23.1.19労働判例1029号―大阪高平23.10.25はそのままで控訴棄却)。そのような論理によれば、法形式上の使用者ではなく、真実の使用者と考えるものを相手方とする労働契約関係存在確認の裁判を提起することは一切できないことになり、理不尽の一語に尽きます。裁判というものの役割をどう考えているのでしょうか。 
 
 いつの世も、怒りたい、不満だということは多く、中国の詩人・杜甫は、人の世は人の力で良くすることができると信じていたからこそ、いつまでたっても良くならない世を観て痛憤し、怒り・嘆きの詩を書いたといいます。私達は「詩を書く」だけでは足りません。昨年は、国際的には民衆のデモが一国の政治を動かすことが実証された年でもありました。政治も社会も人の力で良くする以外にないのですから、「専門家いつもはどこで何してる」(池俣淳)と皮肉られないよう、労働組合も弁護士も研究者もそれぞれ持ち場で、日本再生に向けて、顔を上げ、前を見つめ、智恵を凝らして……。

会社が仮処分申立を取下げ―北港観光バス・街宣活動禁止仮処分事件

弁護士 西 川  大 史

1 はじめに
 北港観光バスは、平成23年12月15日、建交労北港観光バス分会の正当な組合活動に対して申し立てた「街頭宣伝禁止の仮処分」事件について、大阪地裁に取下書を提出した。
 本件は、裁判所による不当な仮処分決定に対して、組合が保全異議を申し立て審理中であったところ、審理が終結し、裁判所の決定を待つのみというタイミングで、会社自らが仮処分申し立てを取り下げたものであり、異例の取下げであるとともに、まさに組合の勝利を意味する画期的な意義を有するものでもある。

2 事案の概要
 北港観光では、建交労を敵視し、組合を弱体化する目的で、建交労北港観光バス分会の分会員4名に対して、雇い止め、自然退職扱い、配車差別による賃金減額、出勤停止、配置転換等の違法不当な攻撃を行ったため、組合はこれらを不当労働行為であるとして団体交渉を求めていた。
 しかし、会社は、団体交渉に誠実に応じなかったため、組合は平成23年3月22日から4日間、各日約15分、本社及び営業所の周辺を、録音テープを流しながら街頭宣伝車でまわった(この宣伝内容は、虚偽の内容でも、会社の名誉等を毀損する内容でもなかった。)。
 これに対して、会社は、本社及び営業所周辺1㎞内における「街頭宣伝車による演説、放送」「ビラの配布」を禁じる仮処分を申し立てたところ、大阪地裁第1民事部(保全部)の横田典子裁判官は、平成23年5月10日、会社の主張を鵜呑みにして、理由を何ら示すことなく、会社周辺500mの範囲において、「街頭宣伝車等の車両で徘徊し、街頭宣伝車等を利用して演説を行い、あるいは放送を流すなど、債権者の業務を妨害したり、債権者の名誉、信用を棄損する一切の行為」及び「債権者の名誉及び信用を棄損する内容を記載したビラを配布する行為」を禁止するとの仮処分決定を行った(なお、組合は、テープを流しただけで、「演説」を行っていない。また、組合は、街宣活動を行うにあたって自治会長宅に挨拶に出向き、組合ニュースを渡しただけであり、「配布」もしていない。)。

3 保全異議の申し立て
 これに対して、組合では、平成23年5月20日、仮処分決定の取り消しを求めて保全異議を申し立てるとともに、新たに出田健一先生、河村学先生をはじめ多くの先生方に弁護団に加入していただいた。
 弁護団では、宣伝活動に至った経緯、組合活動としての相当性、表現内容の真実性、会社側の損害の程度等について、改めて事実整理をして詳細に主張するとともに、組合による宣伝活動に関する裁判例を整理し、組合の宣伝活動が憲法で保障された重要な権利であり、本件のような目的、内容、態様での宣伝活動が禁止された裁判例が過去にはなく、組合が負けた裁判例は、本件と事案を全く異にすること等について理論的主張を展開してきた。
 また、組合では、これまで普通に行われてきた会社周辺での宣伝活動を禁止する異常な決定に危機感を持ち、大阪労連を挙げての支援体制を組み、裁判所の不当な決定を許さない、会社からの違法、不当な攻撃を許さないとして、毎週1回の裁判所前での宣伝活動や、要請行動を展開し、その不当性を訴えてきた。

4 会社からの取下げ
 そして、保全異議申し立ての審理が集結し、裁判所の決定を待つのみという平成23年12月15日に、会社自らが仮処分申立を取り下げたのである。
 今回の会社からの仮処分申立の取下げは、組合の宣伝活動が正当であったこと、及び会社の申し立てが不当であったことについて、仮処分を申し立てた会社自身に認めさせたという点、及び本件ではすでに仮処分決定がなされているにもかかわらず、会社に申立を取り下げをさせたという点において、仮処分決定の取り消し以上に画期的意義を有するものである。
 また、今回の取下げには、裁判所からの強い説得もあったと思われる。裁判所では、11月16日の審尋において、会社側と約30分にわたって個別に話をしており、その際に、裁判所からは、本件仮処分が取り消されるとの見通しが示され、仮処分申立の取下げが強く促されたに違いない。街宣活動を禁止する不当な仮処分決定をした裁判所自身から、取下げが促されたとすれば、それは裁判所に仮処分決定がいかに不当であったかを分からせたという点で非常に重要である。
 
5 今後の教訓、展望
 仮処分決定の原因は、労働組合の権利についての担当裁判官の無理解によるものではあるが、弁護団としても、これまでの経験からすれば、これくらいの宣伝活動であれば問題ないと油断していたことも仮処分決定を許してしまった理由である。
 街宣禁止の仮処分が、労働事件の専門部である第5民事部ではなく、一般保全事件を扱う第1民事部に係属となるという大阪地裁の事件配点の現状からすれば、裁判官が労働組合運動に精通していないことを前提にした詳細な事実整理、法的主張を展開しなければならなかったのではないだろうか。この点については、弁護団としても猛省しなければならず、今回の教訓を生かして、同じ過ちを繰り返してはならないところでもある。

6 さいごに
 昨今、労働組合の正当な宣伝活動に対して、会社が宣伝活動禁止の仮処分を申し立てるという不当なケースが各地で広がりつつある中、今回の会社からの取下げは、使用者からの不当な組合攻撃に歯止めをかけたものである。これも、皆様からのご支援のおかげであり、厚く御礼申し上げる次第である。
 今後は、建交労北港観光バス分会の組合員の個別裁判、労働委員会への不当労働行為救済申立事件すべてにおいて、勝利を目指して全力を尽くす所存である。

原爆症認定集団訴訟勝訴判決

                              弁護士  中 森  俊 久

1 2011年12月21日の判決の内容
  2011年12月21日、大阪地方裁判所第2民事部(山田明裁判長)は、原爆症認定集団訴訟近畿第3次訴訟に関し、未認定原告5名のうち4名の却下処分を取り消す勝訴判決を言い渡した。これにより、原告7名中6名までが認定された。1名については、残念ながら、申請疾病に対する治療の必要性がないとして、原爆症の認定にかかる「放射線起因性」及び「要医療性」の2要件のうち、後者の「要医療性」が否定された。
    同判決は、被爆者に対して国が認めようとしなかった入市と残留放射線による広範な被爆と内部被曝による人体影響について、「誘導放射化物質及び放射線降下物を体内に取り込んだことによる内部被曝の可能性がないかどうかを十分に考慮する必要があるというべきであり、加えて、内部被曝による身体への影響には、一時的な外部被曝とは異なる性質が有り得ることを念頭に置く必要があるというべきである」と改めて確認した。このことは、福島第一原発災害による放射線被曝に対してこれまでと異なる抜本的かつ今後長期間にわたる綿密な調査に基づく対策が必要となることを示している。

2 原爆症認定制度と集団訴訟
  いわゆる被爆者援護法は、被爆者健康手帳を持つ被爆者の疾病にいて、被爆者の申請に基づき「原爆放射線に起因して、現在も治療が必要である」と判断すれば原爆症として認定し、医療特別手当を支給する旨規定している。しかし、国は、2003年当時、当時の被爆者約27万人のうち約2200人(0.81%)しか原爆症と認定せず、多くの被爆者による原爆症認定申請を却下していた。そして、それら国の認定行政は、明らかに放射線被爆の影響を過少評価するものであり、被爆者が生き証人として語る被爆の実態とは到底かけ離れたものであった。
    「自分が長らく苦しんできた病気は、原爆放射線の影響であると認めてもらいたい。」「被爆者の声に耳を傾けず、紙切れ一枚で申請を却下するのは許せない」、そのような思いから被爆者が立ち上がり、2003年に集団訴訟(原爆症認定却下処分の取消を求める行政訴訟)が始まり、17地裁に広がりをみせた。そして、2006年5月12日の大阪地裁判決における原告9名全員勝訴をはじめとし、同年8月4日の広島地裁判決、2007年1月31日の名古屋地裁判決、同年3月20日の仙台地裁判決、同月22日の東京地裁判決、同年7月30日の熊本地裁判決と相次いで国が敗訴し、厚生労働大臣が採ってきた「原因確率」論としきい値に基づく原爆症認定基準の根本的な誤りが明確とされた。

3  司法の水準との乖離
  国の連続敗訴の状況に、2007年、安倍総理大臣は原爆症認定基準の見直しを指示し、その結果、2008年4月から「新しい審査の方針」なるものが採用されるに至った。しかし、その方針は、原爆症認定に関し司法が積み上げてきた到達点には到底及ばない内容のものであった。その為、新しい審査の方針によっても認定の対象とならない原告は、訴訟の継続を余儀なくされ、引き続き勝訴判決が積み重なっていく状況が続いた。
  裁判が長くなればなるほど被爆者は苦しみ、死亡する方も相次ぐ中、原告団・弁護団ともに早期の解決を願わずにはいられなかった。2009年8月6日、麻生太郎首相は、内閣総理大臣及び自民党総裁として、日本被団協との間で、「原爆症認定集団訴訟の終結に関する基本方針に係る確認書」に調印した。これがいわゆる「8・6合意」と呼ばれるものである。8・6合意は、集団訴訟の当時の原告306人を対象にしたものであり、原告全員救済(1審勝訴原告に対し国は控訴しない、1審敗訴原告に対し訴訟の労をねぎらい基金により救済する)などを盛り込んだ確認書であり、「厚生労働省と被団協・原告団・弁護団は、定期協議の場を設け、今後、訴訟の場で争う必要のないよう、この定期協議の場を通じて解決を図る。」ことも約束された。

4 何故裁判は終わらないのか?
    今回の判決で、8・6合意の対象となる集団訴訟は実質的に終了したことになる(岡山地裁で敗訴した原告1名につき、基金での救済を放棄して控訴がなされたため、集団訴訟に関しては同1名の訴訟のみが残っている。)。しかし、麻生内閣から民主党に政権移譲された後、国は、定期協議に真摯に臨むこともなく(これまで2回行われたに過ぎない)、認定行政を抜本的に改めようともせず、自ら定立した「新しい審査の方針」すら無視するような認定行政を続け、「今後、訴訟の場で争う必要のないよう、この定期協議の場を通じて解決を図る」という姿勢とは真逆の対応をとるに至った。それは、被爆者に対する裏切りであり、司法に対する侮辱であった。
  その結果、認定基準に関する司法の到達点と行政の運用の間で、現在に至るまで不当な認定却下処分が相次ぐこととなった。かかる国の故意による認定行政の誤りは、被爆者が亡くなるのを待っているといっても過言ではなく、それら状況に甘受できない被爆者は、やはり立ち上がらざるをえなかった。現在、大阪地裁をはじめとして、広島、熊本、札幌、名古屋、岡山地裁にて59名が新規に訴訟提起を行い、再び裁判で解決せざるをえないような状況に至っている。被爆者には時間がない、早期の政治的解決を強く希望する次第である。

配転命令無効確認請求事件勝訴判決(大阪地裁平成23年12月16日)

配転命令無効確認請求事件勝訴判決(大阪地裁平成23年12月16日)
① 人事権濫用として無効(必要性・合理性を欠くこと)
②  不当な動機・目的に出た不法行為として慰謝料認定

                                        弁護士 小 林  保   夫
                                        弁護士 岩 田  研二郎

1 事案の概要

  本件は、物流事業を営む国際的な企業体の日本における子会社である被告会社の大阪営業所において「営業職」として勤務していた原告について、人員整理を口実に行った解雇が整理の必要性を欠くとして仮処分決定(大阪地方裁判所)が発せられた後、被告会社が、解雇を撤回した上、解決金の支払を条件とする退職、東京所在の系列会社への就職の斡旋などを試みましたが、原告がこれらの提案に応じなかったところ、元勤務場所であった大阪営業所における原職に復帰させることなく、「カスタマーサービススタッフ」として直接名古屋営業所に配置転換を命じた事案について、これを、不当労働行為ないし不当な動機・目的に出たものであること、必要性・合理性を欠くこと等の理由により人事権濫用にあたるものとして提訴していたものです。

2  原告の主張

    原告は、本件配転命令についてその無効原因として、基本的には以下の主張をしました。
 ① 本件配転命令に先立つ指名解雇と本件配転命令は、被告会社が原告を嫌悪・敵視して、企業外ないし大阪営業所外に排除し、結局は退職を余儀なくさせることによって、同人を企業外に放逐しようとする一貫した意図に出た一連の不可分の行為であり、不当労働行為を含む不当な動機目的に出たもので、この点において不法行為に該当し、無効である。
  ②  また本件配転命令は、配転の必要性・合理性を欠く点においても、人事権の濫用にあたり無効である。

3 裁判所の判断

(1)大阪地方裁判所(内藤裕之裁判官)の判決は、まず、「(2)本件解雇に至った経緯等」を検討するなかで、大阪営業所勤務中の原告の業務遂行状況に対する被告会社の評価や人員削減を口実として原告を整理解雇の対象とし解雇を行った(平成21年4月16日)にもかかわらず、その後同年7月頃以降勤務地を大阪とする営業担当の従業員の募集を行うなどして従業員の増員を行った経緯等を認定しました。
 さらに判決は、「(3)原告に対する本件解雇を撤回するとともに、原告を名古屋営業所へ配転するに至った経緯等」、「(4)本件配転命令時における名古屋営業所の状況及び原告の業務内容等」を検討するなかで、原告が担当した業務の実際について「同業務の増加に伴う人員不足に状態にあったとはいえない。」と認定し、また原告に対する配転の理由とされた名古屋営業所の輸出案件について、「特に人手が必要な状況にはなかった。」と認定しました。

(2)本件配転命令の適法性について
 次いで、判決は、「争点1(本件配転命令の適法性)について」において、原告が主張した職種・勤務地限定の合意の存在、移動人事における事前の同意や応募者がない場合には外部募集を行う等の人事慣行の存在を否定しました。
 そのうえで、「本件配転命令の適否の点について」検討を行うにあたり、まず東亜ペイント事件最高裁昭和61年7月14日第2小法廷判決を援用し、「配転命令については、業務上の必要性が存しない場合又は業務上の必要性が存する場合であっても、当該配転命令が他の不当な動機・目的をもってなされたものであるとき若しくは労働者に対して通常甘受すべき程度を著しく超える不利益を負わせるものであるとき等特段の事情が存する場合には権利の濫用として無効であると解するのが相当である。」と判断基準を示し、この基準を踏まえて、原告に対する配転理由とされた名古屋営業所においてカスタマーサービススタッフを置く必要性があったか否かについて子細な検討を行い、結局「本件解雇を撤回し、原告が職場復帰するという平成年月日22年3月時点において、あえて原告を輸出案件に特化した、あるいは輸出案件もできるカスタマーサービススタッフとして名古屋営業所に配転する必要性及び合理性があったとまでは認め難い。」と判断しました。
  さらに、被告会社が本件配転命令のもう一つの理由として「原告の営業職としての資質がなく、大阪営業所には原告に適した業務がない」旨主張していた点について検討を行い、前述のような大阪営業所勤務中の原告の業務遂行状況に対する被告会社の評価や原告解雇後大阪営業所において営業担当の従業員の募集を行うなどして従業員の増員を行った経緯等を踏まえて、「これらの点からすると、必ずしも原告の営業職としての資質に問題があったとまでは認められない。」と判断しました。
    判決は、その結果として「本件配転命令については、原告を名古屋営業所に配転する業務上の必要性及び合理性があるとは認め難く、その余の点について判断するまでもなく、本件配転命令は、配転命令権を濫用したものであって、無効といわざるを得ない。」と判断するに至ったものです。

(3)本件配転命令の違法性及び慰謝料額について
 判決は、「争点2(原告の被告会社に対する不法行為に基づく損害賠償請求権の有無及びその額)について」において、まず、原告がさきの指名解雇が配転命令とともに不法行為を構成すると主張した点について、本件解雇の経緯や被告会社の判断にの当否について詳細な検討を行ったうえ、「本件解雇をもって損害賠償請求権を発生させるに足りる違法性を有していたとまで評価することはできない。」として、解雇の点についての原告の主張は排斥しました。
    次いで、判決は、本件配転命令の不法行為性の検討を行い、さきのような本件配転をめぐる経緯を踏まえ、「本件配転命令は、業務上の必要性及び合理性がないにもかかわらず、本件配転命令仮処分決定を契機とした原告の復職に当たって、不当な動機目的をもってなされたものと推認することができ、かかる経緯等にかんがみると、損害賠償請求権を発生させるに足りる違法性をゆうしているといえ、不法行為に該当すると認めるのが相当である。」との判断をしました。
 そして慰謝料の額については、原告は、本件配転命令により、精神的損害をこうむるとともに、母親の病気等の事情のため名古屋への転居をすることが出来ず、新幹線による通勤を余儀なくされるなど生活上の不利益も被ったものですが、判決は、本件配転命令の違法性は認定したものの、「原告の生活上の不利益はさほど大きいとはみとは認められない」とし、「これらの事情を総合的に勘案すると、原告の被った精神的損害の慰謝料としては、50万円が相当である」と判断しました。

4 本件判決の意義・裁判の取り組み

(1)本件は、東亜ペイント事件最高裁判決における「不当な動機・目的をもってなされたものであるとき若しくは労働者に対して通常甘受すべき程度を著しく超える不利益を負わせるものであるとき等特段の事情が存する場合」の一事例を加えたものです。
  [参照事例]
    ① 不当労働行為意思を認定するには不十分であるが、債務者が社長の経営に批判的なグループを代表する立場にあったなどの理由から債権者を快く思わず、東京本社から排除し、あるいは、右配転命令に応じられない債権者が退職することを期待するなどの不当な動機・目的を有していたが故であることが一応認められ、結局本件配転命令は配転命令権の濫用として無効であるとした事例(マリンクロットメディカル配転命令事件 東京地裁平成7年3月31日決定 労働判例680号75頁)
    ② 配転(転勤)命令に業務上の必要性があったものとはいえず、退職勧奨拒否に対する嫌がらせというべきで権利の濫用であるとして無効とされた事例(フジシ-ル(配転・降格)事件 大阪地裁平成12年8月28日判決 労働判例793号13頁)
    ③ 配転命令が業務上の必要性を欠き、労働者を退職に追い込む不当な目的でなされ、通常甘受すべき程度を超える不利益を与えるものであって、権利濫用に当たるとされた事例(プロクター・アンド・ギャンブル・ファー・イースト・インク事件  神戸地裁平成16年8月31日判決 労働判例880号52頁)
    ④ 本件配転において営業部を新たな配属先に選定したことは、被告会社の経営改善の方策の変更に伴って、原告らの雇用を継続することが不要となり、かえって新たな方針の下では会社組織の障害になりかねないことから、原告らを退職に追い込む意図をもってなされたものと推認され配転命令権を濫用するものであるとした事例(精電舎電子工業事件 東京地裁平成18年7月14日判決 労働判例922号34頁)

(2)私たちは、整理解雇から配転命令に至る一連の経過を踏まえると、本件配転命令が「不当労働行為ないし不当な動機目的」に出たものであると確信していましたが、実際には、もともと本件が配転命令事案であることから、最高裁の東亜ペイント事件の判決や裁判例の傾向などに照らし、楽観できないと考えていました。
  しかし、私たちは、本件が、本社をスイスに置く外国企業の日本支社に関わる事案であること、国際間の物流(ロジスティックス)処理に関わる事案であること、営業成績の評価システムが複雑であること、人員配置や人員の増・減についての被告会社の対処が複雑であることなどから、これらの点について被告会社に対し徹底的な釈明を求めることによって、裁判所の理解を深めるとともに、被告会社の解雇や配転命令の経緯についての矛盾や処理の不当性を明らかにすることが出来、裁判所の理解の前進と心証の変化を獲得することが出来たと考えます。おそらくこのような対応は配転・転勤事例にとってはとりわけ重要であると考えます。
 
5 配転命令の撤回・判決の確定

    被告会社は、2011年12月27日、原告に対して、本件配転命令を撤回し、大阪営業所の原職に復帰させる旨表明しました。したがって、判決は、控訴期限を待たず確定することとなりました。
    おそらく被告会社としては、検討の結果、控訴審で、原審での原告の主張・立証、判決の認定・判断を覆すことは困難であるとの結論に達したのでしょう。

レッド・パージ裁判に重要な転機となるか―大阪高裁・控訴人らの国に対する調査嘱託の申立を容認―

                      弁護士 橋 本   敦

1 はじめに

 不法な思想弾圧のレッド・パージの嵐が吹き荒れてから60年、その長い苦難の日々に耐えて、もはや90才となる3名の犠牲者らが、「生きているうちに名誉回復を」と切実な要求をかかげて立ち上げたレッド・パージ裁判に対し、平成23年5月26日神戸地裁は「原告らの国家賠償の請求はすべて棄却する」との判決を下した。
 それは、原告らがレッド・パージによって蒙った今日に至る筆舌に尽くせぬ人生の苦難に目を背け、まさに人道と憲法と正義に背く血も涙もない不当な判決であった。
 原告らは直ちに大阪高裁に控訴した。
 この不当判決に対して、先に原告らの申立を認めて画期的な人権救済勧告を出していた日本弁護士連合会が、昨年6月3日、宇都宮健児会長のきびしい批判の談話を発表して、レッド・パージの国の責任について、次のように述べていることは重要である。
「今回の判決は、国家賠償法上の賠償責任を否定したが、これまで当連合会が二度にわたり勧告しているとおり、レッド・パージにおける日本政府の責任は重大である。今回の判決では、レッド・パージによって生じた損失を補償することは、憲法上、立法府の政策的判断に委ねられていると判示しているが、政府は上記日弁連の勧告に対して今日まで何ら立法政府への働きかけをしていない。当連合会は、政府に対し、改めて、当連合会の勧告(平成20年10月24日)の趣旨を踏まえて、レッド・パージの被害者の被害回復のための適切な措置を講ずることを求める。」

2 レッド・パージの国の責任を追及する重要性
 
 全国で提起されたこれまでのレッド・パージ裁判がすべて会社など使用者に対してレッド・パージによる解雇の責任を問うものであったのに対し、本件レッド・パージ裁判の最大の特徴は、国を被告としてレッド・パージの国の責任を究明するところにある。
 そこで改めてレッド・パージの国の責任を明確にしておきたい。
 レッド・パージの歴史的事実を総括して言えることは、レッド・パージなるものは、朝鮮戦争を前にして、日本を反共の最前線基地にしようと企図してレッド・パージを強力に示唆した米占領当局とこれに迎合、加担した日本政府及び企業の共同責任、共同不法行為であったと言うことである。特に、憲法を遵守すべき国が自らのその責務を放棄し、国をあげてレッド・パージを遂行した責任は重大である。
 この国の責任について、神戸地裁で証言に立った北海道教育大学の明神勲教授は、裁判所に提出したその意見書で次のように論述されている。
「レッド・パージは、米ソの冷戦体制の進行とこれに伴うアメリカの占領政策の転換(「東洋のスイス日本」から「アジアにおける反共の砦へ」)を背景に、GHQの唱える「自由」「民主主義」が「反軍国主義のシンボルから反共主義のそれへと変質」し転換させられた時点で、超憲法的占領権力を背景に、GHQと日本政府および企業経営者の共同行為として強行されたものであった。
 思想・信条そのものを処罰の対象とするレッド・パージは、本来、憲法をはじめとする国内法の許容するところではなく、かつ最上位の占領法規範であるポツダム宣言の趣旨にも反するものであったが、占領下においては超憲法的権力であったGHQの督励と示唆により、それを後ろ盾とした日本政府、企業経営者の積極的な推進政策により強行された。
 レッド・パージという不法な措置を実施するにあたり、GHQ及び日本政府は、事前に裁判所、労働委員会、警察をこのために総動員する体制を整え、被追放者の「法の保護」の手段を全て剥奪した上でこれを強行したのであった。違憲・違法性を十分認識しながら、法の正統な手続きを無視したレッド・パージは、「戦後史の汚点」とも呼ぶべき恥ずべき「国家の悪事」であった。
 そのため「レッド・パージにたいして責任を負うべきは誰なのか」という問いに対しては、これまでの考察に基づいて以下のように答えることが妥当と考える。
(1)1950年6月6日付マッカーサー書簡による共産党中央委員会委員追放、同年6月7日付マッカーサー書簡による「アカハタ」編集委員の追放および同年8月30日付マッカーサー書簡による全労連幹部の追放は、GHQの指令に基づくものでGHQの責任に属する。
(2)それ以外の、1949年から1950年のレッド・パージは、GHQ、日本政府、裁判所、地労委および企業経営者は、それに対して「共同責任」を負うべきである。」
 まさに、明神教授の言われるとおり、この国などの共同責任こそ、レッド・パージの本質的な歴史の事実なのであって、レッド・パージは、紛れもなく「国家の悪事」であったのであり、国の責任こそ重大なのである。
 さらに、前述の日本弁護士連合会のレッド・パージ人権救済勧告も次のように国の責任を明らかにしている。
 「レッド・パージが行われる最初の契機はGHQの指示であるとしても、日本政府内部にもレッド・パージを推し進める傾向があり、GHQの指示を積極的に受容する下地があった。そのため、日本政府は、GHQの指示にやむを得ず応じたのではなく、むしろ、GHQの権威を利用して積極的にレッド・パージを推進したということができる。」
 「申立人大橋は国家公務員であり、日本国政府はその人権侵害行為に対し直接責任を負っている。同時に、民間企業(川崎製鉄と旭硝子)に勤めていた申立人川﨑義啓及び安原清次郎らに対する解雇についても、上記各会社等が自主的判断の形をとりながら実施したものではあったが、それらは連合国最高指令官マッカーサーの指示等に基づき、日本政府が支援したものであるから、日本政府にも責任がある。」

3 これに対して第一審裁判所はどのように判断したか
  ―国の責任を認めない不当な判決―

 ところが、神戸地方裁判所は、原告らに対する免職・解雇はレッド・パージであることは認めたが国の責任は認めず、次のようにひたすら占領軍権力に盲従する許し難い判断を下したのである。判決は次のように判示した。
 「しかし、原告らに対する免職又は解雇は、マッカーサーから吉田首相に対する書簡が発せられた後に、原告らが共産党員であることを理由としてなされたものであるところ、(中略)原告らに対して行われたレッド・パージによる免職又は解雇は、その行為時点において、連合国最高指令官の指示に従ってされたもので法律上の効力を有しており、その後に平和条約の発効により連合国 最高指令官の指示が効力を失ったとしても、影響を受けるものではない。
 したがって、原告らに対する免職又解雇が国家賠償法上の違法行為に当たるとする原告らの主張を採用することはできない。」
 このように占領権力を絶対視してレッド・パージの国の責任(国家賠償法上の国の違法行為)を認めなかったこの神戸地裁判決は、大阪市大の本多淳亮教授が「占領軍当局の巨大な魔手におびえて自ら司法権の不羈独立を放棄したと言われてもしかたがあるまい。」ときびしく批判された最高裁の共同通信事件(昭和27年4月2日)と中外製薬事件(昭和35年4月18日)の不当な判決を無批判に踏襲するもので、今や絶対に容認できないものである。

4 大阪高裁における重大な争点

 以上の経過と論点から大阪高裁における審理では、第一審に引き続きレッド・パージの違法性に基づき、これに重大な責任があるのに犠牲者の蒙った筆舌に尽くしがたい苦難と損害及び名誉の回復のため、何らの救済措置をとらない国の立法不作為の違法責任の究明が次の二つの課題によっていよいよ重大な争点になった。

(1) 講和条約の発効によって主権を回復した国のとるべき人権侵害の是正措置
 仮に判決が言うように、占領下では占領軍の超憲法的な力によって、レッド・パージの人権救済が出来なかったとしても、講和発効後は、国は速やかに人権救済措置をとるべきであった。このわれわれの主張を認めて、日弁連は次のように明快に勧告した。
「講和発効後、国は自主的にレッド・パージを清算し、被解雇者の地位と名誉の回復をすることが十分に可能であったし、行うべきであったことは疑いを入れない。」ところが、「このなすべきことを放棄・容認し、現在に至るまで、何らの人権回復措置を行っていないことの責任は重い。」
 この国の重大な不作為の違法責任こそ、第一審に続いて大阪高裁の審理でわれわれが厳しく追及するところである。

(2) レッド・パージ犠牲者を公職追放者と差別して名誉回復と損害補償しないことの憲法及び条理違反
 国は講和条約の発効により、公職追放者に対しては、追放解除するとともに蒙った不利益是正措置をとった。ところが、レッド・パージ被害者に対しては、何らの人権救済立法もなさない。この明白な差別、不平等の立法措置の国の責任は重大である。
 戦後、侵略戦争に責任があった政界指導者、軍国主義者について公職追放が行われたが、政府は講和発効にともない、1952年4月「公職追放令を廃止する法律」を制定し、追放を解除するとともに、被追放者の復職、恩給、年金などの不利益を回復した。
 しかるに国は、レッド・パージ被害者に対しては、それが明白な憲法違反の人権侵害であるのに何の名誉回復も損害回復措置もしない。これは、余りにもひどい不公正な差別扱いであって、憲法規範(平等原則)と 条理に反するこの国の立法不作為の違法は明白である。
「大阪空襲訴訟」の大阪地裁判決(2011年12月7日)は、
「戦争被害を受けた者のうち、戦後補償という形式で補償を受けることができた者と、必ずしも戦後補償という形式での補償を受けることができない者が存在する状態が相当期間継続するに至っており、上記の差異が、憲法上の平等原則違反の問題を生じさせないと即断することはできない。」と正当な判断を示しているが、この判示に照らしてみても、戦争犯罪者に近い軍国主義者に対しては、追放を解除してその損害を補償しているのに、憲法違反のレッド・パージ犠牲者に対しては何らの補償もしないという国の差別的措置が、条理のみならず、憲法の平等原則に違反することは余りに明白である。

5 国と国会に対する裁判所からの調査嘱託申立の意義
  ―控訴審での新たな重要なたたかい―

 かくして、昨年12月20日、第1回裁判が開かれた大阪高裁のたたかいでは、以上の第一審判決の誤りと不当性を一層明らかにし、この誤りを正すために、弁護団は裁判所に対して、国(政府)と国会に対し、これまでレッド・パージ問題について救済立法をしなかった理由、そして、政府に対して出された前記の日弁連人権救済勧告を受けて、政府はどのように対応したのかなど、裁判所から調査を求めるようにとの重要な申立をした。
 その要旨は次の通りである。
【調査嘱託の申立】
第一 国会に対する調査内容
1 調査嘱託先
  衆議院請願課・参議院請願課
2 調査を求める事項
  (1)対日講和条約発効(1952年4月28日)後、現在に至るまでの間、衆議院若しくは参議院において、レッド・パージの犠牲者の名誉の回復と国家賠償に関する請願が受理されたことがあるか。
  (2)あるとすればその日時、請願の要旨、付託委員会、審査結果及びその後の処理状況
  (3)請願が審査未了となった場合はその理由
第二 政府に対する調査内容
1 調査嘱託先
   内閣官房総務官室
2 調査を求める事項
  (1)対日講和条約発効後、現在に至るまでの間、政府(内閣)において、レッド・パージ犠牲者の名誉回復や国家賠償等について検討したことがあるか。あるとすればその時期・内容、ないとすればその理由。
  (2)日本弁護士連合会から内閣総理大臣に対してなされた控訴人らに対するレッド・パージの名誉回復と補償を求める勧告(平成20年10月24日)について、政府(内閣)はこれを検討したか。検討したとすればその時期及び内容。ないとすればその理由。
第三 調査嘱託を申し立てる理由
 そもそも、政府や国会は、レッド・パージ被害者の名誉回復や損害賠償・補償についての施策や立法をこれまでに検討したことがあるのか、それともしなかったのか、それについて理由を明らかにしない限り、国が裁量権の範囲を逸脱しているか否か、国の不作為の違法責任ついて正しい判断ができない。よって、上記調査嘱託を求めると言うものである。

6 レッド・パージ裁判の前進へ
  ―新たな勝利への一歩―

 この控訴人らの調査嘱託申立は、国の責任を明らかにするための極めて重要な訴訟手続である。これに対して、大阪高裁は、前記の第1回口頭弁論で、この申立を容認するとの画期的な決定を下した。
 それは、レッド・パージ裁判に新たな重要な一歩前進の展望をひらいたと言えよう。
 この裁判所の決定によって、国はそもそもレッド・パージの権利回復を検討したことがあるのかどうか、またさらに、国は日弁連の勧告を受けてどう対処したのか。何もしなかったとすれば何故か、レッド・パージ人権救済について、公職追放と差別したのは何故かについて、その理由を答えざるを得なくなったのである。
 裁判所の権限によって、このような調査が進められることは、極めて異例である。こうして、国の責任解明のための新たな一歩がひらかれたのである。よくぞこの決定が勝ち取れたと思う。
 当日の法廷は、憲法違反の思想差別、不当な人権侵害であるレッド・パージは許せないとの思いで、神戸のみならず、大阪からも駆けつけて、傍聴席満員となる熱い思いの満ちた法廷であった。弁護団の正論に加えて、高齢の控訴人らも必死の思いみなぎる陳述をした。
 その「熱い法廷」が裁判所を動かしたのであった。
 こうして我々はレッド・パージ裁判の歴史的な勝利に向かって、たたかいを進める決意を新たにすることができたのであった。
 

働き方ネット大阪第15回つどい 就職難とブラック企業「まともな働き方」を考える

新聞労連近畿地連 伊 藤  明 弘

 民法協などが中心となって組織する「働き方ネット大阪」は12月15日、大阪市中央区の府立労働センターで「就職難とブラック企業『まともな働き方』を考える」と題した15回目のつどいを開催、約90人が参加した。
 開会挨拶に立った同ネット事務局長の岩城譲弁護士は、2006年にホワイトカラー・エグゼンプションに反対する運動として同ネットを立ち上げた経緯に触れつつ、「ブラック企業の見分け方の集会には、会場に入りきらないほどの参加者があった。その続編として今回のつどいを企画した。『まともな働き方』の実現に向けた充実した議論をしたい」と挨拶した。

 講演の1人目は、NPO法人POSSE事務局長の川村遼平さん。「ブラック企業の傾向と対策」と題して講演した。氏は『ブラック企業に負けない』(旬報社)を9月に出版している。
 川村氏は、最近の労働相談の傾向として「まるで判で押したように、大卒入社1~2年目でうつになり、働けなくなる」と紹介。そしてブラック企業を、これまでのPOSSEでの相談事例の分析から①ウェザーニューズ事件に見られるような「選別排除型」 ②就活生の違法インターンなどの「消耗使用型」 ③医療現場に顕著な「秩序崩壊型」に類型し、それぞれの問題点を指摘した。
 その上で「ブラック企業に入社してしまった若者が、法律を活用するまでにはいくつものハードルがある」とし、POSSEの活動はこれらの弁護士や労働組合にたどり着いていない人たちと、法律家・労組の接点を作ることにある、とした。
 さらに行政の対応のまずさも指摘。「時間外手当の不払いを労基署に相談に行くと『まず自分で請求しろ』といわれる」と事例を紹介、逆らったら懲戒解雇という現場の実態への対応が不十分だと指摘した。
 こうした状況下で経営者は「うつ病にしたら勝ち」と考えている。そんなブラック企業にどう立ち向かうべきか、という点について川村氏は、たとえば安全配慮義務違反で会社にきちんと責任を取らせる取り組みの事例を共有すべき、と強調した。また、対策の方向性について労基法の機能強化というエンフォースメントが求められる一方で、根本的にはやはり働くもののエンパワーメントが必要だとした。

 続いて、働き方ネット大阪の会長でもあり、『就職とは何か―〈まともな働き方〉の条件』(岩波新書)を 11 月に出版した森岡孝二・関西大学教授が、「就職に求められる力と働き方」と題し講演した。
 氏は最初に、「今ほど学生が弱い立場に置かれている時代はない」と指摘。親方-子分型雇用と周旋屋の介在という、まさに19世紀の雇用形態が広がっており、その影響が学生に顕れているとした。
 こうした状況を加速させている要因として、きわめて日本的な「定期採用」の慣行にも触れ、そもそも定期採用制度自体が就職活動の早期化を内包していると指摘した。そして、その極端な例として大学1年生で採用を決め、卒業まで職場でアルバイトをさせるユニクロの例を紹介した。
 さらに、企業は何を重視して学生を選考しているのかを分析。大学での専門分野の研究などはほとんど評価されず、規律性、順応性、忍耐力で選んでいるとし、大学新卒者の強みは「6・3・3・4制の教育制度に16年間も耐えた力」だと断じた。

 続く質疑応答では、大学生活4年間の意義を問われ、森岡氏は「今の学生は受動的。もっと自分で時間を作って運動にかかわるなどして欲しい」など学生へのアドバイスも。
 また、「いったい日本の何%がブラック企業なのか」との質問に対し川村氏は、「法律違反をしている企業、というレベルで判断するならば100%」とし、悪質なブラック企業の企業名公表などの必要性に触れながらも「問題は公表されていることをどう活用できるかだ」と、その先の問題点も指摘した。
 その後、労組の活動家、弁護士などがブラック企業との闘いを報告。これらの議論を踏まえ、最後に森岡氏が「重要なことは、正社員で過労死するまで猛烈に働くか、非正社員でワーキングプアから抜け出せないか、という究極の選択となってしまっている現状をどう打破するかだ。解決にはワークシェアリングの実現しかない。サービス残業をなくし、雇用を創出すれば『トリプルウイン』が実現できるはず。それをする上で過労死防止法の制定が是非とも必要だ」と議論を結んだ。
 最後に、「経営者の利益第一主義に対して批判を高め、就職難の解消とまともな働き方の実現のために、学生、労働者、市民が手を取り合って、声を上げていこう」とするアピールを参加者全員の大きな拍手で採択し、つどいを閉じた。

ストップ!過労死 100万人署名」にご協力を!

                                                               弁護士 岩 城    穣

1 広がり続ける過労死・過労自殺とその原因
 過労死が社会問題となって20年以上が経ちますが、過労死は職種・年齢・性別を超えて広がり、近年は過労による精神疾患、特に若者の過労自殺の激増など、いっそう深刻化しています。
 その最大の原因は長時間労働であり、その背景には、労基法が36協定で延長できる労働時間の上限を定めていないため過労死ラインを超える36協定が横行していること、そして時間外労働に対する賃金の大部分が支払われていないことがあります。これらが大企業で一般化しているため、中小零細企業やサービス業ではいっそうの長時間労働が常態化しているのです。現在、「過労死ライン」を超える週60時間以上の労働をしている労働者(過労死予備軍)は、男性のフルタイム労働者の25%以上、500万人に及んでいます。
 この長時間労働と、労働の高密度化、不規則労働、少人数化と責任の重大化、期限やノルマの厳しさ、職場の支援の希薄化、上司のパワハラといった労働の質的過重性が相まって、疲労・ストレス度を高め、過労死や過労自殺に至らしめているのです。

2 過労死・過労自殺をなくすことは不可能なのか
 したがって、根本的には、労基法を改正し労働時間の上限規制を行うことが必要ですが、現在でも時間外労働のガイドラインや労働時間の適正な管理、健康障害防止のための通達が出されたり、労基署が是正勧告を精力的に行うなどの中で、一定の効果も挙げています。これを国レベルで総合的に行えば、現在の状況を改善することは相当程度可能です。
 ちなみに、交通事故の死者も、20年前には1万人を超え、過労死の件数とほぼ同じと言われていました。ところが、飲酒運転等に対する罰則の強化、シートベルト着用の義務化、クルマの安全設計の改善などの総合的な取組みにより2000年代に入って着実に減少を続け、2009年には5000人を切り、2011年には約4600人まで減少しています。「交通戦争」とまで言われた死者数を、半分以下にまで減らすことができたのです。

3 「過労死防止基本法」制定の現実的可能性
 労働時間の上限規制を直ちに行うことは容易ではありませんが、過労死・過労自殺が多発し、多くの労働者が健康不安やメンタル不全を抱えている状況のもとで、過労死・過労自殺や過重労働をなくすことを目的に掲げた「過労死防止基本法」を制定させることは現実的可能性があります。
 これは、①国は、過労死はあってはならないことを宣言し、②過労死をなくすための国・自治体・事業主団体・事業主の責務を明らかにし、③国は過労死に関する調査・研究と総合的な対策を行うことを定めるものです。

4 スタートした「過労死防止基本法」制定の取り組み
 2008年秋、過労死弁護団全国連絡会議と日本労働弁護団が「過労死防止基本法の制定を求める決議」をあげたことが契機となって、2010年10月13日衆議院第1議員会館で、過労死防止基本法の制定を求める「院内集会」が国会議員・秘書30名を含む170名以上の参加で行われました。
 そして、その後約1年間の準備を経て、「全国過労死を考える家族の会」と「過労死弁護団全国連絡会議」の呼びかけで、2011年11月18日「ストップ!過労死100万人署名スタート集会 兼 過労死防止基本法制定実行委員会結成総会」が、国会議員・秘書約20名を含めた250人以上の参加で開かれ、①100万人署名を中心とした積極的な取り組みを行う、②超党派の国会議員に働きかけ立法化をめざすことが確認されました。
 実行委員長に関西大学森岡孝二教授、副委員長には松丸正弁護士、東京の玉木一成弁護士と全国家族の会の寺西笑子さんが就任し、事務局長を私が務めることになりました。
 この取り組みは、この半年から1年間で集中的に行います。当面、3月に院内集会を開き、集約した署名の提出を予定しています。
5 民法協の皆さんの絶大なご協力を
 上記の役員構成を見てもわかるように、この取り組みは関西が牽引している形となっています。民法協には、過労死問題や安全衛生問題で早くから精力的かつユニークな取り組みを行ってきた歴史があります。ぜひ、民法協として、また会員の弁護士・労働団体・民主団体として、①署名活動へのご協力、②ホームページや機関紙などでの紹介、③関係団体・個人への協力申入れなど、多彩なご協力をお願いします。
 また、2月に行われる権利討論集会のいのちと健康分科会でも、今回は過労死防止法をテーマに取り上げる予定ですので、多数ご参加下さい。
 このニュースにも、署名用紙・リーフレット・返信用封筒を折り込んでいただく予定です。また、当事務所で署名用紙、リーフレット、返信用封筒、ポスターを用意していますので、必要枚数をご連絡下さい(なお、署名用紙・リーフレットは、実行委員会のホームページからダウンロードすることもできます。)。