民主法律時報

2011年11月号

過労死企業名情報公開訴訟勝訴しました

弁護士 和 田   香

  1. 過労死企業名の開示を命じる全面勝訴判決
     去る平成23年11月10日、大阪地方裁判所第7民事部は、大阪労働局管内で過重労働による脳心臓疾患の発症(以下、「過労死」といいます。)の事案について、行政庁が作成している処理経過簿のうち、企業名の部分の公開を求める情報公開請求について、それを不開示とした大阪労働局長の決定は違法であるとして取り消す、原告全面勝訴の判決を言い渡しました。
  2. 主たる争点
     本訴訟の主たる争点は、①企業名の公開により被災労働者個人が識別されるか否か、及び、識別可能性の判断基準(情報公開法5条1号所定の不開示情報該当性)、②企業名の公開により企業の競争上の地位その他正当な利益が害されるか否か(情報公開法5条2号イ所定の不開示情報該当性)、③企業名の公開により行政の適正な業務執行に支障を来すか(情報公開法5条6号柱書所定の不開示情報該当性)、の3点でした。
  3. 判決骨子
     本判決は、国民主権の下、行政文書は公開されることが原則であるとして、
     ① 企業名の公開によって一般人が被災労働者の方を識別できるものではなく(一般人基準)、被災労働者の方の権利利益が害されるおそれがないこと(企業名開示により被災労働者の保護に支障は生じない)、
     ② 労災補償制度は、使用者の法令違反の有無を問題とするものではなく、企業名の開示によって当該企業の権利利益等正当な利益を害されるというおそれは抽象的可能性に過ぎない上、企業の競争上の地位その他正当な利益が害される蓋然性が存在するとは認められないこと(当該企業に不利益が生じる具体的なおそれはない)、
     ③ ②に鑑みて、企業が労働基準監督署等の調査に非協力的となる事態が一般的に想定されるものではなく、労災保険事業の適正な遂行に支障が生じる蓋然性は存在しない(企業名公開により労働保険行政に支障は生じない)、
    と判断しました。
     その上で、本判決は、既に廃棄等され存在しない部分を除き、過労死の判断基準が改正された後の平成14年度分から原告が大阪労働局長に対し、情報公開請求をした平成21年3月5日までの間に、大阪労働局管内の各労働基準監督署長が脳血管疾患及び虚血性心疾患等(負傷に起因するものを除く)に係る労働者災害補償給付の支給決定を下した事案につき、その処理状況を把握するために作成した処理経過簿記載の企業名全ての開示を命じました。

  4. 本訴訟提起に至った経緯
     本訴訟は、大阪過労死問題連絡会が主体となって、どのようにすれば過労死の発生を防止することができるかと考え、提起したものです。
     過労死の事件も他の多くの事件同様、労災認定がされたり、民事訴訟で企業の責任が認められても、あくまでも当該労働者の個別の事件であり、企業として積極的に過労死の防止対策を図るインセンティブが乏しく、同じ企業で過労死や過労死予備軍の発生が繰り返されることが往々にしてあるのが現実です。
     他方、企業は消費者が自社にもつイメージを重視します。労災認定は、企業の法令違反の有無を問題としませんが、過労死を出したことを公開されるとなると、企業は過労死を出さないよう適正な労働管理をすると考えられます。
     そこで、全国過労死を考える家族の会代表世話人の寺西笑子さんが請求人となり、平成21年3月、過労死を出した企業名の公表を求める情報公開請求を行いました。
     これに対し、大阪労働局長が企業名部分を不開示とする決定をしたことから、企業名の公開を求める本情報公開訴訟を提起するに至りました。

  5. 本判決の意義
     本判決は、過労死を出した企業名の公開という前例のない分野において、その社会的意義を理解し、原告の請求を全面的に認めた判決であり、過労死を出した企業の社会的責任という点から当然の判決といえます。
     本判決に基づいて企業名が公開されることにより、過労死を出して企業名を公開され、社会的批判・監視の対象となる企業は勿論、過労死を出していない企業においても、過労死を出さないよう努力することが期待され、過労死の防止に大きな効果をもたらすことになります。
     また、労働行政としても、この公開制度があることをもって、従前にも増して過労死防止のための施策を推進することができます。
     さらに、就職活動中の方にとっては、企業が労働者の健康に対する法令を遵守しているかを端的に見分ける格好の資料となります。

  6. おわりに
     本原稿の提出期限は、本判決の確定前です。
     ですから、この原稿が民主法律時報に掲載されるころに確定しているのか、それとも国から控訴されているのか分かりません。
     無事に確定しておれば、当該判決を基に全国で企業名の公開を求め、市民の力で企業が労働者の生命・身体を軽視した働かせ方をしないよう見張る運動に、そして、控訴されていましたら、高裁で再度同様の判決を得られるよう、引き続きご支援下さいますよう、お願い致します。 

  本訴訟の弁護団は、松丸正、岩城穣、下川和夫、上出恭子、田中宏幸、波多野進、四方久寛、生越照幸、長瀬信明、舟木一弘、立野嘉英、瓦井剛司、足立賢介、團野彩子、(以上、敬称略)及び当職です。

 

労働弁護団第55回全国総会 ご報告

 弁護士 増 田   尚

 11月12日・13日の2日間にわたり、三重県鳥羽市の旅館・戸田家にて、日本労働弁護団の第55回全国総会が開催されました。
 総会では、水口洋介幹事長による報告があり、労働者派遣法の改正や有期、パート労働者の保護などの当面の課題で前進をかちとる運動が提起されました。同時に、これらの分野において、財界・使用者側が強烈な巻き返しを図っていることへの警鐘が鳴らされました。
 続いて、西谷敏・大阪市立大名誉教授による記念講演が行われました。西谷教授の講演は、近著「権利としてのディーセント・ワーク」の内容を基調としつつ、裁判による法創造の限界を踏まえた労働立法運動の必要性を強調されました。また、労働審判に関して、特に、解雇事案で復職を前提とせず解決金の支払で終了するケースが増えることにより、事実上の行為規範とされることへの懸念を表明し、権利義務関係を明確にする裁判闘争を労働紛争解決の中心と位置づけるべきと訴えられました。
 特別報告では、寺西笑子さんが、前日に勝利したばかりの過労死企業名公表訴訟を報告され、過労死防止基本法の制定を呼びかけられました。また、西川大史弁護士が、北港観光事件不当仮処分命令を必ず逆転し勝利する決意を表明しました。私も、職員基本条例案の違憲・違法ぶりを指摘し、廃案
に追い込むためにも全国的な運動を構築する必要があると訴えました。
 今年度の労働弁護団賞として、大阪からは、最高裁に労組法上の「労働者」性について基本原則に忠実な判断をさせて、「業務委託」労働者の権利保障を大きく前進させたINAXメンテナンス事件の弁護団と、高年法に基づく継続雇用に解雇権濫用法理を適用させ、高年齢者の雇用の安定と権利擁護にとって画期的な高裁判決を獲得した津田電器事件の両弁護団が受賞しました。両弁護団を代表して、河村学弁護士、谷真介弁護士がそれぞれスピーチをされました。
 最後に、「大阪・泉南アスベスト国賠(第1陣訴訟)大阪高裁不当判決に抗議する決議」、「職員基本条例案に反対し、否決・廃案を求める決議」など5本の決議を採択し、総会は終了しました。
 労働者の権利を擁護する弁護士として、裁判闘争と立法運動を車の両輪としてとりくむことの意義を再認識させられた労働弁護団総会でした。なお、来年度は、11月8日・9日に、東北地方での開催が予定されています。

大阪過労死問題連絡会結成30年・大阪過労死を考える家族の会結成20年記念シンポジウム「ノーモアカローシの取り組みが投げかけたもの」実施のご報告

弁護士 上 出 恭 子

 1981年7月、大阪過労死問題連絡会の前身にあたる「『急性死』等労災認定連絡会」が大阪で結成され。今年で30周年を迎え、1990年12月、大阪過労死を考える家族の会が結成されて昨年で20周年を迎えたということで、11月12日、大阪府教育会館・たかつガーデンにて、記念シンポジウム及びレセプションを行いました。 シンポジウムには100名がレセプションには76名の参加があり、お陰様で、盛況に執り行うことができました。
 まだ「過労死」という言葉そのものが存在せず「急性死」と呼ばれた時代から、「KAROSHI」として国際語になり、労災補償においては、1999年にはそれまで労災認定は極めて困難とされていた過労自殺の認定基準が旧労働省によって策定され、2001年には、厚生労働省が脳・心臓疾患の過労死の新たな認定基準を策定する等、救済に向けての取り組みがなされてきました。 
 その一方で、10年前にはあまりなかった若年労働者の過労自殺、労働者の精神障害事案の急増等、緊急に取り組まなければならない課題も多々あります。
 このような流れの中での連絡会、家族の会の「ノーモアカローシ」の取り組みを振り返り、それが社会に対しどういった問題提起をしてきたのか、広い視点から振り返る企画として、シンポジウムでは、「パネルディスカッション・過労死問題は何を提起したか」を行いました。
 冒頭に、大阪過労死問題連絡会会長・森岡孝二先生(関西大学教授)、及び松丸正弁護士からの基調報告を行いました。その後、パネラーに、熊沢誠先生(甲南大学名誉教授)、織田柳太郎氏(元NHKディレクター)、竹信三恵子氏(元朝日新聞記者・ジャーナリスト)、寺西笑子氏(全国過労死を考える家族の会代表)をお迎えして、過労死問題が社会的な注目を浴び認知された時代から、過労自殺・精神疾患が急増する現状にいかなる背景・社会問題があるのか等についての議論がなされました。
 熊沢先生からは、成果主義が導入される中で労働者が孤立化させられていること、長年経済部の記者として労働現場を取材されてきた竹信氏からは、非正規雇用が激増する中で、労働者どうしが分断されてしまっていることの指摘がなされました。1989年に「NHKドキュメンタリ’89『過労死・妻は告発する』」を制作された織田さんからは、番組制作の動機の一つに、当時、経済大国となった日本で、労働者一人一人が幸せなのかという思いがあったことが語られました。寺西さんからは、遺族が立ち上がることの困難さ、そして、かけがえのない家族の「命」を奪われた痛恨の経験から、現在、過労死予防のための基本法の制定に向けての取り組みにを行っていることの紹介がなされました。
 パネラーからの報告の後に、岩城穣弁護士の進行での論点ごとの議論がなされましたが、途中10分程度の休憩の含め3時間あまりの時間がまたたく間に経過した、充実した内容となりなりました。
 レセプションでは、結成当初の連絡会の例会の様子等を映像で放映したり、ケイ・シュガーさんによる演奏、これまで家族の会、連絡会に関与された方によるリレートークと懐かしい顔ぶれも参加しての楽しい一時となりました。
    シンポジウム直前の11月10日には、過労死を出した企業名を公表せよとの画期的な大阪地裁判決が出され、11月18日には、衆議院第一議員会館で「過労死防止基本法の制定をめざす実行委員会結成総会」を開かれ、約250人が参加し、来年6月の通常国会終盤を目標に、100万人から署名を集めて機運を盛り上げ、議員立法での法制化を目指すことを確認されました。
    このように、10年前には考えられなかった過労死防止に向けての取り組みが大きく前進するさなか、この度の記念シンポジウム・レセプションを多くの方のご協力を得て実施出来たことに感謝しますとともに、今後も過労死の救済と予防に向けての活動により一層尽力してまいりたいと考えております。