民主法律時報

2011年10月号

仲田コーテイング事件~労働契約法のワーク・ライフ・バランス条項を根拠として配転命令を無効とした事案(追記:本件は控訴審において裁判上の和解によって円満に解決しています)

<追記:本件は控訴審において裁判上の和解によって円満に解決しています>

弁護士 古 川   拓 (京都)

 製造工場の製造課長に出された京都から横浜への配転命令の是非をめぐる争いにおいて、労働契約法のワーク・ライフ・バランス条項(3条3項)の趣旨から、住居の移転をともなう配転命令についてその当否判断には慎重であるべきと判断し、同命令を無効とした事例です。

◇―事案の概要――解雇から撤回・配転命令
被告会社は、自動車・電気その他の部品のコーティング加工を行なう会社で、本社(横浜)工場、町田(東京)工場、京都工場などがあり、従業員数は72名、京都工場の従業員数は11名でした(平成18年5月当時)。
一方、当該労働者(原告)は、採用された平成18年6月時点で42歳で、求人広告を通じて京都工場の製造課長として採用され、主に品質管理や生産管理を行なっていました。
被告会社には就業規則が存在しましたが、その中には配転に関する定めはなく、「従業員は、この規則に定めるもののほかに会社で定める諸規則及び職制に定められた上長の指示命令を誠実に守り」との定めがされているにとどまります。
また、被告会社における転居をともなう配転命令は、これまで20年間に2件程度が認められるのみでした。
また、当該労働者が応募した求人広告の就業地にも京都工場の所在地のみが記載されており、「企業概要」欄の本支店・営業所等を記載する欄に、横浜本社や町田工場があることが記載されているのみでした。
そして、採用面接においても、面接担当者から、転勤がありうるという説明がなされたことはありませんでした。
こうしたところ、平成21年3月になって、突如、被告会社は当該労働者を呼び出し、顧客先や部下から苦情が出ているなどと告げ、翌日当該労働者を解雇しました(以下「本件解雇」といいます)。これに対し当該労働者は地域労組「ユニオン南の風」及びJMIU京滋に加入して、解雇撤回および時間外・深夜・休日手当の支払いを求めて団体交渉申し入れを行なったところ、被告会社は同年4月に行なわれた団交の席上、本件解雇を撤回するとともに、当該労働者に対し横浜本社勤務を命じる配転命令をしました(以下「本件配転命令」といいます)。
原告が本件配転命令を拒否して京都勤務を求めたところ、被告会社は就労を拒絶した上で、横浜での就業がないとして5月以降の給与を支払いませんでした。
そこで、当該労働者が被告会社に、本件配転命令は無効であるとして、平成21年5月以降の賃金支払いを求めたのが本件です。

◇―争点およびこれに対する裁判所の判断
本件の争点は、①被告会社がそもそも当該労働者に対して配転命令権を有しているか、②配転命令権があるとした場合に、勤務地を京都に限定する合意があるか、③勤務地限定合意がないとしても、本件配転命令が権利濫用に当たらないか、という3点で争われました。
被告会社は、会社は労働契約締結により、従業員に対し包括的な配転命令権を取得している(いわゆる「包括的同意説」)との主張を展開し、本件配転命令権の有効性を主張しました。そのうえで、当該労働者の悪性立証(顧客クレームや従業員とのトラブル、就業時間中の業務外行為などが存在したとする主張立証)に努めました。
また、被告会社からは、本件配転命令は解雇回避努力の一環であり、無効であるとすれば解雇権濫用法理を前提とする日本の雇用システムにおいて矛盾となる、という主張もなされました。
この点、本件判決は、争点①について、当該労働者と被告会社の間に締結された労働契約の内容を検討し、本件においてはそもそも被告に本件配転命令をする権限があったとは認められないと判示し、②および③の争点に踏み込むまでもなく、当該労働者の賃金請求を認容しました。
本件判決は、「通常、使用者が一定の配転命令権を有することは明示あるいは黙示に労働契約において予定されており、多くの場合、就業規則にその旨の定めがされている。」として、「就業規則に配転に関する定めがない場合であっても、それをもって直ちに配転命令権がないということはできない」としながら、「配転命令の内容が多様で、労働者の社会生活上、職務上の負担やキャリア形成に与える影響も様々であることや、労働契約の内容は労働者及び使用者が対等な立場で自主的交渉において合意することにより締結し、変更されるべきであること(労働契約法1条、3条1項参照)にかんがみ」れば、「労働契約を締結したことにより使用者が包括的な配転命令権を取得するということはできない」として、包括的合意説を明確に否定しました。
そして、労働契約の内容は、「労働契約締結の経緯・内容や人事異動の実情等に照らして、当該労働契約が客観的に予定する配転命令権の有無及び内容を決すべきである。」と判示したうえで、「本件配転命令は、住居の移転を伴う配転を命じるものであるところ、このような配転命令は、使用者が配慮すべき仕事と家庭の調和(労働契約法3条3項)に対する影響が一般的に大きなものであるから、その存否の認定判断は慎重にされるべきものである」と判示しました。
そのうえで、(1)就業規則に配転命令を定める文言がないこと、(2)求人広告にも配転に結びつきうる記載がないこと、(3)採用面接時に配転の可能性があるとの説明がなされていないこと、(4)住居の移転をともなう配転の実績が20年間で2件程度であること、(5)本件配転命令の経緯が解雇・団体交渉・解雇撤回という流れのなかで出されたものであり、従業員の長期育成の一環として定期的になされ、あるいは事業形態変更による再配置といった通常予定される人事異動としてなされたものではないこと、などの事実を挙げて、本件における配転命令権の存在を否定したのです。
また、「一般的な配転命令権が認められない場合であっても、使用者が個々の場面で配転に対する労働者の個別の同意を得る努力をすることで、解雇を回避することは可能」であり、かえって、そのような「極限的な場面を想定することで、労働者の社会生活上、職務上の負担に影響する配転命令権を安易に認めるのは相当とは思われない。」として、配転命令を解雇回避努力の一環として考慮すべきであるとする被告会社の主張についても、排斥しています。

◇-本件判決の評価
本件判決は、就業規則に配転命令に関する明文がなく、配転についての個別の説明も行なわず、かつ突然の解雇・解雇撤回に続いて何の協議・交渉もせずに配転命令がなされたケースであり、結論的には当然であるといえます。
しかし、本判決は、住居の移転をともなう配転命令について、労働契約法上のワーク・ライフ・バランス条項(労働契約法3条3項)の趣旨にさかのぼって「慎重に」判断すべきであると判示しており、労働契約法の同条項の趣旨を、具体的な労働現場における命令の当否判断の根拠として反映させていくべきとする点において、特筆すべきものであると評価できるでしょう。
また、被告が主張した、配転命令を解雇回避努力の一環として認めるべきであるとする主張について検討しつつ、前述のとおり排斥していることも評価できるでしょう。今後同様の主張が会社側からなされた場合の参考になるかと思われます。

◇-今後の展開について
本件は、先行する仮処分事件においても配転命令権の存在が認められなかった事例(申立自体は保全の必要性が存在しないとして却下)ですが、本件判決後、被告会社はただちに控訴しており、同事件は大阪高裁で審理されることになりました(第一回口頭弁論期日は本年12月9日午後3時より大阪高裁73号法廷にて)。
また、本件は、地域労組「ユニオン南の風」が活発な裁判支援を行い、毎回多くの傍聴支援者が法廷を埋め、中に入りきれない期日もありました。このことが収支裁判官にも緊張感を与え、今回の判決に至った一因となったのではないかと考えます。
弁護団としても、この判断が高裁でも維持されるよう、さらに全力を尽くしたいと思います。

<追記:本件は控訴審において裁判上の和解によって円満に解決しています>

(弁護団は毛利 崇、塩見卓也、古川 拓)

派遣労働者の利益は法的保護に値しない!―パナソニックエレクトロニックデバイスジャパン事件不当判決(福井地裁平成23年9月14日)

弁護士 河 村   学

  1. はじめに
     「労働者派遣法で守ろうとしている派遣労働者の利益は、…不法行為法上、法的保護に値する利益とはまでは評価できない」。福井地裁は、派遣労働者の切実な訴えに対してこのような判断をした。しかも、「被告ら(派遣先・パナソニック、派遣元・ケイテム)が労働者派遣法に違反する状態であることを知りながら(…)、原告を派遣労働者としてパナソニックのもとで就業させ、さらにその労働関係が終了するに至った」と認定した上での判断である。
     同法が守ろうとしている派遣労働者の利益は、「派遣労働者の雇用の安定その他福祉の増進」であるから(同法1条)、判決は、雇用の安定が違法に害されても、違法行為によりその福祉が図られなくても、裁判所は派遣労働者を救済しないと判断したことになる。

  2. 本件事案の概要
     ①本件の原告は、パナソニック若狭工場での工員の募集に応じて、2005年1月21日から同工場で機械のオペレーター等の業務に従事した。ただ、その募集は日本ケイテムという派遣会社が行っており、パナソニックが採用を決めた後、形式的には、原告とケイテムとの間で雇用契約書が作成されている。また、被告らの関係は、請負契約とされていた。その後、2006年11月1日からは、契約書の文言が派遣労働であるかのような体裁のものに変えられている。
     ②2008年12月18日、原告の申告により、福井労働局が労働者派遣法違反の是正指導を行った。偽装請負状態であったことや派遣受入期間制限違反の認定を行い、原告の雇用の安定を図る措置をとりつつ、労働者派遣を中止することを求めたものである。
     ③その後、パナソニックは、原告ら派遣労働者に対し、3ヶ月の期間雇用(継続雇用期間は最大2年11ヶ月まで)、賃金は時給810円とする提案を行った。ここの提案は継続雇用も保障されず、給料も大幅減額を伴うというもので、まさに断らせるために行ったような提案であった。

  3. 本判決の内容
     判決は、パナソニックが原告の就労当初から原告を指揮命令し業務に従事していたことを認めたが、黙示の労働契約の成立について否定した。その理由は、パナソニックが原告の採用に関与したとは認められないこと、原告の給料額をパナソニックが事実上決定していたと認められないこと、入退社の管理などをケイテムが行っていたことなどからである。
     また、労働者派遣法40条の4による労働契約成立の主張に対しては、同条の規定は、「間接的な方法で労働契約締結の申込み(意思表示)を促すという制度を採用しているに止まる」として、これを否定した。
    さらに、損害賠償の請求については、冒頭のような判示を行って、その救済の一切を否定した。

  4. 今後の取り組みについて
     本判決は、その事実認定自体に大きな問題があり、また、松下PDP事件最高裁判決の判示にも適合しない判断を行っており、控訴審では、これらを覆すことが重要になっている。
     さらに、根本的には、労働者派遣法は労働者を保護するものではないと割り切り、派遣先・派遣元が違法行為の限りを尽くしても、そのために労働者が企業の手前勝手な都合だけで路頭に迷っても、不安定な状態での就業を余儀なくされても、裁判所は労働者を救済しないとの態度を表明することについて、厳しい社会的批判が必要である。
     近時、日本トムソン事件大阪高裁判決(平成23年9月30日)やNTTアセットプランニング事件大阪高裁判決(平成23年10月6日)など、同旨の下級審判決が続いている。派遣労働者の権利救済の取り組みに裁判所が極めて否定的役割を果たしている。今後、さらなる実態告発と運動が求められる。

    (弁護団は、海道宏美、吉川健司、村田浩治、河村学)
     

奈良・アドヴァンス違法派遣事件―150万円の慰謝料支払を命じる判決を勝ち取りました

弁護士 藤 井 恭 子

  1. はじめに
     2009年2月から裁判闘争を続けてきた、奈良の偽装請負・違法派遣事件において、150万円の賠償を命じる判決が出ましたので、報告させていただきます。
     本件の当事者であるRさんは、奈良県内にある、主にフッ素樹脂素材の加工・開発などを行う製造会社「東邦化成株式会社」で、2003年7月から派遣社員として働いてきた男性です。
     Rさんは、2009年2月、不況を理由に、東邦化成から、同年2月末に雇い止めすると通告され、民法協の派遣研究会が主催するホットラインに相談しました。
     その後、ただちに奈良労働局に対して違法派遣の是正申告を行い、東邦化成と、派遣元会社「株式会社アドヴァンス」に対して、違法派遣の是正指導及び雇用の安定を図る措置の勧告がなされました。
     同時にRさんは労働組合(奈良労連)に加入し、直接雇用を求めて東邦化成と団体交渉を続けました。
     しかしながら、交渉が決裂したため、東邦化成とアドヴァンス(及び、当初の派遣元であったアドバンテック株式会社)を被告として提訴したのです。
     請求内容は、①東邦化成に対する地位確認、②東邦化成とアドヴァンス・アドバンテックに対する損害賠償請求でした。
     なお、東邦化成に関しては、裁判上の和解が成立したため、今回の判決では地位確認についての判断はなされておらず、アドヴァンス・アドバンテックに対する損害賠償請求に関する判断のみとなりました。

  2. 本件の特徴
     本件の最大の特徴は、Rさんと派遣元との雇用関係が非常に曖昧にされていた点にありました。
     Rさんは、当初「アドバンテック株式会社」と雇用契約を結んでいました。
     しかし、派遣元がRさんに発行する「雇用通知書」や、給与明細には、「有限会社プロテクノ」や「アドバンテックサービス株式会社」など、違う社名が記載されるようになりました。
     Rさんは不審に思い、派遣元の担当者に雇用関係がどうなっているのか問い合わせましたが、「書類上のことだから」と言われ、説明を受けることができませんでした。
     最終的にRさんが雇い止めされたとき、派遣会社は「アドヴァンス株式会社」という名前になっていました。
     これらの会社は、すべて違う法人であり、提訴するまで、その関係性は全く明らかではありませんでした。
     裁判手続の中で、Rさんと派遣元との雇用関係、派遣元とその他会社との下請関係について求釈明を行いましたが、派遣元すら、自身の下請関係を正確に把握していない有様でした。
     Rさんは派遣元との雇用関係が不明確なまま、派遣先で就労させられていたのであり、派遣としての形式すら成していない状態で就労させられていたことが明らかになったものです。
     本件では、雇用主として責任を負うべき主体が曖昧にされているという意味で、その悪質性は単なる違法派遣と比べても、際だっていたものと言えます。

  3. 判決の意義
    (1)本件契約の適法性に関する判断
     冒頭述べたとおり、本判決においては地位確認についての判断はありませんでしたが、原告は、本件が「労働者供給契約」に当たり、無効であると主張していたため、原告と派遣先・派遣元との契約の適法性に関する判断がなされました。
     本件では、事実上の労働者派遣が行われていたにもかかわらず、契約上「請負」とする、いわゆる「偽装請負」が行われていた事案です。
     裁判所は、2003年7月から、事実上労働者派遣が行われていたと認定し、Rさんの業務が製造業であって、2004年2月末までは、製造業派遣が許されていなかったにもかかわらず、事実上、製造業での派遣が行われていたことを指摘し、派遣法違反であると認定しました。
     しかしながら、Rさんと派遣元との間に、一応の雇用関係が認められるとして、労働者供給契約とまでは言えないと判断しました。
     本件は、松下PDP事件と比べても、その契約の違法性が高いものであり、派遣元との間の雇用関係が希薄なものでしたが、裁判所は、
     ①Rさんの採用にあたって、東邦化成の関与が認められないこと
     ②アドヴァンス・アドバンテックの社員が、一応勤怠管理をしていた事実があること
     ③Rさんの給与額は、Rさんの就労時間が大きな要素となっているものの、最終的にはアドヴァンス・アドバンテックが決定していたこと
     を理由に、本件契約が派遣としては違法であるものの、アドヴァンス・アドバンテックとの間に雇用関係がないとは言えないとして、労働者供給契約を否定しました。
     本件は、多様な形で行われている偽装請負・違法派遣の中でも、派遣元との雇用関係が非常に曖昧にされており、悪質な事例に属するものですが、労働者供給に当たり無効であるとの判断はなされませんでした。
     今回は、派遣先に対する地位確認(黙示の労働契約成立)に関する判断はありませんでしたが、同様の事例で裁判がなされる際に資料の一つとして参考にしていただければと思います。

    (2)損害賠償請求に関する判断
     原告が、アドヴァンスとアドバンテックに対して請求していた損害賠償は、①中間搾取による不法行為と、②原告の雇用契約上の地位を不安定にした不法行為の2つを理由にするものです。
     まず、裁判所は、①中間搾取による不法行為は認めませんでした。上記3(1)で述べたとおり、アドヴァンス・アドバンテックとの間に一応の雇用関係が認められることと、アドヴァンス・アドバンテックが正当な業務手数料を超えて、違法な中間搾取を行っているとの立証ができていないと判断されたことが理由です。
     しかし、②原告の雇用契約上の地位を不安定にした不法行為は認められ、アドヴァンスとアドバンテックに対して150万円の支払が命じられました。
     その大きな理由の一つは、上記2で述べたとおり、派遣元とRさんとの雇用関係、アドヴァンスないしアドバンテックと他の会社との下請関係が非常に曖昧であり、Rさんの雇用主としての責任の所在が明らかにされていなかったことにあります。
     アドヴァンス及びアドバンテックが、Rさんの社会保険加入手続や、健康診断を怠っていたこと・Rさんの業務が有機溶剤を扱うもので、労働者の身体に危険を伴うものであったことなども、アドヴァンス・アドバンテックの違法性認定の要因となりました。
     結論として、裁判所は、アドヴァンス・アドバンテックによる派遣法違反・雇用関係を不明確にする行為が、労働関係法規の趣旨に反するものであり不法行為に当たると認定し、150万円の支払いと、弁護士費用15万円の支払を命じました。

    (3)判決の意義
     本件は、雇用主としての責任を免れようとするために、雇用関係を不明確にするという悪質な行為がなされていたことに対して、裁判所が厳しい判断を下したという意味で、意義ある判決と言えます。
     派遣労働は、企業が雇用主としての責任を回避する手段として用いられる危険性の高い雇用形態です。今回は、派遣先はおろか、派遣元までもがその責任を回避しようとしたものであって、社会上許されない事案であったことから、この判断は当然のものと言えるでしょう。
     原告としては、派遣先である東邦化成も一体となって原告の雇用上の地位を不安定にしたものであるとして、派遣先の責任も追及する構えでしたが、裁判所からの勧告もあり、和解で決着することとなりました。
     しかしながら、派遣元に対して150万円という高額の賠償命令が出されたため、原告としても納得できる結果が得られたと考えています。
     本判決は、10月14日に確定しました。
     裁判にあたり、特に派遣研究会において、皆さまに貴重なご意見をいただきました。ありがとうございました。

    (弁護団は、村田浩治、兒玉修一、藤井恭子)

第3回「日韓労働法フォーラム」の報告

弁護士 中 西  基

  1. はじめに
     去る10月1日、大阪市大文化交流センターにて、第3回「日韓労働法フォーラム」が開催されました。この企画は、大阪市大の根本到先生が事務局長をされている労働法理論研究会が主催するもので、韓国から労働法の研究者や実務家ら約20名が来日され、日本側からも労働法研究者や実務家など約50名が参加しました。「非正規雇用と雇用平等」をテーマとして、午前10時から午後5時半までのロングランで盛りだくさんの内容でした。当日の報告は次のとおりです。
     『韓国における非正規雇用政策』(嶺南大学・趙淋永)
     『非正規雇用と均等待遇原則』(広島大学・緒方桂子)
     『韓国における同一価値労働同一待遇』(弁護士・金善洙)
     『非正規雇用の差別是正制度の争点』(鄭永薫・憲法裁判所責任研究官)
     『同一価値労働同一賃金原則実施システムの提案』(早稲田大学・浅倉むつこ)
  2. 韓国の非正規労働法制
     韓国では1997年の通貨危機をきっかけとして人件費縮減と雇用調整のために非正規労働(派遣、期間制の他、偽装請負不法派遣を含めて)が急増し、それによって雇用構造の二極化と社会的不平等の問題が深刻になりました。このような状況はまさに日本と同じです。
     韓国では、このような社会状況を踏まえて、2006年12月に派遣法の改正と期間制及び短時間労働者の保護等に関する法律の制定が行われ(施行は2007年7月1日)、非正規労働法制が整備されました。
     派遣法では、派遣期間を原則として1年に制限し、派遣元・派遣先・派遣労働者の合意があれば1回に限り延長は可能であるが総派遣期間は2年を超えることができないとされ、また、違法派遣の場合には派遣先への直接雇用が義務付けられ、直接雇用された場合の労働条件については当該派遣労働者と同種又は類似の業務に従事する労働者に適用される就業規則等で定められる労働条件か、それがない場合には既存の労働条件を下回ってはならないとされています。
     期間制法では、使用事由の制限はなく、2年を超えない範囲であれば使用できるが、2年を超えると期間の定めのない労働契約を締結したものとみなすとの規定が設けられました。短時間労働者に関しては、同種又は類似の業務に従事する正規労働者と非正規労働者との差別的処遇が禁止されています。
     さらに、非正規労働者に対する差別禁止の実効性を確保するために「差別是正制度」が導入されました。差別されていると主張する労働者が労働委員会に差別是正を申請すれば、労働委員会において仲裁・調停・是正命令がなされるという制度です。
     日本では、派遣法改正は国会で店晒しにされたままですし、有期労働法制も労政審での審議されている段階にすぎず、パート法8条、9条の規定も実効性が乏しいままです。このように、法制面では日本は韓国より一歩も二歩も遅れています。
     (なお、韓国の非正規労働法制に関しては、労旬1733号(2010年12月上旬号)をご参照ください。)
  3. 雇用平等について
     緒方桂子教授の報告では、「差別禁止」、「不利益取り扱い禁止」、「平等取扱い原則」、「均等待遇原則」、「同一(価値)労働同一賃金原則」といった概念の整理がなされました。さらに、使用者には労働者を雇用形態に関わらず平等ないし均等に処遇する義務が課せられると解すべきであり、この雇用形態に係る均等待遇原則は強行的な好悪力を有する法規範であると位置づけるべきであるとの見解を述べられました。
     浅倉むつ子教授の報告では、同一価値労働同一賃金原則を日本において実施するシステムとして、「客観的職務評価制度の構築」や「平等賃金レビュー」の策定が提案されました。
  4. 感想 
     非正規労働問題、雇用平等問題に関して、日韓の研究者による最先端の議論を聞くことができて大変有意義なフォーラムでした。契約自由の原則を制限する規範として、ジェンダー平等原則という考え方はある意味でとても単純で分かりやすいものです。しかし、雇用形態の違いによる処遇の違いは、まさに契約自由の原則から直接導かれる帰結ですから、これを制限する理論的根拠をどこに求めるのかはとても難しい理論的な課題です。日本と韓国の相互交流を深めることによってこの点の理論的研究が深められることを期待します。
     もっとも、雇用平等が理論的な研究だけ実現できるはずはありません。使用者は、非正規雇用の割合を拡大することによって労働分配率の逓減を目指しているわけです。労働分配率が低位のままで雇用平等を達成してもあまり意味はありません。労働者階級全体としての取り分を増やすことによって雇用平等を実現するためには、正規労働者と非正規労働者との連帯・団結が不可欠でしょう。このような運動面での課題についても真剣に向き合わなければならないと強く感じました。
  5. おまけ
     民法協国際交流委員会では、来年春頃に、韓国調査を計画中です。調査の目的は、主として、韓国の労働運動・社会運動に学び、日本の運動に生かしてくことです。ぜひ多数のご参加をお願いします。

若者に“ディーセント・ワーク”を ―大阪青年大集会2011レポート

地域労組おおさか青年部 松 田 明 功

 去る10月8日、大阪はじめ関西各地の若者が集う大阪青年大集会2011が、大阪市立中央区民センターで開かれました。ブラック企業の増加、長時間労働や解雇、就職難と、若者を取り囲む環境はその厳しさを増す一方。進学・就職・結婚・子育てといったありふれた生活設計もままならないこの苦境をどう打開するか、手を携え思いを共有する場として、160人もの若者が集いました。
 集会冒頭、実行委で大阪労連青年部の波見健一部長が「ここには同じような悩みをもつ青年がいて、共有できる人たちがいます。そして、私たち一人ひとりがつながって、社会を変える第一歩にしたいと思います」と挨拶。その後、地域労組おおさか青年部・大阪労連青年部・民主青年同盟から、活動を通じて見えてきた若者の課題が紹介され、その課題のたたき台としてワークショップ「ワールド・カフェ」が行われました。
 企画者である地域労組おおさか青年部の中嶌聡書記長が解説。ワールド・カフェはカフェのようなくつろいだ雰囲気の中で、テーマに沿った意見や思いを語り交流するプログラム。この日は「働き方・生活について感じている不安・不満は?」「解決のために組織や人はどんな役割を果たすべきか?」といったテーマでグループに分かれ、大きな模造紙にそれぞれ意見や思いを書いていきます。
 グループは30となり、かなり大規模なワールド・カフェに。「労働時間が長く人とつながれない」「疲労でミス連発」といった働き方の現状から「自分に権利についてもっと勉強すべき」「選挙へ行こう」といった解決のための行動、さらには「彼氏が欲しい!」といった切実な(?)願いまで、さまざまな言葉が綴られ、会場は議論の活気に包まれました
 ちなみに私が参加したグループでは、職場で「社会保険て何ですか?」と尋ねる新入社員がいたエピソードが紹介されました。権利への感度が鈍っている以前、権利の自覚そのものが育まれていないことにメンバーそろって嘆息。権利を教えることになおざりな日本の公教育の問題にも議論は及びました。
 こうした交流で問題意識を新たにした後、首都圏青年ユニオン書記長の河添誠氏の講演へ。河添氏は原発問題に触れ、原発労働は事故の有無に関わらず被曝を伴う労働であり「常に健康を損ないながら働かねばならない一点においても原発はなくすべきである」としました。
 憲法27条の「勤労の権利」とは「まともな仕事に就く権利」であり、健康を損なう仕事は「まともではない仕事」です。河添氏は「被曝労働と同様のまともではない仕事が社会に蔓延している。耐えられないと思ったときにそうした仕事を退職する自由があることが絶対必要条件」として、ユニオンの活用、労働法改正、セーフティネット・職業トレーニングの拡充などの対策を提示。ニューヨークから全米に広がった「ウォール街を占拠せよ」運動の例に、声を上げ連帯する大切さを訴えました。
 続くリレートークでは各団体からの代表者が、職場の問題点や改善に向けた取り組みを当事者の立場から紹介。私たち地域労組おおさか青年部からは平田未央さんが登壇し、サービス残業など不明朗な雇用契約が常態化していたばかりか、詐欺にあたる違法な業務まで強いられていたことを告白。退社して組合に加入し、組合員とともに団交に臨んで勇気づけられたこと、青年部員との交流を通じて前向きになれた思いを発表し、ひとりでは無力でも手を携えれば大きな力に生むことを印象づけるエピソードとなりました。
 そして最後はアピールウォーク。私たち青年部では、街行く人達とパレードの間の垣根をいかに低くするかアイデアを出し合い、従来型のデモにはない形を目指しました。シュプレヒコールを繰り返すだけでは周囲から共感が得づらいため、参加者に大会の感想や仕事の上で感じた疑問をインタビューすることで、街行く人達の目線と同じ言葉をアナウンス。自分たちにも大いに関わる活動だと感じ取ってもらうことを目標としたのです。
 「ディーセント・ワークとは何か?」をテーマにメッセージを書いたプラカードをそれぞれに掲げ、御堂筋を南下し難波までを練り歩きました。自身がいた職場の劣悪ぶりを訴えたり、「サービス残業したくない!」とコールしたり、あるいは音楽に合わせて体を揺らしたり沿道に手を振ったりと、とにかく賑やかにパレードを楽しみました。飛び入り参加者といううれしいアクシデントもあり、参加したくなるデモ、興味を呼び起こすデモを目指した私たちの試みは一定の成功を収めました。
 陽もとっぷりと暮れた難波でパレードを流れ解散し、すべてのプログラムを終了。多くの参加と協力に支えられたこの大集会は、10月23日に東京・明治公園で行われる全国青年大集会のプレ企画という位置づけでしたが、“プレ”と冠するには惜しい、充実した1日となりました。
 社会構造に変化の胎動が生まれ、東日本大震災と原発事故という未曾有の危機を経てその変化は加速しています。この大会が今後、そうした変化をさらに大きなうねりへ昇華させる触媒になることを願い、また若者のパワーと感性が不正に抑圧されることなく飛躍する社会、その実現のための活動のさらなる進化へ、思いを新たにしました。

「原発ゼロの会・大阪」発足の集い報告

弁護士 喜 田 崇 之

  1. はじめに
      平成23年10月15日午後6時30分より、「『原発ゼロの会・大阪』発足の集い」が、エルおおさか南館5階で開かれました。同会は、立命館大学名誉教授安斎育郎氏、ジャーナリスト大谷昭宏氏等、様々な著名人が呼びかけとなり、大阪から原発ゼロの取り組みを行い、全国の団体と反原運動を目的とするものです。
     「集い」には、総勢300人以上の方が参加し、正式に「原発ゼロの会・大阪」が結成され、大成功でした。本稿では、集いの中身を報告致します。

  2. 記念講演
      「集い」の記念講演として、原発問題住民運動全国連絡センター代表委員山本雅彦氏による講演が行われました。山本氏は、元関西電力の職員で、美浜原発にて勤務していた人物でしたが、原発の危険性等を社会に訴える活動をしているところ関西電力から追い出された人物です。山本氏の講演は、時間が十分に取れない中、我々市民が知らなければならない事実を提供し、同時に国は電力会社に対する怒りが沸々と湧きあがらずにはいられない講演となりました。

    (1)原発に依存する自治体の問題
      まず、山本氏は、原子力発電所の基本的な構造や、核のゴミが大量に発生する等の基本的な問題を指摘されました。
      次いで、原発誘致による自治体の問題を指摘されました。
      原発を誘致すると、巨大な原発マネーが自治体に流れ、原発依存体制になる。そして、小さな原発事故でも起きてしまうと、企業は風評被害等が発生すること等を敬遠し、原発周辺に立地することを避ける。実際に、福井県にある食品関係の大企業の誘致の話があったが、福井県の原発事故の影響により、企業から見送られたことがあったということでした。
     このように、原発が建設されると、周辺に他の産業が成り立ちにくくなり、最終的には原発だけが残るのである。そうなると、自治体はますます原発に依存していくという話でした。
      また、原発マネーによる汚職、裏金作りが蔓延したり、全く無駄としか思えない施設の建設が乱発しているようです。福井県では、そのような施設が乱立し、宿泊施設等が毎年何千万円もの赤字を出すなどの状況ということでした。

    (2)福島原発事故は人災である
     また、山本氏は、本年3月11日の震災による福島原発事故につき、政府・東電の対応について改めて批判し、人災であることを強調されておられました。特に、海水注入が遅れたことにより被害が拡大していることは確実であり、許されないことであると指摘されていました。
     そして、津波到達の前に全電源喪失状態になっていたことが公表されているデータからわかっており、今回の事態は津波によるものではなく、そもそも地震により引き起こされている可能性を指摘されました。
     現在の汚染状況や、早急に、人が退去しなければならないことや、除染の必要性を訴えておられました。

    (3) 国家が国民を欺いてきた事実
     その他、地震国日本でなぜ原子力発電所ができて行ったのかの歴史的な話にも触れられていました。
     国は、活断層があるということを認識していながら、その真上に原子力発電所を建設したりしたのですが、活断層があることを隠すため、当該建設現場の航空写真を修整して、断層があることを隠して発表していたという許されざる行為に及んでいた事実を指摘されました。そして、安全性に関する様々なデータをねつ造し、地域住民に原発が安全であると騙し続けてきたというのです。例えば、国のデータによれば、阪神・淡路大地震の起きる可能性はゼロだったとされていたのであり、いかに信用のできないでたらめなデータを示してきたと指摘されました。
     筆者としては、まさに、国家的犯罪であると言わなければならないと感じました。
     そして、山本氏によれば、国は安全性に関するデータが捻じ曲げることにより、安全対策のコストを下げようとしているのであるという指摘がありました。原発の安全性を高めれば高めるほど、安全対策コストが高くつくことになり、そうするとそもそも原発の採算が見合わないようになる。まさに、安全性を無視して収益を優先していたというのです。

  3. 最後に
     記念講演の後、「原発ゼロの会・大阪」が発足となりました。そして、「原発ゼロの会・大阪」は、大阪で原発ゼロの世論を高め、全国の仲間と連帯して、学習会や見学会によって原発ゼロの合意を作っていくこと、府下の各地域で「原発ゼロの会」を無数に作っていくこと、関西や全国の仲間と連携した取り組みをしていくことと等が確認されました。また、各地域団体の方々が、次々と檀上に上がり、共に連帯し、原発がなくなるまで息長くこの運動を進めていくことが宣言されていきました。
      原発という大きな壁に立ち向かうために、一人の市民としてできることをやっていきたいと思わせる、素晴らしい集いでした。