民主法律時報

2011年8月号

大阪泉南アスベスト国賠訴訟控訴審判決 被害者に背を向けた不当判決

弁護士 遠 地 靖 志

 
 8月25日、大阪高裁第14民事部(三浦潤裁判長)は、大阪泉南地域のアスベスト被害について、国の責任を認めた大阪地裁判決を取り消して、原告の請求を棄却する不当判決を言い渡しました。
 本判決は、泉南地域のアスベスト被害の実態を無視し、最も尊重されるべき生命・健康よりも産業発展、経済発展を重視することを露骨に示したものであり、また被害に対する国の責任を免罪する一方で、泉南アスベスト被害の原因を、被害者や零細企業に押しつける不当なものです。さらに、筑豊じん肺最高裁判決以降、国の規制権限を厳格にとらえて、被害者救済を重視してきた司法判断の流れに逆行する「行政追随、擁護」の不当極まりないものです。
 大阪泉南地域は戦前から100年にわたり、石綿紡織業が発展し、中小零細の工場が集中立地してきた地域でした。国は70年前に泉南地域の石綿工場労働者を対象とした調査を行い、アスベストにより重篤な呼吸器疾患が発症することを知っていました。にもかかわらず、戦前は軍需、戦後は成長を優先させて、泉南地域の事業主、労働者やその家族、近隣住民に対してアスベストの危険性を知らせることや局所排気装置の設置を義務づけるなどの必要な対策を怠ってきたのです。昨年5月19日の大阪地裁判決はこのような実態に目を向け、アスベスト被害についての国の責任を認め、全損害についての賠償を認めたのでした。
 しかし、控訴審判決は、こうした泉南地域の実態には全く目を向けず、それどころか、国が規制権限の行使を怠ってアスベスト被害を拡大させてきた責任を免罪しました。
 判決は、「国が厳格な規制を行うならば、工業技術の発達及び産業の発展を著しく阻害するだけでなく、労働者の職場自体を奪うことになりかねない」「国が規制を実施するにあたっては、対立する利害調整の関係を図ったり、他の産業分野に対する影響を考慮することも現実問題として避けられない」などと述べ、国民の生命・健康よりも産業発展の姿勢を明らかにします。そして、このような立場に立って、国が規制権限を行使するにあたっては、医学的知見、工学的知見の進展状況、当該工業製品の社会的必要性及び工業的有用性の評価についての変化、その時点において既に行われている法整備及び施策の実施状況等をふまえた上で主務大臣によるその時々の高度に専門的かつ裁量的な判断に委ねられる、として、広範な裁量を国に認めました。そのうえで、国は昭和22年の時点で抽象的な規制措置を執っていたから責任はない、また、昭和30年代ころには局所排気装置は技術的に確立しておらず、設置を義務づけなかったことに違法性はないなどとしたのです。
 一方で、労働者は新聞記事や業界団体を通じてアスベストの危険性を知っていたはずだ、それなのに防塵マスクをしなかったのは労働者が悪い、安全教育をしなかった中小零細の企業主が悪い、などと被害の責任を労働者や中小零細の事業主に押しつけたのです。
 さらに、本判決は、国の不作為の責任を認めた筑豊じん肺最高裁判決や水俣病関西訴訟最高裁判決などの一連の司法判断の流れに全く逆行するものです。筑豊じん肺判決は、国民の生命や健康が問題となっている場合は、国はその規制権限を「できる限り速やかに、技術の進歩や最新の医学的知見等に適合したものに改正すべく、適時かつ適切に行使されるべき」と厳格に判断しました。しかし、本判決は、前述のとおり、国民の生命・健康よりも産業発展を優先する姿勢を示した上で、国の規制権限行使についても、「できる限り速やかに」「適時」という文言を削り、いつ、いかなる規制権限を行使するかについて行政に広範な裁量を認め、規制権限不行使が違法となるのを極めて限定的にとらえたのです。
 このような判決がまかり通るならば、全国で闘っている他の建設アスベスト訴訟や公害訴訟、さらには今後闘われることになる原発被害に対して国の責任を追及する訴訟に否定的な影響を及ぼしかねません。この点でも本判決は重大な問題をはらんでいます。
 判決を受けて、原告団、弁護団は本当に悔しい気持ちでいっぱいでした。しかし、判決直後の報告集会や判決翌日の官邸前行動、国会議員会館での院内集会、29日の高裁不当判決抗議集会で、多くの方が高裁判決に対して怒りの声を上げるとともに、原告団、弁護団に対して温かい励ましの言葉をかけてくれました。原告団は、判決に対する怒りとともに、みなさんの支援に励まされ、8月28日の総会において、全会一致で上告して闘うことを決め、31日、最高裁に上告しました。
 最後になりましたが、これまで多くの方々から署名をはじめ多大な支援をいただきました。本当にありがとうございました。判決は悔しい結果となりましたが、原告団、弁護団は、今後も最高裁での闘いとともに、大阪地裁で闘っている2陣訴訟を確実に勝利していくことをめざして全力で闘いますので、変わらぬご支援をよろしくお願いします。

成果主義年俸制の導入における労働組合の存在意義を再確認 読売テレビ不当労働行為事件

弁護士 中 西   基

  本年7月22日、大阪府労委が不当労働行為救済の勝利命令を出しましたのでご報告します。

  1. 事案の概要
      読売テレビでは、1999年から管理職について成果主義年俸制が導入されていましたが、民放労連読売テレビ放送労働組合は、成果主義年俸制の導入には一貫して反対の立場をとってきました。2009年4月、会社は、新たな年俸制度を導入するとして、従来は年俸制ではなかった「次長」職を廃止し(「次長」はそれまでは準管理職という位置づけでした。)、「次長」職にある従業員については、年俸制管理職である「副部長」職に「昇格」させる計画を明らかにしました。その際、会社は、該当者全員に対して、「管理職年俸契約書」への署名押印を要求し、署名押印に応じない者については自動的に一般職へ降格となると説明しました。
      労働組合は、新たな年俸制度の内容に関しては労働条件にかかわる労使交渉事項であることから、労使交渉が整っていないにもかかわらず、該当者(組合員12名を含む)に対して個別に「管理職年俸契約書」への署名押印を迫ることは許されないと主張して、組合員に対しては労使交渉が整うまでは「管理職年俸契約書」への署名押印を拒否するように統制しました。
      しかし、会社は、会社が一方的に設定した期限(計画発表から約3か月後)までに「管理職年俸契約書」に署名押印しない者については、管理職への昇格を希望しないものとみなして一般職へ降格させるという態度をとり続けました。
      このような状況の中、12名の組合員のうち5名が組合を脱退して署名押印に応じてしまいましたが、残り7名の組合員は組合の統制に従って署名押印に応じませんでした。
      結局、労使交渉が整わないまま、会社は、会社が一方的に設定した期限が経過したとして、2009年7月1日付で、5名については管理職へ昇格させ、残り7名については一般職へ降格させる人事発令を強行しました。
      そのため、組合は、大阪府労働委員会に不当労働行為(支配介入)の救済を求めました。
  2. 争点
      会社は、計画発表当初は、新たな年俸制度の導入は人事制度であって労使交渉事項ではないという態度でしたが、その後は、労働条件については労使交渉事項であるということは認めつつも、新たな年俸制度は従来の制度と比べて不利益変更になるため該当者に個別に同意を得る必要があると主張して、「管理職年俸契約書」への個別の署名押印に固執しました。
     しかし、会社の主張は、就業規則によって導入された成果主義賃金制度が対象労働者に適用されるにあたってなおも個別同意が必要かどうかという論点(①)を、成果主義賃金制度の導入にあたって労働組合との交渉を要するかどうかという論点(②)と、混同してすり替える主張というべきです。
      前者の論点①は、学説上は、就業規則の不利益変更の延長線上の問題として論じられています。すなわち、賃金など重要な労働条件の不利益変更については、「高度の必要性に基づいた合理性」が必要であるとされ、合理性があるといえるための判断要素として、労働組合との十分な協議が尽くされていることを重視する見解が支配的です。そして、就業規則を変更することによって成果主義賃金制度を導入するにあたっては、「高度の必要性に基づいた合理性」という点がクリアされたとしても、なお、さらに対象労働者の個別同意を要するかどうかというのが論点①として論じられてきました。この論点①について、個別同意が必要であるとする見解(土田など)が想定しているのは、労働組合が就業規則変更による年俸制の導入に合意している場合であっても、なお個別に同意しない労働者については年俸制は適用されないという場面だと思われます。   
      他方、後者の論点②に関しては、成果主義賃金制度の制度設計については義務的団交事項だとする見解が支配的であると思われます。 
     労使間で合意のうえで導入された年俸制度であったとしても、なお労働者の個別同意が必要とされるのに、本件のように、新たな年俸制度の導入について労使交渉が実質的に進展していないにもかかわらず、個々の労働者に対して会社が一方的に定めた期限までに「管理職年俸契約書」に署名押印するよう迫ることは、労働組合との交渉を実質的に否認する明白な支配介入というべきです。
  3. 府労委命令
     大阪府労働委員会は、2011年7月22日付の命令書で、①期限までに「管理職年俸契約書」への署名押印を求めたこと、②労働組合の統制にしたがって署名押印に応じなかった組合員7名を一般職に降格させたことは、いずれも不当労働行為にあたるとして、7名全員を2009年7月1日付に遡って管理職に昇格されたものとして取り扱うこと、及び、再発防止を誓約する書面を労働組合に手交することを命じました。
     成果主義賃金制度を導入するにあたって労働組合の果たすべき役割、労働組合の存在意義を再確認するものとして高く評価できると思います。
     なお、会社は、中労委に再審査を申し立てました。引き続き、ご支援よろしくお願いします。

     (弁護団は、高橋典明と中西基)

福住コンクリート面談禁止等仮処分事件

弁護士 喜 田 崇 之

  1. はじめに
     ご承知のとおり、今般、北港観光バス仮処分事件において、何らの理由を示すことなく労働組合の街宣活動を禁ずる旨の仮処分命令が下された。そのような中で、再び労働組合及びその組合員に対する街宣活動を禁止する仮処分命令が出たので、報告する。
     組合は、建交労関西支部、弁護団は、徳井義幸、谷真介、喜田の3名である。
  2. 事案の概要
     事案は複雑であるが、ごくごく大雑把にまとめると以下の通りである。
    (1)当事者
     被申立人は、生コンクリートの製造販売を営む福住コンクリート株式会社(以下、単に「福住」という)に勤務していた従業員6名と、建交労関西支部である。申立人は、福住の元代表取締役である個人とその妻である。福住は、奈良の山奥にある会社である。
    (2)事実経過
     福住は、平成21年当初から経営が困難となり、賃金切下げ・従業員解雇等の経営合理化を組合と交渉していたが、福住は不誠実団交を繰り返していたところ、平成22年12月、突如として、生コン業の製造部門と輸送部門を切り分け、製造部門を宝永産業株式会社という会社に新設分割し、その後、福住の事業を停止したのである。このとき、福住の代表取締役は、申立人から別の人物へと変わった。
     被申立人らは、突如、事業閉鎖となり勤務場所を奪われ給与も全く支給されなくなった。さらに、もともと利用していた組合事務所等も、宝永産業株式会社のものとなったということで、執拗な追い出し行為にあった。
     被申立人らは、かかる会社分割が、組合に対する不当労働行為であると同時に、法人格を濫用したものであると主張し、団体交渉も申し入れたが、会社側は一切これに応じなかった。
     このような状況下で、被申立人らは、宝永産業に対する(予備的に福住)地位確認訴訟、福住、宝永産業に対する不労働行為救済申立て、元代表取締役に対する損害賠償請求訴訟提起等を行った。
     そして、そのような中で、下記の街宣活動を行ったものである。
    (3)街宣活動
     被申立人らは、主に、奈良市内を中心に、一連の会社の不当な行為を訴える街宣活動を行った。街宣内容も決して虚偽の内容ではなかったし申立人らを誹謗中傷するような内容でもなかったし、街宣行為の方法も相当なものであった。
     ただし、下記のような事情もあった。
     福住の事業所のすぐ隣に申立人の居宅があり、組合事務所からも歩いてすぐのところであった。したがって、組合事務所のすぐ側の駐車場に駐車している街宣車を出発させる際、申立人らの居宅の前を街宣して通過していた。(ただし、殊更申立人らの居宅の前を狙って停止して街宣行為をしたことはない。)
     また、被申立人らは、街宣活動中、申立人らの運転する車を見つけるとそれを追尾するということが二回あった。また、被申立人らは、事情の説明を求めて申立人らの家のインターホンを押し、申立人らが出てこないので申立人らの家の前にパイプ椅子を並べて座り込んだということが一度だけあった。
  3. 裁判所の判断
     裁判所は、結論として、申立人らに対する面談強要の禁止、申立人らの自宅前の道路の立入禁止、申立人らの監視の禁止、申立人らのつきまといの禁止、申立人らの住居から300メートル以内において、「申立人を特定する形で福住に対し主張する労働者の地位に関連させて」という宣伝内容に限定を付した上ではあるが、宣伝活動を行うことの禁止を命じた。
     その理由についてであるが、紛争発生の経緯や、被申立人らの追尾行為、自宅前での座り込み行為等の事実を認定し、それらが申立人らの生活の平穏、プライバシー等の人格権侵害に該当することが明白であると述べ、したがって、申立人らは、面談禁止、監視、付きまとい等の禁止を求めることができるとした。
     また、街宣行動についても、申立人らの住居の近辺で行われたものは、申立人らの私生活の平穏及び名誉を侵害するものであり、申立人が福住の代表取締役を退任していることや、同人の住居近辺において街宣行為を行ったことから、相当な労働運動と評価できないと判断したものである。
     なお、被申立人らの街宣内容については、一切違法の評価を与えておらず、申立人らの自宅から300メートル以外の街宣活動は一切禁止していないし、自宅前の街宣活動についても、申立人を特定する形で福住に対し主張する労働者の地位に関連させての宣伝活動以外の街宣活動については禁止していないとも言える。
  4. 現在の状況
     現在は、保全異議申立てを行った。
     ただ、福住は事業が停止したままの状態であり、宝永産業株式会社もここにきて事業が全く停止してしまった状況になったようである。また、代表取締役の申立人も破産の準備中である旨の通知が弁護士から来る等、解決に向けて膠着状態に陥っている。
  5. 今後に向けて
     本件は、北港観光バス事件に続いて、労働組合の街宣活動等の仮処分が部分的にせよ認められた事例である。本件の評価は様々であろうが、今後の街宣活動の在り方を考える上で参考になる事例であることは間違いないであろう。

民法協第56回総会の報告

弁護士 河 村   学

1. 8月27日、民法協第56回総会がエル大阪で行われました。77名の参加でした。

2. 記念講演
 総会に先立っての記念講演では、都留民子県立広島大学教授から、「労働者の貧困と社会保障」と題して講演いただきました。貧困を正しく捉えることが必要であること、社会保障を充実させ不安定就業や低賃金就労など中途半端な働き方をなくすことが重要であること、社会保障を獲得する闘争に労働組合が正面から取り組むべきことなどが語られました。
  都留教授は、貧困とは「『社会的富』が不平等に分配されることによる経済的窮迫状態であり、そして窮迫から人間の社会的尊厳が損なわれる状況」と述べられ、その要因について、ベヴァリッジの言を引用し、「問題は労働がないことから招かれるのではなく、労働はあるが、それが不適切であるということである」と強調されました。不適切な就労=不安定就労を根絶することが労働者全体の権利と生活擁護につながるという視点は、今後の労働運動にとっても重要なものではないかと思いました。

3. 56回定期総会
  総会では、総会議案の報告と討論、活動方針案と予算案の採択、決議の採択、新役員の選出が行われました。活動方針案については、総会特集号を配布しますので参加されていない方も是非ご確認下さい。討論では、現在焦点になっている大阪府の教育基本条例・職員基本条例に関する発言や、原発問題での発言、アスベスト事件ほか事件報告を兼ねての発言などがありました。
 総会決議としては、「労働者の雇用安定と均等待遇実現のための有期労働契約規制を求める決議」「労働組合の街宣活動を禁止する仮処分決定に抗議し、街宣活動の自由の保障を求める決議」「日の丸常時掲揚・君が代起立条例の即時廃止と教育基本条例案の撤回を求める決議」の3本の決議が挙げられました。
  続いて新度役員の選出を行い、新副会長に出田健一弁護士、新幹事長に城塚健之弁護士、新事務局長に増田尚弁護士、新事務局次長に大前治弁護士、中森俊久弁護士、新事務局に中村里香弁護士がそれぞれ選任されました。
 退任は、事務局長の河村学弁護士、事務局次長の有村とく子弁護士、事務局の立野嘉英弁護士、下迫田浩司弁護士の4名です。

4. 諸課題が山積するなか、また新たな年度が始まりました。「平和憲法を擁護し、労働者と勤労者の権利擁護と民主主義の前進を目的とする」(規約2条)という立場を堅持しつつ、情勢に合った、柔軟で、連帯感にあふれた取り組みが求められています。また、昨年の総会でも触れられた「バトンをつなぐ」という見地も重要になってきます。新しい役員体制のもと、多くの個人・団体の参加と共同で、民法協の取り組みをすすめていきましょう。
 なお、今総会を期に、民法協のウェブサイトをリニューアルしました。情報収集や活動に生かしてください。
また、「民主法律」総会特集号には、活動方針はもちろん、一年間の重要事件等の特別報告や、労働法制をめぐる動きに関しての資料も掲載しています。総会が終わったら不要になるというものではありませんので、お手元に置いて、今後の学習や活動の参考にしてください。

原発をなくし、自然エネルギーを推進する 新しい府民運動を呼びかけます

大阪から公害をなくす会事務局長 中 村   毅

 
 本年3月11日に発生した東日本大震災は、私たちに大きな衝撃を与えました。その様相は、16年前に経験した阪神・淡路大震災とは、被災地域がとてつもなく広範囲であること、津波が被災の主因であったことなど、大きく異なるものでした。私も4月の下旬に大阪民医連の仲間と一緒に宮城県へ支援に行きましたが、津波に襲われた地域の見る影もなく、町そのものが無くなっている状態を目の当たりにして声も出ませんでした。近畿でも近い将来、東海・東南海・南海地震の連続発生が警告されており、大阪の地震・津波問題に改めてスポットを当てて、防災問題を検討する必要があると思いました。
 加えて決定的な違いは、今回は原子力発電所(原発)の事故が絡んでいることです。東電福島第1原発の事故による被害は半年近くを経過した今日でも、被災地はもちろん関東・中部など東日本全域に及び、復興への道のりを困難かつ長期のものにしています。

 福島原発事故から学んだこと
 今回の福島原発事故で私たちは二つのことを学びました。
 第一は、原発が一旦過酷事故を起こせば、放出される放射能による被害は大気、海洋、土壌などあらゆるところに広がり、人の健康はもとより農業・畜産・漁業・林業・産業など全ての分野に深刻な被害を及ぼすこと、しかも長期にわたって及ぼすということです。内部被曝による人体への影響は後々になって現れるものであり、原子炉を「廃炉」にするにもしても一応の収束までに20年、30年という長い年月が必要となります。その点では他の事故とは比べものにならない大規模で長期かつ深刻な事態になるというのが原発の事故だということです。
 第二は、加えて今の原発は、仮にカッコ付で「安全性」が確保されたとしても、原子力発電の過程で日々生成される放射性廃棄物、いわゆる「死の灰」の最終処理方法が確立されておらず、行き場のない放射性廃棄物が溜まる一方の状態にあることです。言わば“トイレのないマンション”状態で操業が行われており、原子力発電を続ければ続けるほど蓄積される放射性廃棄物、特に高濃度放射性廃棄物の問題が深刻になります。モンゴルの地下300メートルに埋設し、何十万年も管理するなどと言う荒唐無稽で、文字通り無責任な話が真顔で語られるほどこの問題は深刻です。
 こうして今回の原発事故は、現在の原発には絶対の「安全性」など無いこと、ひとたび重大な事故が発生すれば事態を制御できないこと、技術的にも全く未完成であることなどを明らかにしました。

 近畿・大阪も他人事ではない
 宮城県に支援に行った時、地域訪問をしていて地元の人から「福島にあんなに沢山の原発があるなんて初めて知った」「福島にあるのだから当然東北電力のものだと思っていたら東京電力のもので、改めて驚いた」といった話を何人かから聞きました。こうした構造は、福島だけではなく、近畿でも同様の事態となっています。
 関西電力の原発は美浜3、大飯4、高浜4と福井県に11基あり、日本原電の敦賀原発2基を含めれば13基にもなり、正に福井は“原発銀座”となっていますが、その最大の電力消費地は大阪です。関西電力はこの他にも四国電力の伊方原発、中国電力の島根原発からも電力の供給を得ており、原発依存度は日本一になっています。そして、もし福井の原発群で今回同様の事故が発生すれば、真っ先に琵琶湖の水が汚染され、琵琶湖の水を飲料水として使用している近畿1400万人の水が危機に瀕することは火を見るより明らかです。最近、福井の原発の下には活断層がいっぱい走っていること、福井でもかつて大きな津波があったことなどが明らかになってきています。また、運転開始から30年以上経過している原発が8基も集中しています。原発の問題は、福島、東北・関東だけの問題では無く、正に大阪・近畿の人にも突きつけられた重大問題です。

 原発ゼロを目指す私たちの府民運動
 いま国民の中では、原発の「安全神話」に厳しい批判の目を向け、地震・津波国である日本は原発とは共存できない、後世に大きなツケを残す原発は推進すべきでないとして、原発の廃止を求める声が大きくなってきています。また、ドイツ、スイス、イタリアなどでは原発から撤退する方針が明確に打ち出されるなど、原発依存からの転換をめざす動きは世界的に広がっています。
 私たちは、福島第一原発の事故を教訓に、次の2点を一致点にした新しい府民運動を考えています。
①原発は地震国日本にとっては余りにも危険です。原発は廃止して、ゼロにしましょう。
②日本の電力・エネルギー政策を自然エネルギーの方向に大きく転換しましょう。
   私たちはこの府民運動を団体だけでなく、著名な方にも呼びかけ人になってもらい、幅広い団体・個人の参加のもとに10月15日には「発足の集い」を開催して、「原発をなくし、自然エネルギーを推進する大阪連絡会(略称:原発ゼロの会)」として正式に発足させる予定です。
   私たちは、この運動は長期にわたるものと考えています。また、自然エネルギーへの転換は、地域で運動を起こし、具体的な形にしていくことが決定的に重要だと考えています。皆さんのご参加とご協力を宜しくお願いします。