民主法律時報

2011年7月号

飛翔館(近大泉州)高校解雇事件で逆転勝訴の高裁判決!~堺支部の不当判決を撥ね返す~

弁護士 下迫田 浩 司

1 明快な逆転勝訴判決!

 2009年12月18日の堺支部の不当判決以来、私たちは、前の見えない霧の中をもがき苦しみながら歩いていました。7月15日、霧を吹き飛ばすような素晴らしい逆転勝訴判決を勝ち取りました。
 学校法人泉州学園が経営する飛翔館高校(現・近畿大学泉州高校)で、2008年3月末に7名の教員が整理解雇され、そのうち5名の教員が解雇無効を理由とする地位確認等を請求する訴訟を起こしました。堺支部で、まさかの第一審敗訴を受け、控訴審で闘ってきたところ、大阪高裁は、一審判決を取り消し、原告5名全員の雇用契約上の地位を確認し、バックペイを全額認める、キレイな逆転勝利の判決をしました。

2 高裁判決の内容

(1)一般論

 整理解雇の有効性に関する一般論について、判決は、「整理解雇は、使用者の業務上の都合を理由とするもので、解雇される労働者は、落ち度がないのに一方的に収入を得る手段を奪われる重大な不利益を受けるものであるから、それが有効かどうかは、①解雇の必要性があったか、②解雇回避の努力を尽くしたか、③解雇対象者の選定が合理的であったか、④解雇手続が相当であったかを総合考慮して、これを決するのが相当である。」としました。これは従来の裁判例の一般論をほぼ踏襲したものです(あえて言えば、①を「人員削減」の必要性ではなく「解雇」の必要性としているところに特色があります。)

(2)①解雇の必要性について
 まず、大きな争点の一つとなっていた、「消費収支差額」を私立学校の人員削減の指標に用いることの当否について、判決は、企業会計における「収益」及び「費用」に相当するものは、学校法人会計においては「帰属収入」及び「消費支出」であるとし、学校法人においては、「帰属収入」から「消費支出」を差し引いた「帰属収支差額」が採算性(収支の均衡)を示しているので、「消費収支差額」ではなく「帰属収支差額」によって収支の均衡を検討するのが妥当であるとしました。
 これは、第一審以来、私たちが一貫して主張してきたことが、やっと認められたものです。堺支部は、単に、学校法人会計基準29条が「基本金を組み入れることを要求している」ということだけを根拠として、消費収支差額を削減人数決定の基準とすることを肯定していました。要するに、なぜ要求しているのか、法の趣旨がわからないまま、法律に書いてあるから「何らかの意味があるでしょう」ということでした。このようないいかげんな堺支部の判決が明確に否定され、大変すっきりとした思いです。
 次に、1年前の「予算」によって計算した人員削減の方針のまま最後まで突っ走った学園のやり方についても、判決は、「予算によって計算した削減人数18名と決算によって計算した削減人数13名との間に5名の開きが生ずるのに、そのままで構わないというのは、もともと18名の削減の方針自体が事実に基礎を置かない根拠薄弱のものであることを示している」と切って捨てました。これも私たちの第一審以来の主張がやっと認められたものです。堺支部は、解雇が決算前だからというだけの理由で、1年前の「予算」を基準として解雇人数を決定したことを安易に是認していました。
 さらに、解雇に際して多数の非常勤講師を新規採用したという「人の入れ替え」のための解雇について、判決は、「そもそも、人件費削減の方法として、人件費の高い労働者を整理解雇するとともに、他方では人件費の安いほぼ同数の労働者を新規に雇用し、これによって人件費を削減することは、原則として許されないというべきである。」と判断しました。その理由として「このような人を入れ替える整理解雇を認めるときは、賃金引き下げに容易に応じない労働者の解雇を容認し、その結果として労働者に対し賃金引き下げを強制するなどその正当な権利を不当に侵害することになるおそれがあるからである。」としています。これは画期的な判断だと思います。

(3)②解雇回避努力について
 判決は、2007年度当初において18名削減の必要性があるとした判断自体合理的なものとはいえないし、整理解雇前に学園の財務内容を的確に分析して合理的な人員削減計画を策定し、その一環として整理解雇もやむを得ないとの判断をするに至ったような事実を認めることはできないので、解雇回避努力の前提事項が満たされていないとしました。また、2007年度中に希望退職に応じる者や雇い止めが予定されることになった者が11名生じた状況下においてもなお解雇の必要があるのかどうかを改めて検討し直した形跡はうかがわれないし、当初の予算と年度末との決算とでどの程度の差が生じるのかを検討した形跡もないとして、解雇回避努力を尽くしたものとは直ちにはいい難いとしました。

(4)④手続の相当性について
 判決は、「整理解雇の方針という重要なことを解雇実施予定の一か月前まで明確にせず、その後も解雇の必要性や、解雇予定人数、基準等について具体的な説明をしなかったことは、手続として著しく適正さを欠く不誠実な対応であったというほかはない。」としました。
 そして、「教員らの激しい抵抗は、一審被告が、人数や基準等の具体的な内容を一切明らかにしないまま平成20年2月終わりになって初めて整理解雇の方針のみを掲示によって明らかにしたことに対する憤りや不安の気持ちに起因するものと解され、一審被告側のとった手続が不適正であったことの裏返しと評することができる」とした上で、「本件では、一審原告らないし本件組合と一審被告は、相手方の行動、対応を逐一批判ないし非難する傾向にあり、相互不信は根深いものと認められるから、一審被告が、その財務状況を踏まえて人件費削減の必要性を訴えても、一審原告らあるいは本件組合との間で結局話合いは平行線をたどった可能性も否定できないものと推測される。しかし、そうではあっても、整理解雇を行う使用者は、組合ないし労働者との間で説明や交渉の機会を持つべきである。整理解雇のような労働者側に重大な不利益を生ずる法的問題においては、関係当事者が十分意思疎通を図り誠実に話し合うというのが我が国社会の基本的なルールであり、公の秩序というべきである。」としました。第一審で堺支部が、協議の進展の見込みが非常に疑問であったと裁判所が後から仮定的推論をすれば、説明・協議義務が不十分でもよいとしていたのと大違いです。

(5)結論
 判決は、以上のとおり、①整理解雇の必要性、②整理解雇回避の努力、④手続の相当性のいずれについても否定的に判断するのが相当だとして、③人選の合理性を判断するまでもなく、本件整理解雇は、全体として客観的に合理的な理由を欠いた社会通念上不相当なもので、本件整理解雇は、解雇権を濫用したものとして無効であると結論付けました。

3 今後の闘い

 この原稿を書いているのは判決が出てからまだ2日しか経っていない時点ですが、この判決によって闘争の流れが大きく変わったことを感じます。解雇後すでに3年以上もの年月が経っていますが、特に負けるはずがないと信じていた第一審の堺支部で2009年12月18日に敗訴して以来、ずっと苦しい闘いが続いていました。
 学園側はさっそく上告及び上告受理申立てを表明してきており、また、高校内の現場でもパワーハラスメント的な状況が続いてきていますので、闘いはまだまだこれからも続きます。ただ、今回の高裁判決によって、今後の闘いにとって大きな礎ができたと思います。今後とも、みなさまのご支援をよろしくお願いいたします。

(弁護団 戸谷茂樹、山﨑国満、岸本由起子、十川由紀子、下迫田浩司)

法テラス奈良法律事務所事件~非正規職員に対する賃金差別は許されない~

弁護士 兒玉 修一

  1.  事案の概要
     (1) 「法テラス」、すなわち日本司法支援センターは、2006年4月1日、「自由かつ公正な社会の形成に資すること」を目的として制定された総合法律支援法に基づき設立された法務省の所管法人である。奈良県には、奈良市内に奈良地方事務所、及び法テラス奈良法律事務所、及び吉野郡大淀町内に同南和法律事務所が設置されている。
      原告のSさんは、法テラス奈良法律事務所で、スタッフ弁護士の補助業務に従事している。ちなみに、「補助」とはいっても、電話の取次ぎや多重債務事件における引き直し計算に止まることはなく、過払金請求訴訟における訴状の作成や破産申立書の作成から法廷で使用する図表類の作成等、日々フル回転しているのは、その他多数の法律事務所と同様である。(2) ところで、法テラスの職員の中には、期限の定めのない常勤職員、期限の定めのある常勤職員(任期付常勤職員)、さらに非常勤職員という3つの区分がある。就業規則も別々に作成されている。そして、その賃金水準を比較した場合、非常勤職員は、常勤職員の約3分の2となっている。また、非常勤職員は、当然に有期とされており、しかも、3年以上は更新しない取扱いである。
     Sさんは、現在、非常勤職員とされているが、全国各地に設置された「法テラス◯◯法律事務所」の職員が、全て非常勤というわけではない。当然、常勤職員も存在しており、現に、法テラス奈良法律事務所でも、もう1名の職員は常勤職員である。

    (3)  ここで、法テラス奈良法律事務所でも、それ以外の事務所でもそうであろうが、職員の雇用区分に応じて、事務職員として処理しなければならない業務に有意な差異はない。にもかかわらず、上記のような差別的な賃金しか支給されないのは違法ではないかという点を問うのが、本訴訟である(なお、法テラスには未払残業代の支払も請求したが、これには任意に応じている)。

  2.  予想される争点
     (1) 本訴訟は、未だ第1回口頭弁論を終了したのみであり、法テラス側の主張も明確ではない。
     しかし、訴状においても指摘した①短時間労働者の雇用管理の改善に関する法律8条(いわゆるパート労働法8条)違反の有無、また②同一価値労働同一賃金原則違反の有無が争点となることは、ほぼ予想されている。(2) さらに、Sさんの場合、2009年4月から2010年3月までの1年間だけ、「任期付常勤職員」として勤務したこととされ、常勤職員としての給与を支給されている(その前後を通じ担当業務の内容には何の変化もない)。これは、他の職員が産休ないし育休にはいったため予算の枠が空いたそうである。しかし、2010年からは、再び、非常勤職員に戻されたという経緯がある。このとき、賃金も下げられている。
     これは、「単なる労働条件の不利益変更ではないのか」といった点についても、議論していきたい。
  3. 今後の展開
     ところで、本訴訟の提起にあたって、Sさんは、民事法律扶助制度の利用を余儀なくされた。法テラスは、自身を相手方とする紛争に対し、扶助制度の利用を拒否することはなかったが、そんなことで喜んでいる場合ではない。同制度が、経済的に余裕のない市民を対象していることは自明であるところ(総合法律支援法30条等)、他ならぬ法テラスに勤務しているSさんが、その対象となってしまっているのである。
     どうやら「法テラス」という名称や、そのロゴは、相談者を明るく照らすことをイメージするものらしい。しかし、そのようなことを目指しているはずの法テラス内部に、敢えて「光」と「影」の部分をつくり、それを平然と放置するというのは、率直に述べて理解し難い。「内がわも 明るく照らせ 法テラス」。
     昨今、国や地方自治体に関連する公的組織における非正規労働、差別待遇の問題が次々と指摘されるようになっている。本訴訟も、その一つであることは間違いない。良い報告ができるよう努力したい。

 (弁護団は、当職以外に、田辺美紀弁護士、西木秀和弁護士他多数。
  なお、応援団HPのアドレスは、http://sites.google.com/site/houterasosho/home/keii )
  

大震災後、私たちが向き合わなければならないもの ―働き方ネット大阪 第14回つどい

地域労組おおさか青年部 北出 茂

1 総論
 2011年6月15日にエルおおさかで開催された「働き方ネット大阪・第14回つどい」に参加させていただきました。
 テーマは「大討論!これからの日本の経済と社会~大震災後の環境・経済危機をどう乗り越えるか~」。
 パネリストは、以下の通り。 

 森岡孝二氏 (関西大学教授・企業社会論)
 藤永のぶよ氏 (おおさか市民ネットワーク代表)
 中山 徹氏 (奈良女子大学教授・都市計画)

 この超豪華、かつ、全く異なる専門分野をお持ちの先生方が、全く異なる観点から「震災後の日本の経済と社会はどう在るべきか」を議論されました。
 さらに、岩城穣弁護士が司会を務められました。
 以下、テーマの流れごとに感想を記し、報告とさせていただきます。

2 都市像
 中山徹先生(都市像)は、異色であった。
 日本は、以下のような人口の増減をたどると推測されている。

(百年前)4千万人
  ↓
(現在) 1億3千万人
  ↓
(百年後)4~5千万人
 
 氏が説明したのは、欧米で確立しているという都市計画でのシュリンキングポリシーという考え方。
 国の人口が減っていくのならば、高層住宅などを取壊して、そこに公園をつくって自然を取り入れよう、ゆとりのある美しい街作りにしようという考え方。
 うーん。これって、宮崎駿(トトロの作者)だよ。
 コンクリートだらけの灰色の街並か、子供たちが寝ころべる緑色の芝生か。
 コンクリー道路か、カントリーロードか。
 豊かさって何なのか。

3 原発について
 原発の必要性が宣伝されているが、実は殊更に推進派に「都合のよいデータ」だけを取り出して、都合の悪い部分は隠蔽してきたきらいがある。 
 原発は、実は、火力や風力よりもコストが高い。さらに、リスクは外部任せ。
 まして、推進派はエコと言っておりましたが、実はエコでも無い。
 エコというより、利権に絡んだ「エゴ」なんだろうな。
 しかし、原発事故というのは、しゃれにならない。
 事故が起こっても、隠蔽体質はいかんなく発揮されてしまった。
 
メルトダウンしていない(公式見解)
  ↓
絶対メルトダウンしている(ウワサ)
  ↓
実はメルトダウンしていました(後で発表された真実)

 公式見解よりもウワサの方が、情報が早くてしかも正確な国、日本。
 これって、どうなんだろう。放射能って、生命・健康にかかわることですよ。

 話を元に戻そう。日本はエコ(ECO)と叫ぶわりには、自然エネルギー導入は先進国の中で下位。自給率も下位。
 なのに、「都合のよい部分」だけを取り出して、事実を捻じ曲げてきた。
 たとえば、「原子力」という言葉は、日本独自の使われ方をしているという。
 外国では、原子力エネルギーは核エネルギー、原子力発電は核発電、原発事故は核事故という。
 原発事故は「核事故」。なるほど。いわれてみりゃそうだ。
 核は戦争に用いられる危険な物で、原子力は安全で平和利用できる物であるかのような、核は人間の手に負えないが、原子力は人間の手に負えるような、そんな刷り込みがされてきたのだな。
 なるほど。「絶対安全」と言いながら、事故が起きれば「想定外」。
 もはや自覚するしかないな。ずっと洗脳されてきたのだと。

4 労働問題、働きすぎについて
 森岡孝二先生(働きすぎをなくす)と藤永のぶよ先生(脱原発)の主張は、事なる視点からであるとはいえ、どこか通底するものがあったように思う。
 資本主義の発展のため(金儲けのため)には、死ぬほど働かせて労働者すらも消費・浪費する。これは「新自由主義」により顕著になった傾向だ。
 原発が一部の者の利権のために推進され、その負の側面は国民や原発労働者など弱者が負担する。これもまさに「新自由主義」の構造だ。
 そうか。お二方の主張は、全く事なる視点ではあるが、「新自由主義批判」という点では共通しているのか。

 労働時間短縮の経済効果や恩恵について、デンマークをモデルにしながら説明がなされた。
 デンマークは労働時間は短いが、世界有数なくらい、経済効率、生産性は高い。
 労働時間短縮により、家事や地域社会に貢献できる。それこそが豊かな生活ではないだろうか。
 日本ではどうか。現状では、過剰な働かせ方をさせて、残業代を支払わなかったりするブラック企業が後を絶たない。
 この国で働く多くの労働者にとって、過労死、過労やパワハラによるうつ病の問題は、決して他人事ではないはずである。現実問題として顕在化しているか潜在的かの差こそあれ。
 過労死、うつ病、サービス残業、名ばかり管理職、リストラ解雇、パワハラ。
 これらは、全て、根は一体なのだと思う。
 とりわけ、構造改革の名の下に日本にも導入された「新自由主義」は、何をもたらしたのか。それは格差社会を招聘し、古き良き日本の社会をいびつにゆがめる結果しかもたらさなかったのではないか。悲しいくらいに・・・

 学習会では、やはり組合運動の力だけではだめで、残業時間の明確で厳格な規制を「法律」で定めさせなければ労働時間の短縮は成しえない、
という趣旨の発言があった。
 補足しておく。
 残業時間の明確で厳格な規制を「法律」で定めさせなければ労働時間の短縮は成しえない、かもしれない。
 しかし、「法律」を定めさせるのは、組合運動や、法廷闘争を含めた社会運動や、世論の力にほかならないのだと。
 そして、定められた「法律」を守らせるのも、世論の力であり、国民の力なのだと。
 だから、組合の方々は頑張っておられるし、学者や法律家の先生も頑張っておられるし、様々な方が草の根で頑張っておられる。
 だって、国民主権って、そういうことなのだと思うから。

5 まとめ
 「震災後の日本の経済と社会はどう在るべきか」
 震災が揺るがしたものは、原発の安全神話、だけではない。
 問われているのは、大量消費を煽る資本主義社会のあり方、労働のあり方。
 何より、「新自由主義」との向き合い方が、もう一度問い直されなければならないのではないか。
 三・一一(震災と原発事故)が提起したものは、極論すれば、これからの日本と世界の進むべき方向性、そのものではないかと思う。
 改めて思う。問われているのは、社会の在り方、そして、私たちの生き方、そのものなのだと。
 最後に、拙い文章に最後までお付き合い下さった方々に、心から感謝を申し上げます。
 最後まで読んでくださってありがとう。

派遣労働研究会が大阪労働局と懇談しました

弁護士 長瀬 信明

 

  1.  本年6月6日、毎年恒例の派遣労働研究会と大阪労働局と懇談が行われました。派遣労働研究会から12名と大阪労働局から4名が参加し、当初の予定時間を超え、活発な意見交換がなされました。
  2.  懇談は、派遣労働研究会が事前に送付していた質問に労働局側が回答した後、質疑応答がなされるという形式で行われました。(1)2010年の大阪労働局における統計について
     労働者からの申告件数は6件、情報提供は0件とのことでした。相談件数については、統計がないとのことでした。
     大阪労働局で是正指導をした件数及び違反内容ごとの件数については、集計中とのことで、集計が取れ次第、マスコミやホームページで発表するそうです。ただ、概数については、回答が得られました。是正指導を行った件数については、事業者数で1000件を少し超えるくらいあり、指導がなされた件数のうち、偽装請負は30半ばくらいだそうです。業務偽装については、集計していないそうです。
     申告から是正指導までの期間についても、統計はないが、概ね長いもので2か月、短いもので半月程度とのことでした。
     指導の結果の内訳については、そもそも統計をとっていないそうです。統計を取らないのは、通常、是正指導書を渡し、指導内容に沿った是正がされているだろうという前提だからだそうです。
     直接雇用の申込み義務に関して指導・勧告を行った件数についても該当するものはないそうです。なお、直接雇用の「推奨」の結果については、統計をとっていないそうです。ただ、期間制限違反等があれば、ほぼ例外なく直接雇用の推奨を口頭でするとのことです。
     直接雇用の申込に関する申告があったかどうかについて、そもそも直接雇用をすべき要件を具備した違反がないので(派遣先が派遣元から抵触日に関する通知を受領していないので。派遣法40条の4)、申告があっても直接雇用を申し込むようにとの指導をしておらず、統計上、カウントしていないのだそうです。これに対して、まさに法の不備を示すものである以上、統計をとるべきとの意見が出されました。
     違反行為をしていた派遣元事業主に対する告発や、許可の取消、事業停止命令、改善命令等の件数については、改善命令について、3件(多重派遣2件、適用除外である建設業務への派遣1件)という報告がありした。なお、許可の取消等がほとんど行われていない理由は何かという質問に対しては、そうした処分が妥当する事案があれば、当然、行うという回答でした。
     単なる是正指導と改善命令の違いについて、改善命令は行政処分となるので、相手方に対して、弁明の機会の付与等を行った上で命令を行うことになるとのことでした。改善命令を行えば、マスコミやHPを通じて発表し、命令に基づいて是正が確実に行われるようにしているそうです。
     どのような場合に、改善命令が下されるのかについては、一定の基準を示してしまうと、業者にその数字さへ守ればよいと思われてしまうので、重大・悪質な事案、例えば、違反行為を繰り返したり、違反の期間が長いケースに改善命令をするとしか回答できないとのことでした。
     派遣法49条の2第2項に基づく勧告及び公表が行われた件数については、ないという回答でした。
     職業安定法48条の4による申告件数及びその内容については、申告件数は1件で、二重派遣のケースとのことでした。なお、職業紹介事業者に関しての申告はないとのことでした。職業安定法48条の2の指導・助言の件数及びその内容については、上記のケースで同法44条の「労働者供給事業」にあたるとして是正指導したとのことでした。

    (2)是正指導の申告を弁護士が代理した場合の労働局の対応について
     是正指導を求める申告は、当該労働者本人でなければならないのか、弁護士による代理は認めるのかという質問に対して、申告者本人が原則であり、代理人が来た場合、いったん受理するが、後に本人から直接事実関係を聞くことにしているとのことでした。文書提出のみをもって直ちに申告として取り扱うことはできず、本人が来て初めて申告となるとのことでした。
     代理を認めない場合、その法律上の根拠、実質的理由は何かという質問に対して、法律上の根拠としては、派遣法41条の3の「派遣労働者は」という文言であり、具体的に情報を聞き取ることが後の手続において効果的なので、本人から事実を聞き取ることを原則としたいということでした。
     この点について、法律上、弁護士による代理を禁止していない、他の申告(例えば、警察への告訴)等において、弁護士が代理人として、活動してる等の批判的な意見が出されました。
     また、弁護士会の自主事業として、労働局申告の代理援助を認め、積極的に奨励しているが、このこととの整合性をどう考えるかという質問に対しては、一応全国一律の扱いになっているはずであるが、厚生労働省に問い合わせて欲しいとのことでした。ただ、厚労相からの通達等はとくになく(大阪労働局の対応の仕方について、厚労相から間違いであるとの指摘は受けていないそうです)、事実上都道府県に任せられているとのことです。

    (3)申告に基づく指導・助言・勧告・企業名公表について
     「現下の厳しい雇用失業情勢を踏まえた労働者派遣契約の解除等に係る指導に当たっての労働者の雇用の安定の確保について(平成20年11月28日)」の通達に基づく直接雇用の推奨は、派遣法48条1項の指導・助言として行われるものかという質問に対して、派遣法48条の指導とは別であり、雇用対策の一環であるとの回答でした。
     派遣法48条1項の指導・助言において、当該派遣労働者を雇い入れるよう指導・助言する場合とは、どのような場合かという質問に対しては、「労働者派遣事業関係業務取扱要領」(以下、「取扱要領」といいます。)の第9の4(7)ホに該当している場合(派遣受入期間を超えて事実上派遣先において就業を継続している場合)であるとの回答でした。
     派遣法49条の2第1項の「必要な措置」の中には派遣労働者を雇い入れるよう勧告することも含むかという質問に対しては、含まないとの回答でした。
     派遣法49条の2第2項に基づき勧告をする場合とはどのような場合かという質問に対しては、取扱要領の第9の4(7)ホに該当している場合との回答でした。また、違法な労働者派遣が終了している場合には勧告を行うことができないのかという質問に対しては、違法な派遣でも終了している場合は勧告はできないとの回答でした。
     なお、派遣法44条の2違反等で一般的指導をされたにもかかわらず、違法派遣が継続している場合、例えば、1か月以内に是正しろと指導したにもかかわらず、是正されない場合、直ちに勧告が可能か、雇い入れの指導をした上でないと勧告できないのかという点については、明確な回答は得られませんでした。取扱要領を素直に読む限り、要件を満たせば、直ちに勧告することが可能だと思われますが、そうした運用はなされていません。通常、労働局が一定の指導をすれば、従うであろうということらしいです。
     また、以下の場合(派遣法40条の2違反を念頭に)、どのような対応が考えられるかという質問に対しても回答を得ました。
     まず、派遣就業中、派遣法49条の3の申告がなされ、労働局が是正指導したが、派遣就業を継続する場合、派遣就業を継続している理由を調査の上、速やかに是正指導するが、正当な理由がない場合は勧告を検討するとのことです。
     次に、派遣就業中、派遣法49条の3の申告がなされ、労働局が是正指導し、その後、派遣就業を終了したが、派遣元・派遣先が、派遣労働者の雇用の安定を図る措置をとらない場合、法違反については是正が完了しているが、雇用の安定を措置を図る措置がとられてないので、当該労働者の雇用の機会を与えるための指導が継続するとのことです。ただ、従わない場合はどうしようもないとのことです。
     さらに、派遣就業中、派遣法49条の3の申告がなされ、労働局が調査中に、派遣就業を終了したが、派遣労働者の雇用の安定を図る措置をとらない場合、調査時点において派遣可能期間を超える期間、派遣の役務提供を受けていれば、是正指導書の交付は行うとのことです。ただ、是正のための措置として雇用の安定を図る措置の対象となる労働者は、是正指導時に就業している労働者であることが必要だとのことです。
     なお、口頭での指導時には労働者が派遣就労していたが、指導書交付時には派遣就労していない(この間に切られた)場合には、雇用の安定を図る措置の対象とならないことになるとのことでした。
     この点については、契約期間を1か月など短くされて、是正後に期間満了を理由に雇い止めされるケースもあり、運用を見直すべきとの批判が集中しました。
     また、派遣法49条の3第2項の不利益取扱いの禁止とは、具体的にどのような場合が想定されているかという質問に対して、解雇・降格・賃金引き下げ等、他の労働者と比較して不利益な取扱をすることであり、申告をしたことを理由とする派遣契約の解除も含まれるとの回答を得ました。
     不利益取扱いを行った場合、どのような是正措置がとられるのかについては、ケース・バイ・ケースという回答でした。これに対しては、公益通報者保護法の場合のように、申告を理由に契約を解除されたなら、解除が無効であるとして、復帰させるよう指導することも可能なのではという意見もありました。

    (4) 派遣先が、法27条に違反して労働者派遣契約を解除した場合、どのような是正措置がとられるのか、派遣労働契約が解除されている場合はどうかという質問についても、ケース・バイ・ケースという回答でした。

    (5)指導書等の開示について
     前回の懇談会の際、是正指導書、派遣先・派遣元からの是正報告書、臨検報告書等の文書の送付嘱託や文書提出命令があった場合について、「現時点で申し上げると文書の送付は出来ない。」との回答でしたが、現時点においても変わりがないかとの質問に対しては、現時点では昨年と変わらず、請求があったときに考えるとの回答でした。