民主法律時報

2011年4月号

「個人請負・個人委託も労働者」 INAXメンテナンス事件 最高裁逆転勝利!

弁護士 河村  学

  1. 最高裁で逆転勝訴

     本件は、INAXメンテナンス(以下「会社」という)から形式的に個人業務委託業者として扱われ、INAX製品の修理業務に従事している労働者ら(CEと呼ばれている。CEとはカスタマー・エンジニアのこと)が、組合に加入し、会社に団体交渉を申し入れたところ、会社がCEが個人事業主であり労組法上の労働者に当たらないとしてその団交申し出を拒否した事件である。
     4月12日、最高裁は、東京高裁判決を破棄し、CEの労働者性を認め、団交拒否を不当労働行為とする判決を言い渡した。東京高裁の裁判官は、組合側の主張を「社会の実情ないし経験則に照らしても合理的とは言い難い見解」と批判していたが、最高裁はこのよう原判決の判断は是認できないとし、組合側の主張を認めたのである。

  2. 労働者性を巡るこれまでの経緯

     労組法上の労働者性をめぐっては、以前から労働委員会・裁判で争われていたが、概ね使用従属性という概念をあいまいに使用しながら妥当な結論を導くという方法で判断されてきた。
     この問題に関する代表的な最高裁判決として中部放送事件判決(1976年5月6日)があったが、この判決も従来の流れに沿った事例判決と目されてきた。この判例解説として掲載されたいわゆる調査官解説には、同判決の内容を意図的に形式重視の方向に引きつける解釈がなされていたが、実務においてはあまり問題にされてこなかった。
     その後、労働契約上の使用者性・労働者性については形式を重視した厳しい判断が続き、労組法上の使用者性判断についても、朝日放送事件最高裁判決(1995年2月28日)が出されたものの、うまく活用できないまま、同判決の具体的「決定」という文言を悪用し、親子会社や雇用問題にかかわる派遣先の使用者性についてはこれを否定する判断が続いた。実質的判断の最後の砦が労組法上の労働者性概念という状況であった。
     ところが、平成20年7月~平成22年8月の間に、6件の東京地裁・高裁で労働委員会の救済命令を覆す判決が続いた(本件東京地裁判決のみ結論として救済命令を維持したが法的判断は他の裁判例と同様であった)。これらの判決に共通するのは、契約形式を重視し、労働契約と同様の法的権利義務がなければ労働者と認めないという判断であり、この判断枠組みには前記調査官解説が十二分に活用された。かつての整理解雇に関する東京地裁・高裁の「暴動」に類する動きであった。
     本件最高裁判決は、このような東京地裁・高裁の動き及び中部放送事件最高裁判例解説の立場を明確に否定し、就労実態から労働者性を判断する立場とその判断要素を示したものである。

  3. 最高裁判決の判断内容

    (1) 本件最高裁は、CEの就労実態を直視し、次のような判断要素と事実の摘示を行って、労働者性を認める判断をしている(田原睦夫裁判官の補足意見あり)。

    ①会社組織への組込み
     会社の主たる業務をCEが担っていたこと、会社が業務日・休日を指定し、日曜・祝日においても交替で業務を担当するよう要請していたことから、会社の組織に組み入れられていたとみるのが相当とした。

     ②会社による契約内容の一方的決定
     業務委託契約の内容は、会社の定めた「覚書」によって規律されており、CEの側で変更する余地がなかったことから、会社がCEとの間の契約を一方的に決定していたものというべきとした。

    ③報酬の労務対価性

     CEの報酬は、会社が予め決定していた顧客等に対する請求金額に、会社が決定した級ごとに定められた一定率を乗じ、これに時間外手当等に相当する金額を加算する方法で支払われていたのであるから、労務の提供の対価としての性質を有するとした。

    ④会社の依頼に応ずべき関係

     会社から修理依頼された場合、CEは業務を直ちに遂行するものとされていたこと、依頼を拒否する割合は1%弱であったこと、契約は会社に異議があれば更新されないものとされていたこと、報酬額は会社が決定する級によって差が生じ、担当地域も会社が決定していたことに照らすと、拒否を理由に債務不履行責任を追及されることがなかったとしても、会社の修理補修等の依頼に応ずべき関係にあったものとみるのが相当とした。

    ⑤ 指揮監督、場所的時間的拘束
     CEは、会社が指定した担当地域内において会社からの依頼にかかる修理業務を行うこと、原則として業務日の午前8時半から午後7時までは会社から発注連絡を受けることになっていたこと、顧客先では会社による作業であることを示すため、会社の制服を着用し、その名刺を携行し、業務終了時には業務内容等に関する報告書を会社に報告していたこと、全国的な技術水準確保のためCEとしての心構えや役割、接客態度等までが記載された各種マニュアルの配布を受け、これに基づく業務の遂行を求められていたことから、CEは会社の指定する業務遂行方法に従い、その指揮監督の下に労務の提供を行っており、かつ、その業務について場所的にも時間的にも一定の拘束を受けていたものということができる。

    (2) 本判決は、以上の要素から労働者性を認めた上で、組合側が団体交渉で求めた事項(①組合員の労働条件に関する組合との協議要求、②組合員の手当等の支払要求、③年収の最低保証の要求、④貸与機材の損傷等を会社の負担にすべきこと、④労災保険への加入要求)について、そのいずれも「CEの労働条件その他の待遇」、または会社との間の「団体的労使関係の運営に関する事項」であって、会社が決定することができるものと解されるとして、正当な理由なく団体交渉を拒否することは許されないとした。

  4. 最高裁判決の内容に対する若干のコメント

     判決の内容については、同日に出された新国立劇場事件最高裁判決と併せて十分な検討を要するが、ここではさしあたりいくつか指摘したい。

    ② 東京地裁・高裁の判断を明確に否定
     まず、本判決は、この間、東京地裁・高裁が行ってきた労働者性解釈を明確に否定している。すなわち、近時の判決では「法的な使用従属関係」を強調し、業務指示や指揮監督が契約上の権利義務に基づいて行われていない場合には労働者性を否定する判断を続けていたが、本判決は、このような立場をとらず、就労実態から労働者性を判断している。

    ③ 判断要素として上記五つを示した

     次に、本判決は、上記五つの判断要素から労働者性の有無を判断している。これは新国立劇場事件判決でも同じであり(ただ、同判決では指揮監督と場所的・時間的拘束を分けて六つの判断要素となっている)、今後の労働者性の判断要素を示したものといえる。

    ④ 「依頼に応ずべき関係」という要素を挙げる
     判断要素の中で重要なのは、従来「諾否の自由」の有無として議論されてきた要素について、「各当事者の認識や契約の実際の運用において…依頼に応ずべき関係にあった」か否かという判断を行っている点である(この点は新国立劇場事件判決も同じである)。
     これは、一つには、諾否の自由の有無を法的な権利義務の有無としては判断しないことを明確にした点(わざわざ「拒否を理由に債務不履行責任を追及されることがなかったとしても」と書き加えている)、また、二つには、契約解除(更新拒絶)を恐れるあまり依頼に応じざるを得ないことも、「応ずべき関係にある」ことの理由に加えている点において重要である。
     この判示は、前記調査官解説の誤謬を訂正し、裁判官をその呪縛から解き放つものである。

    ⑤ 一方的決定の要素を挙げる
     また、会社による契約内容の一方的決定の要素を重視している点も重要である(新国立劇場事件判決も同じ)。近時の東京地裁・高裁判決はこの要素を徹底して無視し、前記調査官解説はそう解釈する根拠を与えていたが、本判決はこれらの解釈を否定した。
     確かに契約は双方の合意により成立するが、その内容が実質的に押しつけられる経済的地位であるが故に団結権が必要とされるのであるから、この要件は経済的従属性を示す重要な徴表になるものである。

    ⑥ 専属性について

     本判決は、専属性については判断要素としていない。ただ、なお書きにおいて、CEは独自に営業活動を行って収益を挙げることも認められていたとの原判決の判断に対し、本件では独自の営業活動を行う時間的余裕は乏しかったと推認されること、CE自ら営業主体となって修理補修をした例はほとんどないことから、「そのような例外的な事象を重視することは相当とはいえない」としている。また、補足意見では、この点に関し、「CE制度の対象者がCEの求める業務以外に主たる業務を行っていたり」する場合は一般の外注契約関係と異ならないとしている。
     しかしながら、通常の労働者でもダブルワーク、トリプルワークをするのであり、他に業務があること自体が労働者性を緩める要素にはならないはずである。本判決では専属性は判断要素になっていない点を確認する必要がある。

    ⑦ 報酬額について

     本判決は、報酬の労務対価性判断において、報酬の額については何ら触れていない。一方、新国立劇場事件判決では報酬額が年間約300万円であったことを対価性の理由の一つに挙げている。これは後者が音楽家という特殊な芸術的技能を有する場合もあることから触れられたのだと思われる。少なくとも特別な免許・技能を要しない業務への労務提供の場合には報酬額の多寡は問題にならないというべきである。

  5. 今後の取り組みについて

     本判決は、労働者性に関する一般的な判断基準を定立はしなかったが、上記のような判断要素がくみ取れるので、今後の同種紛争にも大きく影響を与えるといえる。本判決が、法的な契約形式にとらわれず、就労実態から労働者性を判断するという姿勢を示した点は、当然のこととはいえ、評価できるし、契約形式を悪用し、さまざまな偽装を凝らす使用者が次々出ている昨今の状況に鑑みれば極めて重要な判断であるといえる。
     本判決が示した判断要素がすべて必要なのかなど疑問もあるが、今後、労働委員会・裁判の中ではこれらの要素にかかわる具体的な就労実態を示していくことが必要となる。
     現在、個人請負型就労者に関しては、公的な統計はないが、110万人とも125万人とも言われている。職種も運送員、外交員、技術者、建築作業員といった従来からあった職種に加えて、美容師、講師、配膳・調理補助、受付、ゴルフキャディなどさまざまな職種に広がりつつある。
     この判決を期に、労働法上何らの保護も受けない中で就労させられている「労働者」を大きく組織し、団結権・団体交渉権・団体行動権を行使して、要求実現を図る運動を起こす必要がある。
     なお、厚生労働省は、2010年4月に「個人請負型就業者に関する研究会」報告書を発表し、また、現在は「労使関係法研究会」を開いて本年6月にも中間報告を取りまとめる予定である。前者では、一定の業種について個々に労働者性に関する判断基準を設けるべきだとか、請負・委託で働くことの意味を募集の際に周知・徹底させるべきだなどと提案がされている。今後とも形式化の動きには警戒が必要である。

(弁護団は、村田浩治、河村学、愛須勝也、古本剛之、古川拓)

津田電気計器継続雇用裁判 大阪高裁でも勝訴

弁護士 谷  真介

  1. はじめに

     昨年9月30日に大阪地裁において勝訴したJMIU大阪地本傘下の津田電気計器支部書記長の岡田茂さんの高年法継続雇用裁判が、平成23年3月25日、大阪高裁でも原審の結論を維持して勝訴した(残念ながら会社より上告され確定せず)。この種の事案で高裁レベルで全国で初めて地位確認請求が認められたものであり、その意義は少なくないので、報告する。

  2. 制度及び事案の概要

     改正高年法9条は、年金支の給開始年齢が段階的に65歳まで引き上げられるに応じ、65歳未満の定年を定めている事業主に対して、①定年の延長、②継続雇用制度、③定年制の廃止のいずれかの措置を講じることを義務付けた。この改正の趣旨は、年金制度の改悪に伴って労働者の生活が破綻せぬよう、雇用生活と年金生活の間に空白を埋めることにある。本件は、岡田さんが改正高年法に基づいて会社が導入した「継続雇用制度」による雇用継続を申し入れたところ、会社が過去の組合活動を嫌悪して恣意的に低い査定をした上で、岡田さんが会社の継続雇用制度の基準をクリアしていないとして、継続雇用を拒否されたという事案である。
     裁判上の争点は、①本件継続雇用制度の導入手続が高年法9条2項、附則5条に違反しないか、②本件継続雇用制度の継続雇用者選定基準が高年法9条2項に違反しないか、③岡田さんが本件継続雇用の選別基準をクリアしていたか(会社の査定が正当か)、④③がクリアしていたとして岡田さんと会社との間に労働契約が成立しているといえるか、などであり、その中心的な争点は③及び④である。
     会社の継続雇用制度の選別基準は、(簡略化していうと)Cを0点とするA~Eまでの5段階査定によって、総合計点が0点以上であれば継続雇用するというものであった。岡田さんは直近1年の査定において、プラス査定であるB評価が3項目(+6点)あるものの、マイナス査定であるD評価が5項目(-10点)あり、懲戒実績としてさらに-2点され、総合計点は-4点(-6点となるはずであるかなぜか-4点)というものであった。

  3. 大阪地裁判決

     昨年9月30日の大阪地裁判決は、会社がD評価と査定した5項目のうち2項目は誤りでC評価とされるべきとし、また懲戒実績は存在せず-2点は0点とされるべきとした上で、さらに表彰実績があるにもかかわらずそれをプラスしていないのは誤りであるとして(表彰実績は+5点となる)、岡田さんは合計+7点であったとして会社の継続雇用制度の選別基準をクリアしていると判断した(なお原告は査定に関しては立証責任が会社に課されるべきだと主張したところ、地裁判決は、査定の立証については会社と労働者がそれぞれ行うものであるが、査定に関しては会社が独占しているため査定を濫用したものと解される場合が多いという一般的判断を示した)。
     その上で、法的構成としては、会社が就業規則により継続雇用制度を策定し労働者に周知したことが再雇用の申込にあたり、その継続雇用制度の選別基準をクリアした労働者が継続雇用の希望をしたことが再雇用契約の承諾にあたるとした。そして本件でも再雇用契約が成立しているとして岡田さんの地位確認及び賃金請求を認めたのである。

  4. 大阪高裁判決

     地裁判決を不服として会社が控訴したところ、大阪高裁では第1回期日で結審し、その後の和解でも会社が一歩も譲らなかったため判決がなされることとなった。
     判決では、まず法的構成について地裁判決の枠組みから変更する判断を行った。すなわち、会社が就業規則により継続雇用制度を策定し労働者に周知したとしても、その後の労働条件については交渉等が行われて決定されるのであるからこれをもって労働契約の申込とは考えられず申込の誘引にすぎない。そして、労働者の継続雇用の希望が申込にあたり、それに対して会社が継続雇用する旨の意思表示が承諾にあたるとした。もっとも、その会社の承諾は会社の完全な裁量によるものではなく、継続雇用制度の選別条件を満たした労働者が継続雇用を希望(申込)したのに対して会社が不承諾とした場合には、解雇権濫用法理を類推適用され、その不承諾は権利濫用となるという枠組みを示した。その上で、査定について会社の側で把握しているものであるから、労働者が選別基準を満たしていないことについては会社が主張立証責任を負うとした。この高裁判決が示した枠組みについては、地裁判決とは異なるものの、結論としては地裁判決と差異は出ないと考えられる。逆に選別基準をクリアしているかどうかについて査定の立証責任を使用者に課している点では、評価できるものと考える。
     しかし高裁判決は、実際の岡田さんの査定のあてはめにおいて、会社の査定を丸飲みするかのような事実認定を行った。すなわち、会社のなしたD評価のうち2項目をC評価と改めた地裁判決を覆し、会社の評価どおりすべてのD評価を維持した(B評価が3項目あるため合計-4点)。もっとも地裁判決と同様に懲戒実績(-2点)についてはこれを認めず、会社が評価からはずした表彰実績(+5点)を認めたため、合計+1点であるとして、結論としては岡田さんは選別基準をクリアしていると判断した。岡田さんは表彰実績があったためギリギリ救われた、という結論となったのである。いくら一般論として選別基準に関して会社に立証責任があるとされても、実際の査定についてこのように会社の行った査定を丸飲みした判断がなされれば、結局会社はいくらでも恣意的な査定や継続雇用拒否を行うことが可能となる。この点については、多いに問題のある判決であるといえる。

  5. 最後に

     本件裁判の意義は、高齢者の雇用の確保を図るという改正高年法の趣旨を使用者に守らせ組合活動その他を理由とする差別・選別を許さないことにあり、本件で高裁判決においても結論として達成できたことは大変嬉しいことであった。もっとも、本件は上告され、岡田さんの職場復帰は未だ達成できていない。さらに本件を提訴した後、他2名の組合員も岡田さん同様に継続雇用を拒否されて、労働委員会や裁判で争っている(予定含む)。会社に高齢者の雇用について責任を果たさせるためには、まだまだこれから正念場を迎える。最終解決まで組合員らとともに全力を尽くしたい。

(弁護団は鎌田幸夫、谷真介、中村里香)

ノーモア・ミナマタ近畿国賠訴訟 勝利和解

ノーモア・ミナマタ近畿国賠訴訟弁護団
団長 弁護士 徳井 義幸

  1. はじめに

     去る3月28日、大阪地方裁判所において、ノーモア・ミナマタ近畿訴訟の和解が成立した。これは、3月24日の東京訴訟、翌25日の熊本訴訟での和解に続くもので、これにより2005年10月の熊本地裁の第1陣提訴(原告50名)以来、2009年2月の近畿訴訟提訴、2010年2月の東京訴訟提訴と全国に広がったノーモア・ミナマタ訴訟の全原告について和解が成立したことになる。和解成立時の原告数は、三つの訴訟の合計で2,992名に達する。
      2004年の国・県の水俣病被害の拡大に対する責任を認めた最高裁判決以降も国が被害者救済を放置したことに対して、多くの被害者が行政認定や訴訟を提起する動きが拡大してきたが、この間の特措法の制定ともに今回のノーモア・ミナマタ訴訟の和解解決によって、水俣病被害者救済は大きく前進すると共に新たな局面に入ったことになる。なお、訴訟ではなく特措法による行政救済を求めている被害者は4万人に達している。
      水俣病の公式確認された1956年5月よりすれば、すでに55年近い歳月が経過したことになり、公害の原点とされた水俣病の被害者救済のこのような驚くべき歴史的遅延には、日本の公害行政の怠慢が集中的に表現されているということができよう。

  2. 今回の和解とその成果と評価について
     ところで今回の和解では、熊本・近畿・東京の全原告2,992名のうち、一時金210万円の他療養費支給等の対象者が2,772名の92.6%、医療費のみの対象者が0.7%、あわせて93.4%の原告が救済対象となり、近畿訴訟では原告306名のうち、282名(92.2%)が一時金等対象者、1名が医療費のみの対象者となり、多くの原告が救済対象(92.5%)となった。従来の行政認定では到底達成することのできなかった高率の救済率である。
     これは、従来の加害者(国・県)が被害者を選別するという不合理なシステムを打破し、被害者切り捨てを許さないための判定機関として、被害者側の医師も参加する「第三者委員会」という公正・公平な判定の仕組みが実現した成果である。また、従来の行政認定が、複数の症状の組合せを要求してきたのを変えて、四肢抹消優位のみならず全身性の感覚障害のみで水俣病と認めるという判断条件の変更も大きい。
     さらに大きな成果としては、行政が水俣病の発生を否定してきた「指定地域外」の居住者や「昭和44年12月以降」の出生の被害者についても一定割合の救済者を出したことがあげられる。そもそも、水俣湾や不知火海の魚は当然のことながら回遊しているのであり、行政的な線引きによって、同じ汚染された魚を食べたのにある地域では水俣病になりある地域では水俣病にならないなどと言うことがありえないことは歴然としているのである。また加害企業チッソは昭和43年5月に水銀の排出を停止したが、行政はそれ以降は水俣病は発生しないとの論理に立ってきた。汚染された海や魚がある日突然無害になるなど、これほど非論理的な被害者切り捨ての論理もなかろう。
     今回の和解に基づく「第三者委員会」の判定は、不十分ながらも従前のこのような行政の論理を打破することになったものである。
     まさに、被害者救済の枠組を量的にも質的にも拡大したものであった。
     また、水俣病に関する情報の欠如と適切な医療機会の欠如という障害をかかえるなかで被害者救済が放置されてきた近畿・東京等の県外居住者についても、平等の救済が実現できたことは、県外居住者の被害救済にも改めて光を当てたものである。
  3. 今後の課題

     前記の如く、今回の和解は、大きな成果を生み出したが、しかし未だ救済されていない水俣病被害者の存在をも浮かび上がらせている。全ての水俣病被害者の救済のためには、「指定地域外」の居住者や「昭和44年12月以降の出生者」を含めて、不知火海沿岸住民の健康調査の実施に基づく被害の全貌の把握が必要不可欠であるが、国は未だにこの健康調査の実施には消極的である。
     私たちは、和解で定められた原告ら関係者も参加した下での「メチル水銀と健康影響との関係を客観的に明らかにする」「調査研究」「そのための手法開発」や県外居住者の水俣病関係の情報不足、適切な検診の機会の欠如等の「障害を極力克服する措置」の早期の実現を国に対して求めていくものである。
     そしてすべての被害者救済が終わるまで、加害企業チッソが分社化による責任逃れをしないよう引続き監視していく必要がある。
     また、特措法による行政救済を求めている4万人の被害者のフォローも今後の大きな課題である。特措法による行政救済が、従前の行政認定と同様の被害者切り捨ての運用となれば、またまた多数の被害者が未救済になるおそれがあるのであり、特措法はその運用を3年を目途に終了するとされている点も被害者救済を狭いものとするおそれがある。
     全ての被害者の救済とノーモア・ミナマタの声は、被害が未救済である限り続かざるを得ないのである。

  4.  最後に、この戦いを支援されてきた全ての人々に感謝を申し上げ、ノーモア・ミナマタ近畿国賠訴訟の勝利和解の報告とします。         

大学における非正規労働の問題~京都大学時間雇用職員雇止め事件

弁護士 塩見 卓也

2011年3月31日、京都地裁にて、京都大学時間雇用職員雇止め事件につき判決が言い渡された。

 現在、日本の多くの大学で、任期付雇用や、3年ないし5年を上限とする不更新条項を設けるなどにより、いとも簡単に非正規事務職や非常勤講師が使い捨てられることが問題となっている。京都は「大学の街」である。私も、この間このような問題に関する相談を沢山受けてきた。

 3月31日という日は、有期雇用で働く者にとって特別な日である。有期雇用で働く者は、毎年この日が近づくにつれ、自分は来年度もこの職場で働き続けられるのか、不安な日々を送る。そして、やっとその更新に対する不安が解消されたとしても、この日、大学、行政、民間のいかんを問わず、日本中の職場で、自分の倍以上の報酬をもらっている正規雇用の者がやれ異動だ、昇進だとばたばたしている光景を、複雑な気持ちで見ることになるのである。京都大学においても、かつては有期雇用の更新に連続性を持たせないために、契約期間の満了日を3月30日、4月1日から再雇用とし、この日1日を「失業」している日にするという不当な運用が行われていたという、有期雇用で働く者にとって象徴的な日なのである。

 この日の判決は、このような象徴的な日に、実際にこの日をもって雇止めされることを通告された他大学の非正規職の方々たちも傍聴している前で言い渡された。結論は、全部棄却である。

 この判決、端的に言えば、従来の日本的職業観・家族観では、現在我が国に蔓延している数多くの諸問題に対処できなくなっているという社会的現実を全く理解せず、逆にそれら諸問題の根源となっている従来の価値観に基づく差別意識が前面に出た不当判決である。

 唯一評価できる部分としては、「有期労働契約という雇用形態は、原則として期間を定めなければならばない理由がある場合に採用されるべきであり、本来こうした有期労働契約にはなじまない労働であるのに、必要以上に短い雇用期間を設定し、その期間を反復更新するという法的なテクニックを用いることによって労働者を不安定な地位に置き、自らはいつでも雇用を切ることができるというアンフェアーな契約関係を設定することが信義則に反する」と判示されたところが挙げられる。この判示部分は、労働契約は期間の定めがないのが原則であることを宣言したと読める。判決で無期雇用原則が述べられたというのは、おそらく初めてではないかと思われる。この判決、ここから先の判断がより精緻で社会通念に沿ったものになっていたならば、たとえ敗訴判決であったとしても、「いい判決」であったといえたかもしれない。

 しかし、その先が明らかに差別観に満ちた問題のある判決なのである。判決は、「原告らの労働契約は、1週間あたりの労働時間が30時間を超えないことを想定したものであり、時給も補助的な職務内容であることを考慮した金額」であるとし、そのようなパートタイム労働については「家計補助的労働」と位置づける。そして、そのような労働は「労働契約が更新されなかった場合に労働者の生活そのものが崩壊するというようなことを想定しなければならない類型の労働とはいい難い」、「一つの事業所における労働のみで生活を維持する必要があると考える労働者であれば、このような類型の労働契約を締結するということは通常想定し難く、こうした労働契約に応募する者の多くは、基本的には配偶者の収入を主たる財源として生計を維持することを想定」していると述べ、それ故に契約更新に対する合理的期待がないと切り捨てるのである。

 いうまでもなく、この判断はどう考えても論理破綻があり、かつ非常識である。まず一つの問題点は、短時間労働であったからといって、それに就労する労働者が「家計補助的に」収入を得るために働いていると論理的にいえるはずがない点である。シングルマザーの例を挙げるだけで破綻が明らかな論理である。

 二つ目には、今の社会の現実では、短時間・低賃金の労働であったとしても、それを選択せざるを得ない若者や女性が数多くいるということを全く理解していないという点である。若者や女性の非正規率は過半となっていることは統計上も明らかなことである。特に大学においては、旧文部省の旗振りで90年代から始まった大学院重点化計画の失敗により正規職の就職口からあぶれた大学院過程修了者が毎年大量に溢れるという、いわゆる「ポストドクター問題」により、学内の非正規職や非常勤講師の仕事を掛け持ちしながら生活せざるを得ない者が沢山いるということも明白な事実である。それらの点で、この判決の示す社会観は、明らかに社会の現実に沿わない非常識な社会観であるといえる。

 さらに、この判決は、「京都大学を卒業した原告らが、家計補助的労働力にしか従事できない客観的かつ合理的な事情があることを窺わせるような証拠は全くなく、原告らが、どのような世界観、人生観のもとに、こうした就労形態を選択したのかは明らかではない。社会一般から見れば、生活を維持するために必要な労働をするというのであれば、それだけで生活を営むことが可能な収入が得られ、逆に言えば、そうした収入に見合う責任・職責を果たすべき職業に就くべきものであり、客観的かつ合理的理由がないのに、家計補助的労働に従事しておきながら、家計補助的労働とは質の異なる労働形態に係る労働契約の場合における解雇権濫用の類推適用の基準と同一の基準による解決を求めることはできないというほかない。」とまで言い切ってしまうのである。つまり、暗に「京大出てるんだったら、もっといい仕事に就けたでしょう。なのにこんな仕事を選んだお前らが悪い」という意味のことを述べているのである。まさしく、裁判官の時代錯誤的価値観、非正規労働者や女性、学歴などについての差別観がにじみ出た判決というべきである。

 この事件の当事者2名は、「京都大学時間雇用職員組合ユニオン・エクスタシー」という労働組合を結成し、この2年間、京都大学の非正規事務職に対する更新上限条項、いわゆる「5年条項」に反対し、大学の時計台前でテントを張った座り込み活動を行ってきたことで、関西の報道では話題を呼んだ人達である(うち1名は私の学生時代の友人でもある)。そのような目立つ活動が話題を呼び、彼らの周りには、大阪大学、関西大学、京都精華大学、龍谷大学など、数々の大学で同様に非正規労働者の立場からたたかっている当事者が集まるようになり、注目を集めるようになっていた。今回の判決は、最初にも述べたように、この判決言い渡し日に雇止めされる方たちを含む、大学非正規労働問題の当事者たちの目の前で言い渡された。判決後の報告集会では、これらの方々は、一様に大きなショックを受けていた。「自己責任」では如何ともし難い社会状況の中、非正規の立場で働いてきた人達がこの判決に対し、「私達を馬鹿にしている」ものと受け取るのも当然のことであろう。残酷な話である。

 私は、京都地裁では、NTT3重偽装請負事件においても、「職安法違反の事実があるかどうかは判断する必要がない」、「本人も派遣労働のようなつもりで働いていたのだから受入事業者が責任を負わなくてよい」という趣旨の判決をもらっている。NTTの事件は合議事件だったが、その合議体には今回の判決を書いた和久田斉裁判官も所属していた。いずれの判決も、非正規労働に対する理解が足りなさすぎるといわざるを得ない。

 私はこれまで、偽装請負、違法派遣、細切れ有期雇用と、数多くの非正規労働問題の事件をやってきたが、この深刻な社会問題に対する裁判官の無理解には、ほんとに絶望的な気持ちにさせられる。しかし、絶望してしまっては決して世の中は変わらない。だから、逆にこのような判決の酷さをもっと社会にアピールし、今後もたたかいの手を止めない所存である。

ブラジル人整理解雇事件を振り返って

弁護士 弘川 欣絵

新61期の弁護士を中心として取り組んだ日系ブラジル人整理解雇事件がようやく解決を見ましたので、会員の皆さまにご報告させていただきます。

  1. 事件の経緯 事件の発端は、2008年末のリーマンショックが吹き荒れる中、長浜キヤノンがトナーカートリッジの製造を減らすことを決定し、小西産業との請負契約を解除したことに始まります。これにより、小西産業は、長浜キヤノンで働くブラジル人労働者を269名解雇しました。その内の8名が、整理解雇の無効を訴えたという事件です。
     私たちが、この外国人の大型(?)労働事件を引き受けることになったのは、私たちが、全国の新61期弁護士約40名で構成する「在日ブラジル人等の不就学児童をなくす若手弁護士の会」(通称「若弁会」)の関西チームのメンバーだったからです。派遣切りによりブラジル人学校に行けなくなってしまった子ども達の実情を調査していくにつれ、親たちの労働問題に取り組む必要性を痛感していた矢先に、この話を聞いたのでした。
  2. 労働審判 労働審判を申し立てる前に、既に、労働組合が何度も団体交渉を行っていましたが、小西産業は一切、整理解雇の必要性に関する決算書等の資料を開示されることはありませんでした。労働審判期日においても、「リーマンショックにより波及した世界的な金融危機」であり、「全従業員の80%を超える1300名もの従業員を解雇」したのだから、人員削減の必要性は公知の事実であり、客観的な資料を開示する必要はないという主張に終始する有様でした。
     その結果、労働者の地位を認める審判を得ることができました。
     しかし、小西産業が異議を申し立てたため、事件は本訴に移行することになりました。
  3. 本訴 事件は長期戦の様を呈し、原告たちの疲労は大きくなっていきました。団交・審判・訴訟の打ち合わせは頻繁に行われ、通訳を介するために、打ち合わせの時間は通常の3倍はかかりました。労働審判の際は、長浜で打ち合わせをやっていたので、その度に、丸一日かかりました。本訴になって、打ち合わせも裁判も大津になったので、近くなって喜んだぐらいでした。
     私たち弁護団も、打ち合わせを効率的に行うために、通訳人を複数確保するだけではなく、アンケートや説明事項について事前にポルトガル語で翻訳したものを配るなど、その準備にかなりの労力を費やすことになりました。
     小西産業は、「リーマンショック」を楯に、整理解雇が有効であると主張してきたのですが、本訴の証人尋問により、リーマンショックに関わらず、請負先との契約が終了する際には、いつも、従業員に対し、解雇予告通知書を手渡していたことが判明しました。
     これにより、今回はたまたまリーマンショックと重なっていたが、従来から、請負契約が終了する度に、何ら解雇回避努力もせずに、従業員の解雇をルーティーンで行っていたという実態が浮かび上がってきたのです。
     こうして訴訟は進み、最終的に、勝訴的和解を成立させることができました。
  4. 事件を振り返って 本件は、ブラジル人の労働事件ということで、若弁会の趣旨にもぴったり合ったため、一も二もなく引き受けたのですが、いざ、事件に取り組むと、思った以上に大変なものでした。
     特に、原告たちと日本語が全く通じないということにはいろんな意味で苦労をしました。手間がかかるということもありましたが、私たちとの間で、日本社会や日本の制度についてのコンセンサスが得られず、通訳を介しても、なかなか信頼関係を構築していくことはできなかったように思います。
     原告たちは、当初、「日本には労働者のための法律が無い」と断言していて、私はその言葉に衝撃を受けたことを覚えています。ブラジル人たちは、日本語が読めず、当然六法を読むことはできません。そして、日本社会で、日本人のコミュニティと接点はほとんどない現状の中で、小西産業が、日本人との唯一の接点であり、日本における最大のコミュニティでした。その小西産業に裏切られたのですから、日本社会に対する不信感は相当なものだったのではないかと思います。ですから、原告たちにとって、日本社会は、まさに「無法地帯」だったのだと思います。
     和解が成立したあと、原告の1人が、「ブラジルに帰国しても、日本で権利を守る法律があり、守ってくれる人がいたことを伝える」と言ってくれました。日本社会において自分たちの尊厳を勝ち取ったことは、原告たちにとって、何よりの戦利品になったのではないかと思います。私たちも、「日本も捨てたものではない、日本に来て良かった。」と少しでも思って貰えたことが、本当に嬉しかったです。
     小西産業だけでなく、外国人を雇用する多くの会社が、「出稼ぎ(外国人)労働者は解雇してもよい、賃金を十分に支払わなくても大丈夫」という感覚をもって、外国人労働者たちを働かせているのが現実です。今回の勝利が、少しでも、日本における外国人労働者の権利保障につながればと思います
     弁護士になって4ヶ月で、新人同期だけで事件に取り組むことになり、不安も多々ありましたが、事件を通して多くのことを学びました。そして、諸先輩方から多くの温かい助言や励ましをいただきました。会員の皆さまには大変感謝しています。どうもありがとうございました。

(弁護団メンバー:喜田崇之、團野彩子、野澤佳弘、弘川欣絵、牧亮太、和田壮史)