民主法律時報

アストラゼネカ社の責任断罪! 国の不十分な対応指摘!

弁護士 諸 富   健

 

  1. 大阪地方裁判所判決
     2010年2月25日、大阪地方裁判所において、薬害イレッサ西日本訴訟の判決が言い渡され、イレッサに指示・警告上の欠陥があるとして、アストラゼネカ社に対して製造物責任法上の責任を認めました。一方、判決は国の法的責任を否定しましたが、国の行政指導が不十分だったことを指摘しました。
  2. イレッサとは
     肺がん治療薬イレッサは、2002年7月5日、わずか5か月余りのスピード審査で、世界で初めて日本で承認されました。アストラゼネカ社の広告戦略もあって、承認前には副作用の少ない「夢の新薬」として大々的に宣伝され、医師も患者もイレッサの承認を待ち望んでいる状況でした。
     ところが、承認直後からイレッサによる間質性肺炎等の副作用死亡報告が相次ぎ、市販後半年で180人、2年半で557人もの副作用死亡者が生じました。2010年9月末現在で、副作用死亡者数は819人も上っています。
     イレッサの副作用により致死的な間質性肺炎等が生じることについては、承認審査段階で既に分かっていたことでした。ところが、国は、イレッサの副作用報告について十分な検討をせずに、添付文書の重大な副作用欄に間質性肺炎を記載するよう指導するにとどまったのです。その結果、添付文書の重大な副作用欄の4番目、下痢や肝機能障害等の後に間質性肺炎が記載されましたが、致死的であることについて警告欄等に記載されませんでした。
     そのため、現場の医師はイレッサの危険性について十分認識することができず、経口剤という手軽さもあって、2002年8月30日に保険適用されて以降、イレッサは爆発的に使用されるようになりました。その結果、前述のとおり、間質性肺炎等の副作用死亡報告が相次ぎ、同年10月15日、添付文書が改定されて急性肺障害、間質性肺炎についての警告欄が設けられて重大な副作用欄の最初に急性肺障害、間質性肺炎が記載されるとともに、緊急安全性情報が配布されたのです。
  3. 訴訟の経緯
     薬害イレッサによる被害者遺族・患者は、国とアストラゼネカ社を相手として、2004年7月15日に大阪地方裁判所、同年11月25日に東京地方裁判所にそれぞれ提訴しました。そして、6年にもわたる審理を経て、2010年7月30日に大阪地裁で、同年8月25日に東京地裁で、それぞれ結審しました。
     原告・弁護団は、薬害イレッサ事件の早期全面解決を果たすためには裁判上の和解が必要だと考え、2010年11月26日に和解勧告を上申しました。その結果、2011年1月7日、大阪・東京の両裁判所から所見を伴う和解勧告がなされました。所見は、致死的な間質性肺炎について十分な注意喚起を行わなかった国とアストラゼネカ社の責任を明確に認めるもので、原告・弁護団は、この所見を高く評価し、いち早く和解協議に応じることを表明しました。
     ところが、国もアストラゼネカ社も和解勧告の受入れを拒否しました。これは、がん患者の知る権利と医薬品の安全性確保の重要性を否定することにほかなりません。
     しかも、国は、日本医学会の会長に和解勧告に対する見解についての下書き(文案)を手渡していました。その結果、この下書きをベースにした会長名の見解が発表されたのです。さらに、この見解発表と同じ日に、日本肺癌学会、日本臨床腫瘍学会、国立がん研究センター理事長からも類似の見解が出されたのです。産官学の癒着による世論誘導の可能性が高く、許し難い暴挙だと言わざるを得ません。
     そのような経緯を経て、2011年2月25日、大阪地方裁判所で判決が言い渡されました。判決は、イレッサ承認当時、副作用に関する警戒を十分しないまま広く用いられる危険がある一方、イレッサにより致死的な間質性肺炎が発症することの認識可能性があったのであり、少なくともイレッサの間質性肺炎について重大な副作用欄の最初に記載すると共に、致死的な転帰をたどる可能性について警告欄に記載して注意喚起をはかるべきなのに、それがないイレッサには製造物責任法上の指示・警告上の欠陥があるとして、アストラゼネカ社の責任を認めました。
     他方、国の法的責任は否定しましたが、「添付文書の重大な副作用欄に間質性肺炎を記載するよう行政指導をしたにとどまったことは、必ずしも万全な規制権限の行使であったとは言い難い。」と断じ、国についても薬害イレッサ事件の早期全面解決を図る社会的な責任があることを指摘しました。
     間質性肺炎の致死性を警告欄に記載しなかったアストラゼネカ社の責任を認めながら、警告欄への記載を指導しなかった国の責任を否定したのは全く説得力を欠くものであり不当です。しかし、国家賠償法上の違法性について紙一重で免れたとはいえ、不十分な行政指導については指摘されたのですから、国は、判決が提起した課題を真摯に受け止め、速やかに原告との協議の席につくべきです。
  4. 今後の展開
     2011年3月11日、原告・弁護団は控訴しました。それは、判決が国の法的責任を否定したこと、また、アストラゼネカ社の責任についても緊急安全性情報を配布した2002年10月15日以降の法的責任を否定したこと、さらに、原告・弁護団が国とアストラゼネカ社に対して直ちに全面解決のための話し合いの席につくことを求めてきたにもかかわらず、誠意ある対応をとらず真摯な反省を示さなかったこと、以上のことから訴訟を確定させることができないからです。
     同年3月23日には、東京地方裁判所で東日本訴訟の判決があります。国とアストラゼネカ社が薬害イレッサ事件の解決を先延ばしする理由は全くありません。原告・弁護団は、薬害イレッサ事件の早期全面解決に向けて全力を挙げる所存です。みなさまのご支援をよろしくお願い致します。

(2011年3月17日記)

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