民主法律時報

2011年1月号

労働局の申告による指導を根拠に使用者性と団交応諾義務を認定~ブリヂストンケミテック事件の判断

弁護士 村田 浩治

  1. 事件の概要
     本件は、20年にわたる偽装請負職場(発注者はブリヂストンケミテック株式会社(以下「会社」という)。請負会社はトップワーク(以下「請負会社」という))で、2年ないし8年勤続してきた日系ブラジル人労働者らが、個人加盟組合である三重一般労働組合(ユニオンみえ)に加盟し、職場での人権侵害行為や職場の改善要求、会社への直接雇用要求を掲げ、団体交渉を求めたところ、会社が、「雇用主」でないことを理由に、これを拒否した事案である。
     労働者らが就労していた会社の職場環境は劣悪であった。自動車シートの加工業務で室温は極めて高く、二交代勤務(日本人だけ三交代)で、常に残業が予定されており、勤務中はトイレにも行けないという超過密労働であった。
     このような就労環境の中、ある女性労働者が生理のためトイレに行きたいと申し出たが、暫く待つように言われ、結果として衣服が汚れるという事件や、請負会社(トップワーク)による恣意的な解雇事件が起きた。
     これらが発端となって、10名以上もの労働者が組合に加盟し、会社に対して団体交渉を求めることとなったのである。
     この労働委員会への救済申立てについて、三重県労働委員会は、2010年11月25日(10月25日付)、会社への直接雇用を求める交渉事項について、労働者の「雇用の安定について団体交渉に応じなければならない」との命令を発した。
     なお、本件では、このほかに請負会社に対する地位確認訴訟、労働局に対する是正申告も行っている。
  2. 労働委員会の判断

    (1)使用者
     委員会は、労組法7条の使用者は、「労働契約上の使用者に限られるわけではなく、使用者に当たるか否かについては、労働者の団結等を侵害する一定の行為を不当労働行為として排除、是正して正常な労使関係を回復することを目的とする同条の趣旨に即して判断されるべき」であるとした上で、朝日放送事件の部分的使用者概念に則し、「団体交渉申入れ事項ごとに、実質的に見て、会社が、当該事項に係る派遣労働者の基本的な労働条件等に関して、雇用主と部分的とはいえ同視できる程度に現実的かつ具体的に支配、決定することができる地位にあるかどうかを検討し、これに当たる場合には、その限りにおいて、会社も労組法上の使用者に当たる」とした。
     使用者は、派遣法に規定のある苦情処理制度を設けているから団体交渉に応じる必要はないと主張したが、これについては、「苦情処理制度は労働者個人に苦情処理を申し出る道を開いたものであって、これが、派遣労働者の労働条件等に係る労働組合と派遣先の団体交渉に代替し、労働組合の団体交渉権を制約ないし排除するものであると解することはできない。」として明確に否定した。

    (2)組合員がすでに、職場にいない場合の救済の可否
     団体交渉拒否の救済については、人権侵害を訴えていた女性労働者は、帰国したため、交渉事項としては、4名の解雇事件に絞られた。
     会社側からは、現在、会社において就労する組合員が不存在であることを理由に申立人の適格を欠く旨の主張がされたが、この主張について、委員会は、まず、就労当時の組合員がいる以上、訴えの利益がないとはいえないとした。また、「本件のように、派遣可能期間を越える違法な派遣労働者の受入れ等の事実の発生により、会社は既に直接雇用の申し込みなど雇用の安定を図るための措置を講ずべき立場にあるとして、その措置を交渉事項とする団体交渉については、当該主張が認められる限り、当該組合員が会社で就労しなくなった後においても、なお、未解決、かつ、現在においても会社において対応可能な交渉事項に係るものとして、団体交渉の余地が残されている可能性がある」と判断した。妥当な判断である。また、結果として認めなかったが、ポストノーティスの命令の余地もある以上、組合員が職場にいなくなったとしても、申立の利益はあり、団体応諾義務の判断が不要ということはないとした。
     なお、委員会は、ここでも団体交渉事項ごとに、救済の必要性ないし救済の利益が失われたかどうかを判断することが相当であるとの判断を示した。

    (3)直接雇用要求に対する交渉拒否の不当労働行為性

     偽装請負の就労実態に関して、三重労働局は、ライン毎に派遣受入期間制限を超えていると認定し、期間制限違反のラインの契約中止を指導した。ラインのみに限定した不十分さはあるものの、請負契約が実質派遣であり、派遣期間の制限(派遣法40条の2)違反を認め、その上で、雇用の安定を図るよう指導したのである。ただ、派遣法40条の4違反は認定しなかった。
     本件において、委員会は、労働局の判断と同様、派遣法40条の4に基づく直接雇用申込義務は否定した。しかし、労働局の指導があることを一定の根拠として、直用を議題とする団体交渉に応じる義務を認めた。つまり労働局が指導した「雇用の安定を図る措置は、会社が自ら決定し、処分すべき事項であ」るから、この点については団体交渉応諾義務があると判断したのである。そして、組合員が形式上の雇用主から既に解雇されている場合でも、それ以前から期間制限違反の状態で就労させていたのであって、「雇用の安定を図る措置として、直接雇用そのたの措置をとることは、現在も可能であり、また、会社は、未だ、団体交渉の申入れに応じず、雇用の安定を図るための措置をなんら講じているわけではない以上、救済の必要性ないし救済の利益は失われて」いないとした。

    (4)その余の救済の棄却
     委員会はその他の、職場改善要求については、すでに組合員が職場にいなくなったことを理由に救済の必要性を否定し、ポストノーティスも認めなかった。しかし、雇用の安定を図る措置を求めて交渉している過程で職場に戻る可能性もあることを考えると、派遣先の使用者が団体交渉に応じる義務があると判断したことについてポストノーティスを認め、公的な判断を示す意義はあったといえる。この点で、委員会の判断は、個人加盟組合特有の利益についての考慮を欠いたものであった。

  3. 課題
     以上の通り、委員会の命令は、不十分な点や、個人加盟組合の交渉力を定着させるという点で問題点もあるものの、「雇用の安定をはかる」という抽象的な交渉事項ながら、派遣法違反で就労していた労働者が職場から追われた後であっても、また、派遣法上の明確な直接雇用義務まで認められなくても、団体交渉応諾義務を認めており、その意義は大きい。
     会社は即日、再審査請求を行い舞台は今後中労委へと移る。
     
(弁護団は、村田浩治、四方久寛、三重の出口崇)

NTT事件西日本の違法を高裁も免罪

弁護士 増 田   尚

 NTT西日本が60歳定年となる従業員を継続して雇用する制度を設けていないのは違法であるとして、従業員としての地位確認や賃金(相当額の損害)を請求していた訴訟で、大阪高裁(紙浦健二裁判長)は、12月21日、NTT西日本を免罪した一審大阪地裁判決を追認し、元従業員35名の控訴を棄却する判決を言い渡した。

 NTT西日本は、01年にリストラ策を強行し、新設子会社にて最大30%減の賃金水準で再雇用するため退職するよう強要し、これに応じず自社に残った従業員に対しては、遠隔地・異職種の配転を押しつけ、60歳以降の契約社員としての再雇用制度(キャリアスタッフ制度)も打ち切った。その後、高年齢者雇用安定法が改正され、60歳を超えた従業員につき、定年の廃止ないし延長もしくは継続雇用制度の導入が義務づけられたにもかかわらず、NTT西日本は、何らの措置も講じなかった。通信労組に所属する組合員らは、リストラに応じなかったことを理由に、遠隔地・異職種の配転を強いられたり、京阪神間での無意味なローテーション配転をさせられるなど、苦汁を飲まされた挙げ句、60歳定年を理由に会社から放逐されたのである。

 一審大阪地裁判決は、高年法9条1項に定める措置をとらなかったとしても、従業員が継続して雇用することを求めることはできないと述べ、その私法的効力を否定した。また、NTT西日本が何らの措置を講じていないにもかかわらず、前記のとおり、自社を51歳で退職させて、最大30%減の賃金水準で子会社に再雇用することに応じた従業員のみを当該子会社で60歳以降は契約社員として雇用する制度を設けていても、高年法9条1項にただちに違反しないと判断した。改正高年法の趣旨を踏まえない暴論である。しかも、判決は、退職再雇用に応じて子会社で65歳まで稼働したとしても、そのままNTT西日本で60歳定年で退職した場合に比して、約159万円も収入が低くなっており、不合理な制度設計となっているにもかかわらず、「事業主が実情に応じて柔軟な措置をとることが許容されている」とか、「NTT労組の合意が得られている」とかの理由を付けて、五年もただ働きをさせられた上、約159万円も賃金を減額させられるような措置も許されるとまでいってのけた。

 35名の元従業員らは、全員控訴し、控訴審では、このようなずさんな認定と判断の是正を求めた。高裁も、一審判決が争点について充分な審理をしていないとの心証を示し、NTT西日本に釈明を要求するなどの姿勢を見せた。しかし、控訴人らが請求した証拠調べをいずれも採用せず、充分な審理と検討をしたとは言い難いものであった。

 控訴審において組合側は、キャリアスタッフ制度が就業規則上の制度であり、その廃止は不利益処分であって無効であるとして、キャリアスタッフとしての地位確認及び賃金請求を新たに追加した。NTT西日本は、驚くべきことに、当該就業規則の廃止手続をしていないと認めた。キャリアスタッフ制度はなお生きているのである。ところが、控訴審判決は、NTT西日本が募集を停止し、控訴人らも申込をしていないから、就業規則の効力如何に関わらず、請求は理由がないとした。明らかに判断を回避したのである。その上、新請求のうち期待権侵害についても、キャリアスタッフとして採用されることが定年退職前の労働契約の内容になっていないとか、募集停止によって期待権の侵害はないなど述べて、NTT西日本の明らかな失態に目をつむる判断をした。

 高年法違反の点について、控訴審判決は、一審判決のようには解さず、同法の趣旨に沿った制度設計でなければならないとの見解は示したものの、リストラの一環としてなされたとのNTT西日本の主張をもとに、前述のような従業員の受ける不利益はやむを得ないと判断した。また、高年齢者、すなわち五五歳以上になってから、継続雇用の希望を聴取すべきとの控訴人らの主張を認めたものの、継続雇用とは無関係に実施した「再選択」(リストラ策の修正で)をもって足りると判断した。

 しかし、このような判断をするなら、なぜ当事者から、リストラや再雇用拒否によって受けた不利益や、「再選択」の経緯を聴かなかったのであろうか。尋問もせず、このような事実認定をするのは、訴訟上の信義にもとるとのそしりは免れないであろう。

 とはいえ、継続雇用制度のあり方について高年法の趣旨から一定の制約を課す判断を引き出したことは、今後60歳「定年」を迎える従業員の継続雇用を求めるたたかいにとって前進の足がかりをつくったといえる。

 控訴人らは上告及び上告受理を申し立てた。たたかいの場は最高裁に移ったが、引き続くご支援をお願いする。

(弁護団は、河村武信、出田健一、横山精一、城塚健之、増田尚、井上耕史)

大阪地裁平成22年12月27日判決 NTTアセットプランニング事件報告

弁護士 長 瀬  信 明

  1. はじめに
     2008年12月号(No.438)でご紹介したNTT西日本アセットプランニング事件の判決が、年も押し迫った昨年2010年12月27日、大阪地裁第5民事部で下された。
     本件は、いわゆる専門業務偽装事件(実際は、派遣期間の制限(原則1年、最長3年)のある「通常の業務」での派遣であるにもかかわらず、契約上は派遣期間の制限のないいわゆる「専門26業務」として派遣し、派遣期間の制限を潜脱する手法)について、裁判上、はじめて正面から判断されるということもあり、注目を浴びていた。
     しかし、主文はたったの2行「1 原告の請求をいずれも棄却する。2 訴訟費用は原告の負担とする。」というもので、原告の全面敗訴であった。
     法を無視する企業の態度を是認する一方で、日々実直に働く労働者たちの心を挫く極めて不当な判断と言わざるを得ない。

  2. 事案の概要
     原告は、平成14年春、ハローワークにおいて、NTTドコモへの人材派遣業務等を主要業務とする株式会社KDC(旧「近畿データコム株式会社」、以下、「KDC」という)が出していた「職種;宅地建物取引主任者」、「仕事の内容;不動産現場立ち会い、監督、不動産物件のメンテ、不動産関係の資料作成事務等」という求人票を見て、同社に派遣登録し、その後、NTTグループが所有する不動産の仲介、管理業務等を行う株式会社NTT西日本アセット・プランニング(以下、「NTT西日本AP」という)に派遣された。
     就業条件明示書によれば、原告が従事することとされた業務は、派遣期間の制限のないいわゆる「専門26業務」(労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の就業条件の整備等に関する法律(以下、「派遣法」という)40条の2第1項1号、労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の就業条件の整備等に関する法律施行令(以下、「施行令」という)4条)のうち5号「機器操作」及び9号「調査」であった。
     しかし、原告が実際に従事した業務内容は、専門的な「機器操作」や「調査」ではなく、KDCの求人票の内容どおり、契約の媒介・あっせん、立ち合い、不動産の管理、営業といったものであり、不動産業者が通常行うものであった。
     派遣契約はほぼ自動的に11回も更新され、原告は、派遣期間の制限のある通常の業務に5年9か月もの間、従事してきたのである。
     そもそも、不動産管理会社で不動産管理の仕事をする以上、「専門26業務」に当たらないのは明白である。
     したがって、こうした業務に派遣労働者として雇い入れる行為そのものが、期間制限を潜脱する意図があったと言わざるを得ず、極めて悪質である。
     仮に、派遣としての受入が可能な期間だけでも派遣労働者の実態がある以上、派遣法の適用があるとの立場に立ったとしても、派遣労働者として受入可能な期間は1年ないし3年であり、いずれにしてもすでに派遣労働者としての受入可能期間を過ぎていたことを十分認識していたはずなのである。
     平成19年10月、原告は、安定した身分を確保すべく派遣先であるNTT西日本APに平成20年4月以降、直接雇用をするよう求めたが、NTT西日本APはこれを拒否した。それどころか、原告には何の落ち度もないのにそれまで11回も更新してきた原告の派遣契約の更新を、業務量の減少等を理由に突如として拒否したのである。前年には、直接雇用できるかも知れないという直属の上司の話もあって期待をしていたほどであり、契約更新拒否の理由は全く不明であった。
     平成20年3月、原告は被告NTT西日本アセットプランニングでの就労実態につき疑問に感じて大阪労働局に単独で相談に赴いたが、そのとき大阪労働局は申告として受け付けず適切な対応を行わなかった。同年9月になって、原告は改めて代理人弁護士らと共に、大阪労働局に自らの派遣就労の違法状態について是正指導を求めて申告をした。これを受けて、同年10月2日、大阪労働局は、NTT西日本AP及びKDCの2社に対し、原告の就労のさせ方に違法がある旨認定し、10月30日、文書により違法状態を是正するよう是正指導を行った。

  3. 本件の争点
     本件の争点は、(1)原告と派遣先の被告APとの間の労働契約の成否(争点1)、(2)仮に原告と被告APとの間の労働契約が認められるとした場合、原告との間の同契約関係を終了させたこと(解雇ないし雇止め)の有効性並びに賃金請求権の有無及びその額(争点2)、(3)被告KDCに対する不当利得返還請求の成否及びその額(争点3)、(4)被告らの原告に対する共同不法行為の成否並びに損害の有無及びその額(争点4)、である。
     そして、争点1については、さらに、(ア)黙示の意思表示に基づく労働契約の成否、及び(イ)派遣法40条の4違反に基づく期間の定めのない労働契約の成否、が検討された。

  4. 判決内容

    (1)原告と被告APとの間の労働契約の成否(争点1)について

     結論として、裁判所は、原告と被告APとの間の労働契約を認めなかった。

    ア.原告と被告APとの間に黙示の労働契約の成否
     まず、被告APにおける原告の業務内容が、政令26業務(政令5号業務あるいは政令9号業務)に該当するかについては、「原告が政令26業務のうちの政令5号及び9号の各業務に従事していたことを窺わせる。」という表現をしつつも、結論としては、「原告が従事した貸付管理代行業務は、その一部においてデータの入力や賃貸借契約書の作成等、パソコンの操作等があるが、『電子計算機、タイプライター、テレックス、又はこれらに準ずる事務用機器の操作の業務及びその過程において一体的に行われる準備及び整備の業務』(政令5号業務)に該当するとは認め難い。」、「原告が貸付管理代行業務の中で、行っていた現地調査は、上記1(1)エ(イ)で認定したとおり同物件について、変更が施されていないかどうか確認し、現況を写真に撮影する等飽くまでも不動産の物件管理のための調査が中心であり、賃貸が可能か否かを調査する業務で、あって、それに賃貸借物件の適正賃料の調査業務を踏まえたとしても『顧客ニーズを的確につかんで製品計画を立て、最も有利な販売経路を選ぶ活動(マーケティング業務)』(政令9号業務)とは言い難い。」と判断している。
     また、補足的に、「本件全証拠によるも原告が従事していた貸付管理代行業務の中で、政令26業務の対象となる業務がほとんどで、それらに該当しない業務の割合が1日又は1週間当たりの就業時間数の1割以内で、あったとまでは認められず、かえって、上記(ア)で認定説示したことに証拠(甲21、34、原告)を総合すると、原告が同従事していた業務のうち政令26業務(政令5号及び9号の各業務)に該当しない業務の割合が1日又は1週間当たりの就業時間数の1割を超えていたことが認められる。」とも判断している。
     そして、「以上の(ア)(イ)で認定した事実に上記(1)クで認定した大阪労働局が被告らに対し、労働者派遣法26条1項違反(政令26業務に該当しない業務に従事させたこと)を指摘し、是正指導を行っていたことをも併せ踏まえると、被告らは、原告の従事した業務について、労働者派遣法26条1項に違反していたと解さざるを得ない。したがって、この点に関する被告らの上記主張は理由がない。」と判示している。
     しかし、派遣法26条1項違反を認めながらも、黙示の労働契約の成否については、松下PDP事件最高裁判決(最高裁平成21年12月18日第2小法廷判決民集63巻10号2754頁)を「参照」しつつ、規範を定立している。すなわち、「派遣元(本件では被告KDC)に企業としての独自性があるかどうか、派遣労働者と派遣先との間の事実上の使用従属関係、労務提供関係、賃金支払関係があるかどうかといった点を総合的に判断して決するのが相当であると解する。より具体的には、労働者が派遣元との派遣労働契約に基づき派遣元から派遣先に派遣された場合であっても、派遣元が形式的な存在にすぎず、派遣労働者の労務管理を行っていないのに対して、派遣先が実質的に派遣労働者の採用、賃金額その他の労働条件を決定し、配置、懲戒等を行い、派遣労働者の業務内容・派遣期間が労働者派遣法で定める範囲を超え、派遣先の正社員と区別し難い状況となっており、派遣先が、派遣労働者に対し、労務給付請求権を有し、賃金を支払っている等派遣先と派遣労働者間に事実上の使用従属関係があると認められるような特段の事情がある場合には、派遣先と派遣労働者との間において、黙示の労働契約が成立していると認められる場合があるというべきである。」と判示し、結論としては、黙示の労働契約の成立を否定した。
     本判決が定立した規範が、論文等から引用ないし参考にしたものなのか、まったくのオリジナルなものか調査中であるが、いずれにしても、あえて労働契約の成立を否定する要素をピックアップしているとしか思えない。派遣元の企業としての独自性を要求している点に端的に表れているが、偽装請負の事件と異なり、業務偽装の事件において、企業としての独自性が問題となることはほとんどないのではないだろうか。
     本来であれば、そもそも雇用契約というものがどういうものであるのか、派遣法の趣旨等を具体的に考察した上で、規範を導くべきであるが、そうした姿勢はまったく見えない。

    イ.派遣法40条の4違反に基づく労働契約の成否
     判決は、「派遣先である被告APについて、派遣労働者である原告に対する直接雇用の申込義務が認められるためには派遣先である被告APが派遣元である被告KDCから抵触日に関する通知を受けたことが要件となる(同法40条の4)。そこで、被告APであるが、同法40条の4に基づいて、派遣元である被告KDCから抵触日に関する通知を受領していない。したがって、被告APの原告に対する直接雇用申込義務の発生要件が欠いているといわざるを得ず、その限りにおいて、原告の上記主張は理由がない。」という極めて形式的な論理でこの争点についても、否定している。
     さらに、「上記の点をおいて、仮に派遣先が派遣社員に対する同法40条の4に基づく直接雇用申込義務を履行しなかったとしても、それはあくまで義務の不履行で、あって、それを超えて直ちに、派遣労働者との間で直接的な労働契約関係が発生するとは解し難い。」として、派遣法40条の4違反の効果について、判示しているが、労働契約の成立を認めるものではない。

    (2)原告と被告APとの間の労働契約が認められるとした場合、原告との間の同契約関係を終了させたこと(解雇ないし雇止め)の有効性並びに賃金請求権の有無及びその額(争点2)について
     この点については、上述のように原告と被告APとの労働契約を否定しているため、「原告と被告APとの間で労働契約が成立しているとは認め難く、原告の被告APに対する地位確認及び同地位を前提とする賃金請求は、いずれも理由がないといわざるを得ない。」と判示している。

    (3)被告KDCに対する不当利得返還請求の成否及びその額(争点3)について
     原告と被告KDC間の本件派遣労働契約及び被告ら間の本件労働者派遣契約がいずれも有効に成立していることを前提に、「被告KDCが被告APから受領した原告の派遣に係る派遣料金は、被告ら間の本件労働者派遣契約に基づいて受領したもので、あって、同受領は法律上の原因が存在するといわなければならない。したがって、原告の上記請求は、その余の点(原告の損失、利得と損失の間の因果関係等)について判断するまでもなく、理由がない。」と判示した。

    (4)被告らの原告に対する共同不法行為の成否並びに損害の有無及びその額(争点4)について
     判決は、被告ら間の本件労働者派遣契約等を基礎とする原告の派遣就労が派遣法26条1項に違反していることを認めつつも、「①原告が被告APの下で従事していた業務の中には、政令26業務のうち、政令5号業務及び政令9号業務に該当する部分が含まれていること、②被告KDCは、原告の被告APへの派遣就労について、労務管理(勤務表の提出や有給休暇付与通知等による原告の労働時間管理等)や契約更新手続を適切に行っていたと認められること、③原告と被告KDCの派遣労働契約及び被告ら間の労働者派遣契約はいずれも有効である一方、原告と被告AP間に黙示の労働契約が成立しているとは認め難く、被告APが被告KDCとの本件労働者派遣契約を終了したこと自体、解雇あるいは雇止めには該当しないことがあるところ、以上の事実を踏まえると、上記違法派遣行為を前提として原告らの行為が違法行為であると主張する部分(直接雇用義務違反行為、本件解雇ないし本件雇止め行為)は、いずれも理由がないといわざるを得ない。」と判示してる。
     また、被告APの主張の不合理な点を指摘しつつも、「原告と被告APとの間に黙示も含めて労働契約が成立していたとは認められないこと、被告APのM課長及びI課長は原告に対し、契約社員に推薦する旨述べたものの、必ず原告が契約社員になれるといった発言をしたことはなかったこと、その他、本件全証拠を総合勘案しても、被告らが原告の雇用継続に関して、法的保護に値するに足りる期待権を生じさせるだけの行為があったとは認められない。」と判示した。

  5. 判決の検討
     本判決もまったく評価できる点がないわけではない。すなわち、大阪労働局が被告らに対し、派遣法26条1項違反(政令26業務に該当しない業務に従事させたこと)を指摘し、是正指導を行っていた事実、及び、原告の従事した業務について、被告らが派遣法26条1項に違反していたことを積極的に認めた点である。最低限、これらの事実を認定したのはせめてもの救いである。
     しかし、評価できる点に比べて圧倒的に問題点の方が多いといえる。今後、批判的検討がなされるであろうが、いくつか問題点を指摘しておく。
     まず、事実認定の誤りが多く認められる。例えば、上述のように被告APが原告の賃金額等の決定に一切関与していないと認定している点など枚挙にいとまがない。
     また、上述のように、黙示の労働契約の成否を検討する際の規範の定立及び事実のあてはめについても、黙示の労働契約の成立を否定するという結論ありきで、否定するために都合のよい事実を寄せ集めたと言わざるを得ない。
     さらに、最大の問題点ではないかと思われるのが、「原告は、上記(2)イ(ウ)で認定したとおり被告KDCとの間の本件派遣労働契約、被告ら間の本件労働者派遣契約に基づいて被告KDCから被告APに派遣された派遣労働者であって、仮に原告が主張するように原告の被告APへの派遣について、労働者派遣法違反の事実があったとしても、そのことをもって、原告に対する上記労働者派遣という実態に変更はなく、また、被告APの原告に対する指揮命令という事実も、労働者派遣であれば当然のことであって、直ちに同事実が原告と被告APとの間の労働契約関係を基礎づける事実になるものではない。」と判示している点である。これでは派遣法に違反する事実があり、これに対して労働局が違法を認定し、是正指導したとしても、それまでで、司法上の救済は何らなされないことになりかねない。こうした判断を目の当たりにすると、やはり、派遣法違反の事実があった場合、派遣先との間で雇用契約が締結されたと看做される旨の規定の創設が望まれる。
     また、原告が主張している派遣法40条の2違反について、判決文では全く触れられていない。
     なお、職安法44条、労基法6条、民法90条違反についても、同様である。
     さらに、派遣法40条の4違反の効果についても、何も認めておらず、労働者保護という視点が欠落していることが明白である。
     また 判決は「法的保護に値するに足りる期待権を生じさせるだけの行為があったとは認められない。」と判示するなかで、被告APのM課長及びI課長の発言等の個々の行為を検討しているが、我々が訴えていたのは、そうした個々の行為だけでなく、原告の就労実態を大局的に捉え、五年以上にわたって更新を繰り返してきたことそれ自体が、法的保護に値する期待権を生じさせたということであった。
     以上のように、本判決は、個々の労働者の就労実態や保護などお構いなしに、極めて形式的な論理で、簡単に結論を導こうとしているということが分かる。被告KDCに対する不当利得返還請求の成否及びその額(争点3)について、法律上の原因があるというだけで、その他の要件を検討するまでもなく、わずか七行で判示している点がそのあらわれである。

  6. おわりに
     判決文が読まれ、裁判官たちが逃げるように法廷を後にした後、原告のSさんは、しばらくは茫然自失の状態で、全身の力も抜け、何も考えられないようであった。その後、支援の方たちに挨拶をし、記者会見に備え、弁護団で会議をするうちに、徐々に怒りが込み上げてきたのであろう。意を新たにし、控訴することとなった。
     本件がどれほどの強度の違法性を有する事件であるかを裁判官に十分理解させることができなかった我々弁護団の責任でもある。控訴審にあたっては、本判決の問題点を十二分に検討し、リベンジを果たしたい。

(弁護団は、村田浩治、立野嘉英、谷真介、長瀬信明)