8月号
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内部告発による不当解雇事件で、肩すかし判決 − 南紀白浜アドベンチャーワールド事件
内部告発による不当解雇事件で、肩すかし判決 − 南紀白浜アドベンチャーワールド事件
弁護士 村瀬 謙一
事案の概要
本件については、提訴時などで、何度か紹介させていただいているが、概要は次のとおりである。(要約は結構難しい事案である)
南紀白浜アドベンチャーワールドでは、次第に商業主義的傾向が進み、方針に沿わない飼育員に対する配置転換が行われ、ベテランの飼育員である告発者川野文明氏と引き離されたアフリカ象は、落ち着きを失い、荒れた状況となった。園側は、荒れた象の対処措置として、再配転を行うことなく、新たにタイ人調教師を雇い入れた。
タイ人調教師の調教は、農耕使役用に、幼少の象を容赦なく痛めつけ、手なづけるというものであるが、既に20代半ばまで育っていたアフリカ象たちにとっては、虐待に他ならなかった。中でも、アフリカ象のピコは、いきなりのタイ式調教に、全くなじむことが出来ず、突然に夜間を含む長時間にわたって鎖をつけて拘束され、槍でゾウの急所である眉間、肢などを集中的に攻撃された。ピコは、この虐待行為により、重い傷を負ったほか、ストレスのために削痩や浮腫が発現し、エサの減少とも相まって、ピコは衰弱していった。
この様子は、残された日本人飼育員により、虐待の映像も克明に記録されていた。
ある日、ピコは、エサの取り合いで倒れ、衰弱していたために、立ち上がることができず、クレーンを使用して吊り上げられた際、ベルトにより胸部、肺を圧迫し、窒息死した。
アドベンチャーワールドは、ピコに対する虐待の後に、死なせてしまったばかりか、その死の真相をひた隠し、その後の飼育においても、再三の指摘にも関わらず、商業主義的な手法を変えようとはしなかった。
告発者は、そのような姿勢を憂い、動物園としての真の機能を果たして欲しいとの思いから、テレビ朝日の報道局に、撮影されたビデオテープを持ち込み、同局の取材を受けた。
ビデオに記録された映像は、平成13年1月28日放映のテレビ朝日「スクープ21」で、告発者川野氏のインタビューと共に放映されたが、告発者川野氏は、同年2月5日付で、秘密漏洩、信用毀損などを理由に懲戒解雇された。
和歌山地裁田辺支部の地位保全仮処分(棄却)、大阪高裁での抗告審(棄却)を経て、平成14年12月16日、大阪地方裁判所に地位確認と未払い賃金の支払いを求め、提訴し、地民5部合議係に係属した。
本件の争点について
本件の争点は多岐に上るが、虐待行為が正当な調教か否かとの評価のほか、人の生命身体の安全に関わるものとは異なる目的の正当性、告発先がマスコミであることを含め方法が妥当であるか等が争点となった。
目的に関しては、虐待の事実という真実を申告し、有名な動物園の実情と言う公共の利害に関するものを、真に動物園としての役割を果たして欲しいという公益目的で、動物園としてあるまじき非常に悪質な行為を対象として行ったもので、正当と言うべきであった。
告発先、告発方法に関しては、いきなりマスコミに告発したのではなく、内部で改善を訴え続けていたのに、改善が見られなかったのであり、県や保健所などの行政機関は、何ら調査・指導した実績らしいものがなかったのであるし、他にとるべき手段として、実効性のあるものは皆無であり、園の状態を市民に伝え、市民の声から改善を求めるほかなく、市民に状況を伝えるには、映像の方法で伝えることが出来るテレビメディアへの告発がもっともふさわしいものだったのである。
1審判決について
上記のとおり、内部告発の正当性については、公益通報者保護法による保護対象外の内部告発に関し、本件の目的、告発方法の各正当性についての判断が注目された。
1審判決は、告発内容の真実性の証明がなされていないとして、告発の正当性を認めず、懲戒解雇を有効とした。
判決は、真実性の証明の対象を、実際の告発内容にとどまらず、告発内容が真実であることを理解してもらうために告発者がなしていた主張、すなわち、象の自然科学的な死因に関する主張など、訴訟においてなしていた主張の多くにまで含めて対象としたり、当初の虐待と死因との直接的な因果関係など、告発者が主張していないことなども、告発内容として整理し、真実性の立証対象としているがために、告発者にとり、非常に厳しいものとなっている。もちろん、真実性については、十分に立証していたところでもあり、この点だけでも当然ながら不当なものでもある。
さらには、真実性の証明の要件のところで否定されてしまったために、告発者本人や弁護団が注目していた論点、当事者双方がもっとも議論していた争点、すなわち、本件内部告発の目的、手段について、裁判所は正当性を認めるのかとの点については、何らの判断もされずに、いわば、肩すかしのような判決となったものである。
告発者からすれば、本来の争点への判断を避けるために、安易なところで切られたとしか、言いようのない不当なものであった。
控訴
このようなとんでもない誤りを犯した1審判決に対しては、当然ながら控訴し、告発内容に対する整理の誤りを指摘すると共に、その真実性について、改めて注意喚起をするべき主張を行うほか、本来の争点である告発目的の正当性、告発方法の正当性についても、妥当な判断がなされるべく、努力を続けているところである。
引き続いての支援をお願いしたい。
(弁護団は、豊川義明〔北大阪総合〕、畑純一〔和歌山合同〕、愛須勝也〔京橋共同〕、村瀬謙一〔池田第一〕)
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