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住友金属男女差別裁判、大勝利!
クラボウ事件・勝利和解の報告
「鷹匠」店長の過労自殺は、会社の責任―京都地方裁判所で、寺西過労自殺事件の全面勝訴判決下る―
ネスレコンフェクショナリー契約社員解雇・雇止め事件で勝訴
関西金属工業事件仮処分決定
企業の36協定情報公開訴訟 一部認容判決
住友金属男女差別裁判、大勝利!
弁護士 原 野 早知子
10年目の勝利判決
3月28日、1995年8月の提訴から9年半の審理を経て、大阪地方裁判所第5民事部(小佐田潔裁判長)は、被告住友金属工業株式会社が、違法な男女差別により事務職の女性従業員4名に損害を与えたとして、6311万2000円の損害賠償金支払いを命じる判決を言い渡した。
大法廷に入りきれない支援者が集まり、傍聴人がかたずをのんで見守る中、言い渡された判決は、原告それぞれに約1100万円から約1900万円もの支払いを命じるものであり、言い渡しが終わると同時に傍聴席から大きな拍手がわき上がった。
原告、弁護団、支援者全員が喜びをかみしめた勝利判決であった。筆者にとっても、弁護士1年目から弁護団に加入し、提訴から取り組んできた事件だけに感慨はひとしおであった。
判決の内容
1 住友金属では、原告らと同時期に高卒で事務職で採用された男性の97.6%が年功序列的に管理職一歩手前の「管理補佐職」まで昇進し、そのうち多くが管理職に昇進しているのに対し、高卒事務職採用の女性の大半は、30年以上勤務しても「管理補佐職」から3ランク以上下の「専門執務職」にすぎない。年収の格差は、平均して250万円以上に及ぶ。もともと技能職として採用され、後に事務職に転換した「職掌転換者」の男性と比較しても、女性は昇進・賃金ともに明らかに下回っている。
判決は、まず、このような事務職の男女間の昇進・賃金の格差が顕著なものであることを認め、男女差別により発生したと推認されるとした。判決全体として、まず「顕著な格差」の存在から男女差別を推認し、被告会社側が格差発生の合理的な理由を主張立証しているかどうかを検討する構造となっており、主張・立証責任を被告に転換しているものと評価できる。
2 被告は、近時の男女差別裁判の多くと同様、「男女間の格差は性別による差別ではなく、『本社採用』『事業所採用』という『採用区分』の違いによる」と主張していた。しかし、判決は、緻密に会社の規程を検討し、「本社採用」「事業所採用」という「採用区分」の存在を否定した。
一方、判決は、原告らの入社当時、男女が別々の手続で採用され、採用後の配置業務・研修等も別々のものとされていたことを認定した(判決はこれを「本件コース別取扱い」と呼称している)。しかし、判決は、被告の能力評価制度の内容やその運用実態(男性の年功的昇進実態は、男性の大半が高位の評価を受け続けていなければ実現しない)を綿密に検討し、「本件コース別取扱い」が、能力評価制度の適正な運用を通じて、昇進・賃金格差を発生させているとは認められないし、会社も具体的な主張を行っていないとして、「本件コース別取扱い」は「男女間の顕著な昇進・賃金格差と合理的関連性を持つものではない」とした。すなわち、いわゆる「男女別コース制」の存在を認めながらも、それが、現在までに発生した男女格差を正当化する根拠にならないと判断したのである。
これまで企業側が採用時からの「男女別コース制」を主張した裁判においては、「男女別コース制の存在」=「格差の原因」と大雑把に認定され、企業側の主張が認められてきた。しかし、本判決は、「男女間格差の正当化原因」として、被告側に「男女別コース制と男女間格差の合理的な関連性」の主張立証を要求することにより、「男女別コース制」が「男女間格差」の正当化理由となる範囲を狭めたものとして評価できると考えられる。
3 さらに、判決は、被告が、従業員に知らせないまま、事務職の従業員を五段階に分けた「闇の人事制度」に基づいて、男女間で能力評価、昇給・昇進について差別的取扱いを行い、格差を発生させたと認定した。
この「闇の人事制度」は、事務職の従業員を「イ=大卒男性」「ロ=高卒男性」「ハ=職掌転換者(技能職から事務職に転換した男性)BH」「ニ=職掌転換者LC」「ホ=女性」に区分し、女性を最低処遇の「ホ」に位置づけるものである。「イ」「ロ」「ハ」「ニ」「ホ」の区分に応じて、昇進・賃金が示されており、その内容はまさに「男女賃金表」に準ずるものであった。
被告は、「採用区分の別」を主張していたが、本件は、それ以前に「闇の人事制度」による処遇決定が女性差別となる「直接差別」であり、これを判決が認定するかどうかが一つの大きなポイントであった。
原告側は、文書提出命令申立などを通じて、「ロ」「ハ」「ニ」にあたる原告らの比較対象男性の賃金台帳・履歴台帳を被告に提出させ、その昇進・賃金の実態を詳細に分析した。その結果、賃金台帳等の生の資料から導き出されたデータと、「闇の人事制度」の内容である昇進・賃金のデータがほぼ一致することを立証してきた。判決は、これらの数値の一致を重視し、男女間の処遇格差は、「闇の人事制度」に基づく昇進・賃金決定により発生していると認定したのである。
さらに、判決は、この差別的取扱いは、性別のみによる不合理な差別的取扱いとして違法なものであると断じた。
本件における差別の本質である「闇の人事制度」を正面から認定した点で、判決は、高く評価すべきものである。
4 ただし、差別によって発生した損害については、判決は、原告らと職掌転換者のうち「LC」(「イロハニホ」の「ニ」)の男性との差額賃金・差額退職金に相当する金額が損害であるとした。この損害は、昭和61年以降現在まで(退職原告については退職まで)認定された。
また、女性が職掌転換者の中の上位である「BH」登用の機会を喪失したことを含め、「闇の人事制度」により差別されたことによる慰謝料を150万円〜300万円認めたほか、弁護士費用を損害と認定した。
勝利判決を実現させたもの
1 今回の勝利判決を実現させたのは、法廷での訴訟活動と、法廷外の運動に精力を尽くし、それが両輪としてかみ合った結果であったと思う。
2 法廷では、訴訟の当初より、繰り返し求釈明を行い、民事訴訟法改正の直後から各種文書についての文書提出命令を申立ててきた。データが提出されると、様々な角度から分析して、男女間格差の立証を行ってきた。
「闇の人事制度」を明らかにする資料は、裁判の中で弁護団が入手したものであるが、それだけで男女差別が立証されたのではない。原告側で、文書提出命令により提出された生資料によるデータと「闇の人事制度」の数値との一致を立証し、「ハ」「ニ」に該当する「職掌転換者」の実態を協力者から聴き取り、証人尋問を行うなどの努力を一つ一つ重ねることによって、裁判所に「『闇の人事制度』による男女差別の労務管理」を認定させたものである。
判決そのものの理由には記載されていないが、女性に対する結婚退職強要、結婚・出産に対する報復的ないじめの実態を明らかにしたことも大きかったと考えている。新婚旅行から帰ってきたら、机が地下の廃棄物置き場に捨てられていたとか、産休明けに出勤すると、上司から「犬や猫でも自分で子どもを育てているのに、子どもを保育所に預けるとは犬畜生に劣る」と罵倒された(原告北川さんの例)など、その実例は信じられないものであった。
こうした差別の事実を一つ一つ掘り起こし、丁寧に積み上げる立証活動が裁判所を動かしたと考えている。
3 一方、法廷外の運動による世論の高まりも、裁判所を動かす大きな原動力になった。
特にこの1年、「住友金属男女差別裁判を勝たせる会」が結成され、多様な活動を繰り広げてきた。淀屋橋・東京本社・安治川の工場等で定期的にビラまきを行い、「闇の人事制度」による違法な女性差別を広く知らせてきた。被告住友金属は、文書提出命令で提出を命じられた証拠を隠すという驚くべき違法行為を行っていたのであるが、この「証拠隠し」についても、住友金属が経営方針にかかげている「コンプライアンス」に反するものとして、ビラで違法性を指摘してきた。住友金属の社員を含めた関心は非常に高く、ビラはよく読まれていた。
これに加えて、集会や、裁判所及び本社周辺のパレード、裁判所への「声」(陳述書集を書証として提出)の取り組み、結審後のジャンボハガキの取り組みなどを一つ一つ成功させてきた。
原告・弁護団、勝たせる会会長の森岡孝二教授が株主総会に出席し、差別の実態を知らせるとともに、証拠隠しの問題を追及した。
国会質問でも、差別の実態を取り上げてもらった。住友金属での女性に対する激しい結婚退職の実態については南野法相が「耳を疑った」とコメントし、従業員に隠した「闇の人事制度」については、尾辻厚生労働相が「言っていることとやっていることが違うのはまずい」とコメントした。
こうした運動の広がりと「住友金属の男女差別を許さない」という世論の高まりが裁判所を「原告勝訴」に動かしたといえる。
最後に
住友金属は、判決後ただちに控訴したが、既に裁判は10年目に入っており、早期の解決が必要である。
原告らを応援し、協力いただいた多数のみなさんにあつく感謝するとともに、今後ともいっそうのご支援をお願いする次第である。
(弁護団は、 小林保夫・大野町子・谷智恵子・正木みどり・宮地光子・横山精一・雪田樹理・越尾邦仁・島尾恵理・原田恵美子・原野早知子である。)
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クラボウ事件・勝利和解の報告
弁護士 斉 藤 真 行
はじめに
「共産党を辞めないと仕事上葬り去られる。考え方を改めてもらわねば、君はまともな仕事に就けない」
この労務担当者の発言が、クラボウによる思想差別・人権侵害の核心です。いかに能力があっても、いかに誠実に職務を遂行しても、会社が嫌う思想・信条の持ち主であれば、仕事上差別し、賃金も低く抑えたまま、ありとあらゆる嫌がらせを続ける、というのです。
事件の概要と1審判決
クラボウ事件の内容と1審判決については、民主法律時報372号で報告をしていますので、簡単に述べます。
伊藤建夫さんと、宮崎周吉さんは、共産党員として、クラボウの職場要求の実現と労組民主化のために活発に組合活動を行ったり、労組の政党支持自由を公然と主張していました。これを嫌ったクラボウは、伊藤さんを研究職から追い出して、炎天下での草むしりなどの作業に従事させたり、隔離部屋に閉じこめたりしました。また宮崎さんには、配転命令で遠隔地に「島流し」をして退職を強要し、これに屈しないと見るや関連会社への出向を続け、本社に戻さないという対応が続いています。
伊藤建夫さんは、昭和42年入社の後、昭和47年に専門職2級B(S2B)に、そして昭和50年にS2Aに昇格しましたが、共産党員として活動したために、それ以来、平成16年の定年まで一切昇格させられませんでした。同期・同学歴の社員は皆管理職で、中には役員になっている人もいます。
宮崎さんは、入社後の昭和48年にS3に昇格し、昭和51年にS2Bに昇格しましたが、それ以来29年にわたって一切昇格させられていませんでした。
1審判決(平成15年5月)は、クラボウがお二人が「共産党員であることを理由として他の従業員よりも低い評価を行い、その結果、賃金面でも低い処遇を行ってきた」ことを認定し、労基法3条違反の不法行為であると断じました。そして、お二人が主張した差別賃金の損害を全額認容し、慰謝料、弁護士費用も含めると、合計4600万円の支払いを命じました。
控訴審と内容成立
控訴審では、会社からの新たな主張、立証らしきものは無く、裁判所の和解勧告がなされ、紆余曲折を経て、本年3月31日に、和解が成立しました。
公平・公正な処遇の確約
和解条項の冒頭は、会社が、1審判決が会社の思想・信条による差別的処遇を認定したことを受けて、伊藤さん、宮崎さんに対して遺憾の意を表する、というものです。
これに続けて、会社は、「今後、本和解の内容も踏まえ、憲法、労働基準法にしたがって、 従業員を公平・公正に取り扱うことを確約」しています。
これは、お二人に対する過去の処遇の是正にとどま らず、今後、クラボウの社内で、思想信条による差別 に限らず、あらゆる差別的取り扱いを行わないことを 確約したものとして、本件の解決にとどまらない、普遍性があると言えます。
この和解によって、宮崎さんについては、4月1日付で管理職に昇格させることになりました(伊藤さんは、平成16年定年となり、現在は嘱託のため、管理職昇格はなりませんでした)。これは、訴訟では請求していなかった昇格を勝ち取ったという点で、大きな成果です。
1審判決を上回る、高い水準の是正内容
和解では、伊藤さん、宮崎さんに対して、合計8100万円の解決金が支払われることになりました。この解決金の金額は、1審判決の認容額を大きく上回り、これに判決後発生した賃金差額分を加えた額をも上回ります。つまり、裁判では請求の対象としていなかった将来の年金差額も実質的に含む金額と評価することができるものです。
このように、本件和解は、伊藤さん宮崎さんに対する思想信条を理由とした差別について、金銭及び処遇のどちらの点でも高い水準で是正を勝ち取ったもので、すばらしい勝利的内容と言うことができます。
まとめ
勝利和解の大きな要因の一つとして、事実認定としては完全勝利と言って良い1審判決を挙げることができると思います。弁護団としては、勝利解決に確実に貢献できたことを誇りに思います。
主張の組立や立証の工夫について、侃々諤々の議論をした弁護団会議が、今では懐かしく思えます。
(弁護団は、東中光雄、岩嶋修治、小林徹也、河村学、と私)
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「鷹匠」店長の過労自殺は、会社の責任
―京都地方裁判所で、寺西過労自殺事件の全面勝訴判決下る―
弁護士 村 山 晃(京都)
会社の過労自殺の責任を断罪
過労自殺に追い込んだ責任が会社にあるとして、妻と子どもらが損害賠償請求を訴えていた寺西さんの事件で、3月25日、京都地方裁判所は、寺西さんの請求を全面的に認める画期的な判決を下しました。
この事件は、先に、労働基準監督署で、過労自殺を労災認定させるという、これも画期的な勝利を収めています。かつては監督署の労災認定の門戸が狭く、認定をさせるための裁判を余儀なくされていました。しかし、寺西さんの件では、監督署レベルで労災認定させ、地裁レベルで会社の責任を認める判決を出させることができたのです。これは、過労死や過労自殺をめぐるこの間の闘いが、それだけ前進してきたことを示す何よりの証左です。
判決の意義は、
第1に、店長という一定の「裁量性」があるとされる立場にあるものについて、過重な長時間労働の実態とストレス要因を正確に認定し、それが健康破壊につながったことを認めたことです。
第2に、生前に医師の確定診断がないなかで、うつ病の病態を正確に把握し、当該疾病に罹患している事実、それと業務との関係、及び自殺との関係を明快に認定したことです。
第3に、会社の責任について「経営改善をはかることを優先して、彰(被災者)の業務などを軽減させる措置を取っていない」「彰の異常な精神状態を知り得たはずであったのに、何らこれに対する措置を取っていない」として、明快に会社の責任を認めたことです。経営を優先させ、健康を顧みない会社を厳しく断罪したのです。
第4に、過失相殺をまったくしなかったことです。本件の自殺は、本人や家族の責任ではなく、すべて会社に責任があることを明確に認めたもので、時として、自殺の原因を、本人の性格に求める考え方を厳しく断罪しました。
店長の「裁量」では軽減できない過重な長時間労働を認定
会社は、高島屋京都店に「鷹匠」というそば屋をはじめいくつかの飲食店を京都市内に持つ外食産業を営む会社です。今は無くなっていますが、しばらく前まで、三条川端東入ルに、立派な表構えの、やはり「鷹匠」と言う名前の和食レストランがありました。亡くなった彰さんは、ここの店長をしていたのです。そして、ここでの店長としての仕事のさせられ方が、裁判の大きな争点となったのです。
この件では、幸い、店長もタイムカードをつけていました。その結果、1日の平均労働時間が、12時間に及んでいること、休日が1ヶ月2日程度しかないこと、などが、客観的な資料から裏付けられています。
しかし、会社は、そのことを前提としながらも、店長というのは、自分で労働時間の管理ができる仕事であり、休もうと思えば休日も取れた。時間中でも休みが取れるし、特に、店が暇な時間帯にはゆっくり休むこともできる。外出も自由にできる、と主張しました。そして現に、彰さんもそうしていた、と言い、それに添う証人も出してきたのです。
この点について、裁判所は、
彰さんが自由に休憩を取っていたと言う会社側の証言を「一方的」「伝聞」として退けたうえ、彰さんの仕事ぶりについて、「従業員の監督とあわせて、自ら率先して業務に従事していたとの勤務態度に照らせば、タイムカード上の勤務時間中はほとんど業務への従事にあてられていたと言える」と認定しました。
そして、焦点の「店長の裁量」については、彰さんの死亡後に店長になった人が「自ら業務に従事することよりも従業員の指揮監督を重視して三条店店長業務を行っていたにもかかわらず、勤務時間は平均して12時間程度であったことからすれば、店長の裁量でもって勤務時間の軽減を容易にはかることができたとは言えない」と判断したのです。
この店長は、会社を代表する証人でしたが、「自分は1日12時間仕事したが、平気であった」と言いたかったようです。いみじくも長時間労働の実態を自白したのです。
実際、店長は、いくら長時間労働をさせてもコストがかかりません。その結果、業務上のいろんなしわ寄せがくるのです。そして、そのすべてを真面目に受けとめ真剣に対応する性格が反映すると典型的な働き過ぎが生み出されるのです。
裁判所は、こうした長時間過加重労働に加えて、彰さんが、「三条店の売上減少により、これを回復するため種々努力を重ねることを要求された」ことを指摘し、「社長は、彰に対して、売り上げの回復を求め続けていたことに照らせば、彰は、被告(会社)により過重な労働を強いられていたというべきである」と判断したのです。そして、これも大きなストレス要因であると指摘しました。
そして、もう一つのストレス要因として、「社長は、彰の異動を決めて、彰の意に反して実行するべく強く説得した」ことを指摘しています。
自殺の原因はうつ病、その原因は、すべて業務
うつ病の罹患と自殺の原因について、判決は、過重な長時間労働の持続、業績回復の要求にもかかわらず効果が出ない、などのストレス要因が積み重なってうつ病に罹患した後、不本意な異動の内示を受け、強く説得されたことがきっかけになって、自殺に至ったものである、と判断しました。
自殺の原因について、判決理由は、「うつ病によって、正常の認識、行為選択能力が著しく阻害され、又は、自殺行為を思いとどまる精神的な抑制力が著しく阻害されている状態にて、衝動的に自殺を図ったと認めるのが相当である」としています。
監督署では、うつ病による過労自殺であるという認定がされていますが、今回、会社は、そこについても徹底的に争ってきました。彰さんは、生前には、この病気について、医師にはかかりましたが、きちんとした診断を受け治療を受けてきませんでした。
監督署で、労災の認定を求めるなかで、春日診療所の遠山先生に鑑定的な意見を作成してもらいました。そして、裁判になって、そこで出された事実関係をふまえて再度意見書を作成し、証言にも出ていただきました。激しい会社側弁護士の反対尋問を跳ね返しての遠山先生の医師としての証言が、全面的に生かされて、今回の判決に実を結びました。専門家の協力、とりわけその分野で先進を行く、理解ある専門家の協力が決定的な力を発揮した事案でした。
会社の責任を白日の下に
この事件は、労災認定をされた後、会社の責任を追及する裁判です。過労死にしろ、過労自殺にしろ、会社が、労働者をどのように働かせたか、に一番の問題点があります。今回も、「経営を優先させ、労働者の業務軽減に無頓着であった」ことが、過労自殺を生んだとして、会社の責任が認められたのです。また、裁判所は、彰さんが発していた異状のシグナルにも会社が無頓着であったことも認定しています。
過重な長時間労働をしている事実があり、異状を訴えている事実があるのに、何の改善措置も取らなかった、だから会社の責任である―裁判所の判断は極めて明快です。
彰さんが自殺する数日前、彰さんが業務中に階段から転落して大けがをする事件が発生しました。転落事故そのものも初めてのことです。会社は、そのこと自体で、先ず異状を感ずるべきです。そして、入院した翌日、社長が見舞いに行った直後に、彰さんは突如退院を申し出て、無理矢理退院して、仕事に復帰しているのです。それも極めて異常なことです。社長は、見舞いに行って「ゆっくり休むように言った」と主張します。しかし、事実は、その直後に退院を申し出ているのです。
この点について、裁判所は、次のように判断しました。
「社長は、彰の業務処理につき代替措置を何ら講じていないのであるから、彰としては早期に退院せざるを得ない状況にあったと言うべきである」。
大けがをしても、とても休める状況にはなく、それだけ彰さんが追いつめられていたことを強制退院の事実が示しています。
すべて会社の責任・過失相殺はしない
「過失相殺はありません」裁判官が判決の主文を言い渡した後、判決要旨として、こう告げた時、「パーフェクトだ」と確信できました。会社相手の労災事件では、常に「自分の健康管理責任」とか「自分の素因」とか言われて過失相殺問題がついて回ります。私たちは、常にこの闘いにいどんできました。「すべて会社の責任である」とした判決が、まさに画期的である大きな理由です。自殺は、自ら命を絶つ行為ですから、どうしても本人の責任が問題とされます。この点について判決は、「(業務に起因する)うつ病により正常な判断能力等が著しく阻害された状態にて行われたもの」であるから本人に責任は無いと、明快に判断を下したのです。
むすびに
こうして、1審判決は、慰謝料の金額について問題を残したものの、全面勝訴判決でした。会社は控訴してきましたので、闘いは大阪高裁に移ります。私たちは、何としても、この判決の勝利の水準を守りきらねばなりません。
また、過労死事件はいつもそうなのですが、裁判で勝利をしても亡くなった人は戻ってきません。気持ちが本当に晴れることはありません。でも、無念を晴らすことはできます。自殺と言えば、本人の責任と思われがちですが、過労死と何ら変わることはないのです。また、今回は、より明白に本人には何の責任もなく、すべて会社の責任であることが明らかとなりました。そのことを社会的に明らかにできたのは、本当に良かったと思います。
私たちには、大阪高裁での闘いと合わせて、この判決を武器にして、過労死・過労自殺を生み出すものを根絶する闘いも待っています。闘いは続きます。
(弁護団は、村山、佐藤克昭、浅野則明〈以上京都〉及び岩城穣〈大阪〉)
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ネスレコンフェクショナリー契約社員解雇・雇止め事件で勝訴
弁護士 佐 藤 真奈美
大阪地裁第5民事部(小佐田潔裁判長)は、ネスレコンフェクショナリーの契約社員だった原告5人が解雇・雇止めの無効確認等を求めた事件で、平成17年3月30日、解雇および雇止めのいずれも無効であるとして、雇用契約上の地位確認と平成15年7月からの賃金と年2回の賞与の支払いを命じる原告全面勝訴の判決を言い渡した。
事案の概要は以下のとおりである(詳細は民主法律時報2003年8月号掲載記事参照)。原告らは、ネスレジャパンの100%子会社であるネスレコンフェクショナリー(被告会社)の関西支店に勤務し、キットカットなど菓子類のスーパーマーケット店頭販売促進業務(MD業務)を担当していた。勤務していた期間は11年から9か月と様々であったが、1年ないし半年間の雇用期間で更新されており、原告らは定年まで働き続けようと日々業務に励んでいた。ところが、被告は、競争力強化のため販促業務を鰍`SPに委託することにした。それに伴い原告らを含む契約社員全員を(雇用期間途中であるにもかかわらず)平成15年6月30日付で解雇する、鰍`SPと請負契約を締結するように、と通告した。さらに、契約期間途中の解雇であることに危機感を感じたのか、予備的に原告ら各自の雇用契約満了時に雇止めする旨の通知もした。
原告らはこのような理由により解雇・雇止めされることに到底納得できず団体交渉を申入れたが、被告は態度を変えず、平成15年8月1日に提訴するに至った。
本判決の主要な争点は、@本件解雇に解雇権濫用法理が適用されるか、本件解雇が解雇権の濫用に当たるか、A本件雇止めに解雇権濫用法理が類推適用されるか、本件雇止めが権利の濫用に当たるか、であった。
判決は、まず@について、確かに期間の定めのない正規従業員と原告らとの間には雇用条件などにおいて差違はあるものの、原告らにおいても期間満了時までは正規従業員同様就業規則所定の解雇事由がなければ解雇されないという合理的な期待が存在するというべきとして、解雇権濫用法理の適用を認めた。その上で、経営上の必要性について、被告は競争が激化するチョコレート市場において売上げを伸ばすためMD業務を外注化することが必要であったと主張するが、MD業務について具体的にどのような問題点があるのか、なぜ自社努力によりその問題点を改善できないかについては明らかでないと判断した。また、仮に問題点が存在しその解決のためには外注化が望ましいとしても、雇用期間が満了していない原告らを直ちに解雇してまで実施する必要があるかは別問題で、本件では直ちに実施しなければならないほど経営上の必要性は高くなかったと判示した。そして、解雇回避努力について、原告らを他の勤務場所・他の業務の部署へ配転させる可能性もあったのにその機会を与えていない、ASPに委託された場合原告らの地位は不安定なものになるからASPへの委託を本件解雇の回避と同様の評価をすることは出来ない、と判示した。さらに、手続の相当性について、被告は原告らに対し本件解雇に至る経緯について何ら説明していない、団体交渉においても解雇の撤回を一貫して拒否していた、と判断した上で、解雇権濫用法理により本件解雇は無効との判断を下した。
次にAについて、まず、契約更新回数の多さ、契約更新手続が厳密になされていなかったこと等の理由から、雇用契約が更新されるとの期待を原告らが抱くことにつき合理的理由があったと判示し、雇止めにあたっては解雇権濫用法理を類推適用するとした(なお、原告の中には一度しか契約更新されていない者もいたが、被告社員の言動などを理由に合理的理由を肯定している)。その上で、前述した解雇についての判断要素に加え、本件雇止め前に原告らと実質的な協議をしていないとして、本件雇止めも権利の濫用として無効との判断を下した。
被告は、訴訟において、赤字で経営が行き詰っているとの主張はせず、競争力強化のため外注化が必要であったと主張していた。判決は、担当業務を外注したので仕事がなくなったという安易な理由で解雇(雇止め)することは許されないことを明確にし、また、外注化を理由にパート労働者を個人事業主(請負)に転換してその労働者性を剥奪するこは許されないとして、労働者の非正規化、さらには一層不安定な非労働者化(個人事業主化)の大きな流れに歯止めをかけたことに大きな意義がある。「次の仕事があるだけまし」という被告の態度に屈しなかった原告の誇りとパワーを肌で感じることができ、本当に多くのことを学ばせていただいた。
被告は即日控訴した。高裁でさらに上回る結果を得られるよう、今後ともご支援の程よろしくお願いいたします。
(弁護団は、田窪五朗、鎌田幸夫、村瀬謙一、佐藤です。)
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関西金属工業事件仮処分決定
弁護士 河 村 学
本件は、会社が労働組合を嫌悪し、その中心的組合員10名を解雇した事例である。
本件では、「変更解約告知」という手法がとられている点、労使協定上に事前協議・決定約款が存在する点などに特徴がある。
この件について労働者が提起した地位保全等仮処分申立に対し、大阪地裁は、平成17年3月30日、賃金仮払いを認める決定を行った。
事案の概要
本件会社は、松下電工の下請会社として、工事用照明器具、電撃殺虫器等の製造・販売を行っていた。従業員数は約50名であった。
一方、労働組合は1980年に結成され、その後、労使協調的な路線をとっていたが、1997年に分会長が交代してから、有給休暇を自由に取得できるような職場を目指すなど労働者の権利と生活擁護のため闘う組合へと変化した。
しかるに会社は、この労働組合の変化を嫌悪し、さまざまな不当労働行為を繰り返してきた。例えば、分会長が有給休暇取得後出勤すると「今日は仕事をするな」といって1日中ペンキ塗りを命じたり、サービス残業の強要について抗議すると社長が激高して机を叩き、机上のガラスを叩き割ったり、帰休制(補助金がでる)について組合が即座に同意しなかったことから、分会財政担当者を役員で取り囲み、「組合が弁償せい」などと長時間吊し上げたりした。このような攻撃の中組合の歴代の書記長が精神的に追い込まれ次々と会社を退職していった。
その後、平成12年9月には、分会書記長を不当配転したため、地労委に申し立て、配転の事実上の撤回、謝罪、解決金の支払い等の和解により闘争が終結した(平成15年3月)。
しかるに、会社はさらなる不当労働行為として本件解雇を行ったのである。
本件解雇に至る経過としては、まず、松下電工との契約打ち切り(この打ち切りの責任は主として会社にある)による売上減少を理由に、平成14年11月、20名の希望退職募集に対して26名の応募者があり、その全員が退職した。その後、会社は、パート等を採用しながら就業を続けてきたが、平成16年3月、突如として、新たな人員整理方針を発表した。その概要は、希望退職の募集を行い、その後残存社員については全員を一旦解雇し、労働条件変更(切り下げ)後「募集・採用を実施する」というものであった。この計画が従来一般に理解されている「変更解約告知」と異なる点は、解雇後の採用を保証しないという点である(後にこの計画により6名の人員を削減すると会社は主張)。
これに対して組合は、@このような計画を組合との協議なく一方的に進めるのは労使協定に反すること(会社・組合間には「今後労働条件に関する変更については、会社、組合の交渉で協議決定し、会社は一方的に行わない」との労使協定があり、かつ、この協定を遵守することは、前記の地労委の和解において明文で確認されている。)、A「変更解約告知」というが、再雇用が保証されないのであれば実質的には解雇であり、誰を再雇用するかを会社の裁量とするような計画には従えないこと、B会社の経営実態に関する資料を提供すべきこと、組合から会社再建の提案を行うので(これには賃金カットも含む)、これについて協議すべきこと、などを主張・要求した。
しかし、会社は、解雇は「労働条件に関する変更」ではないとして、実質的には団体交渉を拒否し、かつ、組合の提案も要求もほとんど無視して、人員整理計画を強行した。そして、組合がこの計画に反対し、解雇後の「採用願」の提出を拒否すると、拒否をした10名全員を平成16年5月20日付けで解雇した。
仮処分決定の内容
被保全権利について
決定は、まず、会社は6名の希望退職を募集していたところ、本件解雇の理由としては、組合員10名が希望退職に応じず、また、「変更解約告知に同意しなかった」という点を挙げるのみであるが、これでは10名を解雇する経営上の必要性について具体的主張がなされていないと判断した。また、@会社が本件解雇後5名を雇い入れていること、A人手不足を理由として業務の一部を外注していること、B従業員の残業時間が増加していること、C会社の計画によっても具体的使途が予定されていない預貯金が1億5000万円余あること、D会社の主張によっても毎月約258万円の賃金支出を削減することにより損益が均衡しうるものであること、という事情からは、「何らかの経営の合理化をする必要性があることが認められたとしても、6名を解雇する経営上の必要性があるということもできず、また、本件回顧を回避するための努力を尽くしたということもできない」とした。
なお、本件の「変更解約告知」については、「退職した者ないし解雇された者のうち、債務者が選んだ者に対して新たな雇用契約の申込みをするというにすぎない」から解雇の有効性判断には影響しないとした。
保全の必要性について
決定は、保全の範囲について、月額の賃金については平均賃金額の満額を10名すべてについて認めたが、仮払の必要な期間として「平成17年3月から本案の第1審判決言渡しに至るまで」とした。
若干のコメント
被保全権利に関する裁判所の判断は労働者側の主張に沿う全うなものである。会社はそもそも6名しか人員削減を予定していなかったのであるから、10名を解雇する必要性に関する主張は全く出来なかったのである。また、裁判所認定の事実からしても、6名についてさえ解雇の必要性すら存在しないのは当然である。
本決定の意義は、本件解雇の必要性すら全く認められない不当な解雇であることを明確に判断したことにある(このことは本件解雇が不当労働行為意思のみに基づきなされたものであることを推認する)。
「変更解約告知」に関しては、本件の場合、解約後の採用が保障されるものではなかったため、これに応じないことが解雇の有効性判断に影響しないのは当然であり、本件決定が、通常理解されている変更解約告知の議論に踏み込んだ判断をしているわけではない。
保全の必要性に関しては、本決定は仮払いに必要な期間を解雇後からとせず決定月からとしている。また、その理由については何一つ言及がない。過去の未払い分について全額カットする判断が地民5部において増加傾向にあることはつとに指摘されているところであるが(民主法律246号・71頁。「労働事件の審理に関する申入書」)、「債務者(会社)から支給されてきた賃金により生計を維持していたことが認められる」としながら(本決定)、解雇後の生計維持のための苦難や借財等に思いを致さず、「生きて来れたのだからいいではないか」式の判断を行った点は厳しく批判されなければならない。
(弁護団は、鎌田幸夫、城塚健之、河村学、古本剛之)
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企業の36協定情報公開訴訟 一部認容判決
弁護士 大 橋 恭 子
36協定の公開を求める意義 ―過労死、過労自殺を防ぐために―
労働基準法は、1日8時間、週40時間という原則的労働時間を超えて使用者が労働者を労働させるためには、労働基準法36条所定の協定書を労使間で締結することを求めている。そして、この「36協定」によって許容される時間外労働については、厚生労働省の告示(平成10年10月28日労働省告示第154号)により、1ヶ月45時間、1年間360時間などの限度が定められており、それによって労働者の健康と個人の尊厳を確保している。また、現在では、厚生労働省が、月間80時間を超える時間外・休日労働を過労死ラインとして「過重労働による健康障害を防止するため事業者が講ずべき措置等」を策定するともに、過労死ラインを超えた労働に従事したと判断されれば、労働災害として労災認定を速やかに行っている。
しかしながら、過労死、過労自殺事件に取り組む中で、この過労死ラインを超える36協定が散見することが判明した。年間900時間、更には1000時間をも超える時間外労働を容認し、かつ休日労働には無制限という「36協定」(特別条項協定)が、著名な一部上場企業でもまかりとおっている。多くの労働者は、36協定で規定された時間どおり働いて万が一のことがあれば、「過労死」だと判断されるような長時間労働に従事させられることを認識さえしない中で、過酷な労働を強いられているという現状がある。
そこで、具体的にどのような企業が、どのような36協定を締結しているのかを情報開示をして明らかにし、労働者の心身の健康を損ね、個人の尊厳をないがしろにするような「36協定」を締結している企業に対し、労働行政による指導、監督とともに、市民の監視のもとにその是正を求めるためにも情報開示は不可欠である。
このように、36協定の情報公開請求は、過労死・過労自殺を未然に防止し、個人の尊厳を損ねることのない労働現場を作り出すために行われた訴訟である。
訴訟に至る経過
以上のような問題意識から、過労死問題連絡会及び労働基準オンブズマンでは、36協定の条項公開についてかねてより議論がなされていたが、平成16年4月に、連絡会・オンブズマンのメンバーである高本知子弁護士が請求人となって、大阪労働局長に対し、大阪中央労基署に届け出をされた36協定についての情報公開請求を行った。しかし、大阪労働局長は、具体的な時間外労働時間の数字については公開したものの、肝心の事業所を特定する「事業の種類」、「事業の名称」、「事業の所在地」、「時間外労働をさせる必要のある具体的事由」等の大半の情報を黒塗にして、それらの情報については不開示情報だとした。そこで、不開示とされた情報の公開を求めて平成15年7月24日、高本弁護士自ら原告となり、大阪労働局長を被告として提訴した。
審理経過
提訴後、被告は、情報公開審査会の答申に基づき、独立行政法人等の保有する情報の公開に関する法律2条に規定する独立行政法人等に含まれる特殊法人の協定届けについては、事業の種類、名称、事業の所在地、時間外労働をさせる必要のある具体的事由等、そのほとんどの情報について公開することとしたが、民間の事業所については、異なる扱いとした(この他、更新届けにつき部分的な開示を認めた)。
また、法律上の争点は多岐にわたったが、特に、中心となったのは、後記の不開示情報目録2の情報について、情報公開法5条2号イの事業者情報のうち、公にすることにより、当該事業者の権利、競争上の地位その他正当な利益を害するおそれがあるものとして不開示情報に該当するか否かであった。この点につき、被告は、これら情報が公開されれば、当該事業者の経営方針、経営技術に関する情報の収集が容易となり、当該労働者と競争する他の事業者にとって有利に働き、当該事業者の競争上の地位その他の正当な利益を害するおそれが認められることを強調した。
【不開示情報目録】
1
過半数代表者の氏名及び同人の印影、過半数代表者以外の労働者の氏名及び同人の印影並びに一部の使用者(対象文書に係る事業を営む個人及び法人登記簿に記載された法人役員以外の使用者)の氏名及び同人の印影
2
(1)時間外労働又は休日労働をさせる必要のある具体的事由、業務の種類、労働者数
(2)使用者(前記1記載の者を除く。)の印影、法人印、労働組合印等の印影
(3)事業の種類、「自動車運転者の労働時間等の改善のための基準」、「改善基準」とい った事業の種類を推認し得る記載、事業の名称、事業の所在地、郵便番号、電話番号、労働組合の名称、労働組合の所在地、過半数代表者及びこれ以外の労働者の職名、過半数代表者及びこれ以外の労働者の労働組合における役職名並びに使用者名(前記1記載の者を除く。)の氏名及び職名
判決の内容
これに対し、裁判所(大阪地方裁判所第7民事部、 川神裕裁判長、山田明裁判官、伊藤隆裕裁判官)は、前記不開示情報2 のうち、時間外労働又は休日労働をさせる必要のある具体的事由、業務の種類、労働者数の各情報は、これらの情報だけで当該事業場を特定することができ、かつ、これを開示することによって当該事業者の競争上重要な情報が公になり、その結果、当該事業者の正当な利益が害されるおそれがあると認められるから、同号イに該当するとしたが、2 については、以下のような理由により、開示を認めた。
「一般的に、事業の種類(「改善基準」等の事業の種類を推認し得る記載を含む。)は、必ずしも当該事業場を特定し得るとまでは言い難いが、本件のように、開示請求に係る場所的範囲が限定される場合には、当該事業場が特定される場合も想定できる。また、事業の名称、事業の所在地、郵便番号、電話番号及び法人印の印影の各情報は、それ自体によって当該事業場を特定し得るものであり、労働組合の名称、印影及び所在地は、労働組合名が事業者名を冠する場合が多く、その事務所が当該事業者の内部若しくは隣地に設けられる場合が多いことからすれば、当該事業場を特定し得る情報であるといえ、労働者の職名、労働者の労働組合における役職名、並びに使用者の氏名、印影及び職名については、他の資料と照合することによって当該事業場を推知することができる情報ということができる。さらに、時間外労働又は休日労働をさせる必要のある具体的事由、業務の種類、労働者数の各情報についても、前記イのとおり、いずれも当該事業場を識別し得る情報ということができる。
しかし、今日、事業者が労働者に時間外労働・休日労働を命じることが少なくないのは公知の事実であって、36協定を締結していることが公にされても、当該事業者に格別不利益を与えるものではない。また、本件一部不開示決定において既に開示されている延長可能時間等の情報は、いわば労働条件の基礎ともいうべき資料であって、通常、求人広告や公共職業安定所において求職する者に提供されることが多い情報と認められる。一般に求人をしない部署については勤務時間が公開されることがない場合もあり得るが、そのような場合であっても、一般的には、勤務時間はその性質上殊更に秘匿すべきものとは考えにくいし、事業者がその労働者に勤務時間を社外秘とすべきことを命ずることも、通常は想定しにくいことである。もっとも、個々の事業者が就業時間等を公にしたくないということはあり得るが、情報公開法5条2号イの利益侵害情報に当たるといえるためには、主観的に他人に知られたくない情報であるというだけでは足りず、当該情報を開示することにより、当該事業者の公正な競争関係における地位等の利益を害するおそれが客観的に認められることが必要であるところ、本件においては、かかるおそれが存在すると認めるに足りる証拠はない。したがって、延長可能時間等の情報が当該事業場を特定し得る状態で開示されることが事業者の正当な利益を害するということはできず、当該特定に足りる情報が同号イの不開示情報に該当するとは認められない。」
そして、同判決は、被告から控訴がされず、確定した。
判決の意義
請求をした情報の全ての開示が認められた訳ではないが、事業所の名称と、具体的な36協定で規定された時間外労働時間が明らかとなることにより、冒頭で述べた、労働者の心身の健康を損ね、個人の尊厳をないがしろにするような「36協定」を締結している企業に対し、市民としての監視を行う上で、最低限の情報を入手することが可能となった。
今後は、この判決を具体的にどのように活用するかが、大きな課題である。
早速、連絡会では、「日経500」に掲載された主要500社の36協定の開示を各労働局に請求し、それに基づく、36協定に関するシンポジュウムを6月15日に行う予定である。是非、多数の方のご参加をお願いしたい。
弁護団は、松丸正、岩城穣、下川和男、中森俊久弁護士、原告の高本も当然、弁護団の一員として活動頂いた。また、神戸大学の阿部泰隆教授にも意見書の作成をしていただき大変お世話になった。
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