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| 住友化学女性差別事件 大阪高裁で和解 |
| 弁護士 池 田 直 樹 |
- 大阪高裁での和解
住友化学女性差別事件について、本年6月29日、大阪高等裁判所第11民事部(市川頼明裁判長)において、1500万円の解決金の支払を内容とする和解が成立した。提訴以来9年目の和解である。
本件は、住友化学工業株式会社に昭和37年、38年、43年に2種採用(いわゆる事業所採用に近い形態)で入社した高校卒の女性が、次の女性差別を争ってきた事件である。
(1)主位的請求:別の採用区分の男性との差額賃金請求
同期の高卒男性は3種採用(いわゆる本社採用に近い形態)、高卒女性については2種採用と入り口で採用区分を分け、その後、男性は専門職・企画職・管理職といった処遇を受けた一方、女性は一般職の処遇を受け続けた差別
(2)予備的請求の1:同一採用区分で転換した男性との差額賃金
一部存在した高卒2種採用の事務職男性の約7割が転換審査を通じて企画開発職掌に転換していったのに対して、高卒事務職女性はほとんど転換が実現されなかったという転換審査制度の運用上の男女差別
(3)同一ないし類似の採用区分の高卒男性と比較しても、女性に対する一般的な期待度の違いを前提として、男女において日常的な仕事や情報の与え方、職業訓練(オンザジョブトレーニング)、その他の処遇に差別があること(慰謝料請求550万)
大阪地方裁判所1審判決(2001年3月28日)は、(1)については、入社時に男女別の採用区分を設けても当時の公序良俗に違反するとまでいうことはできないとし、(2)についても、転換制度の運用差別は認めず、(3)についても会社としての組織的な差別を認める証拠はないとし、いずれの請求も棄却した。
- 控訴審での立証活動と和解経過
控訴審においては、同一採用区分の男性との処遇格差の立証に力を注いだ。同一採用区分の男性に対しては、決済文書である「伺い」を若いうちから書かせたり、職場の配置図でも若い男性の下にベテラン女性が配置された図になっていることなど、男女間で明らかな処遇の違いがあったことを書証や証言によって立証した。
ところが、結審が視野に入ってきた昨年12月24日、住友電工事件の衝撃的な和解が成立した。この和解は高裁民事11部にも大きな影響を与え、今年2月、裁判官から和解の打診がなされ、協議が始まった。
控訴人らは「住友電工和解」をさらに進めることを目標に、控訴人らに対する昇格等や、厚生労働省の「コース等で区分した雇用管理についての留意事項」にそった転換制度の見直し、男女共同参画会議の報告にそった女性(一般事務職を含む)の登用促進などを含めた包括的な和解案を提出した。しかし、最終盤になって会社は包括的な和解案を拒否した。
他方、控訴人の有森が昨年4月、石田が今年7月に退職となる一方、矢谷については、調停申請を契機にして実現した公募制の転換試験に挑戦するなかで、その努力が実り、転換審査に合格し、本年7月から専門職に職掌転換することとなった。
そのような中で、和解の諾否について、昇格ないしポジティブアクションを含めた一般的努力条項が入らないかぎり和解は拒否という考えと、住友電工の流れを断ち切らず、それに新たな一歩を加えることが現情勢では正しい選択ではないかという見解との間で大激論となった。
最終的には裁判所の熱意ある説得と、住友電工の流れを定着させることこそが重要だと考えたこと、住友化学からの解決金が上記(3)として求めてきた慰謝料請求額との関係では満額(弁護士費用分は除く)の回答となったことから、和解を決断した。
- 和解内容と意義
住友電工とは異なり、住友化学は既に昭和45年に転換審査制度を設け、平成8年からは公募制の試験(ないし資格)による転換制度とするなど、人事制度上は女性に転換機会を与える外形を早くから整え、それを修正してきていた。
本件和解の意義は、性別をベースにした採用区分制度を設けたうえで、早くから転換審査制度を設定してきたという経営者側からすればいわば「模範生」である住友化学工業でさえ、その制度の運用において実質的な平等を追求する責務があることを示した点にある。女性であるがゆえに、男性と異なる採用区分で採用され、その区分を抜け出そうとすれば高いハードルを課される現実。その中で、苦しみながらもチャレンジを続けてきた3人の女性に対して、継続的な差別的処遇に対する慰謝料に匹敵する水準の金額を支払う結果となったことは、他の企業に対して、過去の男女別の雇用管理をそのまま温存することは許容されないこと、またコース別管理を行う場合にコース間の転換制度さえ外形的に設けていればよいという安易な姿勢は許されないことについての警鐘を鳴らすものである。また、そのような企業の厚い壁に挑戦し続けている全国の女性に対する大きな励ましになるものと信じている。
和解後、今年度、住友化学の一般職の女性から初の管理職が生まれたことが判明した。ポジティブアクション条項は入らなかったが、見えにくいところで波及効果は生じており、控訴人らとして一層の喜びを感じた次第である。
(弁護団は、細見茂、宮地光子、野仲厚治、井上洋子、小山操子、池田直樹)
- はじめに
積水化学工業株式会社の従業員がなした自宅作業が業務であるか否かが主たる争点となった労災認定訴訟において、本年6月10日、自宅作業を業務と認め、従業員の発症した、くも膜下出血を労災と認定した全面勝訴判決を獲得することができたので、ここに報告する。
- 事案の概要
本件労働者Y氏は積水化学の医薬品生産工場で働く大学院卒の技術職であったが、平成12年1月21日、業務改善成果の全社発表会の発表中に突然昏倒し、くも膜下出血と診断され、以後意識障害が全く回復しない状態となった。
この発症の原因は、Y氏が、この全社発表会における発表だけでなく、昇進試験としての意味をもつ専門職業務成果発表を同時期に会社に命ぜられていたため、通常業務時間内に消化しきれなかった膨大な作業をやむなく持ち帰り、発症の直前の時期には、ほぼ連日深夜までの自宅作業を強いられていたことにあった。
しかし、尼崎労基署は、Y氏のなした自宅作業を業務とは認めず、労災不支給決定をなした。さらにそれを不服としてY氏がなした審査請求、再審査請求もいずれも棄却された。
審査請求棄却決定書においては、労災保険審査官は、「事業主の積極的特命がなければ自宅作業は業務とは認めることができない」、「本件では、発表資料の準備においてはどこまでの水準のものを作成するかは本人の裁量に委ねられていた面があり、また、自宅作業については賃金も支払われていなかったから、自宅作業はY氏が任意の選択で行ったものである」などと労災不認定の理由を示している。
- 判決に示された判断
本件訴訟では、まず、労働者の行った自宅作業を、一般的にどのような要件のもとで業務と認めるべきかが争点となったが、判決は、事業主による黙示の業務命令があればよいとの判断を示し、明示の自宅残業命令ないしはそれに準ずる状況など厳格な要件が必要であるという被告側の主張は採用しなかった。
そして、判決は、本件では、「(両発表準備の)作業の膨大さ及びそれに見合う勤務時間が労働時間内に確保されていなかったことをも考慮すると、自宅作業によって補完することにつき、事業主による黙示の業務命令があったものと認められる」と判示し、原告Y氏のなした発症直前一カ月余りの間の自宅作業を業務と認めた。
発症直前期にどの程度の時間の自宅作業を行ったかについても争いとなったが、判決は、Y氏に課せられた作業量の膨大さやY氏の自宅作業を現認していた妻の供述、パソコンに断片的に残された作業時刻などを総合し、「睡眠時間が3時間程度になった日が(発症直前1カ月半ほどの間に)相当日数あった」と認定し、Y氏に課せられた業務の過重性を肯定し、本件発症を業務災害と認めた。
なお、前記の昇進試験としての業務成果発表の自宅での準備作業については、昇進のためという私的動機から行ったものであるから業務ではないとの主張も被告から出たが、判決は、この発表は単なる昇進試験ではなく、会社が組織的に人材育成を図り業務の効率性向上を実現するなどの目的で設けた制度の一環であって、この発表準備作業にも業務性が認められるとも認定し、被告の主張を退けている。
- まとめ
本判決は、@明示の自宅残業命令がなくとも、命ぜられた作業の質量や納期の関係等から黙示の自宅残業命令が十分認定できる場合があり、それにより自宅作業は業務と認めうること、A自宅作業に対して賃金が支払われていないからといって、自宅作業の業務性が否定されるわけではないこと、B与えられた仕事に裁量が与えられているからといって、その仕事の業務性が失われるわけではないこと、C一見労働者個人の利益のための昇進試験とされているものであっても、内実は会社のための制度である場合があることなど、原告側の主張を全面的に容れた、労働現場の実態に即した正当な判断を示し、行政による形式的法適用の網の目からこぼれた労働者を救済したものであり、高く評価できる。
近時、裁量労働制や成果主義が労働現場に導入され、特に知的労働の分野では、業務の遂行に上司の明確かつ具体的な業務指示を必ずしも伴わないケースが増えている中で、本判決は、今後の参考になるものと思われる。
なお、この1審判決は、その後被告側から控訴がなされずに、確定した。
(弁護団は、池田直樹、片山文雄、中村正彦)
- 事件の概要
平成16年6月10日、関西金属工業(株)を解雇された全日本金属情報機器労働組合(JMIU)関西金属工業分会員10名が、労働契約上の地位保全・賃金請求を求める仮処分を、大阪地裁に申立てました。債権者10名は皆、熊本を故郷とする九州男児で、「不当なリストラに負けない!」と、熱い闘いを繰り広げています。
- 事件の流れ
関西金属工業(株)は、創業54年の老舗企業で、松下電工株式会社の専属下請けとして板金加工部品の製造を営んできました。ところが、平成14年に、会社の投げやりな経営態度から、その下請け契約を失いました。そのため、経営危機に陥り、同年秋には、希望退職者を募り、26名が希望退職することとなりました。
その後、平成16年3月下旬になって、会社は、新たな希望退職募集と「変更解約告知(解雇)」、これに応じない者の整理解雇を提示してきました。これは、勤続25年以上の従業員全員を一旦解雇し、会社側の選定基準に見合う者のみを再雇用(給料は30%以上切り下げになる)する、それに同意しない者は整理解雇する、という内容でした。
そして、これに応じなかった債権者10名は、整理解雇されることとなりました。
- 「変更解約告知」・整理解雇
会社のいう、勤続25年以上の従業員全員解雇後の再雇用の選定基準というのは、「会社再建を目的とすることから、過去の人事考課を踏まえ、将来を目指した有能の士を選」ぶという抽象的なもので、しかも、従業員にA4用紙1枚に書かれた質問に答えさせ、その結果を基に選定するといった次第でした。つまり、会社側がいくらでも恣意的に選定できる方法となっていたのです。これでは、退職に応じた後、採用されずに終わるという結果もあり得るのであり、従業員にとって、極めて不利な内容です。
会社側は、このような「変更解約告知」に応じないことを、整理解雇における人選基準として挙げているのです。
- 整理解雇の4要件
整理解雇においては、@人員削減の必要性、A解雇回避努力、B人選基準の設定と適用の合理性、C労働者、労働組合との協議と言った四要件が要求され、これらの要件を欠く整理解雇は、権利の濫用として無効とされる、「整理解雇の法理」が大村野上事件・長崎地裁大村支部判決(昭和50年12月24日)など多数の判例法理によって定式化されています。
(1)整理解雇の必要性
本件では、当初、会社は6名の人員削減を計画しながら、債権者ら10名を解雇しています。このような過剰な解雇の必要性は認められません。
(2)解雇回避努力の不十分
本件では、従業員に対する一時金・賃金切り下げについては、組合(分会)側が協力する姿勢を示しているにもかかわらず、会社側は話し合いに乗らず、「変更解約告知」・整理解雇に固執し続けました。
さらには、遊休資産の処分・活用をしていない、正社員より会社との結びつきの弱いパート・嘱託社員など非正規社員には希望退職を募集していないなど、とても解雇回避努力が十分になされたとは言えません。
(3)人選基準
前述のように、会社は、不合理な「変更解約告知」に応じないことを選定基準として整理解雇をしており、認められるものではありません。
(4)協議義務違反
本件では、組合と会社の間には、以前から、「労働条件に関する変更については、会社、組合の交渉で協議決定」する旨の協定がなされていました。そのため、会社は、人員削減の必要性、整理方針、手続き、人選等につき、よりいっそう積極的かつ誠実に、労働者や組合との協議を果たすべきであるはずです。
しかし、会社は、度重なる団体交渉においても、会社の決定事項を一方的に押しつけるばかりであり、組合(分会)の柔軟な提案には一顧だにせず、分会が求めた再建に関する資料も提示せず、会社のリストラスケジュールを強行したのです。
このように本件解雇が整理解雇の4要件を充たたさず、無効であることは明らかです。
- 闘い
会社側の不当な対応にも負けず、熱き九州男児達10名は、「解雇者団事務所」も作り、ビラまきなども行いながら、闘い続けていきます。どうぞ、ご支援お願いします。
(弁護団は、鎌田幸夫、城塚建之、河村学、古本剛之)
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