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住友電工男女賃金差別事件、勝利の和解
国労最高裁判決について


住友電工男女賃金差別事件、勝利の和解
弁護士 長 岡 麻 寿 恵
  1.  2003年12月24日、大阪高等裁判所第14民事部(井垣敏生裁判長)において、住友電工男女賃金差別事件の和解が成立した。
     その和解内容は、後記の通りである。

  2. 事案の概要
     本件は、平成7年8月8日、会社に対し、提訴前10年間の差額賃金相当損害金(原告白藤について約2千3百万円、原告西村について約1千9百万円)の賠償請求・同額の慰謝料請求・弁護士費用の合計約9千6百万円及び提訴後毎月の差額賃金相当損害金の支払を、国に対し調停不開始の違法による慰謝料各自100万円の支払を、それぞれ求めて大阪地裁に提訴した事案である。
     原告ら高卒女性は、同学歴である高卒男性とともに同じ事務職として採用されたにもかかわらず、男性が次々と専門職に転換し昇進していったのに対し、女性は転換の機会も一切与えられず事務職のヒラに止め置かれ、平成10年には最高で月額25万円もの賃金格差が生じていた。
     このような差別に対し、原告らは平成6年3月23日、大阪婦人少年室に調停申請したが、大阪婦人少年室は、男性と女性は採用区分が異なること及び一般職にも少数の女性管理職がいることを理由に、同年6月6日調停不開始を決定した。

  3. 一審判決
     平成12年7月31日、大阪地裁民事5部(松本哲泓裁判長)は、昭和43年から昭和52年までの間に事務職として採用された新卒の高卒男子は勤続8年目には全員が専門職に転換しているのに対し、同じく事務職として採用された新卒の高卒女子で専門職に転換した者は一人もいないこと、男子の97%が勤続21年目までに管理職補に昇進しているのに対し、女子は勤続24年ないし29年を要してようやく30%程が管理職補に昇進したにすぎないこと、その結果賃金について昭和44年入社の男女では平成10年時点で月額約25万円もの格差が存在していることをそれぞれ認定した。
     にもかかわらず一審判決は、このような格差は、幹部候補要員として採用(全社採用)されたか否か(事業所採用)という採用区分の違いによるものであって男女差別によるものではないとした上で、会社が「幹部候補要因である全社採用から高卒女子を閉め出し、他方で事業所採用の事務職を定型的補助的業務に従事する職種と位置づけ、この職種をもっぱら高卒女子を配置する職種と位置づけたこと」は「男女差別以外の何ものでもなく、性別による差別を禁じた憲法14条の趣旨に反する」と判示した。しかし同判決は一転、女子を定型的補助的労働にのみ従事させ幹部候補要員として採用しないことは、昭和40年代当時の社会意識や女子の一般的な勤務年数からみれば公序良俗違反ではない、従って何ら違法はないと、原告らの請求を棄却し、原告らが請求原因に追加した差別の是正義務についても、その後男女別採用を改めたことで足り、原告らの主張は「結果の平等を求めるもの」と一蹴した。
      この「全社採用(幹部候補生)」「事業所採用(定型的補助的労働)」の区分は、就業規則にも募集要項にも全く記載のないものであり、会社が裁判になってから突然主張しだしたものであった。

  4. 控訴審段階
     原告らは即時控訴し、一審判決直後の8月31日には330名が大阪地裁を取り巻くヒューマンチェーンで判決に抗議した。新聞・テレビでも判決は大きく取り上げられ、「均等法以前に採用された女性は、一生差別されたままなのか」と批判された。判決についての学者の論評も全て批判的なものであった。
     また一審判決が、「社会意識や女子の一般的な勤続年数」に基づいて企業が効率的な労務管理を行うことは当然、としてあたかも会社ではなく女性自身の意識に差別の責任があるかのように述べたことは、女性の怒りを巻き起こし、「女性を働き続けられなくしていたのは会社に他ならない」という、それぞれの実体験に基づく草の根からの陳述書が100通を超えて高裁に提出された。
     控訴審においては、原告らは一審でマーシャ・フリーマン教授(国際女性の権利監視協会会長)の意見書を提出したのに続き、国際法の阿部浩己教授、労働法の西谷敏教授・山田省三教授・林弘子教授、憲法の樋口陽一教授・植野沙実子教授、社会学の上野千鶴子教授の各鑑定書・意見書、ウエスト・バージニア大学のエミリー・シュピーラー教授の意見書、一審の立脚した統計的差別論についての遠藤公嗣教授の論文、その他多数の一審判決に関する研究者の論文・論評などを提出し、一審判決の誤りを多方面から明らかにした。原告らは国連にも足を運んでロビー活動を続け、その成果は、平成15年7月にCEDAWが最終コメントで均等法の指針改正を勧告したことに結実した。
     更に法廷では、原告ら本人が、男性と一緒にしてきた仕事の内容を証言し、会社の主張する「採用区分」が事実に反し不合理なものであることを立証した。

  5. 和解勧告
     法廷内外の取り組みを強める中、本件は突然高裁民事12部から14部に配転された。そしてその直後、それまで長期に亘って裁判所に求め続けていた原告本人尋問が実現し、尋問終了後井垣裁判長から突然和解協議の打診がなされた。原告らとしては、余りにひどい一審判決をそのままにしておけないという思いから、和解ではなく判決をもらいたいという気持ちが強かった。しかし、和解でなければ解決できない、昇進や、国の指針変更を実現できれば、和解に応じてもよいと対応したところ、裁判所が強い指導力を発揮して和解を進め、格調高い和解勧告文を前文とした和解案を提案してきた。裁判所の和解案は、原告白藤さんの2年後の昇進を明文化していたが、会社から人事に関わるので口頭で約束したいとの申し入れがあったためこれを除外した他は、一部の字句を除いて成立した和解条項ほぼそのままである。
     裁判所の和解勧告が「このような改革は、男女差別の根絶を目指す運動の中で一歩一歩前進してきたものであり、すべての女性がその成果を享受する権利を有するものであって、過去の社会意識を前提とする差別の残滓を容認することは社会の進歩に背を向ける結果となることに留意されなければならない」(下線筆者)と述べている点は、高裁が一審判決を否定し、その論旨・結論を採らないことを明らかにしたものである。というのも、一審判決の論旨は、社会意識に基づいて採用差別を合法であるとし、且つ既になされた採用差別(本件においては「採用区分」と言える区分は存在せず、採用差別ではないのであるが)のもとでは、以前に採用された女性は差別の中に取り残されることを容認していたからである。会社が和解に応じたのも、このような和解勧告を見ての判断であろう。
     本年1月5日に原告ら二人の昇格の内示が出たが、特に西村さんは課長相当職である主席に昇格した(白藤さんも2年後に昇格予定である)。住友電工という大企業で、訴訟によって女性を課長相当職に昇格させたことの意義は大きい。しかも、和解の成果は早速上がり、西村さんと同じ日に、他の4人の女性が主査に昇格した。まさに和解によって男女差別の是正が職場で進み、目に見える形で実現したと言える。
     また、国との和解条項においても「雇用管理区分が異なる場合であっても、それが実質的に性別による雇用管理になっていないかについても十分な注意を払い、これらの施策を更に推進するとともに、改正均等法が機会均等調停委員会による調停について事業者の同意要件を削除した趣旨にもかんがみ、同調停の積極的かつ適正な運用に努めるものとする」と明記されていることから、以後国は「雇用管理区分が異なるから男女差別ではない」と強弁することは許されず、「管理区分が実質的に性別による雇用管理になっていないか」を検討する義務を負うのである。
     和解は、新聞、テレビなどのマスコミにも大きく取り上げられ、朝日・毎日の社説にも取り上げられ評価された。この和解条項が今後の差別是正の取り組みに役立つことが、原告らの何にもましての願いである。

(弁護団は、宮地光子、吉岡良治、渡辺和恵、小林徹也、真継寛子、有村とく子、長岡麻寿恵)

【和解勧告】
 国際社会においては、国際連合を中心として、男女平等の実現に向けた取組みが着実に進められており、女性がその性により差別されることなく、その才能及び能力を自己の充足と社会全体のために発展させ、男性と女性が共に力を合わせて社会を発展させていける社会こそが真に求められている平等社会であることは、既に世界の共通認識となっているというべきである。
 日本国憲法は、個人の尊厳と法の下の平等を宣言しており、わが国においても、国際的潮流と連動しつつ、その精神を社会に定着させるため、女性差別撤廃条約の批准(昭和60年)、男女共同参画社会基本法の制定(平成11年)など、着実な取組みが進められているが、他方、一部に根強く残っている性的役割分担意識等が男女間の平等を達成するための大きな障害になっている現実もある。
 就業の場面においては、昭和60年に制定された「雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等に関する法律」(旧均等法)が平成9年に改正され(平成11年4月施行、改正均等法)、事業主は、労働者の募集及び採用について女性に対して男性と均等な機会を与えなければならず、配置、昇進等についても差別的取扱いが禁止されるに至っている。
 このような改革は、男女差別の根絶を目指す運動の中で一歩一歩前進してきたものであり、すべての女性がその成果を享受する権利を有するものであって、過去の社会意識を前提とする差別の残滓を容認することは社会の進歩に背を向ける結果となることに留意されなければならない。そして、現在においては、直接的な差別のみならず、間接的な差別に対しても十分な配慮が求められている。
 当裁判所は、本件について、審査の結果を踏まえ、かつ、上述したとおり、男女差別の撤廃に向けた国際的な取組みと、男女共同参画社会基本法が制定され、その実現に向けて、社会の隅々における取組みが進められている今日のわが国の状況を考慮し、本件紛争が早期に、かつ、前向きに解決されることを期待して、別紙和解条項をもって、当事者双方が和解することを勧告する。




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国労最高裁判決について
弁護士 河 村 武 信
 昨2003年12月22日、最高裁判所第1小法廷は、国労並びに全動労の四つの上告事件について「いずれも上告を棄却する」旨の不当な判決を言渡した。1987(昭和62)年2月12日、JR発足を前にして1047名の不採用者(解雇に均しい)の闘いは、各地方労働委員会、中央労働委員会に救済命令事件を提起し、労働委員会闘争においては基本的に救済命令を獲得し、膨大・詳細な不当労働行為の認定を得て、国鉄の採用をめぐる不当労働行為(組合間差別)を明快に断罪し、命令は、設立委員については承継法人(各JR)に対し救済措置を命じた。然るところ、JR各会社は国鉄改革法§23条の形式的な解釈を展開し、JR会社の労組法§7条の「使用者」性を争い、中労委命令の取消訴訟を東京地裁に提起し、高裁、最高裁と継続し、上記の判決に至った。

  1. 最高裁判決の特徴
     国労事件(3件―北海道、本州、九州の各採用差別事件)の高裁判決は、何れも国鉄改革法§23条の解釈によれば、承継法人JRは労組法§7条の「使用者」に該らず、従って不当労働行為の主体とならず、その責任を負うものではないとし、採用差別が不当労働行為であるか否かについては判断を示していない。ところが、全動労高裁判決は、承継法人JRの労組法上の使用者性を認めた。その点で高裁判決は二つに別れていた。ただ、全労働判決は国是ともいうべき国鉄の分割民営化に反対して、諸々の反対・阻止の行動をとった組合員を承継法人JRが不採用とするのは当然で、不当労働行為には該らないとする異様な判断を示していたのである。
     従って「使用者性」をめぐる判断、さらに不当労働行為の判断についてまで踏み込んだ判決となるかが、注目されていたところである。

  2. 最高裁判決の内容
     判決はいずれについても上告を棄却するとするものであり、分割民営化における設立委員・承継法人は、採用について不当労働行為責任を負うべき使用者に該らないとの判断を示した。しかし、この判決には5名中2名の裁判官の反対意見が付されている。しかもその反対少数意見は、根本的な、基本的な事態のとらえ方において、多数意見と相違するものとなっている。1票差の評決で示された判決は真に不安定な確定といわざるをえない。
     論点の中心は「JR設立委員は労組法§7条『使用者』に該るか」にある。
    (1) 多数意見は不採用者にとってJR設立委員は使用者に該らないとし、その理由は国鉄改革法§23の解釈として、法は採用手続に段階を設け、各段階ごとに行う事務手続の内容・主体・権限を法定している。国鉄は採用候補者を選定し、設立委員は国鉄が名簿に登載した採用候補者の中から採用者を決定する。故に国鉄の職員であっても、同条所定の手続によらない限り、承継法人設立時にその職員として採用される余地はない。従って、国鉄が選定し、採用候補者名簿搭載に当り組合差別をした場合は、国鉄はその職員に対し、次いで国鉄清算事業団が使用者の立場で責任を負うべきである。設立委員自身の不当労働行為は別にして、採用について設立委員、ひいては承継法人が労組法§7条にいう不当労働行為の責任を負わない。全動労事件についても「使用者」性を否定したため、国労判決と同様に不当労働行為の成否の判断は全く加えていない。
    (2) 少数意見は真正面から多数意見に反対し、鋭い正鵠を射た批判を展開している。すなわち、@承継法人の職員の採用のために、設立委員の提示した採用基準に従って国鉄は採用候補者名簿を作成する。A国鉄総裁が設立委員に加わり、実際の作業も国鉄職員による設立委員会事務局が行う。B各段階の作業手続は各々独立の意味をもつものではなく、職員採用に向けられた一連の一体的なものである。C改革法§23条に国鉄と設立委員の権限が定められていることを理由に、その効果も分断されたものと解するのは、あまりにも形式論に過ぎたものと言わざるを得ない。D国会の審議過程において運輸大臣は、国鉄と設立委員の関係は国鉄が設立委員の採用手続を補助する者(民法上の準委任)であり、国鉄は設立委員の補助者であることを理由に団体交渉をする立場にないとしてきたこと(大臣答弁は法解釈上重く評価しなければならず、合理的な理由もなく立法意思に反した解釈をすべきでない)。そして結論として、改革法は承継法人の職員採用について国鉄に設立委員の補助的なものとして権限を付与したもの、従って採用手続過程において、国鉄に不当労働行為のあったときは、設立委員、ひいては承継法人が使用者として不当労働行為責任を負うことは免れない。改めて、不当労働行為の判断をするべく東京高裁に差戻すべきである。
     なお、全動労事件についての不当労働行為の成立を否定した原審判断について、組合間の差別的取扱いがされたと一応推認され、全動労組合員だから承継法人の職員としてふさわしいものか否かという視点から劣位に評価されたとして、やむを得ないと断ずることはできず、これらの点について審理を尽くすことなく、 不当労働行為意思があったとは認められないとした原審の判断には、判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反があり、原判決の破棄、差戻すべきである。と述べられている。

  3. 判決についての印象
     厳重な監視下で、10秒足らずで、いずれも上告を棄却すると言渡された判決について、改めて怒りで足がふるえた。しかし、何と不安定な確定か。本件の核心は、国鉄の苛烈な不当労働行為の有無にあったのではないか。司法は根本的課題についての判断を避けた。その故に、大紛争を解決するに何の機能も果たさず、指針を示したことにもならない。少数意見の優位性はどうだ。最高裁の示した「法的正義」と国民の健全な法常識・法感情に支えられる社会正義との乖離は極めて大きい。判決をのり越える力を呼びさま し、不当労働行為のあったことを前提にした事態の解決を促すであろう。


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