決議・声明・意見書

決議

民主主義と地方自治・住民自治のルールを無視する「大阪都構想」による大阪市解体に断固反対する決議

第1 経過と民主主義違反

 大阪府・大阪市特別区設置協議会(法定協)では、維新の会(維新)と橋下大阪市長・松井大阪府知事の主導のもと、2015年1月13日に特別区設置協定書(「協定書」)を議決し、2015年2月開会の大阪市議会・大阪府議会で承認の議決を経て、2015年5月に大阪市民による住民投票を実施するとしている。(「大都市地域における特別区域の設置に関する法律」(以下「法」)に基づく。)
橋下市長・松井知事らは、これを「大阪都構想」と称しているが、実際には、大阪市を解体し、5つの特別区を設置する手続を進めようとするものである。

 「協定書」については、下記の経過をたどってきた。
 2013年2月、法に基づき法定協が設置された。その際、委員は、橋下市長・松井知事以外は、府議会・市議会議員から、党派別の議席数比例で選出された。
 2014年1月までに12回の法定協が開催されたが、2014年1月31日の第13回法定協で、橋下市長が提案した「5区案」の区割案が維新以外の反対で採決見送りとなった。
 橋下市長・松井知事は、ただちに法定協を打切り、一方的に「閉鎖」を宣言し、橋下市長は2月3日市長を辞職し、事実上対立候補がないまま、「出直し市長選」を行った。
 橋下市長は、「出直し市長選」で再選されるや、法定協の委員差し替えを画策し、府議会で維新のみの賛成により、府議会選出の自民・公明・民主系・共産各会派の委員をすべて維新の委員に差し替えることを強行した。その後、維新の委員のみで、法定協が開催され、7月23日に「協定書」が可決された。
 しかし、10月27日、大阪市議会・大阪府議会の双方で、「協定書」は反対多数で否決された。その結果、住民投票実施に必要な「議会の承認」の要件を満たさないこととなった。
 これに対して、橋下市長は、「議会の承認を得られない場合、地方自治法に基づく専決処分を行う」等アピールしたり、「住民投票のための住民投票」を求めて直接請求を主導するなどして、「都構想」実現に固執した。
 その後、2014年12月の衆議院総選挙後、それまでは「協定書」に反対してきた公明党が、一転して、「『協定書』には反対だが住民投票実施には賛同する」との姿勢に急変した。
 この結果、2014年10月27日に大阪市議会・大阪府議会でいずれも否決された「協定書」とほとんど変更がないにもかかわらず、2015年1月13日の法定協において、維新・公明の賛成で、「協定書」は可決された。

 大阪市の解体と特別区の設置は、大阪府・大阪市の数百万の住民にとって、生活や地域社会のあり方を大きく変更してしまう問題である。法が、法定協での議論・議会での承認・住民投票という3重の手続を設けているのは、住民や地域社会にとっての影響を慎重に吟味し、熟議を尽くした上で、結論を得ようとする趣旨である。
 しかし、橋下市長・松井知事・維新は、この法の趣旨を無視し、法定協や議会で慎重に議論した上で一旦は否定されているにもかかわらず、手段を選ばずに住民投票に持ち込もうと画策してきたものであり、民主主義のルールに反するものとして、強く非難されねばならない。自ら否定した協定書を住民投票に付することを容認した公明も同罪である。

第2 地方自治・住民自治に逆行する「協定書」の内容

1 誤った大型開発を正当化する手段となる
  維新が目指すのは、「成長戦略推進」の名の下での大型開発である。「協定書」は各特別区の独立した財源が少なく、府に財源を集中させ、大型の財政出動を可能にする構造となっている。
 しかし、「開発」の中身であるカジノ構想や、地下鉄延伸・建設(なにわ筋線)は、無駄な事業として強く批判されている。赤字を繰り返す恐れが大きい一方、住民サービス向上につながるものではない。

2 特別区は独立した財源・権限が激減
  大阪市の保有財源の相当部分が府の財源となり、特別区は独立の財源が大阪市の場合の4分の1に激減する。一方、府・市の多額の負債、財政がどうなるのか、具体的な財政シミュレーションは一切示されていない。
 事務についても、現在大阪市が提供するサービスが、財源の裏付けある特別区の権限となるのか不明のものが多い。
 職員体制については、昼間人口や大都市特有の需要を考慮しないまま、予め職員数を設定し、職員削減計画が特別区に押しつけられている。
 かような特別区は、独立・自立した基礎自治体とはいえず、維新が謳った「中核市並み」は明らかに無理である上、住民のニーズに応える行政サービスを提供することができない。

3 「ニア・イズ・ベター」は実現しない
  人口70万人規模の特別区も発生する一方、区議会の定数は、現在の市会の定数をそのまま当てはめており、同規模の自治体の議会の3分の1から4分の1の少ない定数で、住民自治強化の観点からは「ニア・イズ・ベター」の謳い文句に逆行する。

4 財政上のメリット不存在と莫大なコスト
  維新は「二重行政解消により毎年4000億円の財源を生み出すこと最低ライン」としていたが、純粋な統合効果は毎年1億円に過ぎないことが明らかになり、プラスの財政効果はない。
 一方、特別区設置によるコスト増は、庁舎建設費・改修費、システム改修費、移転費などで総計最大680億円に上る。特別区のランニングコストも、5年間で1071億円もの収支不足となる。
 住民サービスは切り詰めざるを得なくなってしまう。

5 巨大な一部事務組合
  多くの事業が特別区独自で運営できず、国民健康保険・介護保険・水道事業等、100を超える事業を、1つの一部事務組合で共同して行うとされている。自治体の基礎的事務を一部事務組合で行う、いびつな構造である上、予算規模6400億円という、政令指定市に匹敵する巨大化した一部事務組合が誕生することになる。
 機動的な意思決定はできず、処理業務の多さも従前の一部事務組合のスキームでは推し量れない。
 結局、特別区・一部事務組合・府の三重行政となるに等しく、「二重行政の解消」すら図れない。

第3 結語

 私たちは、民主主義のルールを無視し、地方自治・住民自治の原則を破壊する橋下市長・松井知事・維新の会の企てに断固抗議する。「協定書」に基づく大阪市の解体は許されず、住民投票での否決を目指す運動に力を尽くすことを決意するものである。

2015年2月7日
民主法律協会 2015年権利討論集会

 

 

                   

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